ありふれない怪物は、やがて英雄へ   作:シロマダラ

68 / 106
第五十八話 影の薄い男の奮闘

 悠姫達が遠藤浩介と遭遇した時まで遡る。

 

 悠姫とハジメが遠藤の名前を呟くと、遠藤は辺りをキョロキョロと見回しながら声を張り上げて叫び始めた。

 

「南雲! ユキさん! いるのか! 二人なのか! 何処なんだ! 南雲! ユキさん! 生きてんなら出て――」

 

「――喧しい」

 

 叫ぶ遠藤の後頭部に、悠姫がチョップを入れて中断させる。建物内の大勢が耳を塞いでいることから、遠藤の声が相当に煩かったことが分かるだろう。特に聴力が優れているシアはウサ耳を手で抑えて蹲っていた。

 

 何やら必死な様子と所々がボロボロな遠藤の戦闘装束、そしてギルドのピリついていた空気から大体察した悠姫がそれなりの力でチョップを入れると、遠藤は突然の痛みに驚き、後頭部を擦りながら振り向いた。

 

「ユ、ユキさん?! ユキさん、なのか? あれ、こんなに若かったか?」

 

 服装や面影がユキであると伝えてくるのに、年上の大人であるという記憶が目の前の男とユキが同一人物であるという情報を乱してくる。

 

 とはいえ、死んで蘇ったなど言えるわけもなく、ブルックでも同じことがあったなと思いながらユキ(記憶)悠姫(自分)であると納得させる。

 

 すると今度はハジメの安否を確かめようとしたので、自分の後ろの白髪眼帯義手男(幼女片手抱っこ中)がハジメであると伝えると、悠姫で多少気を取り戻したのか、遠藤はチョップ以上に驚きながらハジメかどうかを確認した。

 

「な、南雲なのか?」

 

「おう。死に物狂いで生き残ってやったぜ、影の薄さランキング世界一位」

 

「誰がコンビニの自動ドアすら反応してくれない影が薄いどころか存在自体が薄くて何時か消えそうな男だ! 自動ドアくらい三回に一回はちゃんと開くわ!」

 

「いやそこまで言ってねえよ…てか三回に二回は開かねえのか…」

 

「電子機器すら騙せるのか。人狼(リュカオン)だったら羨ましが…るかは微妙か…」

 

 新西暦にいたならば、少なくとも自分の部下にするか、裁剣天秤(ライブラ)にスカウトされていただろうと悠姫は思っていた。

 

 ツッコミが入ったことで本当に冷静になれたのか、遠藤はハジメと悠姫の顔を交互に見て、生きていて良かったと息を吐くと、再び必死な形相になって二人に縋りつく様に懇願した。

 

「ふ、二人は“金”ランク冒険者で、迷宮深層からでも生き残れる位強いってことだよな?! なら、一緒に迷宮に来てくれ! 皆を助けてくれッ!」

 

「待て待て待て。大体察したから、落ち着けって」

 

「落ち着いてられるかよッ! 今でも、皆が死んじまうかもしれないんだよ!」

 

 遠藤が騒ぎ始め、周囲の冒険者たちから再び不穏な雰囲気が漂い始めた。すると、しわがれた声で静止がかかる。

 

「話しは奥でしてくれ。それに、そこの“金”達は俺の客らしいしな」

 

 声の主は、六十歳過ぎくらいのガタイのいい左目に大きな傷が入った迫力のある男だった。全身から滲み出る覇気は、この男が歴戦の冒険者であったことを教えてくる。おそらく、この男がホルアド支部の支部長なのだろう。

 

 悠姫達はギルドの奥へ歩いていく男の背に着いていった。

 

 

 

 

 

「魔人族、ねえ…」

 

 冒険者ギルドホルアド支部の応接室にハジメの呟きが響く。

 

 魔人族による襲撃。騎士団の壊滅。強力な魔物の群れ、そして()()()()()()による勇者の敗北。

 

 遠藤から聞いたその内容は、殆どが悠姫が予想した通りではあった。しかし、アヤメとシェリアの二人もいて易々と敗けるとも思えない。ゆえに審判者(ラダマンティス)がいることも予想はしていたのだが。

 

「氷の魔法を使う蒼い女に、赤い鬼のような魔物…」

 

 遠藤の口から語られた二体の化物。人造惑星(プラネテス)である氷河姫(ピリオド)殺塵鬼(カーネイジ)を再現した魔物に間違いはないだろう。

 

 ダインスレイフから魔人族側が手にした神代魔法は〝変性魔法〟であることは聞いている。それで強化された魔物によって人間族は戦争に敗北すると予想し、そして勇者の敗北という形で先駆けて、今回現実なった。

 

 だが、人造惑星(プラネテス)を造ることまでは予想していなかった。というより、造らないだろうと予想していたのだ。なぜなら、魔物と〝変性魔法〟で戦力としては事足りるから。

 

 新西暦で猛威を振るった()()()ならともかく、態々魔物を人造惑星(プラネテス)にするなど無駄が多すぎる。

 

 しかし、その予想の裏をかき審判者(ラダマンティス)人造惑星(プラネテス)を再現して投入していた。

 

「さて、ユウキ、ナグモ。イルワからの手紙でお前達の事は大体分かっている。随分と大暴れしたようだな?」

 

「大体は成り行きか正当防衛だろ」

 

「無償の施しという訳でもない。しっかりと得はある」

 

 遠藤の話しが途切れたのを見計らい、ホルアド支部支部長ロア・バワビスが悠姫達が持ってきた手紙を片手に口を開いた。

 

「手紙には、お前達の“金”ランクへの昇格に対する賛同要請と、できる限り便宜を図ってやって欲しいと書いてあった。一応、事の概要くらいは俺も報告を受けているが……たった数人で六万近い魔物の殲滅、半日でフューレンに巣食う裏組織の壊滅……にわかには信じられんことばかりだが、イルワの奴が適当なことをわざわざ手紙まで寄越して伝えるとは思えん……お前達が実は魔王やその使いだと言われても、俺は不思議に思わんぞ…いや、天職で考えればユウキは“神の子”なのかもな?」

 

「俺は人と人の間に生まれた、人の子だ。神の子なんかじゃない」

 

 正直、高位次元や原初渾沌(テオゴニア)、死に戻り等が絡まって、人と人の間に生まれた存在かどうかは怪しいところではある。しかし、“神”という超常存在が家系に存在しないことは確かなはずだ。

 

「ふっ、まあいいさ。あれ等の報告が真実であるという確信は持てた。では、冒険者ギルドホルアド支部長からの指名依頼を受けて欲しい」

 

「……勇者達の救出だな?」

 

 悠姫が言った、救出という単語に反応して、項垂れていた遠藤がハッと我を取り戻し、身を乗り出して悠姫に捲し立てる。

 

「そ、そうだ! 皆を助けてくれ! そんなに強いなら、絶対に皆を助けられる!」

 

 目を輝かせる遠藤だが、悠姫を含めハジメ達のの反応は芳しくない。

 

 そもそもとして、遠藤の考えは()()()()()()と言っていい。なぜなら、遠藤がそんなに強いと言ったのは、“金”ランク冒険者ということが分かったから。しかし現に、“光姫”シェリアと“幻姫”アヤメという二人の“金”ランクが同行していて敗走しているのだ。

 

 確かに、悠姫とハジメなら戦力としては十分だろうが、それを知らない遠藤の判断材料としては不十分と言える。つまり、遠藤は“皆の代わりに死んでくれ”と言っているに等しい。それなら他冒険者含めて、首を縦に振るはずもないだろう。

 

「お、おい…どうしたんだよ! 今、こうしている間にもアイツ等は死にかけてるかもしれないんだぞ! 仲間だろ?! 助けてくれよ?!」

 

 仲間という一言に、ハジメが眉を吊り上げながら反応して遠藤を睨みつける。睨まれた遠藤は、ハジメの瞳から感じる冷たさに思わず一歩後退った。

 

「…仲間? 何言ってんだ。お前を含めて勇者達が仲間な訳ねえだろ」

 

「なッ! 何言ってんだよッ?!」

 

「はぁ…」

 

 ハジメの言葉に反論する遠藤に、悠姫が溜息を吐きながら握りしめた拳を突き出す。その溜息で遠藤やロアの視線が集中し、悠姫は折り曲げた指を伸ばしながら口を開く。

 

「一つ、俺とハジメは仲間だという男に殺されかけた。二つ、その悪党の犯行は幾人もが目撃し、決して言い逃れできない状況だったにも関わらず、一人の勇者によって無罪となった」

 

 一つ、二つと罪状を上げる度に、その当事者だった遠藤とそれを初めて聞くロアが顔を引きつらせる。あえて状況を明文化することで、より二人に起きた出来事の深刻さが浮き彫りになる。

 

「三つ、“無能”と“未知”の死は既に終わった()()として、捨て置かれた。四つ、“無罪の悪党”と“勇者”は仲間として迷宮にいる……さて遠藤」

 

 ビクリと肩を震わせて驚いた遠藤が、恐る恐る悠姫の顔をみる。呆れたというような表情をしつつも冷めた瞳に睨まれ、さらに遠藤は肩を震わせて縮こまる。

 

「これは一般論だと俺は思うんだが、悪意で殺そうとしてきた相手は仲間ではない思うし、そいつを仲間という奴等もまた仲間ではないと思うんだが、違うのか?」

 

「あ、いや…その通りだと、思います」

 

 先のハジメ以上の冷めた瞳に、遠藤は思わず敬語で答えてしまう程に震えている。しかし、遠藤としても引き下がる訳にもいかないのだ。

 

 仲間の命を救うためならば土下座でもなんでもしようと、遠藤が膝を折り始めたところで、だがと続けて悠姫が口を開く。

 

「俺が提示する条件を呑めば、救出依頼を受けてもいい」

 

「ほ、本当かッ?! 何をすればいい?!」

 

 悠姫の提案に遠藤はテーブルから乗り出して反応する。ロアが何か言いたげな目線をハジメに送るものの、ハジメは静かにとジェスチャーをしてロアを制止する。

 

「簡単だ。俺の部下になれ」

 

 そう言い、悠姫は〝宝物庫〟から一個の腕輪を出した。それは、〝念話〟を可能とする念話石と黒星晶鋼(アキシオン)が埋め込まれたもの。つまり通信機だ。虚空から突然現れた腕輪に遠藤とロアは驚き、その腕輪をマジマジと見つめる。

 

「同郷のよしみだし依頼でもある、今回は助けよう。だが、依頼が終わり次第、俺達は()()と共に旅に出る。当然、仲間ではないお前達の同行は認めない」

 

 はっきりと仲間ではないと断言され項垂れる遠藤だが、一筋の光に縋りつく様に顔を上げ、不安そうな顔で悠姫を見る。

 

「王国や勇者の動向が把握できないのも中々に面倒だ。だから、遠藤浩介。お前が逐次、その情報を教えてくれ。つまりは間者(スパイ)だ」

 

「…それだけ?」

 

「それだけだ。ああ、可能ならメルド団長も引き入れてくれ。そして、他の誰にも間者(スパイ)であることを教えない。簡単だろ?」

 

 この条件は、遠藤にとってそれほど難しいものには見えなかった。なぜなら、何かあったら教えればいい、それだけなのだから。メルド団長に関しても、遠藤は死んでしまったと思っているようだが、悠姫はそう考えない。

 

 曰く、ギルベルト・ハーヴェスならばメルド・ロンギス騎士団長は必ず生かすとのこと。

 

 少々納得できないところがあるものの、遠藤はそれでいいなら、と決死の思いで頷いた。この咄嗟の選択が、遠藤浩介の未来を決定づけることになるとは誰も思わなかっただろう。

 

「よし、契約成立だ」

 

 悠姫は腕輪を遠藤に放り、パンと手を打って立ち上がり、ハジメ達も続く様に立ち上がった。放られた腕輪を受け取った遠藤は、悠姫が手首を指差していることに気が付いて、腕輪を嵌めながら恐る恐る言った。

 

「え、えっと、結局、一緒に行ってくれるんだよな?」

 

「ああ、ロア支部長。一応、対外的には依頼という事にしておきたいんだが……」

 

「上の連中に無条件で助けてくれると思われたくないからだな?」

 

「当然だ。それともう一つ。帰ってくるまでミュウのために部屋貸しといてくれ」

 

「ああ、それくらい構わねぇよ」

 

 そして悠姫達は応接室を出て、ティオをミュウの子守兼護衛として残し、オルクス大迷宮へと歩を進めた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。