年内の完結を目標に頑張っていきます。
「ユエさん、ハジメさんは」
「…ん、ハジメは大丈夫。だからこっちは、私たち二人で何とかする」
「はいです!」
ハジメがヴィクトルによって遠方へ飛ばされた、その直後だった。
魔人族の動きがはっきりと変わった。空を囲っていた飛行魔物が同時に間合いを詰め、地上では魔人族達が高速で詠唱をしている。
直後、夜天を埋め尽くすように、魔法が放たれた。
炎槍、水のレーザー、風刃、氷雪、石化の礫、雷、更にはダメ押しとばかりに極光と、属性の違う致死攻撃が上下左右から一斉に降り注ぐ。
魔人族六十人以上、魔物の数は百五十体以上。四方上下全てが敵。視界は攻撃の嵐で埋め尽くされている。
しかし、ユエもシアも、逃げ場のない死に囲まれながら焦りは一切なく、まして回避する素振りも見せずに佇んでいる。何人かの魔人族が「諦めたか…」と若干拍子抜けするような表情になったが、フリードだけは猛烈に湧き上がった嫌な予感に警戒心を一気に引き上げた。
「〝界穿〟」
ユエが神代魔法のトリガーを引く。
直後、二つの光り輝くゲートが飛来する極光の前に重なるようにして出現した。フリードは訝しそうに眉を潜める。あんな座標にゲートをつなげては、極光を空間転移させても、即座に戻って直撃すると。
だが、それはゲートが一対しかない前提での話だった。
ユエとシアが眼前のゲートに飛び込んだ意味を、フリードは即座に理解できなかった。そして、背後に新たなゲートが開いていることにも、気づくのが遅れた。
「しまっ、回避せよっ!!」
思い違いに気が付いたフリードが咄嗟に部下達に警告を発するが、時すでに遅し、だった。
フリード自身は回避が間に合ったものの、部下の多くは背後から極光に呑み込まれ、消滅した。
「おのれ、私に部下を殺させたな。…まさか同時発動出来るとは…まだ見くびっていたということか…」
瞳に憤怒を浮かべ、ゲートの二対同時発動という至難の業を実戦で成功させたユエにフリードは畏怖にも似た念を抱く。スクロールや魔法陣を用いた様子はなく、その正体が気なるところだったが、消えた二人を探さなければならない。
「フリード様! あそこにっ!」
フリードの部下の一人が外壁の外を指差す。そこには確かにユエとシアがいた。
真下に民家があっては下手な被害が起きる可能性もあり戦いづらかった。それに、フリード自身がユエ達との対決を望むなら、そのまま王都侵攻に踵を返すとも思えなかったので、外壁の外へ空間転移したのである。
もちろん、万一にもフリード達がユエ達を無視して王都侵攻を続行すれば、その背中を狙い撃つだけだった。
フリード達もそれがわかっているので、ユエ達に背を向けることはない。そして、遠目にユエが右手をフリード達に伸ばし手の甲を向けると指をクイクイと曲げる仕草をした時点で、魔人族達の怒りは軽く沸点を超えた。
明らかな挑発だが、見た目幼さの残る少女と、蔑む対象である兎人族の少女にしてやられて多くの戦友を失い、その上で「相手をしてあげる」という上から目線…自分達を優れた種族であると誇る魔人族の戦士達にとっては看過できない挑発だった。
「小娘ごときがぁ!」
「薄汚い獣風情が粋がるなぁ!」
そんな罵詈雑言を叫びながら、魔人族達が同時に襲いかかった。タイムラグのない致死性の魔法を連発するユエを警戒して魔物を先行させる。地上からも、大軍の一部がユエ達を標的に定め猛然と襲いかかってきた。
シアは、〝宝物庫〟に大量に保管している炸裂スラッグ弾を惜しむことなく連発する。シアの魔力が青白い魔力が波紋となって広がり、直後には衝撃波に変換されて破壊を撒き散らした。後に残るのは、轢死あるいは圧死でもしたかのようなひしゃげ、砕けた遺体のみ。
と、そこへ、白竜と灰竜から同時に吐かれたブレスが殺到する。直撃すれば身体強化中のシアといえどもただでは済まない破壊の嵐。しかし、シアが慌てることはない。
「〝絶禍〟」
シアの眼下にユエの放った黒く渦巻く球体が出現する。超重力を内包する漆黒の球体は、さながらブラックホールのように極光群の軌道を捻じ曲げてその内へと呑み込んでいった。
「くっ、あの時も使っていたな。…私の知らぬ神代魔法か。総員聞け! 私は金髪の術師を殺る! お前達は全員で兎人族を殺るのだ! 引き離して、連携を取らせるな!」
「「「「「了解!」」」」」」
どうやら、縦横無尽に飛び回りユエの前衛を務めるシアと、後衛のユエを引き離して各個撃破するつもりらしい。そうはさせじと、シアがユエの近くに退避しようとしたとき、特別大きな黒鷲に乗った魔人族が、巨大な竜巻を大黒鷲に纏わせて突撃してきた。
空中にいたシアは咄嗟にドリュッケンを振るって弾き飛ばそうとしたが、絶妙なタイミングで数人の魔人族が決死の覚悟による特攻に対応を割かれ、体勢を崩した。
流石にカウンターを放つ暇はなく、ドリュッケンを盾代わりにかざして防御体勢をとった。ドリュッケンのギミックが作動しラウンドシールドが展開される。
「貴様等だけはぁ! 必ず殺すっ!」
そんな雄叫びを上げながら金髪を短く切り揃えた魔人族の男が、ただ仲間を殺された怒りだけとは思えない壮絶な憎悪を宿した眼でシアを射貫きながら、彼女の構えたドリュッケンに衝突した。
押されるままにユエから引き離されそうになったシアは、体重を一気に増加させて離脱を試みるが、それを実行する前に背後に空間転移のゲートが展開されてしまった。ユエの方もフリードが空間魔法を発動する隙に攻撃されないように、魔人族達の無謀とも言える特攻を受けているところだった。
〝ユエさん! すみません! 離されます!〟
〝ん…問題ない。こいつは私が殺っておく〟
ゲートに押し込まれる寸前、シアは小さく笑みを浮かべた。その笑みを見て眼前の大黒鷲に乗った魔人族が再び憤怒に顔を歪めるが、シアは特に気にすることもなく、そのまま魔人族の男と共にゲートに呑み込まれてユエから引き離された。
「そのヘラヘラと笑った顔、虫酸が走る。四肢を引きちぎって、貴様の男の前に引きずって行ってやろう」
ゲートを抜けた先で、相対する魔人族の第一声がそれだった。どうも他の魔人族と違って、個人的な恨みあるようだと察したシアは、訝しそうに眉をしかめて尋ねてみる。
「…どこかで会いました? そんな眼を向けられる覚えがないんですが?」
「赤髪の魔人族の女を覚えているだろう?」
シアは、なぜそこで女の話が出てくるのか分からず首を捻る。しかし、魔人族の男はそれを覚えていないという意味でとったのか、ギリッと歯を食いしばり怨嗟の篭った声音で叫んだ。
「貴様等が、【オルクス大迷宮】で殺した女だぁ!」
「…ああ! あの人!」
「きざまぁ~」
明らかに今の今まで忘れてましたという様子のシアに、既に怒りのせいで呂律すら怪しくなっている男は、僅かな詠唱だけで風の刃を無数に放った。
「ちょっと、その人が何なんです? さっきから訳わからないです」
「カトレアは、お前らが殺した女は…俺の婚約者だ!」
「! ああ、なるほど…それで」
風の刃を何でもないように避けながら、シアは得心したように頷いた。
どうやら、目の前の男は【オルクス大迷宮】でハジメに射殺された(実際は生きている)カトレアが最後に愛を囁いた相手――ミハイルらしい。誰に聞いたのかは知らないが、ハジメが自分の婚約者を殺した事を知り復讐に燃えているようだ。シアやユエを殺してハジメの前に突き出したいのだろう。
「よくも、カトレアを…優しく聡明で、いつも国を思っていたアイツを…」
血走った目で、恨みを吐くミハイルに、シアは普段の明るさが嘘のような冷たい表情となって、実にあっさりした言葉で返した。
「知りませんよ、そんな事」
「な、なんだと!」
「いや、死にたくないなら戦わなければいいでしょう? そもそも挑んで来たのはあの人の方ですし。ハジメさん最初に警告してましたよ。俺達に投降しろって。愛しい人を殺されれば恨みを抱くのは当たり前ですけど…殺した相手がどんな人だったか教えられても…興味ないですし…あなたなら聞きますか? 今まで自分が殺してきた相手の人生とか、興味ないでしょう?」
「う、うるさい、うるさい、うるさい! カトレアの仇だ! 苦痛に狂うまでいたぶってから殺してやる!」
ミハイルは、癇癪を起こしたように喚きたてると、大黒鷲を高速で飛行させながら再び竜巻を発生させてシアに突っ込んで来た。ミハイルが更に詠唱すると、竜巻から風刃が無数に飛び出して、シアの退路を塞ごうとした。
シアは、ドリュッケンを振るって風の刃を蹴散らすと、そのまま体重を軽くして〝宝物庫〟から取り出した二枚の円盤を足場に大跳躍し、竜巻を纏う大黒鷲を避けた。
しかし、避けた先には、ミハイルとシアが話している間に集まってきた魔人族と黒鷲の部隊がいた。ミハイルの騎乗しているのが大黒鷲であることから、彼の部下なのかもしれない。
シアより上空にいた黒鷲部隊は、石の針を同時に射出した。それはまさに篠突く雨のよう。シアは、炸裂スラッグ弾を撃ち放ち衝撃波で針の雨を蹴散らす。
そして、空いた弾幕の隙間に飛び込んで上空の黒鷲の一体に肉薄した。ギョッとする魔人族を尻目に、ドリュッケンを遠慮容赦一切なく振り抜く。直撃を受けた魔人族は、骨もろとも内臓を粉砕させながら吹き飛び夜闇の中へと落ちていった。
シアは更に、勢いそのままに柄を伸長させて、離れた場所にいた黒鷲と魔人族も粉砕する。
「くっ、接近戦をするな! 空は我々の領域だ! 遠距離から魔法と石針で波状攻撃しろ!」
まるでピンボールのように吹き飛んでいく仲間に、接近戦は無理だと判断したミハイルは、遠方からの攻撃を指示する。四方八方から飛んできた魔法と石の針を激発による反動と円盤を足場にした連続跳躍で華麗に避け続けるシア。
しかし、中距離以下には決して近づかず、シアが接近しようものなら全力で距離をとる戦い方に、シアは次第に苛つき始める。そして、炸裂スラッグ弾だけでは手が足りないと判断し、新ギミックを〝宝物庫〟から取り出した。
それは直径二メートルほどの赤い金属球。金属球の一部から鎖が伸びており、シアはその鎖の先をドリュッケンの天辺についた金具に取り付けた。そして、重力に引かれて落ちかけた金属球を足で蹴り上げると、大きく水平に振りかぶったドリュッケンをその金属球に叩きつけた。
ガギンッと金属同士がぶつかる轟音と共に、信じられない速度で金属球が打ち出される。
標的にされた魔人族は慌てて回避しようとするが、突然、金属球の側面が激発し軌道が捻じ曲がった。その動きに対応できなかった魔人族と黒鷲は、重力魔法によって総重量十トンまで加重された金属球に衝突され、全身の骨を砕かれながら一瞬で夜空に散っていった。
敵を屠った金属球は、シアがドリュッケンを振るう事で鎖が引かれ一気に手元に戻ってくる。シアは、その間にも炸裂スラッグ弾を連発し、敵を牽制、あるいは撃ち滅ぼしていく。そして、戻ってきた金属球を再び叩き、別の標的に向けて弾き飛ばした。
そう、ドリュッケンに搭載された新ギミックとは、重量変化と軌道変更用ショットシェルが内蔵された〝剣玉〟なのである。
「うりゃりゃりゃりゃりゃ!」
シアが、そんな雄叫びをあげながら王都の夜空に赤い剣玉を奔らせ続ける。ぶっ飛ばしては引き戻し、またぶっ飛ばしては引き戻す。夜天を不規則に駆け巡る〝剣玉〟は、自身の赤だけでなく敵の血肉で赤く染まり始めた。
「おのれっ、奇怪な技を! 上だ! 範囲外の天頂から攻撃しろ!」
ミハイルが次々と殺られていく部下達の姿に唇を噛み締めながら指示を出し、自身は足止めのために旋回しながら牽制の魔法を連発する。シアは、それらの攻撃を重さを感じさせない跳躍で宙を舞うように軽く避けていく。
そうして、最後の一撃を避けた直後、頭上より範囲攻撃魔法が壁のごとく降り注いだ。
シアは、ドリュッケンを頭上に掲げると柄の中央を握ってグルグルと回し始める。猛烈な勢いで超高速回転するドリュッケンと剣玉は即席のラウンドシールドとなり、頭上から降り注いだ強力無比な複合魔法を吹き散らしていった。
「もらったぞ!」
頭上からの攻撃を防ぐことに手一杯と判断したミハイルが、シアに突撃する。大黒鷲の桁外れな量の石針を風系攻撃魔法〝砲皇〟に乗せて接近しながら放った。局所的な嵐が唸りを上げてシアに急迫する。
シアは、自由落下に任せて一気に高度を落とし、風の砲撃を避けた。ミハイルは予想通りだと口元を歪め、回避直後の落下してきた瞬間を狙って再度、風の刃を放とうとした。
しかし、標的を見据えるミハイルの目には、絶望に歪むシアの表情ではなく、虚空から現れた拳大の鉄球がシアの足元に落ちる光景が映っていた。
シアは〝宝物庫〟から取り出した鉄球を最大強化した脚力を以て蹴り飛ばす。豪速で弾き出された鉄球は、狙い違わずミハイルの乗る大黒鷲に直撃し生々しい音を立ててめり込んだ。
激痛と衝撃に大黒鷲が悲鳴を上げ錐揉みしながら落下する。ミハイルもまた、悪態を吐きなが苦し紛れに石針を内包させた風の砲弾を放ち、大黒鷲と一緒に落ちていった。
ようやく頭上からの魔法攻撃を凌ぎ切ったシアは、迫る風の砲弾をドリュッケンで弾き飛ばす。しかし、内包された石の針までは完全には防げず、いくつかの針が肩や腕に突き刺ってしまった。
「やったぞ! コートリスの石針が刺さっている!」
「これで終わりだ!」
石の針自体はそれほど大きなダメージではないのに、シアが石針を喰らった事で魔人族達が一様に喜色を浮かべている。
その事に怪訝そうな表情をするシアだが、その疑問の答えは直ぐに出た。針の刺さった部分から徐々に石化が始まったのだ。どうやら黒鷲はコートリスという名の魔物らしく、その固有魔法は石化の石針を無数に飛ばすことらしい。
普通は状態異常を解くために特定の薬を使うか、光系の回復魔法で浄化をしなければならない。今、この場にはシア一人なので、これで終わりだと魔人族達は思ったのだろう。仮に薬の類を持っていても服用させる隙など与えず攻撃し続ければ、そうかからずに石化出来るからだ。
そう思い勝利を確信した彼等の表情は、直後には唖然としたものに変わり、そして最終的に絶望へと変わった。
何故なら―――
「むむっ、不覚です。しかし、これくらいなら!」
そう言って、シアは刺さった針を抜き捨てると、少し集中するように目を細めた。すると、一拍おいて、じわじわと広がっていた石化がピタリと止まり、次いで、潮が引くように石化した部分が元の肌色を取り戻していった。そして、最終的には、針が刺さった傷口も塞がり、何事もなかったかのような無傷の状態に戻ってしまった。
「な、なんで!」
「どうなってるんだ!」
回復魔法が使われた気配も、薬を使った素振りも見せず、ただ少しの集中により体の傷どころか石化すら治癒してしまったシアに、魔人族達はその表情に恐怖を浮かべ始めた。それは理解できない未知への恐怖だ。
シアの傷が治ったのはどうということもない、再生魔法を使っただけである。相変わらず適性は悲しい程になく、自分の体の傷や状態異常を癒すくらいしか出来ない。
ユエの〝自動再生〟のように欠損した部分が再生したり、瞬時に重症でも治せたり、自動で発動したりもしない。外部の何かを再生することも出来ない。だが、多少の傷や単純な骨折、進行の遅い状態異常なら少し集中するだけで数秒あれば癒すことができ、時間をかければある程度の重症でも大丈夫だ。
魔人族達が絶望するのも仕方ないことだろう。圧倒的な破壊力に回復機能まであるのだから、攻略方法が思いつかない。シアを見る目が化け物を見るよな目へと変わっていく。
「さぁ、行きますよ?」
狼狽えて硬直する魔人族達の眼前にシアがドリュッケンを振りかぶった状態で飛び上がってくる。そして、振るわれた一撃で、また一人と魔人族が絶命していく。直後、残りの魔人族が恐慌を来たしたように意味不明な叫び声を上げて、連携も何もなくがむしゃらに特攻を仕掛けていった。
シアは、冷静に剣玉を振り回しながら、あるいは炸裂スラッグ弾を撃ちながら確実に仕留めて数を減らしていく。
いよいよミハイル部隊の最後の一人がドリュッケンの餌食となったその時、急に月明かりが遮られ影が一帯を覆った。
シアが上を仰ぎ見れば、暗雲を背後に、上空からミハイルが降って来るところだった。大黒鷲も限界のようで、上空からの急降下しかまともな攻撃が出来なかったのだろう。
「天より降り注ぐ無数の雷、避けられるものなら避けてみろ!」
ミハイルの叫びと同時に、無数の雷が轟音を響かせながら無秩序に降り注いだ。それはさながら篠突く雷。本来は風系の上級攻撃魔法〝雷槌〟という暗雲から極大の雷を降らせる魔法なのだが、敢えてそれを細分化し広範囲魔法に仕立て上げたのだろう。
急降下してくるミハイルを追い抜いて雷光がシア目掛けて降り注ぐ。
おそらく、確実に仕留めるために雷に打たれた瞬間に刺し違える覚悟で特攻する気なのだろう。いくら細分化して威力が弱まっている上にシアが超人的とは言え、落雷に打たれれば少なくとも硬直は免れない。
そして雷の落ちる速度は秒速百五十キロメートル。認識して避けるなど普通は不可能だ。ミハイルの眼にも、部下が殺られていく中ひたすら耐えて詠唱し放った渾身の魔法故に、今度こそ仕留めるという強靭な意志が見て取れる。
しかし、直後にミハイルは信じられない光景を見ることになった。なんと、シアが降り注ぐ落雷を避けているのだ。いや、正確には最初から当たらない場所がわかっているかのように、落雷が落ちる前に移動しているのである。
シアの固有魔法〝未来視〟その新たな派生〝天啓視〟。最大二秒先の未来を任意で見ることが出来る。〝仮定未来〟の劣化版のような能力だが、それより魔力を消費しないので、何度か連発できる使い勝手のいい能力だ。日々、鍛錬を続けてきたシアの努力の賜物である。
「何なんだ、何なんだ貴様は!」
「ただのウサミミ少女です」
全ての落雷を避けたシアは突撃してきたミハイルもあっさりかわし、すれ違い様に剣玉を振るった。そして、大きく円を描いてミハイルの周囲を旋回した剣玉は、その鎖をミハイルに巻き付かせて一瞬で拘束した。
「ぬぐぉお! 離せぇ!」
「放しますよぉ、お望み通りぃ!」
シアは、鎖に囚われたミハイルをドリュッケンを振るうことで更に振り回し、遠心力がたっぷり乗ったところで地面に向かって解放した。重量級の鉄塊が振り回されることで生み出された遠心力は凄まじく、ミハイルは隕石もかくやという勢いで地面に叩きつけられた。
咄嗟に、風の障壁を張って即死だけは免れたようだが、全身の骨が砕けているのか微動だにせず仰向けに横たわり、口からはゴボッゴボッと血を吐いている。
シアは、その傍らに降り立ち、ドリュッケンを肩に担いでミハイルに歩み寄る。ミハイルは、朦朧とする意識を何とかつなぎ止めながら、虚ろな瞳をシアに向けた。
その口元には、仇を討てなかった自分の不甲斐なさにか、あるいは、百人近い部下と共に全滅させられたという有り得ない事態にか、自嘲気味の笑みが浮かんでいた。ここまで完膚なきまでに叩きのめされれば、もう笑うしかないという心境なのかもしれない。
「…ごほっ、このっ…げほっ…化け物めっ!」
「ふふ、有難うございます!」
ミハイル最後の口撃は、むしろシアを喜ばせただけらしい。
最後に、視界を覆い尽くす大槌の影を見ながら、ミハイルは――まだ終わっていないと歯を食いしばった。
しかし、待てども衝撃がミハイルを襲うことは無かった。
ミハイルとシアの間に、一人の女性が立っていた。いつの間に現れたのかも分からない。シアに背を向け、両腕でミハイルを抱き寄せるようにして、その身体を庇っている。白く細い指が、震えながらもミハイルの背に回される。まるで、壊れ物を扱うかのような仕草だった。
白い肌色に、黒い髪。そうは見えないはずなのに、ミハイルは何故かその女性に愛する女性を幻視して―――
「……カ……トレ……」
掠れた声を漏らした直後、ミハイルの意識は途切れた。血を吐きながらも胸は微かに上下しており、命は辛うじて繋がっている。
シアはただ一瞥をして、ドリュッケンを肩に担ぎ直し静かに背を向ける。
「どうやら、ようやく私も化け物と呼ばれる程度には強くなれたようですね…ハジメさん達に少しは近づけたみたいです。さて、ユエさんの方は…」
シアは、かなり離されたユエのいる方を仰ぎ見る。そして、今ならまだフリードを一発くらい殴れるかもしれないと期待して、ユエと合流すべく一気に駆け出した。
良ければ感想、アドバイスなどいただけると嬉しいです。