ありふれない怪物は、やがて英雄へ   作:シロマダラ

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 おじさんはこの程度じゃない、と悩みながら書いたので、違和感が多いかもしれません。申し訳ない。


第四十五話 怪物対邪竜

 

 時は遡り、ハジメが愛子にその決意を示した頃、北の山脈地帯。

 ティオと遭遇した場所から、三つほど山を越えた場所で、天津悠姫とファヴニル・ダインスレイフは戦っていた。既に通常の星辰奏者(エスペラント)という枠組みを超えている二人は、その化物染みた性能を遺憾なく発揮している。

 

「天昇せよ、我が守護星──鋼の恒星(ほむら)を掲げるがため」

 

 そこに轟き渡る人外特有の起動詠唱(ランゲージ)。凶兆と破壊の咆哮は、あらゆる無機物を支配下に置く。

 

「美しい――見渡す限りの財宝よ。父を殺して奪った宝石、真紅に濡れる金貨の山は、どうして此れほど(つや)めきながら、心を捉えて離さぬのか。

 (きら)びやかな輝き以外、もはや瞳に映りもしない。誰にも渡さぬ、己のものだ。

 毒の吐息(といき)を吹き付けて、狂える竜は悦に浸る」

 

 奏でられるのは悪意に満ちた祝詞。謳い上げるは歪に歪を重ねた英雄賛歌。あの日、この目に焼きついた、二人の英雄の背中。その片割れがトータス(此処)にいる。ならば是非も無し、その全てを奪い尽くそう。

 

 戦乙女(ワルキューレ)も、英雄の仲間(ヴォルスング)も、そして人間族の国(ミズガルズ)も、魔剣に滴る血となるがいい。

 

「その幸福ごと乾きを穿ち、鱗を切り裂く鋼の(つるぎ)

 巣穴に轟く断末魔。邪悪な魔性は(つゆ)と散り、英雄譚が幕開けた」

 

 ゆえに英雄よ、その輝きを魅せてくれ。悪しき邪竜は此処にいる、破滅へ導く魔剣は此処に在る。ならば、貴様が辿る結末はただ一つ。

 

「恐れを知らぬ不死身の勇者よ。認めよう、貴様は人の至宝であり、我が黄金に他ならぬと。壮麗な威光を前に溢れんばかりの欲望が朽ちた屍肉を蘇らせる。

 故に必ず喰らうのみ。誰にも渡さぬ。己のものだ。滅びと終わりを告げるべく、その背に魔剣を突き立てよう」

 

 この男こそ、邪竜にして魔剣、魔剣にして邪竜――最強の人造機竜(プラネテス)。欲望の赴くままに此処に暴力を具現する。

 Her den Ring!(宝を寄こせ!)

 Her den Ring!(すべてを寄こせ!)

 

超新星(Metalnova)──〝邪竜戦記、英雄殺しの滅亡剣(Sigurdbane Dainsleif)〟ッ!!」

 

 無機物の支配者による大号令は、無数の剣鱗と竜爪の具象として表れた。視界を埋め尽くす剣鱗は立ちはだかる全てを喰い殺さんと、必殺の波動を放っている。しかし、

 

「無駄だ!」

 

 星環境変性(オルタレーション)――

 ――〝殲嵐の齎す終焉に、光は無く(A p o c a l y p s e T y p h o e u s)

 

 悠姫は、世界を終わりへ導く、殲嵐の怪物(ほし)を呼び起こす。

 

 今、邪竜の前に立ちはだかるのは、英雄(ヴァルゼライド)に並び立つ、不滅の怪物(天津悠姫)。ならば、悠姫が邪竜に敗北する理由も道理もある筈がない。

 

「クハハハハッ、ヒャハハハハハッ!」

 

 しかしその程度は、邪竜にとって絶対不変の法則の一つに過ぎない。英雄は朽ちぬ、怪物は死なぬ。たとえ世界から消滅しようとも、必ず()()()()()()()()()英雄譚(怪物譚)は紡がれる。

 

「そう、この今のようになあぁッ!」

 

 新西暦で消滅したユキ・ロスリック(怪物)は、トータスにて見事に復活を遂げた。最高じゃないか、血が滾る。

 

 悠姫の一振りにて発生した嵐壁は、触れた剣鱗を文字通り削り取る。ダインスレイフは、その一切を微塵と化す殲嵐に自ら飛び込み、()()()()()()()()()()

 

「――そらそらどうしたッ! 邪竜はまだまだ健在だぞ!」

 

「黙れよッ、この規格外が!」

 

「おいおい、それはお互い様ってやつだろうがぁ!」

 

 身体の数割が削り取られるが、()()()()。飛び込んだ勢いのまま、籠手剣(ジャマダハル)を悠姫に突き立てる。心臓(たから)を寄越せ、すべてを寄こせ、強欲竜()はここだと、狂気を宿して叫ぶ。

 

 しかしこの戦場において、狂気は邪竜の専売特許ではない。悠姫は、無限の狂気(死に戻り)を乗り越えた男。その技量も精神も、通常の枠には納まらない。竜体化したティオの竜鱗すら貫くほどの破壊力を持つその竜爪を、流れるように太刀を割り込ませ、()()()()()()衝撃を全身に拡散させつつ受け止めた。

 

 嵐の中心で、二体の怪物は互いの武器(太刀と爪)を軋らせながら睨み合う。そして、ダインスレイフの血肉が蠢きながら接合し合い、傷が塞がっていく様子を見て、心底気持ち悪そうに吐き捨てる。

 

「――噂には聞いていたが、本当に気持ち悪い肉体(からだ)だなそれは。人間やめるとか、やめないとか、そういう次元を超えてるぞ」

 

「それを言うならお前もじゃないか、英雄(シグルド)。身体が文字通り消し飛んでも、超純度の結晶体に包まれたかと思えば、完全復活。お伽噺にもなかなかいねえぞそんな奴!」

 

「チッ!」

 

 悠姫の足元から竜爪が生え、下がって避けようとすれば、執拗にダインスレイフが肉薄しながら籠手剣(ジャマダハル)を振りかぶる。

 

 ゆえに、悠姫は()()()()()()()()()()前方へ、つまりダインスレイフの後方へ投げ飛ばした。ダインスレイフはその腕に一瞬だけ気を逸らしたが、そのまま悠姫の肉体を切り刻んだ。さらに地面から竜爪が、周囲から竜鱗が飛来して、悠姫を嬲り殺す。

 

 足が千切れ胴を削がれ、眼球を貫き左脳が消し飛び――身体が硝子のように砕け散った。 

 

 そしてダインスレイフが聴いたのは、後方で()()()()()()音と、大地を踏みしめた人の足音。振り返った先にいるのは、()()()()()()の悠姫だった。

 

「――なるほどな、砕けてから()()()()()。同じ部分は同時に存在出来ねえと言ったところか」

 

「ご名答、と言っておこう。無駄に頭の回転は速いな」

 

「本気で考えりゃなんとやらってな。そういや、あれか。カンタベリーの(トップ)は不老不死で、何百年も陰から支配してる、なんて噂を耳にしたことはあるが……」

 

極東黄金教(エルドラド・ジパング)の総本山、プラーガの議事堂と炉の存在、そして日本人であるお前とその力……クハハッ! なんだなんだ、そういうことかよ! 面白そうな宝を見逃しちまってたのかもしんねえなあッ!」

 

 哄笑するダインスレイフ。まさかあれだけの情報で、そこまで答えを出すとは…と悠姫はダインスレイフの導き出した答えに舌を巻く。

 

 この二人が新西暦にいた頃、カンタベリー聖教皇国には、教皇スメラギと呼ばれる()()と、騎士団総代騎士グレンファルト・フォン・ヴェラチュールがトップに君臨していた。この二人の()と、あと女性二人を加えた四人が神祖と呼ばれ、カンタベリー聖教皇国を()()、旧暦では星辰体(アストラル)研究チームに所属していた、千年を生きる日本人だ。

 

 つまり、実験体と研究者、アドラーとカンタベリーなど、他にも色々な部分は異なっているが、太源的には同じ、大破壊(カタストロフ)に巻き込まれた日本人。ゆえに、悠姫が神祖と同じ系統の能力を保有していても、何も不思議ではない。

 

 しかし、断片的な情報だけで正解に辿り着く、ダインスレイフの頭脳と勘の良さは、凄まじい。だからこそ、()()()()

 

「お前、どうして魔人族側に付いた?」

 

「人間族の敵と言うのは、そんなに不満かい?」

 

「別に。人間族、魔人族、そして亜人族。あれこれ言われてはいるが、結局全部同じじゃないか」

 

「ああ、まったくその通りだ。神を名乗る奴の玩具でしかねえ」

 

 そうだ。仮にもこのダインスレイフは、氷雪洞窟を攻略している。ならば、世界の歴史というものを知ったのだろう。

 

 それでも、この男は魔人族側として戦争に参加している。自ら、()()()()()()()()()()()()()

 

「で? お前なら、第三勢力として巧く立ち回ると思ったが?」 

 

「なに、()()()()を見たんでな。あいつは本気で、魔人族の繁栄を願っている。磨けば輝く原石で、戦争や()()()が手っ取り早い研磨剤だ。それに、なあ!」

 

 ダインスレイフは再び籠手剣(ジャマダハル)を振るう。死なぬ殺せぬ、知ったことか、その背に魔剣を突き立てよう。壮絶な暴力を悠姫に叩き付けながら、怒りと歓喜を込めて咆哮した。

 

天之河光輝(勇者)はつまらねえ奴だった。世界の為とほざいていながら、結局は聖剣(鈍ら)振り回して遊ぶガキだ! 本気で世界を救いたいというのなら、一体どうして迷宮なんかにとどまっている!」

 

 自分こそ正義、自分こそ勇者、だから悪を倒して世界を救うと、字面だけなら典型的なヒーローだ。だが、本気で生きぬ天之河光輝(偽物)が英雄など、ダインスレイフは認めない。紛い物如きが英雄(勇者)を語るな、ふざけんじゃねえと、怒りによって壁を超える。

 

「それに比べりゃ、あの戦乙女(ワルキューレ)達は実に良いッ! お前の背中を追おうと、本気で足掻いている! なにやら面白い物にも目覚めたみたいだしなあ!」

 

 悠姫()こそ英雄、私達の希望(ヒカリ)、だから貴方に尽くしますと、典型的なヒロインだ。それでも守られるだけではないのだと、本気で己を錬磨している。二人がテルスで覚醒した瞬間を思い出し、感極まったダインスレイフはまた一段階覚醒する。

 

「つまりは、利害の一致(ギブアンドテイク)だ。魔人族は人間族と戦いてえ、俺は奴らがが本気で生きるところが見てえ。それだけだァッ! だから存分に魅せてくれ、我が麗しの英雄(シグルド)ォォッ!」

 

 ダインスレイフを中心に剣鱗と竜爪が再度展開される。雑木林の如く乱立され、コンマ一秒でも判断が遅れれば、その雑木林を彩る紅き血の華となるのは必然だが、

 

「いい加減、見飽きたんだよ!」

 

 星環境変性(オルタレーション)――

 ――〝神罰覿面、神敵粉砕、(M e g i n g j o r d)豪放磊落。神威を此処に( M j o l n i r)

 

 “宝物庫”から取り出した大槌を、筋力強化の星辰(ほし)を使って、地面に叩き付ける。一種の爆弾にも匹敵する強大な一撃は地面を砕き、剣鱗と竜爪を破壊する。

 

 そして大槌と星辰(ほし)を太刀と殲嵐に切り替え、獣の如き咆哮と共に、幾度目かダインスレイフと衝突する。

 

「ウオオオオォォッ――!」

「シャアアアァァッ――!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦闘開始から、既に数時間。本来なら、単純な能力値(スペック)手数(星辰光)の差によって、決着はついている筈だった。

 

 だが、異常な精神力(気合と根性)、そして()()()()によって、維持性()()()()()限界は遥か遠くに捨てられている。

 

 そして、都合()()()()の覚醒を果たしたダインスレイフは、たった今()()()()の限界を超え、()()()ダインスレイフの身に変化が起きた。

 

 悠姫の一太刀がダインスレイフを肩口から斜めに両断する。擦り落ちる右半身、絶死不可避の致命を受けて――

 

「――読んでるんだよその程度ォッ!」

 

 ――だが、()()()()は想定済み。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()籠手剣(ジャマダハル)を振るう。

 

 悠姫も悠姫で、()()()()()()()()()()()()()()()()()()とは思っていたので、冷静に飛ばされてきた剣鱗を切り落とし、籠手剣(ジャマダハル)を弾く。が、

 

「――ッ、ぐォ!」

 

 空いた脇に、鞭のようにしなやかで、しかし凄まじい重量感のある何かが、背後から襲いかかった。

 

 油断はしていなかった。限界まで特化した干渉性は、かの死想恋歌(エウリュディケ)のように星辰体(アストラル)に直接干渉することはできないまでも、その流れを感じ取ることはできる。そのため、たとえどの方向から剣麟を射出しようとも、それこそ大地が邪竜の顎門と化そうとも、その初動を見逃すことはありえない。しかし、今回の一撃は、その流れが読めなかった。

 

 ()()に殴り飛ばされた先で体制を整え、その何かの正体を見据えたとき、悠姫は思わず呆然と呟いた。

 

「――尻尾?」

 

 まるで地面から生える触手ように、根本が太い紫紺の()()が、ゆらゆらと揺れている。あの形をした尻尾を、悠姫は見たことがある。つい数時間前、ティオ・クラルスという竜人族が、()()()()姿()()()()と同じ形で……。

 

 まさか、と悠姫はダインスレイフを見る。不敵に嗤うダインスレイフは、なぜかその位置から全く動かない。悠姫は咄嗟に、ダインスレイフの首を落とそうと突貫し――

 

「――()()()()()

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()が起こした暴風に、悠姫は再び吹き飛ばされた。そして――

 

 ――周囲数十メートル規模の大地が一斉に隆起する。

 

「さあ、もっとだ。もっと、もっともっともっともっと!!」

 

『もっと楽しもうぜ! 英雄(シグルド)ォォ!!』

 

 まるで膨張するかのように巨躯へと変わる。籠手剣(ジャマダハル)や腕は、鋭き爪を持つ腕へと変わり、その巨体を支える逞しき剛足が、そして胴が顔が、黄金を求めし強欲の化身()へと()()する。

 

「…おいおい…本気(マジ)かよ」

 

 邪竜狂乱。

 僅かながら面影を残し、ファヴニル・ダインスレイフは正真正銘、邪竜(ファヴニル)へと変貌した。

 





 氷雪洞窟の神代魔法を手に入れたおじさんなら、竜体化程度は本気でやってくれると信じてます。

 感想や評価、お待ちしています。
 むしろ、低評価でもいいので感想ください。参考にさせていただきます。
 一応、各キャラの展開は考えていますが……
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