ありふれない怪物は、やがて英雄へ   作:シロマダラ

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第五十九話です。

サブタイトル考えるのが大変です…


第五十九話 前世の因縁

 

 崩落した天井から降り立った悠姫に視線が集中する。

 

 その殆どが困惑であり、アハトドを一瞬にして消滅させたという事実から金縛りにあったかのように動くことができない。そんな中、悠姫はへたり込む雫の頭をポンポンと撫でている。

 

「え、えっと…ユキさん…」

 

「こんなにボロボロになるまでよく頑張ったよ。香織、雫に回復魔法をかけてくれ」

 

「は、はい! あ、でも…」

 

 声を掛けられて反応した香織が雫の回復に向かおうとするが、香織の後ろにはアヤメとシェリアが倒れている。前には二体の魔星も立ちはだかり、二人を置いて雫の元に向かうことはできない。

 

 しかし次の瞬間、天井の穴から紅雷を纏った二発の弾丸が魔星を襲う。咄嗟に回避行動をとったことで、二体はそれぞれ片腕を失うものの大きく跳び退いて、二発三発と続いた追撃を回避する。

 

 そして、穴から飛び出してきたハジメと、その隣にふわりとユエが、そしてユエの反対側にシアが降り立った。

 

「いきなりで悪いが、ハジメはあれをそのまま警戒してくれ」

 

「了解だ」

 

 ハジメはドンナー・シュラークの銃口を魔星に向けたまま返事をする。その名を聞くと雫達は驚いてハジメを見るが、白髪眼帯義手と様変わりした姿に困惑の声を上げる。

 

「え、うそ…ハジメ君なの?」

 

「おう、まあ驚くのも無理はねえけどな。正真正銘、無能の錬成師、南雲ハジメだぜ」

 

 それは確かにクラスメイトの南雲ハジメの声であり、悠姫同様に生きていたと涙ぐむと、ハッと我に返った香織が雫に駆け寄って回復魔法を施した。

 

「ゆ、悠姫さんッ! ちょッ! 余波で吹き飛ばされたんですが?! って言うかなんすか今の光?! いきなり床をぶち抜くとか何してんすか?!」

 

「物質を構成する最小の核が壊れる時に放出される皆殺しの光。つまり核分裂だが?」

 

「だが? じゃないんすよッ?! ほんと、何してんすか?!」

 

 そして最後に全身黒装束の少年、遠藤浩介が降り立った。当たり前だろ? という風にさらりと言った悠姫に対して、遠藤が騒いでいる。

 

 なお、核分裂反応によく似た性質を持っているだけなので、厳密には違ったりする。

 

「「浩介!」」

 

「重吾! 健太郎! 助けを呼んできたぞ!」

 

 その遠藤の言った“助けを呼んだ”という一言に、魔人族や光輝達がハッと我を取り戻した。そして再び悠姫に視線が集中する。

 

 しかし悠姫はそんな周囲の様子に一切構うことはなく、何故か笑顔の()()()へと視線を固定しながら三人に指示を出す。

 

「ユエは一塊になってる連中の護衛、シアは向こうで倒れてる騎士甲冑の男の容態を見てくれ」

 

「ん…わかった」

 

「はいですッ!」

 

「ハジメは魔人族の女性と魔物の相手を頼む」

 

「氷女と赤鬼はいいのか?」

 

「俺の部下二人がやる気みたいだ」

 

 ハジメがチラリとアヤメとシェリアの方を見ると、二人は己の発動体を握り尽きぬ闘志を宿した眼光で魔星を睨みつけていた。なるほどと納得するとハジメは両銃を魔人族へ向け、余裕そうに笑いながら口を開く。

 

「おい、そこの女魔人族。お前らに勝ち目はねえ、()()()投降しろ。」

 

「……何だって?」

 

 それは、今まさに魔物に囲まれた人間の発言ではない。たった数人増えただけで、戦力差は相変わらず魔人族側が圧倒的に優勢なのだ。だからこそ、ハジメの言ったことが理解できず、魔人族は思わず聞き返した。しかし、ハジメの余裕が崩れることはなく言い間違いではないと理解すると、魔人族は表情を消して一言命令する。

 

「…殺れ」

 

 この瞬間、女魔人族は致命的な間違いを犯した。天井を崩落させて階下へ降りるというありえない事態、敬愛する上司より賜ったアハトドの消滅などで、明らかに冷静さを欠いていたということが原因で、普段であればもう少し冷静な判断が出来ていた筈だ。しかし、既に賽は投げられた。

 

 そう、()()()()()()()()()()として、致命的な間違いを犯した。

 

 しかし()()()()()()()()()()として、女魔人族――カトレアは正しい選択肢を選び取ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてハジメの標的から外れた二体の魔星は、

 

「創生せよ、天に描いた星辰を―――我らは煌めく流れ星」

 

 二人の金ランク冒険者によって、()()()()蹂躙されていた。

 

 それは良く言えば“覚醒”であり、逆に言えば“異常”。少なくとも、先までの敗北が嘘のように思えるほどの()()が二人に起きていることは間違いない。

 

「無謬の空を従えるは、燦爛たる天空神。穢れに満ちた大地を見下し悦に浸る」

 

「だからこそ、(カミ)の醜悪さが目に余る。高貴で奢侈(しゃし)たるその傲慢、さぞや(たの)しく生き易かろう―――――虫唾が走る」

 

 そして呪怨を宿して紡がれる起動詠唱(ランゲージ)。原初の女神、闇夜の女王が天王を滅ぼさんと暴力(ちから)を振るう。

 

「血筋も力も運命も、魂の一片残らず腐り果てた哀れな(カミ)よ。我を伴い母の閨を侵そうなどと、なんとも度し難き痴愚なのか」

 

 アヤメ・キリガクレ、否、アヤメ・淡・アマツにとって、前世(かつて)の生家は何よりも嫌いな場所であり、中でも実姉は特筆して嫌悪していた相手だった。

 

 口を開けば“血筋が”“高貴な”“選ばれた”そればかり。極めつけには、実妹であるアヤメ(自分)は姉を着飾る宝石(にんぎょう)などと言う始末。

 

 なんだそれは、ふざけるな。と反発したところで、実姉から自分への扱いが良くなるわけがない。

 

 ゆえに、アヤメは唯の帝国民として軍の門を叩いたのだ。そしてそれから暫くして、改革派によって生家が粛清され実姉含めて処刑されたのだと聞いた。

 

「やはり貴様のような愚神には、奈落の底こそ相応しい」

 

「その罪業(かこ)の滅却を以って、我は(カミ)を彩る宝石(にんぎょう)から解放されるのだ」

 

 家族全員皆殺され唯一の生き残りとなったアヤメだが、そこに哀しみは全く存在しない。寧ろ清々しい位だ。なぜなら、これで忌々しい悪夢を終わった過去にできるのだから。

 

 それなのに、実姉は恒星(カミ)の使徒として蘇った。より(おぞ)ましく、より醜く、天王星の名を冠して蘇った。

 

「それでも血族の縛鎖から逃れられぬというならば――我は化生へ変わろうぞ」

 

「輝け、昼光の女神。墜ちろ、天空の氷河姫。靉靆(あいたい)と、砕け散れよ結晶華。其れぞ無間の地獄なり」

 

 ならば粗野で野蛮な暴力で、何度でもその天空を粉砕しよう。アマツではない、一人のアヤメ(にんげん)として生きるために。

 

超新星(Metalnova)――〝巡り覆え夜女神、天王が狂する闇の如く(H e a v e n ' s f a l l M i r a g e N y x)〟ッ!」

 

 

 氷河姫(ピリオド)の視界から、アヤメの姿が掻き消える。一体どこに消えたのかと、上下左右を見回してもアヤメの姿は見当たらない。

 

 その答えは、()()()()やってきた。

 

「ここです」

 

 アヤメの武器、旋棍(トンファー)が唸りを上げながら氷河姫(ピリオド)の右頬を打ち抜いた。続く左アッパーカット、さらに崩れて無防備な胴体に右ストレートが直撃し氷河姫(ピリオド)を玉のように弾き飛ばす。

 

 アヤメは別に氷河姫(ピリオド)の視界外に移動した訳ではない。氷河姫(ピリオド)が勝手に見失っただけで、アヤメは真正面から近づいたのだ。

 

「次です」

 

 再びアヤメの姿が掻き消える。上下左右と見回しても見当たらない。ならば二度目は喰らわないと、氷河姫(ピリオド)は正面に氷塊を弾幕のように放射する。しかし。

 

「連続してするわけがないでしょう」

 

 側頭部に衝撃が轟いた。氷河姫(ピリオド)踏鞴(たたら)を踏みながら耐え抜いたが、その威力は並の魔物なら最低でも頭部が歪むほど。

 

 それは氷河姫(ピリオド)の防御力が高いことの証拠ではあるが、だからと言って決して無視して良い事柄ではない。

 

 一方的に勝利を収めたはずの相手に、しかも一刻も経たない内に逆転されている。その事実が、氷河姫(ピリオド)の神経を逆撫でする。

 

「ガァァアアアッ!」

 

 視界の端にアヤメを捉えた瞬間、顔を憤怒に歪ませ見た目に合わない魔物としての咆哮と共に、全方位に極寒の氷結世界(キリングフィールド)を展開する。

 

 それは()()氷河姫(ピリオド)には遠く及ばないものの、足を踏み入れたもの全てに停滞を促すこの空間は、決して獲物を逃がさぬという殺意に満ちている。

 

「これだから拡散型はッ!」

 

 そして例外なく、アヤメは氷結世界(キリングフィールド)の餌食となっていた。

 

 視覚情報誤認能力。それがアヤメ・キリガクレの星辰光(アステリズム)の正体であり、その全てと言える。

 

 相手の視界に映った“アヤメ・キリガクレ”という情報体を変換することで、“アヤメ・キリガクレが其処にいる”という認識を妨害する。

 

 誰かに変装することも、今のように透明になることも可能。しかし、姿が見えなくなっても消えたわけではない。

 

 この氷結世界のような範囲攻撃をされてしまえば、アヤメを視界に入れずとも場所など直ぐに特定されてしまう。

 

 ゆえに。

 

「バトンタッチよ。殺塵鬼(カーネイジ)の時間稼ぎはよろしく、幻姫(ニュクス)

 

「了解しました。氷河姫(ピリオド)は任せます、光姫(アポロン)

 

「創生せよ、天に描いた星辰を―――我らは煌めく流れ星」

 

 躊躇なく相方へと選手交代(バトンタッチ)した。

 

「予言を此処に、私は必ず勝利を刻む。たとえ(カミ)の山より追放されようとも」

 

 そして、シェリアは声高々に起動詠唱(ランゲージ)を謳い上げる。

 

「ラピテスの子孫()よ、半人半馬の賢者に学びなさい。さすれば死者をも蘇らせる医神となるでしょう」

 

「吟遊詩人よ、私の竪琴を奏でながら黄泉を降りなさい。悲哀の音色は冥府の全てを魅了するでしょう」

 

 一対の曲剣に光輝が宿る。それは邪悪を滅ぼす死の光などではない、灼熱の太陽の輝き。

 

 前世(かつて)、シェリアは東部の貧民窟(スラム)で暮らしていた。貧民窟(スラム)は弱肉強食が基本であり、シェリアのいた貧民窟(スラム)も例外ではない。

 

 物心がつく頃には既に孤独(ひとり)。自分をこの新西暦(せかい)に産み落とした両親はどこにもいない。貧民窟(スラム)から抜け出せたのか、捕まったのか、それともどこかで死んだのか。

 

 だが確かなことは一つ。当時のシェリアは最底辺の()()であり、全てを奪われ、犯される、最底辺(スラム)の強者の道具(にんぎょう)でしかなかったということだった。

 

「これぞ私の示す予言の形、世界に輝く星々の海。あの日に憧れた神統記紀(テオゴニア)の具象なり」

 

 その数年後、人攫い(マンハント)に捕まって売られそうになったあの日に、シェリアは怪物に助けられ、地球を照らす陽光の如き暖かさを、自由(ヒカリ)を知った。

 

 そして、自由(ヒカリ)を教えてくれたあの背中に憧れた。その背の正体が()()()()()()()()()としても、自由(ヒカリ)という太陽の輝きに偽りはないのだから。

 

「そして始まる巨人大戦、私の強弓は遍く敵を撃ち貫く。しかし、この身は十二の一柱、巨人を討つには一手足りぬ」

 

「この森羅を照らす太陽(使命)が、勝利の軌跡の妨げというならば――私は化生へなりましょう」

 

「そして巨人を射抜き、私は勝利を刻むのだ。それで(カミ)の山より追放されようとも」

 

 ゆえに、シェリア・ハムは剣を手に取る。(ルール)に縛られたまでは、勝利を掴めないを知ったから。

 

 たとえ世界が変わろうとも、自由(ヒカリ)を掲げた太陽が陰ることはない。そして、遍く衆生へ自由(ヒカリ)を照らそう。

 

超新星(Metalnova)――〝巨人を射抜け、太陽よ。(E m a n c i p a t i o n)勝利をその手に掴むため( A p o l l o n)〟!」

 

 理想を、羨望を、憧憬を。いざ形にせんが為に、雄々しくシェリアは宣言する。

 

「“勝つ”のは私達よ!」

 

 





巡り覆え夜女神、天王が狂する闇の如く(H e a v e n ' s f a l l M i r a g e N y x)

視覚情報誤認能力

基準値:E
発動値:D

集束性:E
操縦性:C
維持性:D
拡散性:D
付属性:C
干渉性:D


 他者からの視界に映るアヤメの情報体を別の何かに変換することで、アヤメの位置情報を誤認させる星辰光。

 平均的に素養が低いことが最大の弱点であり、純粋な戦闘力としては決して高くない。

 そのため、戦闘を避けた暗殺が最も優れた運用方法であり、正面からの戦闘を行う場合は戦闘力の高い相方の支援に徹することが基本である。




 次回は、悠姫VSギルベルトか、アヤメ・シェリアVS偽魔星のどちらかです。
 シェリアの星辰光についてはその時に。

 なお、ハジメ対カトレアは大体原作通りなので殆どカットです。

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