ありふれない怪物は、やがて英雄へ   作:シロマダラ

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第二話 思わぬ再会

 魔人族との戦争に参加することが決まり、まず戦う術を身に着けるため聖教協会本山のある神山の麓にあるハイリヒ王国に向かうことになった。

 

 王国は聖教協会と密接な関係があり、国の背後に協会があることからそのつながりの強さがわかる。

 

「彼の者へと至る道、信仰と共に開かれん――〝天道〟」

 

 イシュタルが唱えると足元の魔法陣が輝き出し、台座が地上に向けて斜めに下って行った。

 

 王宮にたどり着くと、真っ直ぐに玉座の間に案内された。

 

 道中、騎士、文官、使用人など様々な人とすれ違ったが、皆一様に期待に満ちた、あるいは畏敬の念に満ちた眼差しを向けてくる。生徒たちは居心地が悪そうにしていたが、ユキはアドラーにいたころから向けられていた眼差しだったため、平然としていた。

 

 巨大な両開きの扉の前に到達すると、扉の両サイドに立っている兵士の二人がイシュタルと勇者一行が来たことを大声で告げ、中の返事も待たずに扉を開け放った。

 

 扉を潜った先には、真っ直ぐ延びたレッドカーペットと、その奥の中央に玉座があった。玉座には初老の男性が()()()()()()待っていた。

 

 その隣には王妃と思われる女性、10歳前後の金髪の美少年、14、15歳の金髪の美少女が控えていた。更にレッドカーペットの両サイドには武官、文官らしき人達が並んで立っていた。

 

 イシュタルが国王の隣へ進んだ。国王はイシュタルの手を取り、軽く触れない程度のキスをした。それを見たユキは国を動かしているのが国王ではなく、神であることに確信していた。

 

 そこから国王たちの自己紹介が始まった。

 国王エリヒド・S・B・ハイリヒから始まり、王妃ルルアリア、第一王子ランデル、第二王女リリアーナといい、今は国外に行っている第一王女シェリアがいるらしい。

 

 後は騎士団長、宰相など、高い地位にある者たちの紹介がされ、その後に晩餐会が開かれた。

 光輝と香織、そしてユキの三人は常に貴族などに囲まれている状況が続いていた。

 

 

 

 

 晩餐会の終了後、各自に与えられた部屋に向かいほとんどの生徒たちが疲れから寝てしまったが、ユキは部屋でとある人を待っていた。

 

――コンコン――

 

「空いてるぞ」

 

 予想していた通り部屋にやってきた人に鍵が開いていることを告げる。

 

「失礼します」

 

 そう言い部屋に入ってきたのは、イシュタルの説明中ユキのことを見ていたメイドだった。

 

「...久しぶりだな、アヤメ」

「...はい、隊長。いえ、今は「勇者様」の方が正しいですね」

「やめてくれ、分かってるだろ? 俺は勇者なんて柄じゃないし、もう隊長じゃない」

「ではご主人様とお呼びします」

「...まあいいか。それより、まさかアヤメがこの世界にいるとはな」

「それに関しては私も驚きました。ループするならともかく異世界に転生しているとは予想していませんでした。

 ...気になっていたのですが、少々若返ってませんか? 二十歳くらいに見えるんですが」

「それは俺も思ったことだが、異世界とか転生とかに比べたら気にすることでもない。

 ところで、まさかと思うが、第一王女のシェリアって...」

「はい、ご想像の通り、シェリア・ハムです。それにディルグもこちらの世界に転生しています」

 

 アヤメ・キリガクレ、シェリア・ハム、ディルグ・ロートレク。新西暦でのユキ直属の部下三人であり、ユキの正体含め過去を知っている。

 アスクレピオスの大虐殺で三人とも死亡したはずだが、三人ともトータスに転生しているらしい。

 

「俺が召喚されることを予想してたみたいだが、まさか魔法か?」

「シェリアの天職が預言師なんです。預言した結果、ご主人様が召喚されることが分かりました」

「天職? なんだ、それは?」

「才能のようなものです。詳しくは明日にメルド団長が説明するはずなのでその時に」

 

――コンコン――

 

 アヤメと話をしていると、扉をノックする音が聞こえた。

 

「空いてるぞ」

 

 アヤメの他に来客の予定があったかと思いながら空いていることを伝えると、

 

「「し、失礼します」」

 

 入ってきたのは、アヤメと同じようにユキのことをずっと見ていた香織と雫の二人だった。

 

「君たちは...確か白崎香織さんと八重樫雫さんだったか」

「は、はい...そうですけど、なんで私たちの名前を...」

 

 二人は自分の名前を教えていないのに知っていることに疑問を覚えるが、

 

「畑山教諭に教えてもらった。仮にも同じ召喚された身だ、君たちの名前は全員覚えたさ。

 そんなことより、こんな時間に何の用だ? 女の子が二人で、さすがに不用心だぞ」

「すみません。ちょっと、聞きたいことがあるんです...」

「聞きたいこと?」

「はい。ユキさんの本当の名前って、」

 

 天津悠姫(あまつゆうき)さんですよね?」

 

 

 

 

 

 私、八重樫雫には幼馴染がいる。

 

 香織、光輝、龍太郎の三人だけど、実はもう一人天津悠姫という男の子がいた。

 

 悠姫くんとは親同士の仲が良く、私たちも年が同じだったこともあって、よく一緒に遊んでいた。

 周りの子供たちより少し大人びていて、気付いたら目で追っていて好きになっていた。

 

 ただ、旅行中に事故に遭って行方不明になってしまった。

 原因不明の事故で、悠姫くん一人だけが行方不明になってしまい、そのことを聞いた私は悲しくて、しばらくの間部屋に引き込まってしまった。

 今では香織たちもがいるから良くなったけど、当時はひどい状態だったらしい。

 

 そして、小学3年生になったころから私と香織は不思議な夢を見るようになった。

 

 その夢はある男の子の一生と言えるもので、その男の子の名前が天津悠姫。行方不明になった私の幼馴染本人だった。

 

 明らかに現代とは思えない世界だったけど、ただの夢とは思えなかった。同じ夢を香織が見ていることもあるけど、何より私自身が生きていることを信じたかっただけかもしれない。

 

 どうやら言葉が通じないようで、大人の男の人に暴行されて殺されてしまったり、人攫いに捕まって奴隷として一生を終えてしまったりと、まるでゲームのように何度も死んで、そのたびに子供のころから繰り返しているようだった。

 

 夢を見るようになってから、私たちが小学生、中学生と成長していくように、「ユキ・ロスリック」と名乗るようになっていたり、軍人になって戦っていたり、私の知っている頃とはずいぶん変わっていた。…恋仲の女性がいるのは複雑だけど。

 

 そして、高校生になった私たちは異世界に召喚された。

 突然だったけど何より驚いたのが、私たちの後にユキさんも召喚されてきたことだった。

 夢で見てた頃より若返っているようだったけど、どうやら最後に見た夢の後みたいだった。

 

 説明だったり、晩餐会だったり時間がなかったので夜にユキさんの部屋に行って、悠姫くんなのかどうかを聞きに行った。

 私の幼馴染みは幻の存在なんかじゃないのだと、私たちが見ていた夢はただの想像なんかじゃないのだと、私たちの想いは偽物なんかじゃないのだと、証明したかったから。

 

「ユキさんの本当の名前って、天津悠姫さんですよね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ...なに? 俺の直属の部下たちと、クリスやアルしか知らないはずなんだが。なぜ彼女たちがそのことを...

 

「...まて、やはり君は...」

 

 八重樫雫、という名前は聞いたことがあった。少なくとも、新西暦で純日本人の名前を聞くことはない。

 ならば当然、聞いたのは俺が新西暦に飛ばされる前であり、

 

「お、覚えてるんですか?」

 

 八重樫さんの反応からして俺の知り合いだったらしい。

 だが、

 

「すまないが、西暦にいた頃のことは覚えていないんだ。」

 

 彼女には申し訳ないが、俺にとっては()()()()()()()()()()

 父親がいた()()()。母親がいた()()()。友達がいた()()()。俺の中には、その程度の()()しか残ってない。

 

「ッ! ...そう、ですよね」

「雫ちゃん...」

 

「......そ、それなら! これから、また覚えてもらえばいいですよね!

 それで、日本に帰りましょう! (げん)さんと日向(ひなた)さん、ユキさんのお父さんとお母さんだって、今だってユキさんのことを待ってますから!」

 

 ......強いな、この子は。生きるのを諦めていた頃の俺とは大違いだ。

 

「...ああ、それならきっとね」

 

 

 

 それから話を聞いていると、夢で俺の人生を見ていたという話を聞いた。

 さすがに信じ難い話ではあるが八重樫さんと白崎さん、雫と香織の二人が俺の戦いや、死に戻りに関して知っていることを考えると本当なのだろう。

 もしかしたら()()が関わっているかもしれないが、確かめる術がない今ではどうでもよいことだ。

 

「さあ、もう夜も遅いし、二人とも部屋に戻った方がいい。明日も早いからな。

 アヤメ、二人を」

「はい、そうですね。おやすみなさい」

「おやすみなさい、ユキさん」

「かしこまりました。おやすみなさい、ご主人様」

 

 そう言い、三人は自分たちの部屋へ戻っていった。

 

 アヤメだけじゃなく、日本にいたころの知り合いにも会うなんてね

 

 まあ、これだけはエヒト神に感謝しておこう

 

 

 明日から大変そうだが、やることはこれまでと変わらない。

 人がより良い未来を歩めるように。

 それを邪魔するなら倒すだけだ

 

「"勝つ"のは、俺だ」

 

 

 




・事故
 原因不明の飛行機事故であり、現代最大の怪奇事件。
 ある旅客機が原因不明の異常事態により不時着、乗客の一人が行方不明になった。誰かが外に出た形跡もなく、シートベルトは着けられたままで、まるで神隠しに遭ったようだと報道された。
 現在でも何も判明しておらず、現代最大の怪奇事件だと言われている。

 実際の原因は現代より未来の西暦末期、大破壊(カタストロフ)によって発生した空間振動の余波によるもので、偶然天津悠姫一人だけが未来へ飛ばされた。



・死に戻り
 ユキ(悠姫)が新西暦に飛ばされた時から起きている()()第二太陽(アマテラス)含む新西暦の時そのものが戻っており、まさしく神の御業ともいうべきもの。
 新西暦1005年が起点になっており、ユキ(悠姫)が死亡するたびに新西暦1005年まで時間が巻き戻る。ユキ(悠姫)とユキ(悠姫)の恋人だけは記憶が保持されるため、目的の達成まで何度も繰り返すことで無数とも言える経験をしてきている。
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