ありふれない怪物は、やがて英雄へ   作:シロマダラ

49 / 106
第三十九話 北の山脈地帯

 

 夜明け。東の空がしらみ始めた頃、悠姫、ハジメ、ユエ、シアの四人は旅支度を終えて、ウルの町の北門に向かっていた。その北門から伸びる街道が北の山脈地帯に続いているのだ。馬で約一日程度であることを考えれば、魔道二輪で二、三時間で着くだろう。

 

 そして四人が北門に着いた時、その門前に七人の人影、愛子と六人の生徒達が仁王立ちの如く立っていた。

 

「……大体想像はつくが一応聞こう。何の用だ?」

 

「私達も行きます。行方不明者の捜索ですよね? 人数は多いほうがいいです」

 

「却下だ。行きたきゃ勝手に行けばいい。が、一緒は断る」

 

「な、なぜですか?」

 

「単純に足の速さが違う。仮にも人命が掛かってんだ。遅い方に合わせて進んたら、ここ迄急いだ意味がない」

 

 愛子達の後を見ると、七人分の馬が準備されているようだ。だが、四人の移動手段は時速八十キロで爆走する魔道二輪。普通の馬が着いてこられる速度ではない。おまけに、アーティファクトである魔道二輪は、生物である馬と違って疲れ知らずということもある。一日を二、三時間に短縮できる性能は伊達ではないのだ。

 

 だが、当然七人はそんなことを知るはずもない。完全に拒絶されたと思ったのか、優花は怒って食って掛かろうとしたが、悠姫とハジメが“宝物庫”から魔道二輪を取り出すと、言葉を失ったようだった。

 

「これで分かったか? 文字通り、足の速さが違うんだよ」

 

 そういうことで、と三人と一人が魔道二輪に乗るが、愛子がその前に立ちはだかった。愛子としては、何としても連れてってもらわなければならない理由がある。

 

 一つは、昨晩の話しについて。悠姫達のやるべきことは聞いたし、何をするのかまでは一通りは聞いた。だから、それがどれだけ危険なことなのかも大体は見えてはくる。ただ、“先生”として本当に出来ることはないのか、もしあるなら、可能な限り力に成りたいから。

 

 もう一つは、失踪している清水幸利(しみずゆきとし)について。周辺の町まで広げた捜索範囲だが、唯一未捜索なのは、北の山脈地帯のみ。ならば、その山脈地帯に向かう悠姫達に同行して、あわよくば清水幸利の捜索に手を貸してほしい。

 

 大まかな理由を聞いたハジメは非常に嫌そうな顔をするが、一つ目の理由に関しては、自分たちが蒔いた種でもあることを考えると、一概に拒絶できない。話さなかったら話さなかったらで、余計に面倒事になったような気もするが…

 

 もしここで断れば、あの神殿騎士も利用してこちらを探してくるかもしれない。そうなれば、早々に教会に目を付けられることになるだろう。覚悟はしていたが、さすがにそれは早い。

 

 どうしたものかと、ハジメは悠姫を見た。悠姫は溜息を吐きながら、フューレンでイルワにしたように、指を四本立てて言った。

 

「……はあ…条件だ。一つ、こちらの指示には従うこと。文句や反対意見があろうと関係ない。二つ、最低限は自分の身は自分で守れ。仮にも召喚された神の使徒様だ。そこらの魔物にやられるようでは、そもそも護衛など務まらん。三つ、畑山教諭、話が終わったら道中寝てろ。寝不足で山登りなど、死にに行くようなものだ。最悪一時間でもいい。四つ、七人全員、このアーティファクトを着けてもらう」

 

 化粧で誤魔化していた寝不足を見破られ、恥ずかしくなって顔を赤くするが、悠姫が取り出した七つの腕輪を見て首を傾げた。

 

 それは、中心に黒星晶鋼(アキシオン)が埋め込まれた、とてもシンプルな腕輪。腕輪部分を作ったハジメによって、多少の装飾は施されているものの、その異常ともいえる膨大な内包魔力を隠蔽する以外の機能は付いていない。

 

「えっと…これは?」

 

「分かりやすく言うと、発信機だ。その結晶(黒星晶鋼)が俺と繋がってる」

 

 黒星晶鋼(アキシオン)の体外作成の練習のついでに作った産物であり、体外作成した黒星晶鋼(アキシオン)が、どれほどの間形状を保持するのか、“宝物庫”で消えるとどうなるのか、といった実験中でもある。

 なお、発信機としての機能の他に、遠隔操作可能な爆弾としても使用できることは、七人には黙っておく。

 

 七人が腕輪を着けたことを確認すると、悠姫とハジメは魔道二輪を仕舞い、代わりに一台の魔道四輪を出した。アーティファクトが出たり消えたり、先ほどから七人の驚きの声は絶えていない。

 

「乗れ。余った奴は荷台だ。悠姫はどうする? 走るか? そっちの方が早いだろ」

 

「走らん。荷台に乗る。なにやら話したそうにしてるみたいだしな」

 

 ハジメの茶化しに、苦笑しながら悠姫は優花を見る。そして、運転席にハジメ、隣に愛子、後部座席にユエ、シア、菅原妙子、残りが荷台に乗り、総十一名は北の山脈地帯に向けて出発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 北の山脈地帯に向かって爆走している魔道四輪。その荷台に乗っている者達の間には、なんとも言えない空気が漂っていた。正確には、悠姫にどう接すればいいか分からない五人に漂っていた。それを察していた悠姫は、まずその要因だろう部分を解消しようと、口を開いた。

 

「とりあえず、改めて自己紹介でもしておこう。

 俺の名前は天津悠姫。少し前までユキ・ロスリックと名乗っていた男だ。詳しくは話せないから暈させてもらうが、まあ色々あった。一応、君達と同時に召喚されたユキ・ロスリックと同一人物だと思ってもらって構わない」

 

 突然の自己紹介に驚くが、()()()()の名前に聞き覚えがあったのか、玉井淳史が聞き返した。

 

「天津悠姫って…テレビで聞いたことが…ほら、たしか飛行機事故で一人突然消えたっていう!」

 

「あ、俺も知ってる! 現代最大のミステリーとか言われてる、あの!」

 

「へえ…そんなに有名になってたのか…。その天津悠姫という認識で合っているぞ」

 

 雫や香織から聞いていた以上に、その事件は有名だったようだ。まあ、空間災害が原因だった、など誰も考えないだろうし、他の乗客や機体が無事だったことを踏まえれば当然でもある。

 

「もしかして、異世界に召喚された、みたいな感じなんですか?」

 

「似たようなものだよ」

 

 正確には未来に飛ばされた、ではあるが、大体は同じと見ていいだろう。そのような感じで、気楽に話してある程度笑いも増えてきたところで、本題だと悠姫が優花に話しかけた。

 

「言いたいことは纏まったか? 園部」

 

「え、えっと。はい」

 

 突然話しかけられて驚いたが、今までの会話が緊張をほぐすためのものだったことに気が付いた。

 

「…お礼を言いたかったんです」

 

「…正直に身に覚えはないんだが」

 

 優花はお礼と言うが、悠姫には優花からそのように言われる理由に覚えはなかった。

 

「ベヒモスが現れて慌ててた時に、トラウムソルジャーにやられそうになったところを助けてもらいました。それに、あの日にロスリックさんがいなかったら、私達は全滅してたかもしれません。だから、ありがとうございました」

 

 頭を下げる優花に続いて、慌てるように他の四人も、ありがとうございました、と言いながら頭を下げた。ユキがいなければ全滅していたというのは、他四人も同じなのだ。悠姫はそれに慌てることはなく、合点がいったというように手を叩いた。

 

「ああ、そんなこともあったな。まあ気にすることはない、誰も死んではいないんだ。…俺も、ハジメも…」

 

 最後の一言に肩をビクリと震わせて、五人は縮こまるように肩を窄めた。悠姫は五人を見て、逆効果だったかな? と笑っている。そして時間は過ぎ、北の山脈地帯に近づいていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 北の山脈地帯。

 それは一方では紅葉が広がり、別一方では緑が生い茂る。その奥では枯れ木が、と、様々な環境が混ざり合ったような不思議な場所だ。日本でいうところの、四季が全て広がっているような場所で、見方を変えれば、時期に関係なく様々な山の幸が採れるということでもあるだろう。

 

 そんな場所を、ハジメが製作した鳥型無人偵察機を道標に十一人は進んでいた。それなりの実力がある冒険者達が行方不明になったというならば、上空からでも確認できる、戦闘などの痕跡が見つかる筈。故に、様々な方向へ偵察機を飛ばしつつ、ハイペースで山脈を上る。

 

 それから、おおよそ一時間と少し。六合目に到着した悠姫達は、一度そこで立ち止まった。理由は、辺りに痕跡がないか調べる必要があったのと……

 

「はぁはぁ、きゅ、休憩ですか……けほっ、はぁはぁ」

 

「ぜぇー、ぜぇー、大丈夫ですか……愛ちゃん先生、ぜぇーぜぇー」

 

「うぇっぷ、もう休んでいいのか? はぁはぁ、いいよな? 休むぞ?」

 

「……ひゅぅーひゅぅー」

 

「ゲホゲホ、南雲達は化け物か……」

 

 悠姫達四人を除いた七人の体力が限界だったため、休憩するためでもあった。隔絶したステータスの差が如実に表れているとも言える。とはいえ、非戦闘職の愛子でもトータス一般人の数倍のステータスを持つ。たとえ六合目まで登山してもここ迄息が切れることはない。これは、悠姫達の進行速度が速すぎたため、愛子達がほぼ全力疾走していたためだった。

 

 川沿いの探索もするつもりだったからな、と七人が座り込むところを見つつ、悠姫達は愛子達に川の場所だけ教え、山道を逸れて先に四人で川に向かった。

 

 その川は小川と呼ぶには規模が大きかった。索敵能力が高いシアが周囲を探り、ハジメが念の為無人偵察機を飛ばすが魔物の反応はない。取り敢えず息を抜いて、川岸の岩に腰掛けつつ、今後の捜索方針を話し合った。

 

 その途中で、ユエが「少しだけ」と靴を脱いで川に足を浸けて楽しむというわがままをしたが、どちらにしろ愛子達が未だ来てすらいないので大目に見る。ついでにシアも便乗した。

 

「さて、これからどうする?」

 

「とりあえず上流に向かえば何かあるだろう」

 

「まあ、そうだな。わかりやすい痕跡でもあれば助かるんだがな」

 

「それなら、この上流に戦闘痕がある。冒険者たちの装備もそこに落ちてる。なんなら、下流の滝壺裏の洞窟でウィルの坊ちゃんが生きてるぞ」

 

「ッ! まじか! そんな情報知って…ん…なら、先…に…ッ?!」

 

 絶望的だった捜索対象が生きていると知ったハジメは、恩が高く売れると喜んだものの、その情報を口にした()()が知らない声だったことに驚いて、思わずユエとシアの方へ飛び退りながらドンナーを構えた。

 

 突然のことにユエとシアも驚くが、シアはそれ以上に、その人物の姿の方に驚いた。

 

 そこで、ようやく愛子達も合流したが、ハジメが殺気を放ちながらドンナーを構えている様子に息を呑んだ。だが、一方で()()()()()()()()悠姫もいて、状況が掴めず誰も口を開かない。

 

 川のせせらぎだけが一帯に響き、川岸の岩に腰を下ろしていた()()()()()()が立ち上がる。筋肉粒々の身体に、特徴的なウサミミ。一見するとシュールな姿だが、明らかな強者のオーラを纏っている。この人物こそ、ハジメの超スパルタ訓練によって狂化改造された首狩(ハウリア)一族、その族長の子にしてシアの兄――

 

「…ディルグ…兄さま?」

 

 ――デル・ハウリア。又はディルグ・ロートレク。

 イルワ・チャングの依頼を受け、悠姫達より先行して山脈地帯に入っている、「不落」の異名を持つ「金」冒険者だった。

 




実際、アヤとミステルが携帯型セイファートで感応して、時速百キロでプラーガを駆け回ってる。
それなら、二人よりスペックが上で直線距離の場合、悠姫は時速百キロのよりも……あれ? なんでこの主人公乗り物に乗ってるんだ?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。