今後の展開とか色々と考えてたら半年以上経ってましたが、更新再開です。
リハビリかねて短めです。
大轟音を鳴らしながら内側から弾け散るテュポエウス。咄嗟に体を丸めて防御態勢をとった雫とティオに、凄まじい衝撃と細々となった肉片が打ち付けるように襲い掛かる。
やがて衝撃が収まってから顔を上げると、そこには蛇尾だけとなったテュポエウスだったものが残っており、その傍らで粉々となった身体から再生する悠姫の姿があった。
「悠姫君ッ!」
嬉しそうに声を上げ駆け出した雫とティオに応えるように悠姫が片手を上げる。ズズンッと音を立てながら沈む残骸を背に、悠姫は二人に歩み寄る。
「二人とも、ケガはないか?」
「それ、こっちの台詞よ?」
「まあ主殿らしいと言えばらしいがの」
悠姫が問いかけると、二人は呆れたように肩をすくませながら言う。
すると次の瞬間、足元に巨大な魔法陣が出現した。
その全容は大きさゆえに把握しきれなかったが、視界を埋め尽く白光と浮遊感は以前に経験した転移魔法だと教えてくる。そして、視界が反転すると悠姫達がいた場所とは異なる空間へと転移していた。
そこには蛇の形をしたマグマ、それに向かってドンナーを構えるハジメとユエ、シア。そして天井付近の位置で滞空する数十程の灰色の竜とそれと比べ物にならないほどの巨体の純白の竜、そして白竜の背に立つ浅黒い肌の魔人族。
――〝
――〝
それらを見た悠姫の判断は一瞬だった。竜と男の真上へと転移した悠姫が、必殺の
「――なにッ! ウラノスッ!」
そのことに男が気が付けたのは奇跡に等しい。突如として出現した凶悪な気配を漂わせる悠姫に対し、相棒たる白竜へと迎撃の指示を出す。その指示で白竜は尾で叩き落とそうと振るうが、悠姫は拳を尾へと当てて砕き割った。
思わず苦痛の叫びを上げる白竜に意にも介することなく、悠姫は一撃必殺の星光を宿した踵を勢いよく振り下ろした。
「ッ! させぬッ!」
ウラヌスと呼ばれた白竜の尾が結晶化して砕け散ったことからその凶悪性を察したのだろう、男は懐より
転移とは異なる魔法、
(空間そのものに干渉する魔法、空間魔法か)
魔法の正体にたどり着いた瞬間、悠姫の視界は極光に埋め尽くされた。それは総数五十の灰竜と白竜によるブレスであり、規格外のステータスを持つ悠姫でさえ跡形もなく消し飛ばされるほどの威力がある。
ジュッという音と共に消えた悠姫を見届けた男は、元々狙っていた相手であるハジメへと視線を向けた。
「……ふんッ、他愛もない。最も危険な男だと聞いていたが、この程度か。まあいい、これで貴様等異教徒共の力もたかが知れる」
「はッ。たかが知れてんのはどっちだ、節穴かよ。油断こいて死にかけたくせによ」
悠姫によって不意打ちを受けることなく体制を整えられたハジメは、ドンナーとシュラークを構えながら男の物言いに毅然と応えた。それに男は眉をピクリと動かすが、表情を変えることなく掌をハジメ達に向ける。同時、灰竜と白竜が大きく顎門を広げ魔力を集束させる。
「…言い残すことはそれで全てか」
「ここで死ぬわけじゃねえんだぜ、言い残す言葉なんてあるわけねえだろ」
次の瞬間、再生した悠姫が放った干渉性特化の殲嵐の星光が、白竜の顎門に集束されている魔力に対して炸裂した。
「グルルァッ!」
魔力が暴発したことで口内から体内へ衝撃が走り、白竜は痛みに悶えて身体を暴れさせる。当然、その背に立つ男からは足元が不安定になるということであり、その隙を悠姫は見逃さなかった。
「なッ、ぐ、うッ!」
白竜の背へと飛び乗った悠姫のボディブローが、男の鳩尾へめり込んだ。踏鞴を踏んで堪える男へさらに悠姫が追撃を掛ける。
体をバネのように捩り、その反動で繰り出された回し蹴りが男の首筋へと放たれる。
「な、めるなッ!」
しかし、男とて徒にやられるだけではない。蹴りを受け止めた腕から骨が砕ける音が聞こえる。しかし痛みに悶える暇はなく、受け止めた足首を掴み白竜の背から落とす為に放り投げる。
そして男の思惑通りに落下を始めた悠姫を今度こそ殺すべく、男は右手を振り上げ配下の竜達へと号令を下す。
「散れ、異教徒共がッ!」
「させるわけねえだろッ!」
『させないのじゃッ!』
放たれる
『若竜共が、ブレスはこうやるのじゃ!』
ようやくティオの存在を始めて認識したのか、男は迫るブレスを前に狼狽える。
「黒竜だと?!」
白竜が咄嗟にブレスで迎撃するも遅い。
「ぬぅぅぅぉぉおおッ!」
「グルルァッ!」
悲鳴を上げて吹き飛ばされる男と白竜。純白の竜体に大ダメージが載っている様子を見て追撃を掛けようとハジメが力をこめるが、灰竜が隙を埋めるように割り込んできたことで舌を打ちながら中断した。
そして、体勢を立て直した白竜の背で男は傍の小型魔物から治癒を受け居ていた。
「まさか不死身とはな。奴等から聞いていたとはいえ、油断した私の失態か」
スッと立ち上がった男は、鋭い眼光で悠姫達を貫きながら告げた。
「我が名をその身に刻め、我こそはフリード・バグアー。祖国ガーランドの将軍にして、異教徒共に神罰を下す忠実なる神の使徒である」
「――悠姫君?」
アンカジ公国にて患者の治療をしていた香織が、治療の手を止めてふと顔を上げた。かつてホルアドの宿屋で感じた予感にも似た不安感を感じたのだ。
「カオリ殿、どうかしたのか?」
「あ、いえ、何でもありません」
『皆、どうか無事で…』
しかし、今の自分が出来ることは待つことだと自分に言い聞かせ、心の中で無事を祈りながら香織は治療を続けた。
「キヒッ、キヒヒヒ。あれが
団長の――と呟くその影は、気配を殺しながら悠姫達を覗き見ていた。ギリギリと金属爪を鳴らしながら興奮を必死に抑えようとする様は、さながらよく躾けされた飢えた猛獣のようだった。
そんな彼女の隣に立つ男は、蔑んだ目で見下ろす。
「貴様も十分怪物だろうが、変態め。まあよい、俺は行く。フリードを殺させるわけにはいかんからな。貴様は例の日まで我慢していろ」
男は彼女の羨ましいという視線を無視して歩み出す。その手に握られた剣の鍔には、漆黒の結晶が妖しく輝いていた。