ありふれない怪物は、やがて英雄へ   作:シロマダラ

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 結構短めですが、七十七話です。


第七十七話 海上の町での再会

 

「……繋げますね」

 

 小声でそう告げた遠藤浩介は、黒い結晶がはめ込まれた腕輪にそっと触れた。

 黒星晶鋼(アキシオン)。悠姫の能力によって生み出された特殊な結晶が、月明かりを受けてわずかに鈍く光を返している。

 

 場所は王都ハイリヒの裏通り、真夜中の人気のない路地。あたりは息を呑むほどの静けさに包まれていた。風もなく、街灯の魔石すらどこか頼りなげだ。

 

 遠藤の背後に立つのは、白を基調とした鎧を纏った騎士団長、メルド・ロギンス。厳めしい顔で黙して見守るその男が、ぽつりと呟く。

 

「……本当に、こんなもので繋がるのか。いや――ナグモが作ったのなら、あり得る話か」

 

 嘘のような話だ。だが、現実に“銃”というものを扱い、さらには“四輪の鉄の箱”まで動かす少年が存在する。

 

 それらがすべてハジメの造ったアーティファクトであるという事実は、既に王都の騎士たちの間でもささやかれていた。

 

「この間、あの鉄の塊が動いてナグモ達を乗せていくのを見ているからな……それに比べれば、まだ可愛いものか」

 

 メルドが苦笑しながら言う。感覚が麻痺しかけているのをみて、遠藤も苦笑しながら返した。

 

「確かに俺も、最初は半信半疑でしたけどね……」

 

 息を一つ。声を整え、彼はわずかに怯えるように呟いた。

 

「……えっと、悠姫さん。遠藤です。聞こえますか」

 

 遠藤の問いかけから数秒の沈黙の後、腕輪の内側から低く澄んだ声が響く。

 

『……通信良好、聞こえている』

 

 天津悠姫――静かながらも芯の通った声音に、遠藤は安堵と共に息を吐いた。

 

「……おお、本当に」

 

 その隣で、メルドも低く感嘆を漏らす。声の通り道も、魔力の流れも感じさせない不思議な通信。

 

 噂には聞いていたが、こうして実際にそのやり取りに立ち会うのは初めてだった。

 

『ん? その声……メルド団長も同席しているのか』

 

 腕輪越しの声に、遠藤がやや気まずそうに笑って頷く。

 

「ええ……悠姫さんが前に言ってたじゃないですか。“メルド団長も引き入れてくれ”って。だから、どうにか声をかけて、協力してもらえるようにしました」

 

 その言葉に、腕輪の奥で一拍の間を置き――

 

『……本当に引き入れたのか。冗談半分で言ったつもりだったんだが』

 

 くぐもった笑いが滲んだ声音。呆れというより、冗談と驚きが半々のような、思わず遠藤が「え?」と声を漏らすような雰囲気。

 

「え、ええ? 冗談だったんですか……?」

 

『嘘だよ。すまん。……本音だ』

 

 からかいと謝意と本気が入り混じった一言。そのやり取りに苦笑をこぼしたのは、隣のメルドの方だった。

 

「なんだ、ユウキは冗談を言うような奴だったのか?」

 

 やれやれ、とでも言いたげな声音で呟く。付き合いは僅か半月弱といったところで、人柄が完全に理解できていたわけではないが、メルドは悠姫が冗談を言うようには思えなかった。そこに悠姫が苦笑しながら反応する。

 

『召喚された頃は色々あったからな。多少は、余裕を持てるようになったということだ』

 

 言葉の端に、ごくわずかな感情の揺れがあった。懐かしさか、それとも過去を振り返る痛みか。メルドはそれ以上は詮索せず、ただ頷いた。

 

『……ともあれ。団長がそこにいるということは、俺の言葉に耳を傾ける覚悟がある、ということだと受け取っていいんだな』

 

「ああ。あの時、ユウキがあの啖呵を切ったのを聞いていたからな。言葉の真意までは分からんが――信念は確かに感じたさ」

 

 メルドの声に、迷いはなかった。

 

「だからこそ信じている。少なくとも“悪いこと”にはならないと」

 

 そして、ぽつりと、まるで自分に言い聞かせるように呟いた。

 

「……それに。ここ最近の王宮も、教会も――どうにもきな臭い。表に出ないだけで、内側が妙にざわついてる」

 

 遠藤が横目でメルドを見た。あれほど忠誠心に厚い男の口から、そうした言葉が出てくること自体、異常だった。

 

「じゃあ……報告しますね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【海上の町エリセン】。その浜辺にでくつろぐパーティがあった。

 

「ん、ハジメ。そろそろ迷宮探索をした方がいいと思う」

 

「あぁ~、そうだな…さすがにこれ以上時間を無駄にするのは良くねぇか」

 

 ハジメ達一行だ。悠姫を除き皆が合流しており、あとは悠姫を残すのみとなっている。

 

 グリューエン大火山から脱出したハジメ達は運よくエリセン近海へと流れつき、そしてすぐさまティオ達と合流することができた。

 

 そこで悠姫の顛末を知ることになるのだが、そこは最強の怪物。たとえ噴火に巻き込まれようとも何とかなっているという信頼がある。

 

 なので伝言に従い、このエリセンにて迷宮探査の前に合流するために待つことにしたのだ。

 

 ちなみに、この間に様々な出来事があった。

 

 エリセンから攫われたミュウが帰ってきて、そのミュウがパパと呼ぶハジメ()の登場。ミュウと母親であるレミアの再会、レミアによるハジメ()()の認知。「あらあら、まぁまぁ、うふふ」と微笑むそれは、既にハジメのことを()()だと認識しているような振る舞いだった。

 

 そして、海人族の男連中から嫉妬の目で見られたり突っかかれたり、ユエとシアかが不機嫌になってなだめたり、それを他三人は生暖かい目線で見ていたりと、ハジメは精神をすり減らしながら悠姫を待ち、迷宮探査の準備を進めていった。

 

 ちなみになぜ待つことにしたのかというと、手札の数だ。数百もの星辰光(アステリズム)を行使できる悠姫の力は、あらゆる状況に対応できる切札と言っても過言ではない。また、不死身という観点からも手法は数倍にも跳ね上がる。

 

 というのは建前で、単純に相棒を待ちたかったというのがハジメの本心である。

 

 しかし、エリセンに到着してからも三日、さすがにこれ以上ただバカンスを楽しむわけにはいかないなと思ってきたのも事実ではある。

 

 そして重い腰を上げようとしたのもつかの間、シアがウサ耳をピンを立てて町の方でと指さした。

 

「あ、皆さん! あっちに!」

 

 一行がその指の方向を見ると一人の男が立っている。黒い髪にたなびく外套、腰に差した一刀。

 

「「悠姫君ッ!」」

 

「主殿!」

 

「悪い、遅くなった」

 

 雫と香織、ティオの声に片手を軽く上げ、ひらひらと揺らしながら応えた。天津悠姫、パーティへの復帰である。

 




 細かい話や迷宮攻略は次話からです。
 前話のキャラは突発的に出したので、深い考えはありません。
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