ありふれない怪物は、やがて英雄へ   作:シロマダラ

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第四十二話 竜と人と邂逅と

 

「……もしかして、竜人族?」

 

『ぬ? いかにも……妾は竜人族の一人じゃ』

 

 ユエがポツリと呟いた。

 竜人族。このトータスで、五百年以上前に滅びたとされる種族だ。しかも、竜人族の()()()()ではなく、()()と言ったあたり、他にも竜人族が生きていることが窺える。

 

「……なぜ、こんなところに?」

 

「確かに、滅んだはずの竜人族が何故こんなところで、しかも洗脳までされて、一介の冒険者を襲っていたのか…教えてほしいところだな」

 

『う、うむ。そうじゃな……』

 

 ユエとしては自分と同じ、滅んだとされる種族として気になるのだろう。

 すると、黒竜を黒い魔力の光が繭のように包み込む。その繭が小さくなっていき、人間一人程度になると始めるように魔力が霧散した。

 

 そこには、黒髪金眼の美女がいた。腰まで伸びる艶やかなストレートの黒髪、見た目は二十代前半くらいで、身長は百七十センチ近くあるだろう。黒い着物を身に纏い、見事なプロポーションを誇っている。胸部のそれはシアを越えている。

 

 黒竜の正体は、黒髪金眼の巨○美女だった、という事実に、思春期真っ只中の男子生徒三人は腰を引いて前屈みになる。それによって女子生徒の男子生徒を見る眼が、汚物を見るような眼に変わる。

 

 その着物から覗く腕や顔に、小さい痣を確認した悠姫は、女性に神水を手渡して飲ませつつ、女性が落ち着くのを待った。

 

「おお…傷が癒え、魔力も回復しておる…何から何まで、感謝するぞ。妾の名は、ティオ・クラルス。最後の竜人族、クラルス族の一人じゃ」

 

 そして、ティオと名乗った女性は話し始めた。

 ティオを含む竜人族は、とある隠れ里でひっそりと暮らしていた。だがある日、魔力感知に長けた竜人族が、世界単位の召喚魔法の発動を感じ取った。それが、ハジメ達が地球から召喚された日だ。ティオは、その調査の為に隠れ里から出て来たらしい。

 

 そして、市井に紛れて調査を行う目に休息を取ろうと、とある洞窟で竜の姿で寝たのだという。その寝ているときに、黒いローブを着た男が現れて、一日かけて洗脳や暗示といった闇系魔法を駆使して、ティオを洗脳したということらしい。さらにティオが言うには、そのローブの男の隣に、魔人族の男と、別の人間族らしき男の姿もあったという。

 

「恐ろしい男じゃった。闇系統の魔法に関しては天才と言っていいレベルじゃろうな。そんな男に丸一日かけて間断なく魔法を行使されたのじゃ。いくら妾と言えど、流石に耐えられんかった……」

 

「…それはつまり、調査に来ておいて丸一日、魔法が掛けられているのにも気づかないくらい爆睡していたって事じゃないのか?」

 

 全員の目が、何となくバカを見るような呆れた目になる。ティオは視線を明後日の方向に向け、何事もなかったように話を続けた。ちなみに、なぜ丸一日かけたと知っているのかというと、洗脳が完了した後も意識自体はあるし記憶も残るところ、本人が「丸一日もかかるなんて……」と愚痴を零していたのを聞いていたからだ。

 

 そして、山脈の向こう側の魔物の洗脳を手伝わされていたらしいのだが、その時に山の調査に来ていたウィル達と遭遇、目撃者を消せとの命令を受けてウィル達を襲撃、先ほどの戦闘中も命令に従う形でウィルを常に狙っていた。

 

 そして、気が付けば悠姫達にボロボロにされ、最後のシアの一撃で意識が覚醒した、ということらしい。

 

「……ふざけるな、操られていたから……ゲイルさんを、ナバルさんを、レントさんを、ワスリーさんをクルトさんを! 殺したのは仕方ないとでも言うつもりかっ!」

 

「………」

 

 ウィルはティオの話を聞いて、怒りに震えていた。どうやら、状況的に余裕が出来たせいか冒険者達を殺されたことへの怒りが湧き上がったらしい。激昂してティオへ怒声を上げる。そのティオも、ウィルの怒声を静かに受け止めていた。

 

「大体、今の話だって、本当かどうかなんてわからないだろう! 大方、死にたくなくて適当にでっち上げたに決まってる!」

 

「……今話したのは真実じゃ。竜人族の誇りにかけて嘘偽りではない」

 

 その言葉にウィルが反論しようとした瞬間、ユエが口を開く。

 

「……きっと、嘘じゃない」

 

「ッ、一体何の根拠があってそんな事を……」

 

 食ってかかるウィルを一瞥すると、ユエはティオを見つめながらぽつぽつと語る。

 

「……竜人族は高潔で清廉。私は皆よりずっと昔を生きた。竜人族の伝説も、より身近なもの。彼女は“己の誇りにかけて”と言った。なら、きっと嘘じゃない。それに……嘘つきの目がどういうものか私はよく知っている」

 

 ユエはかつて、孤高の王女として祭り上げられていた。だがその実、ユエの周りには“嘘”が溢れていたのだろう。最も身近にいた者達ですら、ユエのいう“嘘つき”であり、その嘘から眼を逸らし続けてきた結果が、封印されるという“裏切り”だったのだ。

 

「ふむ、この時代にも竜人族のあり方を知るものが未だいたとは……いや、昔と言ったかの?」

 

「……ん。私は、吸血鬼族の生き残り。三百年前は、よく王族のあり方の見本に竜人族の話を聞かされた」

 

「何と、吸血鬼族の……しかも三百年とは……なるほど死んだと聞いていたが、主がかつての吸血姫か。確か名は……」

 

「……今はユエと名乗ってる。そっちを使ってくれると……今は嬉しい」

 

 だが、それでもウィルにとって親切にしてくれた、先輩冒険者達の無念を思い言葉を零してしまう。

 

「……それでも、殺した事に変わりないじゃないですか……どうしようもなかったってわかってはいますけど……それでもっ! ゲイルさんは、この仕事が終わったらプロポーズするんだって……彼らの無念はどうすれば……」

 

 頭ではその言葉が嘘でないと理解している。しかし、だからと言って責めずにはいられない。心が納得しない。ハジメは内心、「また、見事なフラグを立てたもんだな」と変に感心している。そこに、今まで黙っていたディルグが口を挟んだ。

 

「貴様、俺達冒険者を馬鹿にするのか? 武器を持たぬ一市民が襲撃を受けて死亡した。それならばその怒りは正当だ、認めよう。だが、これは違うだろう。常に死と隣り合わせの冒険者が、“魔物の群れの調査”という依頼を受けた。ならばその死は、その冒険者の責任だ。操られたという事実があろうがなかろうが、それは変わらん」

 

 ウィルが悔しそうに俯いた。イルワは、ウィルには冒険者としての素質がないと言っていた。その理由の一つは、このように人の死を割り切れないという側面もあるのだろう。

 

「で、でも! もう一度洗脳されたら!」

 

「そんなに心配なら今ここで、()()()()()トドメを差せよ」

 

 今度は悠姫が言った。そして、その言葉にウィルは絶句する。出来るわけがない、ではなく、()()()()()()()()()()()()()()()と考える。

 

「それが出来ないなら黙っていろ。誰かを殺める覚悟の無い奴が、殺す殺されるなど口にするな」

 

 そして今度こそ、ウィルはその口を閉じた。

 

「操られていたとはいえ、妾が罪なき人々の尊き命を摘み取ってしまったのは事実。償えというなら、大人しく裁きを受けよう。だが、それには今しばらく猶予をくれまいか。せめて、あの危険な男を止めるまで。あの男は、魔物の大群を作ろうとしておる。竜人族は大陸の運命に干渉せぬと掟を立てたが、今回は妾の責任もある。放置はできんのじゃ……勝手は重々承知しておる。だが、どうかこの場は見逃してくれんか」

 

 魔物の大群、というティオの言葉に全員が驚く。

 ティオが言うには、ティオを洗脳したローブの男は、群れのリーダーの魔物を洗脳して支配下に置き、そのリーダーに従う形で多数の魔物が着いてくる。その結果として三、四千の魔物が実質的な支配下にあるという。さらには、ローブの男は、「これで自分は勇者より上だ」などと口にしていたという。

 

 闇系魔法に天才的な力を持つ、“勇者”に執着する男。ここまでくれば、愛子達もローブの男が誰なのか、察したのだろう。現在失踪しているという清水幸利(しみずゆきとし)で間違いない。

 

 そこに、先ほどから無人偵察機を飛ばしていたハジメから、新たな一報が入る。

 

「…見つけたが…三、四千なんてものじゃない。桁が一つ追加される規模だぞ」

 

 ハジメの報告に全員が目を見開く。しかも、どうやら既に進軍を開始しているらしい。方角は間違いなくウルの町がある方向。このまま行けば、半日もしない内に山を下り、一日あれば町に到達するだろう。

 

「は、早く町に知らせないと! 避難させて、王都から救援を呼んで……それから、それから……」

 

 事態の深刻さに、愛子が混乱しながらも必死にすべきことを言葉に出して整理しようとする。いくら何でも数万の魔物の群れが相手では、通常の数倍のステータスとはいえトラウマ抱えた生徒達と戦闘経験がほとんどない愛子、駆け出し冒険者のウィルでは相手どころか障害物にもならない。

 

 と、皆が動揺している中、ふとウィルが呟くように尋ねた。

 

「あの、ユウキ殿達なら何とか出来るのでは……」

 

 その言葉で、全員が一斉に悠姫の方を見る。その瞳は、もしかしたらという期待の色に染まっていた。しかし、これはそんな単純な問題ではないのだ。

 

「可能か不可能かでいえば、可能だ。ただし、その魔物たちが、さっきのティオと同じように洗脳されているのだとすれば、俺達を気に留めず町に向かう可能性は高い。だったら、急いで町に戻る方がいい」

 

 そんな中、思いつめたような表情の愛子がハジメに問い掛けた。

 

「南雲君、黒いローブの男というのは見つかりませんか?」

 

「ん? いや、さっきから群れをチェックしているんだが、それらしき人影はないな」

 

 愛子は、ハジメの言葉に、また俯いてしまう。そして、ポツリと、ここに残って黒いローブの男が現在の行方不明の清水幸利なのかどうかを確かめたいと言い出した。しかし、現状で数万の魔物がいるというのに愛子を残していくこのなどできるはずがない。当然、生徒達は猛反発するが愛子はなかなか首を縦に振らない。

 

「畑山教諭、戦う力を持たないあなたがここに残ったところで、無駄死にになる」

 

「それは分かっています!」

 

「いいや分かっていない。生徒を大切に想うのは素晴らしいことだ。だが、今も七人の生徒が着いてきてる。その生徒達もここで死ぬことになるんだよ。無意味に死体を増やすな。そういうのは、()()()()()()()()()()()

 

 悠姫の視線に反応して、ディルグがコクリと頷く。今生でのディルグは兎人族、気配を読み取ることに関しては、亜人族の中でもトップクラスだ。しかも、金ランクとして活動できるほどの高い実力も持つ。

 

「まぁ、ユウキ殿の言う通りじゃな。あれだけの魔物を迎え撃つにも準備がいる。まずは町に危急を知らせるのが最優先じゃろ」

 

 ティオの言葉が後押しになり、一行は急いで下山することになった。

 

 

 

 

 

 山の麓まで走って下山していた。ディルグはその途中で別れ、ローブの男を確保するべく、山を駆け回っている。ステータスの差で一番足が遅いウィルを悠姫が抱えているが、悪寒を感じた悠姫はウィルをハジメに投げ渡(パス)した。

 

「ッ! すまんハジメ!」

 

「はッ?!」

 

「うわぁ!?」

 

 ハジメがウィルを受けとめることも確認せずに、悠姫は勢いを殺すことなく左に飛んだ。全員が驚いて足を止め、悠姫の方を見ると――――たった今、悠姫がいた場所に剣鱗が生えてきた。

 

 そして、甲高い大哄笑(だいこうしょう)が聞こえてきた。

 

「アアアアアアァァ、ハハハハハハハハハハッーー!」

 

 悠姫は太刀を抜き、上から降ってきた()()を受け止める。甲高い金属同士の衝突音を響かせた。

 

「もう我慢ならねえ! さあ、英雄譚(サーガ)の幕開けだ! 存分に楽しもうぜ、英雄(シグルド)ォ!」

 




野生の邪竜が現れた!
 →たたかう
  たたかう
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