夜明け。東の空がしらみ始めた頃、悠姫、ハジメ、ユエ、シアの四人は旅支度を終えて、ウルの町の北門に向かっていた。その北門から伸びる街道が北の山脈地帯に続いているのだ。馬で約一日程度であることを考えれば、魔道二輪で二、三時間で着くだろう。
そして四人が北門に着いた時、その門前に七人の人影、愛子と六人の生徒達が仁王立ちの如く立っていた。
「……大体想像はつくが一応聞こう。何の用だ?」
「私達も行きます。行方不明者の捜索ですよね? 人数は多いほうがいいです」
「却下だ。行きたきゃ勝手に行けばいい。が、一緒は断る」
「な、なぜですか?」
「単純に足の速さが違う。仮にも人命が掛かってんだ。遅い方に合わせて進んたら、ここ迄急いだ意味がない」
愛子達の後を見ると、七人分の馬が準備されているようだ。だが、四人の移動手段は時速八十キロで爆走する魔道二輪。普通の馬が着いてこられる速度ではない。おまけに、アーティファクトである魔道二輪は、生物である馬と違って疲れ知らずということもある。一日を二、三時間に短縮できる性能は伊達ではないのだ。
だが、当然七人はそんなことを知るはずもない。完全に拒絶されたと思ったのか、優花は怒って食って掛かろうとしたが、悠姫とハジメが“宝物庫”から魔道二輪を取り出すと、言葉を失ったようだった。
「これで分かったか? 文字通り、足の速さが違うんだよ」
そういうことで、と三人と一人が魔道二輪に乗るが、愛子がその前に立ちはだかった。愛子としては、何としても連れてってもらわなければならない理由がある。
一つは、昨晩の話しについて。悠姫達のやるべきことは聞いたし、何をするのかまでは一通りは聞いた。だから、それがどれだけ危険なことなのかも大体は見えてはくる。ただ、“先生”として本当に出来ることはないのか、もしあるなら、可能な限り力に成りたいから。
もう一つは、失踪している
大まかな理由を聞いたハジメは非常に嫌そうな顔をするが、一つ目の理由に関しては、自分たちが蒔いた種でもあることを考えると、一概に拒絶できない。話さなかったら話さなかったらで、余計に面倒事になったような気もするが…
もしここで断れば、あの神殿騎士も利用してこちらを探してくるかもしれない。そうなれば、早々に教会に目を付けられることになるだろう。覚悟はしていたが、さすがにそれは早い。
どうしたものかと、ハジメは悠姫を見た。悠姫は溜息を吐きながら、フューレンでイルワにしたように、指を四本立てて言った。
「……はあ…条件だ。一つ、こちらの指示には従うこと。文句や反対意見があろうと関係ない。二つ、最低限は自分の身は自分で守れ。仮にも召喚された神の使徒様だ。そこらの魔物にやられるようでは、そもそも護衛など務まらん。三つ、畑山教諭、話が終わったら道中寝てろ。寝不足で山登りなど、死にに行くようなものだ。最悪一時間でもいい。四つ、七人全員、このアーティファクトを着けてもらう」
化粧で誤魔化していた寝不足を見破られ、恥ずかしくなって顔を赤くするが、悠姫が取り出した七つの腕輪を見て首を傾げた。
それは、中心に
「えっと…これは?」
「分かりやすく言うと、発信機だ。その
なお、発信機としての機能の他に、遠隔操作可能な爆弾としても使用できることは、七人には黙っておく。
七人が腕輪を着けたことを確認すると、悠姫とハジメは魔道二輪を仕舞い、代わりに一台の魔道四輪を出した。アーティファクトが出たり消えたり、先ほどから七人の驚きの声は絶えていない。
「乗れ。余った奴は荷台だ。悠姫はどうする? 走るか? そっちの方が早いだろ」
「走らん。荷台に乗る。なにやら話したそうにしてるみたいだしな」
ハジメの茶化しに、苦笑しながら悠姫は優花を見る。そして、運転席にハジメ、隣に愛子、後部座席にユエ、シア、菅原妙子、残りが荷台に乗り、総十一名は北の山脈地帯に向けて出発した。
北の山脈地帯に向かって爆走している魔道四輪。その荷台に乗っている者達の間には、なんとも言えない空気が漂っていた。正確には、悠姫にどう接すればいいか分からない五人に漂っていた。それを察していた悠姫は、まずその要因だろう部分を解消しようと、口を開いた。
「とりあえず、改めて自己紹介でもしておこう。
俺の名前は天津悠姫。少し前までユキ・ロスリックと名乗っていた男だ。詳しくは話せないから暈させてもらうが、まあ色々あった。一応、君達と同時に召喚されたユキ・ロスリックと同一人物だと思ってもらって構わない」
突然の自己紹介に驚くが、
「天津悠姫って…テレビで聞いたことが…ほら、たしか飛行機事故で一人突然消えたっていう!」
「あ、俺も知ってる! 現代最大のミステリーとか言われてる、あの!」
「へえ…そんなに有名になってたのか…。その天津悠姫という認識で合っているぞ」
雫や香織から聞いていた以上に、その事件は有名だったようだ。まあ、空間災害が原因だった、など誰も考えないだろうし、他の乗客や機体が無事だったことを踏まえれば当然でもある。
「もしかして、異世界に召喚された、みたいな感じなんですか?」
「似たようなものだよ」
正確には未来に飛ばされた、ではあるが、大体は同じと見ていいだろう。そのような感じで、気楽に話してある程度笑いも増えてきたところで、本題だと悠姫が優花に話しかけた。
「言いたいことは纏まったか? 園部」
「え、えっと。はい」
突然話しかけられて驚いたが、今までの会話が緊張をほぐすためのものだったことに気が付いた。
「…お礼を言いたかったんです」
「…正直に身に覚えはないんだが」
優花はお礼と言うが、悠姫には優花からそのように言われる理由に覚えはなかった。
「ベヒモスが現れて慌ててた時に、トラウムソルジャーにやられそうになったところを助けてもらいました。それに、あの日にロスリックさんがいなかったら、私達は全滅してたかもしれません。だから、ありがとうございました」
頭を下げる優花に続いて、慌てるように他の四人も、ありがとうございました、と言いながら頭を下げた。ユキがいなければ全滅していたというのは、他四人も同じなのだ。悠姫はそれに慌てることはなく、合点がいったというように手を叩いた。
「ああ、そんなこともあったな。まあ気にすることはない、誰も死んではいないんだ。…俺も、ハジメも…」
最後の一言に肩をビクリと震わせて、五人は縮こまるように肩を窄めた。悠姫は五人を見て、逆効果だったかな? と笑っている。そして時間は過ぎ、北の山脈地帯に近づいていった。
北の山脈地帯。
それは一方では紅葉が広がり、別一方では緑が生い茂る。その奥では枯れ木が、と、様々な環境が混ざり合ったような不思議な場所だ。日本でいうところの、四季が全て広がっているような場所で、見方を変えれば、時期に関係なく様々な山の幸が採れるということでもあるだろう。
そんな場所を、ハジメが製作した鳥型無人偵察機を道標に十一人は進んでいた。それなりの実力がある冒険者達が行方不明になったというならば、上空からでも確認できる、戦闘などの痕跡が見つかる筈。故に、様々な方向へ偵察機を飛ばしつつ、ハイペースで山脈を上る。
それから、おおよそ一時間と少し。六合目に到着した悠姫達は、一度そこで立ち止まった。理由は、辺りに痕跡がないか調べる必要があったのと……
「はぁはぁ、きゅ、休憩ですか……けほっ、はぁはぁ」
「ぜぇー、ぜぇー、大丈夫ですか……愛ちゃん先生、ぜぇーぜぇー」
「うぇっぷ、もう休んでいいのか? はぁはぁ、いいよな? 休むぞ?」
「……ひゅぅーひゅぅー」
「ゲホゲホ、南雲達は化け物か……」
悠姫達四人を除いた七人の体力が限界だったため、休憩するためでもあった。隔絶したステータスの差が如実に表れているとも言える。とはいえ、非戦闘職の愛子でもトータス一般人の数倍のステータスを持つ。たとえ六合目まで登山してもここ迄息が切れることはない。これは、悠姫達の進行速度が速すぎたため、愛子達がほぼ全力疾走していたためだった。
川沿いの探索もするつもりだったからな、と七人が座り込むところを見つつ、悠姫達は愛子達に川の場所だけ教え、山道を逸れて先に四人で川に向かった。
その川は小川と呼ぶには規模が大きかった。索敵能力が高いシアが周囲を探り、ハジメが念の為無人偵察機を飛ばすが魔物の反応はない。取り敢えず息を抜いて、川岸の岩に腰掛けつつ、今後の捜索方針を話し合った。
その途中で、ユエが「少しだけ」と靴を脱いで川に足を浸けて楽しむというわがままをしたが、どちらにしろ愛子達が未だ来てすらいないので大目に見る。ついでにシアも便乗した。
「さて、これからどうする?」
「とりあえず上流に向かえば何かあるだろう」
「まあ、そうだな。わかりやすい痕跡でもあれば助かるんだがな」
「それなら、この上流に戦闘痕がある。冒険者たちの装備もそこに落ちてる。なんなら、下流の滝壺裏の洞窟でウィルの坊ちゃんが生きてるぞ」
「ッ! まじか! そんな情報知って…ん…なら、先…に…ッ?!」
絶望的だった捜索対象が生きていると知ったハジメは、恩が高く売れると喜んだものの、その情報を口にした
突然のことにユエとシアも驚くが、シアはそれ以上に、その人物の姿の方に驚いた。
そこで、ようやく愛子達も合流したが、ハジメが殺気を放ちながらドンナーを構えている様子に息を呑んだ。だが、一方で
川のせせらぎだけが一帯に響き、川岸の岩に腰を下ろしていた
「…ディルグ…兄さま?」
――デル・ハウリア。又はディルグ・ロートレク。
イルワ・チャングの依頼を受け、悠姫達より先行して山脈地帯に入っている、「不落」の異名を持つ「金」冒険者だった。
実際、アヤとミステルが携帯型セイファートで感応して、時速百キロでプラーガを駆け回ってる。
それなら、二人よりスペックが上で直線距離の場合、悠姫は時速百キロのよりも……あれ? なんでこの主人公乗り物に乗ってるんだ?