ありふれない怪物は、やがて英雄へ   作:シロマダラ

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第五十三話 フューレン、再び

 中立商業都市フューレンは、相も変わらず活気づいていた。

 

 高く巨大な壁に囲まれているにもかかわらず、壁内の喧騒は壁外にまで伝わっている。さらには門前にできた長蛇の列、唯の観光客から商人のよな仕事関係で訪れた者まで、厳しい入場検査を待っていた。

 

 多くが気怠そうにしているところに、爆音と共に近づいてくる二つの影。なんだなんだと興味を引かれて見ると、黒鉄の箱と金属の馬が走ってきているではないか。

 

 はっきり言って恐怖でしかない。誰もが慌てて逃げ出そうとしたところで、二つの未知の物体は多少離れた場所で停止した。

 

 そして停止した二つの物体、魔道四輪からユエとシアが、魔道二輪からティオが降り立った。突然の美女・美少女の出現に、そこらから感心やらうっとりとした溜息が漏れる。

 

 次にハジメが降り、ボンネットに座って先頭(さき)が長い行列を眺める。

 

「分かっちゃいたが、やっぱり長えな。ざっと一時間位はかかりそうだ」

 

「時間も時間だ、仕方がない」

 

 魔道二輪に跨ったまま悠姫が応えた。ずっと同じ姿勢で走り続けたということもあり、男二人は首をコキコキ鳴らしたり肩をグルグル回したりして身体の凝りを解している。

 

 そんな二人を見てユエとティオがそれぞれハジメと悠姫の後に回って、二人の肩を揉んでマッサージを始めた。遅れた! とばかりにウサミミをピンと伸ばしたシアだが手伝えることもなく、やがて寂しさを感じたのかハジメの傍らに座り込んで体を預ける。

 

 なお、謎の勝負(VSシア)に勝利したユエだが、恨めしそうな視線を横の魔道二輪に向けている。走行中と同じように、悠姫の背中に胸部装甲を押し付けているティオだ。謎の勝負(VSティオ)は開始前に敗けている。

 

「…所詮は脂肪の塊…別に悔しくなんて…でもハジメに…くッ!」

 

 これほど成長しない体を怨んだことはないと、恨み言をポツリポツリと零す様は負けヒロインのそれにしか見えない。

 

 

 閑話休題(それはともかく)

 

 

「ところで……このまま乗り付けて良かったんですか? できる限り隠すつもりだったのでは……」

 

「今更だ。ウル防衛戦(あれ)から一週間が経過している以上、余程の辺境でもない限り、噂程度は広がっているさ。ほら、あそこの商人なんて、本当だったのか、なんて言ってる」

 

「いえ…僕には聞こえないんですが…」

 

 窓から身を乗り出すようにして聞いてきたウィルに悠姫が答える。スペックが高いから遠くの会話が聞こえているのであって、当然だがウィルには聞こえない。

 

 だが悠姫が言った通り、ウル防衛戦の噂は様々な所に広がっている。悠姫が聞いた商人の反応がその証拠だ。

 

「でも、そうなると教会とかお国にも伝わっちゃってますよね? 当然と言えば当然なので確かに今更ですけど…何らかのアクションはありますよね。愛子さんやイルワさんが上手く味方してくれればいいですけど…」

 

「そのための保険だ。教会が本腰を入れれば無意味だろうが、あって困ることはねえさ。敵になるのと敵にならねえの、どっちが被害少なく得をするのかは言わなくても判んだろ」

 

 まあ、そこに()()が関わってきて面倒になるのが、宗教を語る上でのお約束なのだが。

 

 このようになんでもない様に話を続けている一方で、周囲はウルの噂の審議によって騒ぎが増していた。ありえないと、町民全員でどんな夢を見ていたのだと言われていた噂は、しかし真実だったのだと商人を中心に広まっていく。

 

「おい! 一体何の騒g…なッ、何だコレは!」

 

 すると騒ぎを聞きつけた門番が近づいてくる。定番且つ当然の反応を見せてくれるが、流石は大陸一の規模を誇る商業都市の門番と言ったところで直ぐに冷静になり、やや高圧的になりながら悠姫達に話しかける。

 

 あくまで、門番としての事情聴取で高圧的になっているだけで、イチャイチャしてるようにしか見えない一行に嫉妬しているわけではない、はずだ。

 

「この黒い箱? 鉄の馬? はお前達の物か?」

 

「ああ、俺のアーティファクトだ。俺達はこれ等に乗って来ただけで、周りはアーティファクトを誰も見たことがねえから、ざわざわと騒いでるだけだ。被害なんざ欠片も出てねえよ」

 

 列に並んでいる者達から聞いた内容と一致していることを確認し、門番はそうかと納得した。しかしそれだけで、未知のアーティファクトと言うことも含めて怪しさしか感じない。

 

「あ、あの! 彼らのことは、私が保証します!」

 

「ん? 一体誰だ?」

 

「クデタ伯爵家の三男、ウィル・クデタと申します」

 

 門番の前にウィルが名乗り出る。門番となれば、フューレンを貴族が出入りする様も少なからず見てきている。その際にも家名程度も確認するために、クデタ伯爵家の家名も聞いたことはある。

 

 しかし門番としては別に引っかかるものがあるようで。

 

「ウィル・クデタ…もしや君達は、ユウキ、ハジメ、ユエ、シアという名前ではないか?」

 

「そうだが…ああ、冒険者ギルドフューレン支部支部長、イルワ・チャングから何か聞いているのか?」

 

 門番から名前を言われ眉を顰めながら応えた悠姫だが、ウィルの名前を聞いて思い出したような反応からウィル捜索の依頼者の名前を出すと、そのまま通すように聞いていると、門番は頷いた。

 

 これらのやりとりで一番驚いたのはウィルや門番ではなく、周りで聞き耳を立てている商人たちだ。肩書を含めてイルワの名前を出したのは、自分達はフューレン支部長から指名依頼されるほどであると教えるため。

 

 加え、伯爵家と繋がりがあるかのように迄示唆されてしまえば、並の商人では交渉の机に向かうことすら出来ないだろう。

 

 そして狙い通りに、抜け駆け防止に牽制しあっていた多くの商人が、驚きながら足踏みをくらっている。

 

 悠姫たちはその隙に門番の先導の元、再びフューレンへと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

「ウィル! 無事かい!? 怪我はないかい!?」

 

「イルワさん……すみません。私が無理を言ったせいで、色々迷惑を……」

 

 最初にギルドに訪れた時と同じように応接室に通され、待つこと数分。以前の落ち着いた雰囲気をかなぐり捨てて、扉を蹴破る勢いでイルワが飛び込んできた。

 

 心の底から心配していたのだろう。挨拶もなしに、ウィルを視界に捉えると直ぐに駆け寄り安否を確認する。

 

「……何を言うんだ……私の方こそ、危険な依頼を紹介してしまった……本当によく無事で……ウィルに何かあったらグレイルやサリアに合わせる顔がなくなるところだよ……二人も随分心配していた。早く顔を見せて安心させてあげるといい。君の無事は既に連絡してある。数日前からフューレンに来ているんだ」

 

「父上とママが……わかりました。直ぐに会いに行きます」

 

 そしてウィルはイルワから両親の滞在先を確認し、悠姫達に頭を下げて改めてお礼を言い、改めて挨拶に向かうと告げてから部屋を出て行く、前に。

 

「ああ、ちょっと待ってくれ。すっかり忘れてたんだが、このロケットはお前のじゃないか?」

 

 そう言い、悠姫は宝物庫からウィルを救助する前に拾ったロケットペンダントを取り出す。中に美しい女性が写っている写真が嵌っている。

 

「ああ! 拾ってくださってたんですね! ありがとうございます!」

 

「奇麗な女性だ。それにかなり大事にしてるみたいじゃないか」

 

「はい! 大好きなママの、若い頃の写真です!」

 

 ビシリッと、応接室の空気が凍り付いた。嬉しそうなウィルだけは例外で、マザコンであることを知っていたイルワもロケットの写真は知らなかったらしく、悠姫達同様に固まっている。

 

「……まあ、うん。喜んでくれてよかった。そら、ママが待ってるぞ」

 

「はい!」

 

 一足先に再起動した悠姫に言われると、一礼して先ほどよりも嬉しそうに応接室を出ていった。

 

 それからたっぷり十秒、時間を掛けて再起動(思考放棄)した一行は席付いた。そして、イルワは穏やかな表情で悠姫達に向き合い、深く頭を下げる。

 

「みんな、今回は本当にありがとう。まさか、本当にウィルを生きて連れ戻してくれるとは思わなかった。感謝してもしきれないよ」

 

「まぁ、生き残っていたのはウィルの運が良かったからだろ」

 

「それに、先行してたディルグや、ウィルが同行してた冒険者達のおかげでもある。冒険者達を救うことはできなかったがな。遺品も持ち帰ってる、手厚く弔ってくれ」

 

「ああ、彼らを死地に向かわせた責任がある。言われずとも、手厚く弔わせてもらうさ。だが、君達自身も何万もの魔物の群れから彼や街を守りきってくれたのは事実だろう? 女神の剣様?」

 

 にこやかに笑いながら、ハジメが大群との戦闘前にした演説の内容から文字った二つ名を呼ぶイルワ。一応(しぶしぶながら)愛子公認の二つ名ではあり、分かっていたことではあるが、いざ面と向かっては気恥ずかしいものがある。

 

「……あんたの後ろ盾を依頼報酬にしたのと同じ理由だ。これでギルドが干渉できない方にも、繋がりが生まれたってわけさ」

 

「確かに、かの“豊穣の女神”が後ろ盾となれば、教会も強引な手段以外は取れないだろうね」

 

 くつくつと笑うイルワだが、やがて真剣な表情をして悠姫達に聞く。

 

「しかし、女神の剣が何万もの魔物を殲滅した、では情報としては不十分だ。一応、現地(ウル)にいた私の部下からの報告もあるんだが、やはり当事者から聞けた方が的確だからね。だから、教えてもらえないかな、一体何があったのか」

 

「それは構わない。だが、その前にユエとシアのステータスプレートを融通してくれ。ティオは……「うむ、二人が貰うなら妾の分も頼めるかの」とのことだ」

 

「ふむ……確かに、プレートを見たほうが信憑性も高まるか……わかったよ」

 

 


 

 

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ユエ 323歳 女 レベル:75

天職:神子

筋力:120

体力:300

耐性:60

敏捷:120

魔力:6980

魔耐:7120

技能:自動再生[+痛覚操作]・全属性適性・複合魔法・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作][+効率上昇][+魔素吸収]・想像構成[+イメージ補強力上昇][+複数同時構成][+遅延発動]・血力変換[+身体強化][+魔力変換][+体力変換][+魔力強化][+血盟契約]・高速魔力回復・生成魔法・重力魔法

 

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シア・ハウリア 16歳 女 レベル:40

天職:占術師

筋力:60 [+最大6100]

体力:80 [+最大6120]

耐性:60 [+最大6100]

敏捷:85 [+最大6125]

魔力:3020

魔耐:3180

技能:未来視[+自動発動][+仮定未来]・魔力操作[+身体強化][+部分強化][+変換効率上昇Ⅱ] [+集中強化]・重力魔法

 

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=========================

 

ティオ・クラルス 563歳 女 レベル:89

天職:守護者

筋力:770  [+竜化状態4620]

体力:1100  [+竜化状態6600]

耐性:1100  [+竜化状態6600]

敏捷:580  [+竜化状態3480]

魔力:4590

魔耐:4220

技能:竜化[+竜鱗硬化][+魔力効率上昇][+身体能力上昇][+咆哮][+風纏][+痛覚変換]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮]・火属性適性[+魔力消費減少][+効果上昇][+持続時間上昇]・風属性適性[+魔力消費減少][+効果上昇][+持続時間上昇]・複合魔法

 

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 悠姫やハジメには劣るものの、勇者達ですら少人数では歯が立たないほどのチートスペック。シアは兎人族以前に亜人族の常識をぶち壊す魔力持ちであり、シアとティオに至っては、滅んだはずの種族の種族固有技能である〝血力変換〟と〝竜化〟を持っている。

 

「か、可能ならば、君達二人の分も見せてもらうことは、出来るだろうか?」

 

「……まあ、ここまで来たら見せないのも変な話か」

 

 絶句しつつ、声を震わせながらイルワが悠姫に尋ねると、悠姫とハジメは顔を見合わせた後に、ステータス隠蔽を解いたステータスプレートを差し出した。

 

 

=========================

 

天津悠姫 ??歳 男 レベル:???

天職:神子 職業:冒険者 ランク:青

筋力:????? [+最大?????]

体力:????? [+最大?????]

耐性:????? [+最大?????]

敏捷:????? [+最大?????]

魔力:?????

魔耐:?????

技能:星辰光・■■■■・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・魔力変換[+身体強化][+部分強化][+治癒力変換][+衝撃変換]・気配感知[+特定感知]・魔力感知[+特定感知]・生成魔法・重力魔法・言語理解

 

=========================

 

=========================

 

南雲ハジメ 17歳 男 レベル:???

天職:錬成師 職業:冒険者 ランク:青

筋力:11350

体力:13670

耐性:11140

敏捷:14030

魔力:15230

魔耐:15230

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成][+圧縮錬成][+高速錬成]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作][+調律]・胃酸強化・纏雷[+雷耐性]・天歩[+空力][+縮地][+豪脚][+瞬光]・風爪[+三爪]・夜目・遠見・気配感知[+特定感知]・魔力感知[+特定感知]・熱源感知[+特定感知]・気配遮断[+幻踏]・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・恐慌耐性・全属性耐性・先読・金剛[+部分強化][+集中強化]・豪腕・威圧・念話・追跡・高速魔力回復・魔力変換[+体力変換][+治癒力変換][+衝撃変換]・限界突破・生成魔法・重力魔法・言語理解

 

=========================

 

「こ、これは……いやはや……なにかあるとは思っていましたが、これほどとは……」

 

 三人をはるかに超える、悠姫に至ってはそもそも数値化されたパラメータが一つもないという異常(チート)ステータスを確認し、再び思考放棄しそうになったが必死に繋ぎ止め、眉間を揉みながらイルワはどうにか声を絞り出した。

 

 多少イルワが落ち着いたところで、悠姫が事の顛末を語る。大まかには噂と同じで、百人が聞けば百人が馬鹿にするであろう内容。だが、その下手人が目の前にいて、尚且つ噂を裏付けるステータスの数値と技能を見れば、掌を返して信じること間違いない。

 

 イルワは話を聞き終えると、一気に十歳くらい年をとったような疲れた表情でソファーに深く座り直した。

 

「……道理でキャサリン先生の目に留まるわけだ。ユウキ君とハジメ君が異世界人だということは予想していたが……実際は、遥か斜め上をいったね……」

 

「……それで、どうする支部長? 俺達を危険分子だと教会にでも突き出すか?」

 

「…まさか、冗談だろう。出来るわけがない。君達を敵に回すのは、国家を敵に回すのと同等か、それ以上だと解釈している。個人としても、組織(ギルド)としても、自滅願望なんてないさ」

 

 僅かに〝威圧〟を出しながら詰めるハジメに、冷や汗をかきながら苦笑してイルワは言う。おそらくヘルジャー帝国と戦争しても、悠姫達が勝利するだろうと、半ば確信している。

 

「それに、君達は私の恩人なんだ。そのことを私が忘れることは生涯ないよ」

 

「それは良かった」

 

 試して悪かったと、ハジメが〝威圧〟を解いて謝罪を示す。それに対して、当然の警戒さと、イルワが笑う。

 

「私としては、約束通り可能な限り君達の後ろ盾になろうと思う。ギルド幹部としても、個人としてもね。まぁ、あれだけの力を見せたんだ。当分は、上の方も議論が紛糾して君達に下手なことはしない筈だよ。一応、後ろ盾になりやすいように、君達の冒険者ランクを全員〝金〟にしておく。普通は〝金〟を付けるには色々面倒な手続きがいるのだけど……事後承諾でも何とかなるよ。キャサリン先生と僕の推薦、それに〝女神の剣〟という名声があるからね」

 

「非戦闘職のランク上限は〝黒〟だった筈では?」

 

「〝預言師〟という非戦闘職で、〝金〟ランクのシェリア王女がいるからね。一度でも例外を許したなら、隙なんていくらでも作れる」

 

「……それもそうだ」

 

 他にもイルワの大盤振る舞いにより、フューレンにいる間はギルド直営の宿のVIPルームを使わせてくれたり、イルワの家紋入り手紙を用意してくれたりした。少しでも友好関係を結んでおきたいということらしい。

 

 その後、VIPルームで休んでいるとウィルのご両親である、グレイル・グレタ伯爵とサリア・グレタ夫人がウィルを伴って挨拶に来た。かつて、王宮で見た貴族とは異なり随分と筋の通った人のようで、ウィルもそうだったのだが、亜人族であるシアを一方的に見下したりしない辺りは、人柄の良さが窺える。ウィルの人の良さというものが納得できる両親だった。

 

 グレイル伯爵は、しきりに礼をしたいと家への招待や金品の支払いを提案したが、悠姫とハジメが固辞するので、困ったことがあればどんなことでも力になると言い残し去って行った。

 

 そして、食料等の買い出しは明日に済ませることにして、残りは休むことにした。

 




ハジメのステータスに関しては、原作のステータス公開時点から適当に出しています。
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