ありふれない怪物は、やがて英雄へ   作:シロマダラ

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第五話 月下の語らい

【オルクス大迷宮】

 

 全百層からなるといわれている七大迷宮の一つであり、階層が深くなるにつれ強力な魔物が出現する。

 

 その性質上、冒険者や傭兵、新兵の訓練に非常に人気があり、地上の魔物より遥かに良質な魔石を体内に抱えている。

 

 魔石とは、魔物の力の源であり、強力な魔物ほど良質な魔石を備えている。

 この魔石を粉末状にして使用することで魔法陣の効果を上昇させたり、日常生活用の魔道具の原動力としても使われるため需要の非常に高いものでもある。

 

 また、良質な魔石を備えている強力な魔物ほど固有魔法を使用する。固有魔法とは、詠唱や魔法陣を使用できない魔物が使える唯一の魔法であり、魔物が油断できない原因である。

 

 ユキたちはオルクス大迷宮で実地訓練をするために、大迷宮近くにある宿屋場ホルアドに着いた。新兵訓練にも使われるようで、王国直営の宿に泊まる。

 

 二人一部屋で、ユキはハジメと同室だった。

 この二週間ユキはハジメの訓練の担当をしてたり、一緒に図書館で本を読んでいたりしているため、ペアとして認識されている。

 

 今回は二十階層まで行き、ハジメがいても騎士団でカバーできる階層らしい。

 

 明日に備えて情報を纏めるため、借りてきた魔物図鑑を読んでいたユキとハジメだったが、少しでも体を休めるために眠りに入ることにした。

 

――コンコン――

 

(来客? 誰だこんな時間に。もう深夜だぞ?)

 

『ユキさん、ハジメくん、起きてますか? 白崎と八重樫です』

『こんな時間にすいません。少しいいですか?』

 

 なにか話なんて在ったかと考えながらハジメを見ると、ハジメは目を開きながら硬直していた。

 ユキはとりあえず部屋に入れようかと思って扉を開け、香織と雫を中に入れた。

 

「......なんでやねん」

 

 ハジメがなぜか関西弁で突っ込みを入れる。

 香織と雫はネグリジェにカーディガンを羽織って立ってるため、衝撃的だったのだろう。

 

「どうしたんだ、こんな時間に。なにか連絡でもあったのか?」

「い、いいえ。その、ユキさんたちと話したくて.....迷惑でしたか?」

「いや、俺は構わないが...ハジメは大丈夫か?」

「う、うん。大丈夫だよ」

 

 ユキたちの部屋に入った香織と雫は窓際に設置されたテーブルセットに座った。

 

 香織たちの相手をハジメに任せ、ユキはお茶の準備をした。

 四人分のお茶を準備したユキは三人に出し、壁際に立って話しかけた。

 

「で、話ってなんだ?明日のことか?」

 

 ユキが話を切り出すと、香織と雫は思いつめた様な表情になった。

 

「明日の迷宮なんですけど.....二人には町で待っててほしいんです。教官達やクラスの皆には私達が必ず説得します。だから! お願いします!」

 

 興奮したように身を乗り出して説得してくる香織にハジメは困惑し、ユキは眉を顰める。

 

「...どういうことだ? 確かにハジメのステータスは低いし、お前達にとっては足手まといだろう。だが、だからこそ俺がサポートに入っているんだぞ。俺の実力ならお前たちは見てたからこそ、良く知ってると思うが?」

「ち、違うんです。足手まといとかそういうんじゃなくて...」

 

 香織の言葉にユキが反論する。ハジメのステータスが低いのは周知の事実だが、ユキの戦いを見ていた二人は少なくとも、ユキの強さをクラスで一番理解していた。そのユキがハジメのサポートに入ることで納得していたはずだが、前日になって行かないでほしいという二人の言葉に疑問を抱く。

 香織は足手まといとかではないといい、雫が理由を話し始める。

 

「夢を、見たんです...二人が大きな何かに立ち向かおうとしていて...声を掛けても全然気づいてくれなくて...最後は...」

「...最後は?」

「...二人とも消えちゃうんです...」

 

 雫と香織は泣きそうな顔をして、俯いてしまう

 

 夢で見た。それだけなら夢だったで済む話だが、二人の場合はユキの戦いを夢で見ていたことがあったため、ありえないと言い切れない部分があった。

 

「.....なるほどな。夢で見たならありえないと言えないな。事実、何年も俺の戦いを見ていたんだしな。だからこそ、知ってるはずだ。俺を殺せるのは英雄だけだ。そんな訳の分からんものには負けないし、ハジメだって俺なら守れる」

 

 それでもまだ不安そうな顔をする二人に、ユキは小さく息を吐き口を開いた。

 

「......なら、お前達が俺達を支えてくれ」

「...支える?」

 

 その言葉に香織と雫はきょとんとした。

 

「ああ、俺を殺せるのは英雄だけだと言っても、あくまで俺一人の場合だ。ハジメを必ず守り切れるわけじゃないし、ハジメが傷ついたら俺にはどうすることもできない。

 それでも、二人がいれば俺も安心して戦える」

 

 ユキの言葉を三人は黙って聞いている。

 

「そもそも、俺達は一人じゃない。ピンチになったら、素直に()()()()()って言えばいいんだから」

 

 ハッとする三人。

 実際、ハジメはいじめられていたこともあって誰かに頼ることをしなかったし、香織と雫も幼馴染(光輝と龍太郎)がアレなため頼ってこなかった。自分たちがしっかりしなければならないという認識もあったのだろう。

 

「お前達がピンチの時は俺達が支える。だから俺達がピンチの時は、二人で俺達を支えてくれ」

「そ、そうだね。武器の手入れくらいなら僕だって出来るしね」

 

 二人の言葉に香織と雫は固まっていたが、少しすると、

 

「「はい!」」

 

 憧れのユキに頼りにされているのが嬉しいのだろう、トータスに転移してから一番の笑顔で返事をした。

 

 それからしばらく雑談し、香織と雫は部屋に帰っていき、ユキは二人を見送った。

 

 その時、ユキは別の方向から殺気の込もった視線を感じていた。

 

(...たぶん天ノ河か檜山だろうな。殺気が込もってるところを見ると、たぶん檜山か。手を出してこないなら別にいいが、明日は面倒なことになりそうだな)

 

 向けられる殺気に、明日は面倒になりそうだとため息をついた。

 

 

 

 

 そして、日が明ける。

 

 勇者が仲間にいるためか、迷宮の前に立つ少年少女達の眼に不安はなかった。

 その日、最悪の一日になるとは知らず...

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