ありふれない怪物は、やがて英雄へ   作:シロマダラ

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第五十六話 予言通りの敗北

 

 淡い緑色の光だけが頼りの薄暗い地下迷宮に、激しい剣戟と爆音が響く。

 

「万象切り裂く光 吹きすさぶ断絶の風 舞い散る百花の如く渦巻き 光嵐となりて敵を刻め! 〝天翔裂破〟!」

 

 光輝を中心に放たれる無数の光刃が、襲い掛かる魔物の群れを切刻む。同時、光輝の合図で後衛が残る魔物に対して魔法を放つ。

 

「刹那の嵐よ 見えざる盾よ 荒れ狂え 吹き抜けろ 渦巻いて 全てを阻め “爆嵐壁”!」

 

 後衛を襲おうとする魔物は“結界師”谷口鈴が展開した攻勢防御魔法である空気の壁によって防がれ、魔物は暴れる空気によって爆散していく。

 

 そして、後衛の魔法が魔物を吹き飛ばし、残る魔物も光輝たち前衛によって殲滅された。

 

「次で九十層か……この階層の魔物も難なく倒せるようになったし……迷宮での実戦訓練ももう直ぐ終わりだな」

 

「おう、今の俺達ならどんな相手だろうと、それこそ魔人族相手でも楽勝だぜ!」

 

 感慨深そうに言う光輝に反応して、豪快に笑う龍太郎。拳を突き合わせて不敵に笑う二人だが、光輝の胸中には未だ晴れない不満があった。それは、()()()()()()()()()()()幼馴染の二人、雫と香織だ。

 

 二人は勇者一行としてオルクス大迷宮に潜ってはいるものの、パーティとしてはアヤメ、シェリアの二人を加えた四人パーティとして基本独立している。理由は、香織の他に“治癒師”が一人しかいない為迷宮攻略を共にしているだけで、戦闘や訓練では殆ど光輝たちに混ざることがない。

 

 そして、一番大きな理由が二人のステータスが、“勇者”である光輝すら敵わないほどに高いからだ。

 

 少し前二人は、二人の師匠(せんせい)であるアヤメとシェリアの冒険者としての依頼で王都を離れた。その時、俺がいないところで心配だと、光輝は着いていこうとしたのだがすでに遅く、更には行先も分からないので諦めた。しかし問題はその後だった。

 

 数日後、王都に戻ってきた二人は、数日前よりもはるかに強くなっていたのだ。しかも、王国や教会も知らない技能を取得して。当然、光輝は危険だ、そんな怪しい技なんて使ってはダメだと説得しようとするも、二人は全く聞き入れない。

 

 先程の戦闘でもそうだった。今、光輝たちが殲滅した魔物と同数程度だったのに、掠り傷一つ負うことなく、たった二人で勝利を収めている。

 

 その戦闘結果が二人の強さの証明。自分が守るべき相手が自分より強いという現実()、何よりもそれが光輝にとっては不満なのだ。

 

 その二人は、アヤメ、シェリアと共に、普段以上に神経を尖らせながら周囲を警戒している。

 

 未知の階層であるから、というのは理由の一つ。しかし、最も警戒しているの理由は、“預言師”であるシェリアが予知した未来が近づいているから。

 

 その予知が正しければ、今日、二度と癒せない傷跡を残して勇者パーティは惨めに敗北する。

 

 そんなシェリアの予言は、嘲笑と共に一蹴された。()()()()()()()()()()()と。そして光輝も、俺は負けない、という一言でパーティを纏め上げる。

 

 光輝が雫と香織の強さに不満を抱いているなら、雫と香織は光輝の自分勝手に不満を、いや嫌悪感を抱いている。

 

 自分が正しいと思っているから正しい、という根拠の欠片もない()()。ユキとハジメを殺したという事実を、混乱していたなどという支離滅裂な理由で終わらせる()()

 

 今だって、光輝たちは完全に油断している。速度に特化した魔物が襲撃すれば、容易く一人は殺されるだろう。だが、もし()()なってしまえば、それは“勇者”の負けではないのか?

 

 だからこそ、シェリアの予言を信じて雫と香織は警戒を怠らない。すべてはユキとハジメに再会する為、地球に帰る為、自分たちが正しいと思ったことをするのだ。

 

 そして―――

 

 

「さあ、この程度ではないだろう? 怪物(英雄)に並び立つというならば、その力を見せてほしい」

 

 

 ――予言は正しく、オルクス大迷宮に潜っていた攻略組は完膚なきまでに敗北した。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「……あれからまだ四ヶ月…何年も前だったように感じるな…」

 

 フューレンでの騒動を終えて出立した悠姫達一行は、オルクス大迷宮がある宿場町ホルアドにいた。イルワからの頼み事を受け、冒険者ギルドホルアド支部の支部長に手紙を届けに来たのだ。

 

 そのホルアドの町並みを懐かしむように、悠姫とハジメは見ている。ユエと出会う前、ユキが悠姫になる前、ハジメが左腕を失う前、二人は約三十人の同郷とホルアドにきたのだから。

 

「…二人とも…大丈夫?」

 

「ん? いや、問題ねえよ。ただ、ある意味ここから始まったんだよなって思ってな…すげえ緊張して、怖くて…でもまあ、隣に本心で仲間だって言ってくれる奴がいて…次の日に迷宮に潜って……んで落っこちて…」

 

 運命の日とも言えるあの日の出来事をポツリポツリと呟くハジメの独白を、ユエたちは神妙に聞いていた。今に至るまで何があったのか、そのことは聞いていても、辛く苦しいだろう出来事をどう感じたのかなどと、そんな無神経なことはユエでさえ聞いたことはない。

 

「ああでも、前日の夜にユキ(悠姫)に言われたことがあるんだ」

 

 

『そもそも、俺達は一人じゃない。ピンチになったら、素直に助けてくれって言えばいいんだから』

 

 

「まあ実際に助けてって言った覚えはねえけど、それでも孤独(ひとり)じゃねえんだって思ってな…」

 

「…ん。今は私もいる」

 

「私もです!」

 

「えっと…ミュウも!」

 

 ユエ、シア、そしてミュウと続いて声を上げ、ハジメは少し恥ずかしそうにしながらも、朗らかに笑った。その様子を微笑ましそうに見る悠姫に、ティオは声を掛けた。

 

「…主殿は、その日をやり直したいとは思わないのかの? 少なくとも、雫殿と香織殿という二人は、主殿とハジメ殿の味方じゃったのだろう? それに、主殿ならハジメ殿が最大限の力を発揮できる場所を整えたり、他の同郷の者たちを纏め上げることだって出来たのではないかの?」

 

「…そうだな…」

 

 そう指摘され、悠姫は歩きながら思案する。今の記憶を持ったまま、あの月夜の日に戻れるなら? 召喚されたあの日なら? 記憶も持たずに戻ったなら? 色々と考えてみるが、辿り着く答えは一つ。

 

()()()()()()。これまでの選択に間違いはなかったと断言できるさ」

 

 奈落に落ちなければユエという仲間に出会うことはなかった。王都に残り続ければシアとも遭遇することはなく、ハウリアは全滅していた。

 

 勇者パーティという陰に埋もれていれば、ティオに出会うのはもっと遅かっただろうし、そもそも会えていなかったかもしれない。ミュウは二度と日の目を見ることなく、下水の中で冷たい屍になってしまっただろう。

 

 それぞれの出来事に至る過程はどうあれ、最高の結果だったのだから。

 

「…そうか…妾も、主殿に出会えたことは間違っていないのじゃ」

 

 

 

 

 

 冒険者ギルドホルアド支部。その内装は、最初にハジメが抱いていた冒険者ギルドそのものだった。

 

 床や壁の所々に壊れた跡に、それを大雑把に修復した跡。正面にギルドのカウンターがあり、左側に食事処がある。オルクス大迷宮があるためか、冒険者たちの目はギラついており、ブルックのような雰囲気は全くない。

 

 しかし、それらを抜きにしても異様に空気がピリついている。明らかに歴戦の冒険者といった風貌をしている者すら、深刻にさせるだけの何かが起きているようだった。

 

 ギルドに入った瞬間に浴びせられる、冒険者たちの殺気の籠った鋭い視線。なんとなくの直感で、ギルドに入る前にミュウを肩車から片手抱っこにして目線を遮ったのは正解だったとハジメは思った。間違いなく怖がって涙目になっていただろう。

 

 頭に疑問符を浮かべているミュウを抱いたまま、ハジメはニッコリと冷たい笑顔をしながら〝威圧〟と〝魔力放出〟を冒険者たちにぶつけた。生まれてこの方感じたことがないレベルの凶悪なプレッシャーに、冒険者たちは一人残らずガクガクと震えている。

 

 幸か不幸か、ハジメの絶妙な加減によって気絶を許されず、しかし生物としての本能がハジメに対して逆らう気力を失わせる。そしてついに、ハジメが口を開いた。

 

「笑え」

 

「「「「「…え?」」」」」

 

 ギルドに入って開口一番に言ったのは、状況を無視した命令。戸惑う冒険者たちに、ハジメは表情を変えずに追い打ちをかける。

 

「笑え、と言ったんだ。俺のように、ほらニッコリと。怖くないおじちゃんだぞ~てな。手も降って、家の子が怯えちまうだろ」

 

「だったらその〝威圧〟を止めろ。連中の顔が引き攣ってるだろ。まったく親バカめ」

 

 む? とハジメが〝威圧〟と〝魔力放出〟を解くと同時に、悠姫が冒険者達に目で合図を送ると、ハッとした冒険者達はそれぞれができる最大限の笑顔でミュウに向けて手を振った。

 

 ハジメが手を退けて冒険者達のことを見たミュウは、数秒置いてからニヘラと笑って冒険者達に手を振り返した。そのミュウの笑顔に浄化されたように、ピリついていた雰囲気は、ほんわかとした雰囲気に変わっていった。

 

 ミュウが怯えることなく和んだことを確認したハジメ達は、ギルドの受付カウンターに向かった。受付では、沢山の冒険者を一瞬で黙らせる子連れ冒険者? とその仲間たちの対応をしなければならないと思って、緊張で強張った笑顔を張りつけた受付嬢が立っている。

 

「あ~…冒険者ギルドフューレン支部支部長イルワ・チャングから手紙を預かってるんだが、ホルアド支部の支部長はいるか?」

 

「は、はい…フューレン支部の支部長からの手紙、ですか? それでしたらお預かりしますが…」

 

「いや、直接渡すように言われててな。確認してくれ」

 

 自覚があるのか、受付嬢の緊張を見て苦笑いしそうになったハジメだが、要件を伝えて同時にステータスプレートを差し出す。受付嬢はハジメのステータスプレートを受け取って、表示されている情報を見て目を見開いた。

 

「き、“金”ランク!?」

 

 全冒険者において“金”のランクを持つ者は全体の一割に満たない。そして、“金”のランク認定を受けた者についてはギルド職員に対して伝えられる。そして当然、この受付嬢も全ての“金”ランク冒険者を把握しており、ハジメのことを知らなかったので思わず驚愕の声を漏らしてしまった。

 

 その声は、他ギルド職員や冒険者たちも聞いており、受付嬢と同様に“金”の出現で一気に建物内が騒めきだす。

 

 受付嬢は個人情報を暴露してしまったことにより必死に謝り倒しているが、ウルやフューレンでの事も含めて隠すのは今更だと判断して、ギルド支部長への取り次ぎをお願いする。

 

 受付嬢が報告の為に奥に消えて数分後、ギルドの奥から全身黒装束の少年が床を滑りながら凄まじい勢いで飛び出てきた。そして、誰かを探すようにキョロキョロと辺りを見渡し始めた。

 

 ハジメと悠姫はその人物に見覚えがあった。ハジメにとってはクラスメイトで、悠姫にとっては色々な意味で特徴的だったため直ぐに覚えることができた地球出身の少年。

 

「……遠藤?」

 

「……遠藤浩介?」

 

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