ありふれない怪物は、やがて英雄へ   作:シロマダラ

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第五十四話 黒竜から見た怪物

 

 翌日、悠姫達は悠姫とティオ、ハジメとユエ、シアの二組に分かれて、フューレンの町を回っていた。

 

 メインの買い出しは悠姫とティオが担当し、ハジメ達は三人でデートに繰り出している。フェアベルゲンを出たあたりからシアの恋をユエが後押しするようになっていたが、ようやくハジメもシアの恋心に向き合うようになり、素直にデートの誘いを受けている。

 

 一方の悠姫とティオも買い出しは早々に済ませ、デート(仮)を行っている。

 

「うぬぅ……新参者の妾が、一番最初にこのような体験をするとは、申し訳ないというか、恥ずかしいというか…」

 

「フューレンに向かってる道中であれだけアピールしてきたくせに、今更なにを恥ずかしがってるんだよ」

 

「そ、それとこれとは話が違うのじゃ。それにあの時は逞しい背中に父のような安心を感じて…冷静になれば、なんと恥かしいことをしていたのじゃ妾は……」

 

「…なるほど、これがユエの言っていた恋愛雑魚というやつか」

 

 頭を抱えながら顔を真っ赤にして呻くティオを、悠姫は呆れたように見つめている。そういう悠姫も、色恋に関しては経験豊富というわけではないのだが。

 

 周囲を見渡すと、予想以上に向けられる視線が多いことに気付く。それも当然で、周りから見れば美男美女カップルが歩いているようなもの。美女の豊満な胸部を見て前かがみになる男が多く、冷めた目で男を見たりパートナーの男をどつく女性もまた多いのは、この展開のお約束だ。

 

 なお、「生ユウキちゃん」と呟いて倒れる冒険者らしき男がいたことには全力で目を逸らし、記憶の彼方に捨て去っている。なぜまだフューレンに留まっているのか…

 

 そうしてデートを続けた悠姫達だが、時間が経てばさすがにティオも落ち着いたようで、今は人目に触れることが少ない個室型の喫茶店で休憩している。

 

「……ところで主殿。一つ質問してもよいかの?」

 

「…? まあ、構わないが…どうした急に」

 

 畏まったように話を切り出したティオに、悠姫は首を傾げつつも頷いた。

 

「なに、主殿のことをちゃんと知っておきたいと思っての」

 

 そう言うティオだが、悠姫からすれば益々頭に疑問符が浮かび上がる。

 

 ちゃんと知るもなにも、召喚されてからのことや、召喚される前の新西暦のことなど粗方話しているはずだ。それ以上に何を知りたいというのか。

 

 もちろん、純粋な個人の好き嫌い等といった細かいことについては話してはいないが、この真剣な雰囲気にしてまで聞きたいことではないだろう。

 

「い、一応、先に弁明させてもらいたいのじゃが、妾は主殿を不審に思っているわけではないし、主殿のことを想っているのも本当じゃ。竜人族の誇りにかけて、今の言葉も、ウルで告げた言葉も、嘘偽りは一切ないと断言するのじゃ」

 

「…少々気恥ずかしいが、分かってるさ」

 

 悠姫の返答に、ティオはゴホンと息を整え、再び気を引き締めて口を開いた。

 

「主殿は、一体何になりたいと思っておるのじゃ?」

 

「……と、言うと?」

 

 そしてティオの口から出たのは、何になりたいのかという疑問。子供が口にする、将来の夢と言うような輝かしい希望などではない。

 

「人生を繰り返す、言葉にすれば単純じゃが、現実で考えれば「ありえない」の一言で片付けられることじゃろう」

 

 あるいは気付いていないだけで、誰もが人生を繰り返しているのかもしれない。だが、それを知らなければ繰り返していないのと同じだ。

 

 だが、その例外が天津悠姫という人間。

 

「何度も死んで、何度も殺される。そして何人も殺し、何度も殺した。それでまともな精神を保てるわけがないのじゃ」

 

「ひどいな。まるで俺がまともじゃないと言ってるみたいじゃないか」

 

「じゃが事実じゃろう?」

 

「まあな」

 

 クリストファー・ヴァルゼライドという英雄(ヒカリ)の為に自らの人生を捧げる、そんな()()()()()()()だった自分が、まともであったはずなどないと理解している。

 

 では、その“英雄(ヒカリ)の為”という枷がなくなった今はどうなのか。まともではないという精神(こころ)は、はたしてまともになったのか。

 

 結論を言うならば、そこまで変わっていない。“英雄(ヒカリ)の為”というお題目が、“トータスの為”という形に切り替わっただけ。

 

 仲間や幼馴染、他の召喚された面々を地球に返す為、未だ地球で自分の帰りを待っているという父母に再会する為といった理由も少なからず含んでいる。

 

 しかし、ティオにはそのどれもが違うように感じ――

 

「じゃが、妾には“英雄(ヒカリ)の為”というのも“トータス(世界)の為”というのも、唯の理由でしかないように思えるのじゃ」

 

「だから、何になりたい、か」

 

 ――悠姫はティオの真剣な瞳に射抜かれて、苦笑して肩を竦める。まったく、()()()()()()

 

 ヴァルゼライドの本質は、“英雄”ではない。光を守ることが目的ではなく、正義の味方という存在ですらなく、真実は寧ろその逆。邪悪を滅ぼす死の光、“悪の敵”こそヴァルゼライドの本質だ。それを貫いた結果が“英雄”という形であり、()()()望んだ姿に他ならない。

 

 ならば、その“悪の敵”の隣で進み続けた男の真実は――

 

「……勝利とはなんだ、と考える時がある」

 

「勝利?」

 

「ああ。生涯の果てに得た悟り、“生きる”という問いに対する答えと言ってもいい」

 

 十秒ほど空けて悠姫の口から出た言葉は、今度はティオにとって不可解なものだった。しかし、高位次元という情報(データベース)に触れ、さらに原初神話(テオゴニア)という特異点から生成された活動体である悠姫にとっては、ある意味ありふれた問いかけ。

 

 ある敗者(ふたり)は、“気づくこと”だと言った。

 

 ある英雄(ふたり)は、“進み続けること”だと言った。

 

 ある境界線(ふたり)は、“あらゆる想いを許すこと”だと言った。

 

 ある神祖(ふたり)は、“愛しい誰かに出会える事”だと言った。

 

 ある人間(ふたり)は、“託すこと”だと言った。

 

 どれも間違っていない勝利(こたえ)だと思える。ただ、それが自分とガイアが掲げる答えなのかと言えば、それは違う。ならば――

 

「俺は――ッ?!」

 

 ――突如、轟音と振動が悠姫とティオを襲った。どうやら外から聞こえたようで、悠姫とティオは話を中断して、代金を置いて外へと駆け出した。

 

 そうして飛び出した悠姫達が見たのは、倒壊した数棟の建物と、物理的に顔が歪んだり痙攣して倒れている強面の男たち。そして…

 

「お? なんだ、ここにいたのかよ」

 

「…いったい何の騒ぎだ、ハジメ」

 

 爆ぜた壁面から出てきたハジメとシア。それは休日が終わりを告げた瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、潰そう」

 

 それがハジメから事を聞いた悠姫の一声。事の次第は以下の通り。

 

 まず、ハジメがデート中に地下の下水道から〝気配察知〟で何かを感じ取った。しかも、作業員のような大人という感じではなく、非常に弱りきった子供だという。

 

 〝錬成〟を使って三人で向かうと、そこには衰弱した三、四歳程度の海人族の女の子、ミュウがいた。

 

 海人族とは、亜人族の中でも特殊な立場にある種族だ。【グリューエン大砂漠】を越えた先の海、その沖合にある【海上の町エリセン】で生活している。そして、その種族特性を活かして大陸に出回る海産物の八割を採って送り出している。そのため、差別される亜人族でありながら、王国に“保護”されている種族だ。

 

 その海人族の子供であるミュウが下水道で衰弱していたという時点で、不穏な空気が漂ってくる。そしてその通りで、ミュウは人攫いに遭い、人身売買、オークションの商品として連れて行かれるところを逃げてきたらしい。

 

 ミュウを保護した以上、無関係ではなくなったハジメ達だったが、最終的に保安所に預けるという判断を下した。理由としては、大迷宮【グリューエン大火山】に挑むにあたって、砂漠地帯に一人残していくことになってしまうことが大きい。また、誘拐されたミュウを連れて行けば、自分たちが誘拐犯として扱われる危険性もある。

 

 そしてハジメ達はミュウの駄々に必死で耐えつつ保安所に預けた。事情を聴いたときの保安官の様子からハジメ達も大丈夫だと判断し、ミュウの悲しげな声に後ろ髪を引かれながら保安所を後にする。

 

 しかし数分後、保安所が爆発。ハジメ達が急いで駆け付けた時にはすでに遅く、ミュウは再び攫われた。代わりにあったのは負傷した保安官たちと一枚のメモ。

 

 ―海人族の子を死なせたくなければ、金髪の少女と白髪の兎人族を連れて○○に来い―

 

 しかし指定の場所に行ってみればミュウの姿は無く、武装した男達に囲まれていた。しかしそれでハジメ達を止めるなど出来るはずもなく即殲滅。拷問して情報を聞き出し、ギルドと保安所に突き出しつつアジトを襲撃、拷問して……というところで悠姫とティオが合流した。

 

 そして合流するまでの流れを説明して、悠姫の一声に戻る。

 

「ギルドはなんと?」

 

「連中、フリートホーフはまあまあ面倒な裏組織みたいでな、正式に討伐依頼が出た。生死は基本的には問わねえが、可能な限り幹部クラスは生け捕りにしてほしいそうだ。ただ、アジトが分かんねえから、虱潰しにしてくしかねえ」

 

「まあ裏組織は往々にしてそんなものだ。ニルヴァーナの時も面倒だった」

 

「……ちなみにその時はどうやって?」

 

「本拠地に直接乗り込んだ」

 

 その時と今の違いは、本拠地の場所が分かっていないという点であるため、結局は虱潰しになることに変わりはない。しかし、人数が足らなすぎる。

 

 ゆえに、悠姫は〝宝物庫〟から大量の機械蜂を取り出した。

 

 星環境変性(オルタレーション)――

 ――〝妖娼神殿、蕩ける愛の蜂房なれば(H e x a g o n a l V e n u s H i v e)

 

 悠姫の指示により、無数の機械蜂の群れが一斉に飛び出して、フューレン各地に散っていく。路地に、下水に、経験と直感で判断した“裏”につながっていそうな場所に、静かに機械蜂たちが侵入する。

 

「静かに、だが確実に、塵共には消えてもらうとしよう」

 

 他者を弄ぶ“悪”は見逃さぬと、怪物の瞳は嚇怒に燃えていた。

 

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