ありふれない怪物は、やがて英雄へ   作:シロマダラ

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 ウル戦が長くなりそうだから、多少無理して詰め込みました。分かりにくかったら申し訳ないです。


第四十六話 ウル防衛戦開幕

 

 魔法が広く浸透した世界観で、銃火器と言った技術が発展することは少ない。なぜならば、魔法の方が汎用性が高いため、そもそも銃火器という選択に辿り着くことさえ少ないからだ。

 

 それは、このトータスでも同様だ。異世界召喚といった、現代科学でも立証できないような存在がある、そもそもの基盤体系が違う世界と地球を比べるのは不毛なのかもしれないが、少なくとも、トータスに“銃”という概念は存在しなかった。

 

 今日までは。

 

 

 

 広い平原に轟き渡る銃火の轟音。毎分一万二千発を放つハジメのメツェライが、硝煙の軌跡を描く弾頭を飛ばすシアのオルカンが、その平原を埋め尽くすように広がる魔物を、肉塊に変えていく。

 

 さらに、ユエが重力魔法〝壊劫(えこう)〟で、四方五百メートル深さ十メートルのクレーターを作り出し、魔物を大地のシミに変え、ティオが放つ黒い閃光(ブレス)が、魔物を微塵も残さず消し飛ばす。

 

 ウルを囲う壁付近にいる者達は、その圧倒的な殲滅に目を奪われた。それが特に顕著なのは、戦いの経験がない、或いは少ない居残り組よりも、愛子や生徒達、神殿騎士だ。

 

 愛子や生徒達は、黒竜(ティオ)戦でも見たが、()()ハジメがこれほど強くなっていることに驚き、神殿騎士は()()のアーティファクトの存在に驚いていた。

 

 しかし、さすが神殿騎士(エリート)と言うべきか、亜人族(シア)アーティファクト(道具)を使う姿から、魔法や技能によるものではないことを見抜いている。シアは魔力持ちの異端児なので、その見抜き方は間違ってはいるのだが、実際のところ、()()()()()()という点、全くの前例がないことから、()()()()()()()()という二点は正解している。

 

 結果、どうすればあのアーティファクト(道具)を手に入れられるか、ハジメを引き込めるか、作成できるのかと考えている。この日、トータスに“銃”というアーティファクト(兵器)の概念、その雛形が生み出されることになった。

 

 

 

 

 

 その一方的な殲滅の中で、少し不安気な顔をしながらティオは、ハジメ達も殆ど手を出さない群れの一角に視線を向けた。

 

 そこには、周囲の魔物を巻き込みながら暴れ回る一匹の邪竜(ファヴニル)と、その邪竜に対峙する悠姫の姿があった。

 

「ティオ、気持ちは分かるが、まずは魔物(こっち)に専念しろ」

 

「う、うぬ。分かってはおるのじゃが…」

 

 ハジメから忠告されるが、ティオの表情はまだ晴れない。その間も、二人の手は一切止まっていない。ハジメの信頼は、付き合いの長さと憧憬からくるものなので、ティオが心配になるのも無理はない。

 

「…まずはやることをやる。その後に助けに入れば、好感度、アップ」

 

「こ、好感度?! い、いや、そういう意図は……ま、まあ、ちょっとだけ…」

 

「…恋愛雑魚め」

 

 ユエがぼそりと悪態を吐いている。既に魔物の数は数千規模にまで減っているからか、かなり四人には余裕が出来ている。その大きな要因は、湯水のように使用できる魔力源があるという点だ。発信機(兼爆弾)として愛子達に渡された悠姫の黒星晶鋼(アキシオン)だが、あれは物質結晶化した星辰体(アストラル)、つまり魔力だ。それをユエとティオが使用することで、ほぼ無制限に〝壊劫(えこう)〟や〝雷竜〟、黒い閃光(ブレス)を連発できる。

 

「ッ! 皆さん、あれ!」

 

「なッ! まじかよ!」

 

 その時、唐突にシアが空を見て驚いた。釣られてハジメが空を見上げると、そこには五体の()が滞空していた。感じる圧は、洗脳されていたティオと同等かそれ以上。つまり、真のオルクス大迷宮の最下層クラスということであり、それなりに本気でやらなければ、ハジメ達でも敗ける可能性は十分にある。

 

 このような魔物を、一体どうやって操っているのか。そもそも、一体どこから連れてきたのか、疑問は絶えないが、それはそれ。この場を切り抜けなければ、悠姫の元に行くことはできない。

 

「…悪いな、ティオ。まだ愛しの悠姫を助けには行けねえみたいだぜ」

 

「ぬ、ぬう…ハジメ殿までそのように…いや、分かっておる。別に竜人族(同胞)という訳でもないのじゃ。直ぐに方を付けさせてもらうのじゃ!」

 

 

 

 

 

『ハハハハハハハッ!!』

 

「この、出鱈目が!」

 

 そして、平原へ場所を移した悠姫と邪竜(ファヴニル)の戦いは、さらに苛烈を極めていた。制空権というフィールドを一方的に支配され、不死身と手札(星辰光)の多さによる優勢を、力ずくで抑え込まれる。

 

 そこで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()と、上空へ飛び上がり大きく開けた顎門から炎と毒が混じり合ったブレスを吐く。

 

 邪竜(ファヴニル)の真下から距離を取りブレスの範囲から脱しようとするが、そうはさせない。たとえ竜体へ変貌しようとも、()()()()()()()()()()()()()。約半径百メートルの大地を陥没させ、全方位の壁が剣鱗が射出させながら檻を形成して迫ってくる。

 

 足場は消え逃げ場も一切なし。絶死不可避な状況、だが――

 

「この、程度!」

 

 ――悠姫に至ってはその限りではない。炎毒も剣鱗も、不死身である悠姫からすれば己を殺す脅威ではないのだから。

 

 星環境変性(オルタレーション)――

 ――無窮たる星女神、掲げよ正義の天秤を(L i b r a o f t h e A s t r e a)

 

 太刀を振り抜くと同時に派生させた竜巻が炎毒を振り払い、竜巻に触れた剣鱗は瞬く間に塵へと化していく。

 

 そして頭上から雷を墜とし、落下してくる邪竜を両断し――

 

『読んでるんだよ、その程度ォ!』

 

 ――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と、悠姫の一連の迎撃を全て読んだ邪竜は悠姫が雷を発生させるより前に、地上が波打ちながら巨大な顎門へと形を変え、圧殺させんと牢獄ごと呑み込みながら降ってくる。

 

「――シッ!」

 

 だが悠姫としても()()()()()()()()()()()()

 地上が流動し始めている時点で既に星辰光(アステリズム)は切り替えている。

 

 星環境変性(オルタレーション)――

 ――天光礼賛、限界突破の鋼魔弓(O v e r d r i v e S a g i t t a r i u s)

 

 “宝物庫”よりもう一振りを取り出し、破壊弩(バリスタ)と化した斬風が迫りくる顎門へと怒涛の勢いで叩き付ける。次いで飛ばされてきた剣鱗を、直撃するものは斬り、()()()()()()()()()邪竜(ファヴニル)に接近する。が、

 

「チッ!」

 

 たとえ音速に匹敵する速さで近づいても、当然のように邪竜(ファヴニル)はそれを読み、悠姫も読まれることを読み返す。だが、いくら読み返しても、そのまま接近できるのかは全く別。四方八方より竜腕が迫ってくれば、破るのに一瞬は時間が掛かり、その一瞬で再び距離を離される。悠姫は地下から地上に帰還した。

 

 悠姫はチラリとハジメ達が五体の竜と戦っているところを見て、眉を顰めながら邪竜(ファヴニル)に問いかけた。

 

「…清水幸利(しみずゆきとし)の能力では、五体もの竜を従えるなんて出来ないと思うんだが?」

 

『ああ、その通りだ。(あれ)は俺が創った魔物だ』

 

「創った?」

 

『〝変成魔法〟、氷雪洞窟の神代魔法だ。極端に言えば、生物を魔物にする魔法だ』

 

「なるほど、それで自分を竜にした、か」

 

 なるほど、これなら魔人族が魔物を従えているという話も納得できる。そして同時に、()()()の敗北も悟った。天之河光輝(勇者)が、今どれほど強くなっているのかは定かではないが、あの竜一匹倒すだけで、多大な犠牲がでることは容易に想像できる。

 

 これからどうなるか、と苦笑しながら太刀を握り直し、地を這うように疾走した。邪竜(ファヴニル)も、迎え撃つと高々に咆哮し――

 

「〝豪炎槌〟」

 

 ――上空に、全てを焼き尽くさんと言わんばかりの大火が広がった。そこから一か所に集束され、()()()()()()墜とされた。

 

「ッ!」

 

 判断は一瞬、九十度方向転換し、直径数十メートルの豪炎の墜落を回避する。急激な方向転換に肉体が悲鳴を上げる。だが、それが功を成し、魔法を()()()回避した。

 

 その魔法が墜ちてきた方を見ると、

 

「…天使?……いや、お前は…」

 

「ノイントと申します。〝神の使徒〟として、主の盤上より不要な駒を排除します」

 

 悠姫が呟いたように、天使を思わせるような()()()外見。銀髪を揺らし、背には一対の銀の翼。しかし、慈母のような天使とは逆に、感情を感じない無機質な瞳に、物騒極まりない二振りの大剣。

 

 “真の神の使途”ノイント。創造神(エヒト)の命により参上した、()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 一方、ハジメ達と竜の戦いは、現状拮抗していた。言うなれば、竜体のティオを五体分、同時に相手しているようなもの。いや、ファヴニル・ダインスレイフが改造して生まれたこれらの個体は、竜体のティオの戦闘力を凌駕し、さらにその五体は巧みな連携まで行ってくる。ならば苦戦するのも当然で、ピンチを迎えるのも当然だった。

 

 純粋な攻撃力不足、耐久不足、そして数の差。ユエの重力魔法では地面に縛り付けることしかできず、他の属性魔法では竜鱗に傷を付けることしかできない。シアのドリュッケンも、防御を考えない、勢いをつけた一撃でなければ弾かれる。ティオの風魔法、炎魔法は竜鱗を貫けず、ブレスでさえ多少のダメージにしかならない。ハジメのパイルバンカーやシュラーゲンでようやく貫通できるが、固定や溜めが必要になる。

 

 しかし、ただでさえ戦闘力が高い竜を相手に、数でも劣っているのだ。しかも、敵竜のブレスが直撃すれば、ティオと戦った時の悠姫のように、文字通り消し飛ばされることは間違いない。

 

 そして、ついにその均衡が崩された。

 

「ッ! あ…」

 

 突然、シアの〝未来視〟が発動する。それは即死級の危険が迫った証拠だが、()()()()。前方には収束された魔力と大口を開けた竜の姿。間違えようもなく、ブレスの体勢だ。ハジメにユエ、ティオは遠く間に合わず、回避するための逃げ場がない。

 

(死ぬ…)

 

 竜の顎門に集束された魔力がシアに向けて解き放たれ――

 

「創生せよ、天に描いた星辰を―――我らは煌めく流れ星」

 

 ――“不落”の城塞が、死の閃光を弾き飛ばした。

 

「この身を嬲るは不死身の英雄、戦車を(あやな)す半神半人。その駿足に敵は無く、我が敗北も必然なのか」

 

「勇を競いしその果てに得た敗北ならば是非も無し。冷たき無明の奈落へ降り、(おぞ)ましき亡者の一人に成るだろう」

 

 それは一人の男の物語。新しき世界で生を受けた彼は、世界に祝福されぬ亜人であり、さらにその根底を覆す異端児だった。

 

 それでも同胞たちはそれを祝福した。異端であろうと()()に違いはないのだからと。後に生まれた妹もまたしかり、兄妹は心から愛された。

 

「ああ、だがしかし、聞こえるのだ、苦しみに喘ぐ家族の声が。見えるのだ、燃え盛る故郷と家々が。

 この身が朽ちた果てに、我が愛する家族が穢されるというのなら、この(オワリ)を否定しよう」

 

 だが、異端(魔力)以上の異端()を抱えているために、彼は知った。この世界の歪さを、一族の末路を。それは、我が愛する家族には毒となる。故に、彼は家族の元を離れることを決意した。

 

 自分がこの世界に生まれたならば、同士二人も世界にいるはずだ。そして、いつか怪物もこの世界に呼び出される。

 

 その時に、末路(みらい)を覆す物語が始まるのだ。全ては、愛する家族の為に。

 

「それが(カミ)に仇名す叛逆ならば是非も無し――我は化生へ墜ちようぞ」

 

「輝く兜と不滅の槍を携えて、汝の前へ立ちはだかん。

 たとえその駿足を以てしても、たとえ幾度と敗北しようとも――この先一歩も通さぬと誓いを立てよう」

 

「〝超新星(Metalnova)〟――〝不落城塞の守り人よ、此処にあれ(H e c t o r I l i o s)〟ッ!」

 

 星光(ほし)を身に宿し、槍一本でブレスを薙いだ男は、家族を守る守護者として、竜の前に悠然と立ち塞がる。

 

「妹をやらせはせん。不落(ヘクトール)、ディルグ・ロートレク。いざ参るッ!」

 




 ノイント参戦。しかし二人? 一人と一匹? より性能(スペック)が下の可能性大。

 ディルグの星辰光(アステリズム)の詳細は次話で出します。
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