ありふれない怪物は、やがて英雄へ   作:シロマダラ

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新年初投稿です。



第七十話 グリューエン大火山

【グリューエン大火山】

 

 アンカジ公国より北西に進んだ先に存在しているその見た目は、直径約五キロメートル標高三千メートル程の巨石だ。一般的な成層火山のような円錐状の山ではなく、溶岩円頂丘のような平べったい形をしており、山というより巨大な丘という方がいい。

 

 この【グリューエン大火山】は七大迷宮の一つとして知られているが、冒険者が訪れることは少ない。それは、純粋な迷宮内部の危険性の高さと厄介さ、そして魔石回収のうまみの低さが上げられる。だが一番の理由は、そもそも迷宮入口にたどり着けるものが少ないからである。

 

「……まるでラピュ〇だな」

 

「……ラ〇ュタ?」

 

「…たしか、旧暦の資料にそんな記述があったような」

 

 【グリューエン大火山】を包み込む巨大な砂嵐を見て、ハジメはポツリと呟いた。

 

 この砂嵐の恐ろしいところは、この中でも容赦なくサンドワームやほかの魔物が容赦なく奇襲してくるということだ。並の実力ではグリューエン大火山】を包む砂嵐すら突破できないというのも頷ける話である。

 

 だが、この悠姫達一行は()という表現には全く当てはまらない怪物集団である。

 

「つくづく、徒歩でなくて良かったですぅ」

 

「流石の妾も、生身でここは入りたくないのぉ」

 

 砂嵐をものともせずに貫く魔道四輪の窓から外を眺めるシアとティオも、魔道四輪の快適さに感謝感謝と拝んでいる。だが、二人とも()()()()()()と言わないあたりが強者の証だ。その様子を眺めながらハジメは魔道四輪を進ませる。そして、道中サンドワームや蟻型魔物に襲われる等はあったものの難なく撃滅し、一行は【グリューエン大火山】内部へと続く階段の前へとたどり着いた。

 

「よし、行くぞ」

 

「おう!」

 

「ええッ!」

 

「うむっ!」

 

「んっ!」

 

「はいです!」

 

 

 


 

 

 

 【グリューエン大火山】の内部は、【オルクス大迷宮】や【ライセン大迷宮】以上にとんでもない場所だった。難易度ではなく、内部構造が、だ。

 

 まず、マグマが文字通り宙を流れている。空中に水路が形成されているのではなく、マグマそのものが宙に浮いて、川のような流れを作っているのだ。更には、

 

「…雫、こっちだ」

 

「え? ッ、きゃ!」

 

「大丈夫か?」

 

「え、ええ。ありがとう、悠姫君。まさか、いきなりマグマが噴き出してくるなんて」

 

 と、雫の言う通り、唐突にマグマが噴出してくるのである。どうやらシアも同じように噴き出たマグマに襲われかけて、ハジメに救われたようだ。このマグマは本当に突然な上に、事前の兆候もないので察知が難しい。悠姫の()やハジメの〝熱源察知〟があって、ようやくスムーズに進めているのだ。

 

 そして、なにより厳しいのが、茹だるいような暑さ――もとい暑さだ。火山の内部なのだから当たり前ではあるが、まるでサウナの中にでもいるような、あるいは熱したフライパンの上にでもいるような気分である。これが【グリューエン大火山】の最大限に厄介な要素だった。

 

 悠姫達がダラダラと汗をかきながら、天井付近を流れるマグマから滴り落ちてくる雫や噴き出すマグマをかわしつつ進んでいると、とある広間であちこち人為的に削られている場所を発見した。ツルハシか何かで砕きでもしたのかボロボロと削れているのだが、その壁の一部から薄い桃色の小さな鉱石が覗いている。

 

「これが静因石か?」

 

「…ああ、そうみたいだ」

 

「うむ、間違いはないぞ、主殿よ」

 

 悠姫がそれを摘み上げ、〝鉱石系鑑定〟を持つハジメと知識深いティオに確認し、二人は同意した。どうやらここが、【グリューエン大火山】に入れた冒険者たちの採掘場所のようだ。しかし、

 

「……小さい」

 

「この小ささだと使えないわよ」

 

「ほかの場所も同じ小石サイズばかりですね……」

 

 ユエ達の言う通り、残されている静因石はほとんどが小指の先以下のものばかりだった。これは既に、これまでに訪れた冒険者達によって採られ尽くされたということだろう。

 

 つまり、大量且つ効率よく手に入れるには、より深くに潜らなければならないということだ。ハジメの〝鉱石系探査〟で簡単に採取できる静因石だけを採り、一行は先へと進んだ。

 

 そして、徐々に強くなる暑さと魔物に辟易しつつも第八階層へと続く階段へと辿り着いた。記録によると、冒険者達の最高到達階層は七階層だったらしく、ここから先は未知の領域となる。

 

 一行は気を引き締めつつ八階層へと続く階段を降りきった、その瞬間、

 

ゴォオオオオ!!

 

 と、一行の正面から強烈な熱風と巨大な火炎が襲い掛かってきた。

 

「〝絶禍〟」

 

 その火炎に対して、ユエが魔法を行使する。出現した黒く渦巻く球体は、重力魔法によるもの。ただ、〝壊劫〟のような地面に押しつぶすものではなく、強力な重力を発生させてあらゆるものを呑み込む漆黒の盾だ。

 

 その盾に全ての火炎が呑み込まれると、その射線上に襲撃者の正体が露わとなった。

 

 それは、鋭い二本の巻角を生やした雄牛の魔物。更には全身にマグマを纏わせ、口からも呼吸と同時に炎を吐き出すという、熱に特化した魔物だった。

 

 そんなマグマ牛に対して初めに攻撃したのはユエだ。展開していた〝絶禍〟がマグマ牛に対して弾け飛ぶ。圧縮された火炎は砲撃としてマグマ牛へと襲い掛かる。しかし、吹き飛ばすことはできたものの、砲撃によるダメージは通っていないようだった。

 

「むぅ……やっぱり、炎系は効かないみたい」

 

「まぁ、マグマを纏っている時点でなぁ……仕方ないだろ」

 

 火炎の砲撃を返したユエが不満そうな声を上げる。それに苦笑いしながら、ドンナーを抜こうとしたハジメと星辰光(アステリズム)を使おうとした悠姫にシアが待ったをかけた。

 

「ハジメさん、悠姫さん! 私にやらせて下さい!」

 

 ドリュッケンを手に鼻息を荒くしているシアに、いつになく気合が入っているなと思う二人だったが、ハジメがドリュッケンに組み込んだ新機能を試したいのだろうと察し後ろに下がる。

 

「分かってると思うが、気をつけろよ」

 

「はいッ! ()ったるですっ!」

 

 シアが気合の声を上げると、軽くステップを踏んで、既に数メートル付近まで接近していたマグマ牛に向かって飛び掛かった。

 

 空中で一回転させて遠心力をたっぷり乗せると、正面から突っ込んできたマグマ牛へ絶妙なタイミングでドリュッケンを振り下ろした。ドリュッケンは狙い違わず、吸い込まれるようにマグマ牛の頭部へと直撃した。その瞬間、直撃した個所を中心にして魔力の波紋が広がり、次いで凄まじい衝撃と共にマグマ牛の頭部が爆破されたかのように弾けとんだ。

 

「お、おぅ。ハジメさん、やった本人である私も引くくらいすごい威力ですよ、この新機能」

 

「あ、ああ、そうみたいだな……〝衝撃変換〟どんなもんかと思ったが……」

 

「まさかこれ程とは……しかし、もしもあの時にこれがあったら、妾は…」

 

 ハジメだけでなく、シアやティオも思わず関心の声(ティオは恐れも含んでいるが)を上げてしまう程の威力を発揮したシアの一撃。それはハジメが口にした通り〝衝撃変換〟という、魔力変換の派生に位置づけられる固有魔法だ。

 

 先日の【オルクス大迷宮】の一件で、ハジメが一瞬でミンチにした馬頭の肉を、こっそりと回収して喰らうことで手に入れていた。その〝衝撃変換〟を生成魔法で鉱石に付与し、新たにドリュッケンに組み込んだのだ。

 

 その後、次々と階層を下っていく毎に魔物のバリエーションは増していった。マグマを撒き散らす蝙蝠、魔物や壁を溶かして飛び掛かってくるウツボモドキ、炎の針を飛ばしてくるハリネズミ、マグマの中からマグマを纏った舌を鞭のように振るうカメレオン、等々と……

 

 悉くがマグマを用いた攻撃、防御を使う魔物は、怪物と言うべき悠姫をして()()と言う他がないものだった。とは言え、それは単純に、このような高熱地帯での経験が乏しいからではある。そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()として対処することで、漸くそれなりの速度で進んでいる状態なのだ。

 

 ならば、トータスの冒険者で八階層以降の階層に降りて戻ってこれなかったということにも頷ける。純粋に危険度が跳ね上がっているのだ。更には、魔物が強力になる一方で希少鉱物である静因石の大きさも大して変わっていないことも、降りる者がいない理由の一つだろう。

 

 しかし何より厄介なのは、刻一刻と増していく暑さだ。

 

「はぁはぁ……暑いですぅ」

 

「……シア、暑いと思うから暑い」

 

「…心頭滅却すれば火もまた涼し、だったか……」

 

「流れているのは唯の水……ほら、涼しい、ふふ」

 

「いや、主殿よ! ユエが壊れかけておるのじゃ! 目が虚ろになっておる!」

 

 暑さに強いティオ以外、悠姫やハジメ達ですらこの暑さには参っている。一応、冷房型アーティファクトも使ってい入るのだが、まさに焼け石に水状態だ。留めどなく汗が流れ、意識が朦朧とし始めているユエとシアを見て、悠姫とハジメは一端の休息が必要だと考えた。

 

 ハジメはまず、マグマから比較的離れてい壁に〝錬成〟で横穴を空け、一行を招き入れるとマグマの熱気が最小限になるように入口を最小限まで閉じる。

 

「ふぅ……悠姫、ユエ。氷塊を出してくれ。しばらく休憩だ」

 

「あぁ、同意する。〝美醜の憂鬱、気紛れなるは天空神(G l a c i a l P e r i o d)〟」

 

「ん……了解」

 

 悠姫は汗を拭いながら同意して星辰光を、ユエは虚ろな目をしながらも氷系の魔法を発動させて部屋の中央含む数ヶ所に氷塊を出現させた。更に、気を利かせたティオが、風系魔法で氷塊の冷気を部屋中に循環させる。

 

「はぅあ~~、涼しいですぅ~、生き返りますぅ~」

 

「……ふみゅ~」

 

 女の子座りで崩れ落ちたユエとシアが、目を細めてふにゃりとする。タレユエとタレシアの誕生だ。

 

 ハジメは、内心そんな二人に萌えながら〝宝物庫〟からタオルを取り出すと全員に配った。

 

「ユエ、シア、だれるのはいいけど、汗くらいは拭いておけよ」

 

「冷えすぎると動きが鈍る。体調も悪くなるかもしれないからな」

 

「……ん~」

 

「了解ですぅ~」

 

 間延びした声で、のろのろとタオルを広げるユエとシアを横目に、ティオがハジメと悠姫に話かける。

 

「主殿達はまだ余裕そうじゃの?」

 

「いや、ティオほどじゃない。流石に、この暑さはヤバイ。もっといい冷房系のアーティファクトを揃えておくんだった……」

 

「いくら不死身の身体とはいえ、さすがにな……」

 

「ええ。そろそろ限界よ……」

 

「ふむ、主殿でも参る程ということは……おそらく、それがこの大迷宮のコンセプトなのじゃろうな」

 

 そこに、そこまで参ってはいないがそれなりに汗をかいているティオがそんなことを言ってきた。ハジメがこの言葉に首をかしげるが、思い当たる何かを思い出して呟いた。

 

「コンセプト? ああ確か、前に悠姫がそんなことを言ってたような…」

 

「む? 主殿も気付いていたのかの?」

 

「試練、と言うくらいだからな。乗り越えるべき課題と言うべきものがあるのだろうとは思っていた。【オルクス大迷宮】なら強力な魔物との闘いの経験、【ライセン大峡谷】なら魔力を使えない環境での戦い、とかな。只管に魔物と戦うことだけだったり、単純にダンジョンを攻略するだけのようなものが七回も行うとは思えない」

 

「そなれら、【グリューエン大火山】のコンセプトは、暑さによる集中力の阻害、その状況下での奇襲やトラブルへの対応、なのかね……」

 

「試練そのものが解放者達の“教え”になってるのね…」

 

 悠姫の考察に、ハジメと雫は納得だと頷いた。となれば、他の大迷宮の試練が何なのかは気になるところだが、それはその時にならないと分からないだろう。

 

 そして束の間の休息を経て、一行は再び【グリューエン大火山】攻略へと歩みを進めた。

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