ありふれない怪物は、やがて英雄へ   作:シロマダラ

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遅くなりました。第六十話です。

最近忙しくて、全然時間が取れなかったんです…
いつの間にかACⅥが発表されてるし…
FGO第七異聞帯も配信されてるし…



第六十話 真実の一端

 

 神なる巨山の最奥。外界の光や音の一切から遮断された空間に、星々の母たる彼女は封印されていた。

 

 肢体(したい)を壁に埋め込まれ、まるでオブジェのように吊らされながら美しい裸体を晒している。

 

 そして、ゆっくりと双眸が開かれた。

 

「……あと少し…」

 

 ポツリと、小さく声が零れる。

 

 彼女が見ていたのは、瞳の裏側ではなく愛する男の軌跡。星辰(ほし)の母、力を与えた者としての特権を駆使し、八重樫雫の視覚から怪物の雄姿を覗き見ていたのだ。

 

 勇者の敗北、審判者(ラダマンティス)との対峙、そして魔人族との邂逅。それはまさしく、物語の分岐点(ターニングポイント)に他ならない。

 

 ゆえに、彼女の願いが成就する日は近い。

 

「…ああ、悠姫、悠姫、悠姫」

 

 恍惚としながら狂ったように男の名を口にする。宿る心は愛であり、恋であり、そして罪。

 

 彼をどれほど愛しているかなどと言うまでもなく、さらにあの輝く雄姿に再び恋に落ちる。

 

 だがそれ以上に、彼に対して贖罪しなければならないのだ。

 

 なぜなら、彼が振るう力こそ彼女の取り返せない罪の証であり、果たさなければならない使命の象徴なのだから。

 

「…私が必ず、■■■■■■から。だから待っているわ、気高き私達の(お父様)…」

 

 


 

 

 勇者救出依頼(ありふれない怪物達)によって、戦端は開かれた。

 

 錬成師VS魔人族+魔物、幻姫(ニュクス)光姫(アポロン)VS氷河姫(ピリオド)殺塵鬼(カーネイジ)

 

 そして、怪物(テュポエウス)VS審判者(ラダマンティス)

 

「――シッ!」

 

「――ハァ!」

 

 一切の手心を加えることもなく、斬り殺さんとする斬風が互いに向けて放たれる。しかし二人とも当然のように外套の端に掠らせることもなく避け、そして再び斬り結ぶ。

 

 戦端が開いてから約三分が経過した今現在、二人が激突した回数は既に四桁を超えており、さらに激しさを増していく戦闘に外野は全く目が離せない。

 

「……なんなんだよ…あれ…」

 

 一人が恐る恐る口を開いた。自分達のこの数ヶ月の訓練や戦闘が、園児の遊戯のようだと錯覚してしまうほどだ。しかし次に口から洩れたのは別の一言。

 

「…化物じゃねえか…」

 

 その一言が、数名の生徒に染み渡った。助けられた、という事実など既に忘れている。

 

 そんな恥知らずな感想を抱いた原因は単に、人対人の構図だったからだろう。これが人対黒竜のような魔性退治であったならば、悠姫は喝采を浴びていたのかもしれない。

 

 勿論、今その感想を抱いたのは極数名で、殆どは助けられたという感謝と何者なのか警戒が入り交じり、他数名が凄まじい戦闘に魅入っている。

 

 しかし当の悠姫は生徒達の反応など気にする余裕などあるはずもない。審判者(ラダマンティス)の刑戮烙印は、確実に天津悠姫を捉えているのだから。

 

「それでもッ!」

 

 星環境変性(オルタレーション)――

 ――〝雄弁なる伝令神よ。汝、魂の導者たれ(M i s e r a b l e A l c h e m i s t)

 

 磁界操作という伝令神の星辰(ほし)で、聖印(スティグマ)で弾かれた己の獲物を審判者(ラダマンティス)へと飛ばし、己もまた引き寄せられるように審判者(ラダマンティス)へと殴り掛かる。

 

 しかし、その程度では白夜の審判者は動じない。

 

 太刀に付属(エンチャント)させていたもう一つの聖印(スティグマ)を多重解放。飛来する太刀を、磁界を引き裂くほどの衝撃で遠方へ弾き飛ばす。

 

 次いで悠姫が踏もうとしている地面を起爆させようと――悠姫の行動に驚いて動きを止めた。

 

 悠姫は取り出したもう一振りの太刀で己の右足を切断、磁気反発で射出したのだ。すなわち、ロケットパンチならぬ〝ミサイルキック〟である。

 

 さすがのギルベルトもこれには驚いた。常識とか常識外とかそういう話ではない。一体どこに、生身の足をミサイルにする馬鹿がいるというのか。

 

 しかし動きを止めたのも一瞬。冷静に(ミサイル)を切り払い、渾身の力で振り下ろされた悠姫の太刀を受け止めた。

 

「文字通り、自身の身体を武器にする。なるほど、貴官のような不死者が執るには効率的な戦術だ。身をもって体験させてもらったよ」

 

「ありがとう。お前の驚いた顔が見れただけで収穫は十分だ」

 

 もっとも、この男には二度と通用しない戦術だ。

 

 既に()()()足で地面を踏みしめ金属音を鳴らして斬り合いながら、しかし妙だと悠姫は一つの疑問をギルベルトにぶつけた。

 

滅亡剣(ダインスレイフ)もそうだったが、お前等少しおかしいぞ?」

 

「ほう? おかしい、とは?」

 

()()()()()()なんだよ。再強化措置を受けていたにしても限度がある。戦闘用人造惑星(プラネテス)より性能が高い? 馬鹿を言え。たとえ戦闘向き星辰奏者(エスペラント)でも、()()()人造惑星(プラネテス)性能(スペック)で敵う訳がないだろうが」

 

 確かに少数だが例外はある。戦い方によっては勝てるだろうし、誰かの援護があったり、隙を突けば一発逆転だって当たり前に起きるだろう。

 

 しかし、この審判者(ラダマンティス)滅亡剣(ダインスレイフ)は話が違う。援護や隙といった要素に関係なく、真正面から魔星と戦い、順当に勝利するだけの性能(スペック)を備えている。

 

 ならばそれはもう、星辰奏者(エスペラント)でも人造惑星(プラネテス)でもない別の何かだ。

 

「…私は()()()()()()()()()のだが……いや、そういうことか」

 

 と、何やらギルベルトが意味深に呟く。そして何かに納得すると、悠姫の足元を起爆、たたらを踏みながらも態勢を崩した悠姫へと脚撃を入れ後方へと離脱した。

 

 悠姫はギルベルトを追撃することなく、その場に止まっている。それは、ギルベルトの「貴方だと思っていた」という一言に引っかかるものがあったからだ。

 

 つまり、この光の亡者等が超強化された犯人は悠姫だと思われていた、ということだ。冗談じゃないと吐き捨てそうになるが、可能性が0とは言えないのは事実だ。

 

 悠姫()ほど謎に包まれた人間はいないだろう。

 

 悠姫本人が自分のことを理解しきれていないのだから、完全に否定できる材料など当然ないし、逆に新西暦の星辰奏者(エスペラント)という接点から浮上する方が自然とも見える。

 

 しかし、審判者(ラダマンティス)だけは違う。この短時間の会話で、真実へと急接近している。

 

「やはり貴方は素晴らしい。私のような凡夫には不可能なことを実現できるのだから。ならば私は、貴方が報われる世界を創りたい」

 

「いらないんだよ、そんなものッ!」

 

 悠姫は太刀を構え駆け出し、両者は再び激突する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シェリア・S・B・ハイリヒ。ハイリヒ王国第一王女でありながら王位継承権を放棄し、冒険者として自ら野に下ったという異端の経歴を持つ“天才”であり“英雄”。

 

 英雄視されるようになったのは数年前、突然魔物が大量発生した時。清水幸利が引き起こしたウル事変程ではないものの、凡そ数千近くの魔物が古都テルスに接近していたことがあった。

 

 原因は依然不明で、対処には少なくとも国家規模の戦力が必要だとも言われていた。しかし、解決したのは三人の冒険者。それが当時黒ランクだった、シェリア、アヤメ、ディルグのパーティ“ケイオス”である。

 

 光姫(こうき)。一部の者からは光姫(アポロン)と呼ばれる彼女と、アヤメ、ディルグの異名はその時に付けられたものだ。

 

 灼熱の光輝を纏い一騎当千を現実とする彼女の戦いは、文字通り一際強く輝き、人々の心に強烈な希望を与えたのだ。

 

 加え、王国内での治安維持活動にも尽力している。残虐な悪事を働くものは貴族であろうと容赦なく粛清し、生きるために悪事に身を染めた者には更生するために手を差し伸べる。

 

 老若男女種族身分に分け隔てなく平等に接する人柄が、彼女の“英雄”としての姿を形作ったのだ。

 

 

 

 

 

「ガァァアアアッ!」

 

「無駄よ!」

 

 氷河姫(ピリオド)の咆哮と共に再度展開される氷結世界。あらゆる存在へ停滞を与える寒波、しかしシェリアの歩みに淀みは全く無い。寧ろ猛る心のような光熱が氷結世界を塗り替える。

 

 シェリアに向けて射出される氷弾の群すら一振りの光波によって蒸滅され、シェリアの身を傷つけるには遠く及ばない。

 

 無駄だと悟ったのか、敗けると確信したのか、氷河姫(ピリオド)はユエに護られ固まっている生徒達へと片腕(砲身)を向けた。

 

 当然、ユエの護りがその程度で破れる訳もなくそれこそ無駄な足掻きなのだが、氷河姫(ピリオド)が戦っていたのはシェリアであり、それは決定的な隙となる。

 

「させるわけ、ない!」

 

 一瞬の踏み込みで氷河姫(ピリオド)へと接近し、勢いのままに片腕を斬り飛ばす。更に光熱を纏うもう一振りで氷河姫(ピリオド)の胴を切り裂いた。

 

「グギャァァアアッ!」

 

幻姫(ニュクス)!」

 

 顔を憤怒に歪ませながら叫ぶ氷河姫(ピリオド)。しかし背後からアヤメに心臓(魔石)を砕かれ、その命を無様に散らすこととなった。

 

「グルルゥァアアッ!」

 

 そこに大質量の巨体で突進してくる殺塵鬼(カーネイジ)

 

 本家と同じ物質崩壊(能力)は有しておらず、筋力強化という分かり易い能力を持つこの殺塵鬼(カーネイジ)だが、巨体が組み合わさることで唯の突進でも凄まじい破壊力を誇っている。

 

 ゆえに、直撃すればシェリアでも無事では済まないのは明らかだ。

 

「フッ!」

 

 ならば当たらなければよいだけで、対応法など無数にある。

 

 殺塵鬼(カーネイジ)の剛足に光の矢が突き刺さる。犯人は当然シェリアだ。

 

 二振りの曲剣の柄尻を合体させ、弦が張られていない弓へと変わった発動体を構えている。そして引き絞り、連射連射と光熱矢の()幕を形成する。

 

 初撃の足部だけでなく、胴、肩、片腕、鬼面と、殺塵鬼(カーネイジ)の全身に突き刺さり、突進の勢いが削がれていく。

 

 そして()幕に押し負け膝から折れる瞬間に、鬼面にアヤメの旋棍(トンファー)が直撃する。たまらず転げた殺塵鬼(カーネイジ)に、光剣に切り替えたシェリアが追撃する。

 

「これで終わりよ、殺塵鬼(カーネイジ)。いえ、殺塵鬼(カーネイジ)を模した何か。“人”が笑顔で生きていく世界に、“人殺し”が好きな化物は必要ないのよ」

 

 断頭台(ギロチン)の刃が殺塵鬼(カーネイジ)の首を斬り飛ばす。そして念には念をと、灼熱の光輝が殺塵鬼(カーネイジ)の全細胞を死滅させた。

 

 こうして、一度は完全勝利を手にした惑星を模した二体の化物は、二人の冒険者(エスペラント)によって討滅されたのである。

 





巨人を射抜け、太陽よ。(E m a n c i p a t i o n)勝利をその手に掴むため( A p o l l o n)

光熱操作能力

基準値:B
発動値:AA

集束性:AA
操縦性:A
維持性:B
拡散性:C
付属性:B
干渉性:C


 二振りの曲剣に灼熱の光輝を纏う、光刃や光矢を飛ばすなど、シンプルで強力なシェリアの星辰光(アステリズム)

 高出力、全方位平均以上という、非常に優れた素養を持つ。

 シェリア自身の戦闘技巧も併さり、文字通りの歩く光学兵器としてあらゆる局面において高水準の戦果が約束される。



 次話でVS審判者決着、勇者正論パンチ編になります。
 年内中に出せるよう頑張ります…


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