ウル編、長くなります。
最低でも、あと五話は続きます。
新西暦の流れは、半分オリジナルです、
ディルグ・ロートレク。新西暦ではユキ・ロスリック直属の部下であり、
ディルグがマドロック家の私兵となった理由は、単純に“生きる為”ということに起因する。
物心がついた頃、口減らしとして、アンタルヤに奴隷として売り飛ばされた。その
幾度と捨て駒のように扱われ、切り捨てられ、それでも“死にたくない”の一心で生き残り続けた。ただの奴隷でありながら根強く生き続けるその有様が気に入られたのか、やがてディルグは、奴隷からマドロック家の私兵という名の
奴隷から私兵へ、一種の栄転を果たしたディルグは、これで死の危険がなくなったのか、といえばそうではない。
結果として、“死にたくない”の一心で生き続けたディルグは、マドロック家の
だが、その運命に亀裂が入ることになる。それが新西暦1012年、東部戦線でのことだった。
その日、彼が遭遇した帝国兵は、明らかに異常だった。銃火が飛び交う戦場で、軍刀を振るっている。全身が血に濡れているが返り血ばかりで、負傷らしい負傷はしていない。
他の私兵や傭兵達が一斉に銃を構えるが、遅かった。私兵の首が宙を飛ぶ、傭兵が銃を握る両腕が消える、腹から臓物が零れ落ちる。一人、一人、また一人と次々と命を落とす。
その下手人を目が合った。
輝き満ちた光と、先が見えぬ闇が混ざり合った、混沌の瞳。まるで機械のように蹂躙しながらも、冷徹な機械では持ちえぬ、確かな熱がある。
その異常な強さと狂気に、ディルグは心の底から恐怖して、そのまま有象無象の一人として、怪物に切り捨てられた。
ディルグが目を覚ましたのは、殆ど人が来ない場所に建てられた教会だった。老年の神父と、妙齢なシスター、数人の子供が住む小さな教会。どうやらディルグは深手を負いながらも生き残ったらしく、子供達が教会まで連れて来たらしい。
他の私兵や傭兵達は簡易的な墓を建てられ、ディルグは教会に温かく迎え入れられた。
最初は傷が癒えたらすぐに出ていこうと思っていたのに、その居心地の良さゆえか、傷が癒えても一日、また一日と教会で過ごした。ある日、ディルグは神父達に聞いた。
――俺は、此処に居てもいいのか? 迷惑じゃないのか?
しかし、神父も、シスターも、子供達も、皆が同じことを言った。
――家族を迷惑だなんて、思うわけがない
その時、ディルグはどこか救われたように感じた。口減らしで捨てられた幼少期、生き残るために力を磨き、心を殺し、マドロック家の
だからこそ、
しかし、幸せは長く続かなかった。
ある日、教会に帰ってくると、とても教会が静かなことに気が付いた。いつもなら、子供達の遊ぶ声が、騒がしいほどに響いているのに。それに、どこからか漂う
手に持っていたものを全て投げ捨て、急いで教会の中に入ると、そこに広がっていたのは、まさしく地獄。頭部が弾け飛んでいる、
怒り狂ったディルグは、襲撃者を殴り飛ばす。突然のことに驚いて固まっている中、ディルグは転がった襲撃者に跨って、その顔に鉄拳を浴びせ続ける。動かなくなるまで何度も、何度も、何度も、何度も……
状況を理解した襲撃者たちはディルグを取り囲む。周囲を見渡したディルグは、襲撃者たちの顔に見覚えがあることに気が付く。
つまり、
ああ、自分のせいじゃないか。自分が此処に居たから襲われた、自分が弱かったから殺された、守れなかった。
この時点で、ディルグの心が折れるのは当然の流れだった。結局、最後までマドロックの
そのまま死を受け入れようとしたその時、怪物は地獄よりやっていた。
一刀で数人の首が飛ぶ、一刀で数人の腹が斬り裂かれる。あの日、ディルグに恐怖を覚えさせた張本人は、一切の傷を負うことなく、ディルグを除いた全員を斬殺した。
なんで今助けに来た、なんでもっと早くに来なかった、それなら皆助かったのに。
そんな責任転嫁の言葉が喉から出かかるが、絞り出すように出たのは、「殺してくれ」という一言。
だが、ディルグは怪物の
――償いたいなら生きろ。そして今度こそ守り抜け。
それは、“死”という最初に願った否定が無数に待ち受ける、地獄への片道切符。だが、ディルグはその切符を、手に取った。
その後、シスターの名を貰い、ディルグ・ロートレクと名乗った彼はアドラーに渡り、帝国軍に入隊する。
だが、ディルグ・ロートレクの物語は終わってはいない。トータスという異世界で、彼は新たな生と家族を得た。
ゆえに、今度こそ願うのだ、“家族を守り抜くのだと”。
「お兄さま!」
シアは窮地を助けてくれた兄の背中をみて、歓喜の声を上げた。幼い頃から、辛いとき、苦しい時に助けてくれるヒーローこそ、この兄だったのだから。
突然の乱入者にブレスを防がれた竜は、その強靭な前足を振り上げるが、
「軽い」
ディルグは後ずさることもなく、軽々と片手で受け止めた。そして、竜の顔面に回し蹴りを叩き込み、全長数メートル体重数十トンという巨体を、
「うっそだろ…」
それを見ていたハジメでさえ、思わず驚いて茫然としてしまう。様々な技能を用いても、あれだけ軽々と攻撃を受け止めたり、ましてや数十メートルも蹴り飛ばすなんて、ハジメでさえも不可能だ。
だが、これがディルグの
「ふッ!」
吹き飛ばした竜に向かって、ディルグが地を蹴って疾走した。竜は翼を羽ばたかせて上空へと飛び立つ。しかし、
「シア!」
「はいです!」
そして、超重量の物体が落下したような爆音を響かせて墜落し、その隙にシアが竜の頭部にドリュッケンを叩き込む。シアはインパクトの瞬間、ドリュッケンが
「うわ…」
「…これは酷い」
「…うっぷ」
当のシアは非常に清々しい顔をしているが、ハジメ達三人はその様子に少し引いている。あれが自分の過去だったのかもしれないと思うと、ティオは吐き気すら催している。気持ち、竜達も引いているようにも見える。
しかし、何はともあれ、竜は一体沈黙した。首を失っても動いてくるのでは? とも思っていたが、この個体はそうでないらしい。ハジメ達は残り四体の竜に向き直した。
赤子の手を捻るように、竜を手玉に取ったディルグの
竜の質量を軽くすることで、前足を受け止め、蹴り飛ばす。次に、竜の質量を重くすることで、翼で飛べなくし、最後にドリュッケンの質量を、インパクトの瞬間に重くすることで破壊力を上昇させた。
一瞬は竜側へと傾いた天秤は、一気にハジメ達へと傾いた。
数の不利は逆転し、竜はディルグの未知の強さに警戒する。しかし、その警戒が、竜の命取りになる。
「――ぶち抜け」
固定と溜めを終えたハジメのシュラーゲンが、一体の竜の
「グルァアアア!!」
更に一体討ち取られ、竜達は怒り狂ってハジメへと襲い掛かるが、ハジメは冷静に再びシュラーゲンをチャージする。一体は撃ち抜けるだろうが、残り二体は間に合わない。しかし、そこに臆する必要はない。今、ハジメは一人ではないのだから。
「…行かせない」
「もう俺を忘れたか?」
一体をユエが〝禍天〟で墜とし、一体をディルグが、先と同様の手段で墜落させる。その内、ユエが落とした方をハジメがシュラーゲンで撃ち抜き、ディルグの方を、シアがこちらも先と同様に粉砕した。
そして残ったもう一体は、
「妾を忘れてもらっては、困るのじゃ!」
開いた口内に、ティオが直接ブレスを叩き込む。するとどうなるだろうか。文字通り、爆発四散する。体表の竜鱗は、ブレスに対する耐久を備えていても、体内まではそうでなかったようだ。
これで五体の竜は全て倒した。周囲を見渡しても、残っている魔物はいないようだ。清水を確保したことで洗脳が解け、本能に従って山脈に逃げていったか、それともメツェライやらブレスやら、徐々に激しさを増していった人対竜の戦いに巻き込まれたのかは定かではない。
だが、魔物がいなくなったのならそれで良し。この平原で、一番激しい戦いをしている場所に目を向けると、ティオが目を見開いて驚いた。
「あやつは…あの時の…」
「…ティオ?」
尋常ではない様子に、心配になったユエが声をかける。しかし、ティオの様子も当然なのだ。
約500年前、竜人族の里は襲撃され、竜人族は歴史の中に消えていった。ティオの父母は、その襲撃によって命を落としている。
その襲撃者こそ、悠姫と戦っているノイント、正確にはノイントと同じ姿形をした、真の神の使途。
つまり、厳密には個体が違うものの、ティオにとっては親と同胞の仇とも言える。
「もう500年じゃ。父上のことも、母上のことも、受け入れておる。じゃが、それとこれとは話は別じゃ!」
父母を殺され、いいように弄ばれて、歴史に葬られて、それでも長い年月を掛けて受け入れた。だが、恨みがないというのは、全く違う。
不条理に虐げられたからこそ
「なら、俺たちであの竜を
ハジメがドンナー・シュラークを構える。ユエは魔力を回復し、シアはドリュッケンを構える。そしてディルグも、少し笑いながら
「主様を守って見せろよ、竜人族」
「ッ、無論じゃ!」
五人は、もう一つの戦場へ向けて駆け出した。
基準値:C
発動値:B
集束性:B
操縦性:E
維持性:B
拡散性:D
付属性:C
干渉性:E
質量加減能力
対象の質量を軽く、逆に重くする星辰光。
瞬間的な、運動エネルギー操作とも言え、戦いにおいては強力な能力。
集束性、維持性が高いため、彼一人で戦線維持も不可能ではない。
しかし、付属性の低さにより、自身を重くすると、防御が上がる代償に、自重によって自壊する危険性がある。
爆発四散した竜を見て、五人が顔を青くしたのは言うまでもない……
一応、誰を
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