ありふれない怪物は、やがて英雄へ   作:シロマダラ

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 第七十二話です。

 こんなダラダラしながら進めてる作品にも感想をくれてありがとうございます。


第七十二話 最終試練の怪物

 

『グルォアアアアアアッッッ!!!』

 

 初手、怪物の咆哮によって無数の魔法陣が天井を覆うように展開される。億の領域へと到達した魔法陣には、それぞれが必殺と言えるだけの魔力が込められている。

 

 仮に直撃したならば、一瞬の抵抗も許されずに消し飛ばされることなど目に見えている。

 

 ならば、取れる選択はそう多くない。

 

「チイイィィッ!」

 

 英雄殺しの滅亡剣で地面に穴を穿ち、三人を落として蓋をする。更に〝宝物庫〟からハジメ謹製大盾を展開しつつ星光を切り替える。

 

 星環境変性(オルタレーション)――

 ――〝不壊金剛の独眼鍛冶よ、鉄を打て(A d a m a n s m i t  K y k l o p s)

 

 物質硬化能力という、防御面で高い性能を発揮する星光(ほし)を蓋の地面と大盾、そして雫とティオの二人にも付与(エンチャント)をする。

 

 瞬間、破滅の轟音を響かせながら魔法が絶え間なく降り注いだ。

 

「ッ、ォォオオオ!」

 

「悠姫君ッ!」

 

「主殿ッ!」

 

 凄まじい圧力にに対し苦悶の唸り声を上げながら耐える悠姫に、雫とティオが心配そうに声を上げるが、悠姫に反応する余裕はない。魔法の大瀑布に負けないよう、不壊金剛の出力を引き上げる。

 

 しかし、削られていることは確かで、星光(ほし)の複数輝照が出来ない以上、削られた箇所を修復することもできない。このまま耐え続けてもいずれ決壊する、死を遅らせているだけだ。

 

 ならば、反撃しなければならない。

 

「ッ、ティオは竜化の準備を。雫は直ぐに動けるようにしてくれ」

 

「うぬ。了解じゃ」

 

「分かったわ」

 

 絞り出すように紡がれた悠姫からの指示に、二人は躊躇なく頷いた。何をするのか、ということまでは聞いていないが、信頼する二人に迷いはない。

 

 そして悠姫が星光(ほし)を解いた次の瞬間、地面と大盾を粉砕して魔法が空間へ殺到した。

 

 

 

 

 

 大爆発した穴を眼下に収め、()は消し飛んだと判断したテュポエウスは行使していた魔法を停止させる。そして、辺りを見回す。

 

 全面が岩やマグマで囲まれた地下空間、自身の巨体どころか先の蟲程度の大きさですら出入りできる箇所は見当たらない密閉空間。

 

 何故この場所にいるのか、どうやってこの場所に入ったのか、そもそも自身が何なのかすら、このテュポエウスは理解していない。

 

 ならばせめて、知れることから知らなければならないと、岩壁の向こうから感じ取った振動を頼りに動こうとした、次の瞬間――

 

 星環境変性(オルタレーション)――

 ――〝神罰覿面、神敵粉砕、豪放(M e g i n g j o r d)磊落。神威を此処に(M j o l n i r)

 

 強力な魔力反応を頭上に感じ取り見上げると、消し飛んだ筈の一匹(悠姫)が大きな武器を振りかぶっていた。

 

 そしてそのまま、悠姫は〝宝物庫〟から取り出した大槌(ハンマー)をテュポエウスの頭部へと叩き込んだ。

 

 筋力増強という単純強力な能力と神祖(カミ)所以の高出力、更に落下の勢いも上乗せされたその鉄槌は隕石の如き破壊力を生み出し、直撃したテュポエウスの頭部を容易く粉砕した。

 

 衝撃が波のように空間に轟き渡り、粉々になった肉片が血潮と共に宙を舞う。

 

 いかな怪物と言えども急所を粉砕されればそれで終わりだ。時間にして最下層に到着してから僅か一分前後、最終試練たる怪物は討滅された――

 

 

 

 ――という流れになればよかったのだが、そううまくはいかないらしい。

 

 テュポエウスの肩に生える蛇が群れとなり、反動で浮かぶ悠姫に殺到する。悠姫が大槌から太刀へと切り替えた瞬間、黒い巨体とその背に乗る少女が猛スピードで近づき悠姫を掻っ攫った。

 

 

『主殿、ご無事か?』

 

「ああ。助かった、ティオ、雫」

 

「助けてもらってばかりだもの、当然じゃない。それよりもどうやって倒すの?」

 

 黒い巨体 ― 竜体になったティオが、背に乗る悠姫に問いかける。

 

 

「他の魔物と同じように、核になっている箇所があるはずだ。そこを狙う。探りながらになるけどな。ティオはもう大丈夫か?」

 

『ぬぅ、恥ずかしいからあまり言わないでほしいのじゃが…っと』

 

 テュポエウス出現時の震えを見ていた悠姫からの指摘に、黒い鱗に赤みを帯びさせることなく恥じるティオ。頭部を再生させながら熱線をレーザーのように放射するテュポエウスの攻撃を飛行しながら回避する。

 

「南雲君達は大丈夫かしら」

 

「今は無事を信じるしかない。行くぞ」

 

「ええ」

 

『うぬ』

 

 そう言い、悠姫と雫はティオの鱗から手を放し、地面に降り立つと同時にテュポエウスへ向けて疾走する。

 

 テュポエウスが二人に向けて下半身の蛇尾で薙ぎ払うが、二人は跳躍して回避する。空中で無防備となった二人へ今度は魔法にて撃滅させんとするが

 

『させぬッ!』

 

 飛びながらも炎弾で牽制するティオに注意を逸らされる。

 

「しッ!」

 

「はぁッ!」

 

『グルゥゥァァッ!』

 

 そして、肉薄した二人の剣閃がテュポエウスを捉えた。傷は浅く致命には程遠いが、傷をつけられたという事実は変わらない。テュポエウスは怒りを滲ませて足元の二人を潰そうと腕を振り上げ、勢いよく叩きつけた。

 

『グルァ?』

 

 回避した様子はない。にもかかわらず潰した感覚もない。そんな疑問に首を傾げるテュポエウスだが、ふと空中を飛ぶ黒竜(ティオ)を見ると答えはそこにあった。

 

『グルォアアァァッ!』

 

 いつの間にか黒竜(ティオ)の背にいる二人へ向けて、怒りを籠めて咆哮(ブレス)を放つ。

 

「やらせるかよッ!」

 

 悠姫がテュポエウスの咆哮(ブレス)対し磁界操作の星光を付与、無理やり流れを変えることで射線を逸らす。そしてその隙に再び雫が地に降り立ち、テュポエウスへと突貫を開始する。

 

 テュポエウスは雫に一瞥するだけで、直ぐに悠姫へと狙いを戻す。雫の攻撃が大した外傷にならないことは既に証明されている。ならばと、頭部を破壊するという一撃を与えてきた方を意識するのは当然の事だった。

 

 だが、完全に無視を決め込むという訳ではない。直撃すれば致命傷を与えられるほどの威力を籠めた魔法を展開して雫を迎撃する。

 

 

 

 

「ッ! はぁぁぁぁッ!」

 

 雫は降りかかる魔法を切り払いながら突き進む。その胸中に渦巻くものは目の前の相手に対する恐怖と不安、そして自分の不足による不甲斐無さだった。

 

(私は、弱い)

 

 七大迷宮を巡りトータスを旅するこのパーティの中で、()()()()()()()()()()

 

 ハジメのように〝錬成〟でアーティファクトが創れるわけではない。ユエや香織のように魔法に優れているわけでもなければ、シアのように〝未来視〟が使えるわけではない。

 

 ティオのように豊富な知識があるわけでなければ、悠姫のような強さがあるわけでもない。

 

 雫は刀剣(棒切れ)を振るうことが優れているだけの少女なのだから。

 

(――なりたい)

――与えましょう

 

 それでも、愛する人について行きたいから。愛する人を支える資格があると、誰よりも自分が自分を認めたいから。

 

(――強くなりたい)

――彼に並び立てる強さを

 

「全てを切り裂く至上の一閃――〝絶断〟」

――全てを斬り裂く無常の刃を――〝絶断〟

 

 腰溜めに構え、跳び上がった雫の刀に魔力が煌めいた。それは混沌を思わせるような漆黒に輝き、武器強化魔法である〝絶断〟の域の超えていることを示している。そして魔法が直撃する前に雫は宙から姿を消し、次の瞬間にテュポエウスの眼前に出現した。

 

「〝斬空〟ッ!」

 

 〝斬空〟。その技は、八重樫流抜刀術である〝断空〟とほとんど変わらないつもりだった。だが、何かが違うと直感的に感じていた。その為、技名も脳裏に浮かんだものをそのまま唱えただけ。しかし、その威力は絶大だった。

 

 振り抜いた一閃がテュポエウスの眼を斬り裂く。まるで豆腐を絶つかの様に一切の抵抗を感じさせることなく、刃がテュポエウスの眼球を素通りした。

 

『グルゥゥァァ!!』

 

 痛みに叫ぶテュポエウスが雫を叩き落そうと腕を振り抜くが、再び雫は姿を消しティオの背に出現した。今まで見たことのない雫に、ティオは心配そうに声を掛ける。

 

『し、雫? 大丈夫なのかの?』

 

「ええ。絶好調よ」

 

 傍目から見ればそれが異常であることは明らかではあった。だがしかし、それが強がりや無鉄砲というわけでもないのも明らかだった。

 

「……分かった」

 

 悠姫は雫の身に起きた一連の事象に心当たりがあった。むしろ、あそこまであからさまな見た目をしていれば、気付くなと言う方が無理があるだろう。

 

 ならば、()()()()()()()()()()()()()()()が気になるところだが、今そのことを追求する余裕はない。

 

 星環境変性(オルタレーション)――

 ――〝銀の射影、罪業担えよ三相女神。(S i l v e r i o )贖うべきは我にあり(T r i n i t y)

 

 空間干渉型召喚能力を使い再び悠姫と雫、そして今度はティオも人型となり二人と共に駆け抜ける。

 

『グルォアアッッ!!!』

 

 取るに足りない筈の羽虫()に付けられた傷に苦しみ、空間転移(テレポート)を繰り返して点々と移動し続ける三人を憎悪を宿して見下ろす。

 

 最早、誰一人として侮ることなどありえない。そして、一切の容赦もない。初撃に繰り出した時と同じように、天井を覆うように魔法陣を展開する。

 

 悠姫を起点として防戦へとなるように仕向けるが、

 

「させるかよッ!」

 

 それが一度受けている攻撃ならば、悠姫に対応できないはずがない。

 

 悠姫が再び空間転移(テレポート)を行使する。その対象は、テュポエウスへと疾走する三人でもテュポエウスでもなく、今まさに即死技を放とうとしている()()()そのもの。

 

 絶妙に悠姫達三人には当たらないように調整されたそれは、次の瞬間には術者本体(テュポエウス)へと殺到した。

 

『―――――――ッ!!』

 

 直撃と同時に弾け飛び即座に蒸発していく血肉に、テュポエウスは音にならない悲鳴を上げる。尾をビタンビタンと地面に叩きつけて暴れている隙に、三人は各々が懐へと接敵して攻撃を叩き込む。

 

 回復した瞳に悠姫が鋼魔弓(サジタリウス)で殴りつける。敵を叩き落とそうと振るった腕を漆黒の魔力を迸らせた雫の抜刀が断ち切る。中空で隙を晒す雫へと放たれた魔法をティオのブレスが迎撃する。

 

 繰り広げられる一方的な蹂躙劇、最凶の怪物はたった三人の敵になすすべもない。

 

「"天霆の轟く地平に、闇は無く(G a m m a - r a y K e r a u n o s)"」

 

 轟渡る雷霆、空間を埋め尽くす極光に、テュポエウスは視線を奪われる。間違いなく決着の一撃だと分かるその光を前に、テュポエウスは己の伝承(在り方)を否定した。

 

『グルォアアアアアアッッッ!!!』

 

 残った片腕を盾として受け止める。普通ならば抵抗の余地など一切存在しないのだが、一体何が起きたというのか。テュポエウスの腕は炭化しながらも、確かに天神の雷霆(ケラウノス)を受け止めていた。

 

 大口を開けけ放たれた咆哮(ハウリング)の衝撃に、雫とティオは吹き飛ばされる。そして炭化している腕で悠姫を掴み取る。

 

 握りつぶすにはもう腕の強度が足りてない、よって強靭な牙を持って齧り殺そうと大口を開けるが

 

創生(フュージョン)収縮(フュージョン)融合(フュージョン)装填(フュージョン)――喰らえそして爆ぜろ、〝真・超新星(スーパーノヴァ)〟」

 

 だが、相手は怪物(天津悠姫)なればこそ、魔物(テュポエウス)の牙は届かない。

 

 切り離された悠姫の腕がテュポエウスの口内へと落ち、超新星となって大爆発を引き起こした。

 





 急ごうと思って適当になっている個所(最後辺り)があるので、加筆修正するかもしれません。
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