ありふれない怪物は、やがて英雄へ   作:シロマダラ

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 サブタイトルを復活します。


第八十八話 ユエ無双

 

 天に輝く月が見えなくなるほどの灰竜の群れ。その数は優に百体は超えているだろう。その中心には胸元に傷を付けた白竜と、背に騎乗するフリード・バグアーの姿がある。

 

「悪く思うな。敵戦力の分断は戦いの定石だ」

 

 空間魔法〝界穿〟が作り出した転移ゲートの奥へと消えていったシアとミハイル。そして二人を追って飛んでいった黒鷲部隊を横目にフリードは宙に佇むユエに語りかける。

 

 風系統の魔法を使っている気配もないのに、夜天に浮かぶ月のように空に浮かぶその姿に、目を細めながら反応を伺うが、ユエは無表情のまま静かにフリードを見据えている。

 

「惜しいな。…女、術師であるお前では、いくら複数の神代魔法を持っていたとしても、この状況を切り抜けるのは無謀というものだろう。どうだ? 私と共に来ないか? お前ほどの術者なら悪いようにはしない」

 

 そんなフリードの勧誘に対するユエの反応はというと…

 

「…ふっ、生まれ直してこい。ブ男」

 

 何とも手厳しい、薄い警戒混じりの痛烈な皮肉の投げ返しだった。

 

 ユエの言葉を受けて、フリードの目元がピクリと引きつる。

 

「殉教の道を選ぶか? それとも、この国への忠誠のためか? くだらぬ教え、それを盲信するくだらぬ国、そんなもののために命を捧げるのか? 愚かの極みだ。ならば、我らの神〝アルヴ様〟の教えを知るといい。その素晴らしさにその閉じきった眼もッ!?」

 

 全くの見当違いをペラペラと話しだしたフリードに、ユエは神速の風刃を放つことで答えとした。

 

 夜風に乗って血飛沫が舞う。ユエの放った風刃はフリードの肩を浅く切り裂くに留まった。

 

 ユエは、怒りを宿した瞳で自分を睨むフリードに、冷めた眼差しを返す。そして、愚かな魔物の支配者に対し豪然と告げた。

 

「…御託はいらない。私達を嘗めた分、苦しんで死ね」

 

 その言葉を合図に、ユエを中心にして極寒の氷雪が夜空一面を埋め尽くした。

 

 瞬く間に巨大な竜巻へと発展したそれは、周囲の温度を一気に絶対零度まで引き下げ、月を覆い隠して上空を旋回していた灰竜達の尽くを凍てつかせた。

 

 竜巻を発生させる風系中級攻撃魔法〝嵐帝〟と広範囲を絶対零度に落とす氷系最上級攻撃魔法〝凍獄〟の複合魔法である。

 

 その身を傷つけることなく絶命した灰竜達は、地上へと落下すると地面に激突してその身を粉々に砕けさせた。赤い血肉の結晶が大地にコロコロと跳ね返り転がっていく。

 

「聞く耳を持たないか。仕方あるまい、掃射せよ!」

 

 一気に二十体近くの灰竜を落とされたフリードは、歯を食いしばりながら一斉攻撃の命令を下す。それにより、旋回していた灰竜達が一斉に散開し、四方八方上下、あらゆる方向から極光の乱れ撃ちを行った。

 

 幾百の極光はさながら流星雨のよう。中の術者を射殺さんと、吹き荒れる絶対零度の嵐を剣山の如く貫いた。氷雪の竜巻は宙に溶けるように霧散していき、散らされた氷雪が夜空一面を埋めた。

 

 そこに間髪いれず、目視した小さな敵に再び幾百の閃光が奔る。

 

 しかし、本来なら全てを消滅させる強力無比な死の光は、ユエを守るように周囲に漂う黒い星に次々と呑み込まれ、あるいは明後日の方向に軌道を捻じ曲げられて、ただの一つも届かない。

 

 ユエは、重力魔法を操作して更に高度を上げる。無数の極光に晒されながらも、その表情に動揺の色は微塵も現れない。

 

「ブレスが効かぬなら、直接叩くまで! 行け!」

 

 フリードの作戦変更命令に、灰竜達はタイムラグなど一切なく忠実に従う。竜の咆哮を上げながら、その鋭い爪牙で華奢な少女の肉体を引き裂かんと眼に殺意を宿して襲いかかった。

 

 波状攻撃を仕掛けるつもりなのだろう。ユエの周囲は直ぐに灰竜の群れによって灰色に埋め尽くされた。

 

 対するユエは、迫り来る竜達の殺意など微塵も気にせず、落ち着いた所作で瞑目していた。深く集中しているようだ。動かぬならばむしろ好都合と言わんばかりに迫った灰竜達が、その鋭い爪を伸ばし、強靭な顎門を大きく開ける。

 

 もはや逃れようのない死が到達するかと思われたまさにその時、ユエの眼がカッ! と見開らかれた。そして、その薄く可憐な唇が言葉を紡ぐ。

 

「〝斬羅(きら)〟」

 

 世界が一斉にずれた。

 

 割れた鏡のように、何もない空間に無数の一線が引かれ、その線を起点に隣り合う空間がずれているのだ。そして、その空間の亀裂に重なっていた灰竜達は、ズルっという生々しい音と共に空間ごと体を切断されて血飛沫を撒き散らしながら落ちていった。

 

 空間魔法〝斬羅〟。空間に亀裂を入れてずらす事で、対象を問答無用に切断する魔法である。悠姫の不死性でも復活には少し時間がかかるという、異常な性能を誇る防御不能の切断魔法である。

 

 周囲に集まっていた灰竜三十体以上が断末魔の悲鳴を上げる事すら出来ずに絶命する。フリードは、自分でも出来ない発動速度・展開規模での空間魔法の行使に戦慄の表情を浮かべる。

 

「なんという技量だ。…もしや、貴様も神に選ばれし者なのか! それなら、私の誘いに乗れぬのも頷ける」

 

「…冗談。私が戦うのは何時でも仲間のため。お前如きと一緒にしないで」

 

「……ふん、よかろう。もはや何も言うまい。貴様を殺して、あの男の前に死体を叩きつけてやろう。さすれば、多少の動揺は誘えよう。その時が、あの男の最後だ」

 

「…よく回る口。黙って行動で示せないの?」

 

 怒りを押し殺して告げた言葉に、薄い警戒を以て返されたフリードの額に青筋が浮かぶ。直後の返答はユエの言う通り、行動で示された。

 

 【グリューエン大火山】でも見た、肩に止まる小鳥型の魔物に指示を出すフリード。すると、王都の外壁を破り都に侵攻していた魔物の群れの一部がユエ達の方へと押し寄せて来た。地上からも攻撃をするつもりらしい。

 

 ユエは、灰竜達の極光を重力球で防ぎながら〝雷龍〟を召喚する。〝絶禍・改〟に溜め込んだ極光を迫り来るフリードと灰竜達に解き放ち牽制しながら、地上部隊を殲滅せんと雷龍を強襲させる。

 

 いつも通り、問答無用に顎門に吸い込み全てを灼き尽くす雷龍…のはずが、体長五メートルを超える六足の亀型の魔物アブソドによってその進撃を止められてしまった。

 

 アブソドは、以前、【オルクス大迷宮】でカトレアが連れていた、魔法を体内に取り込む固有魔法を持つ魔物だった。しかし、地上で雷龍を吸い込んでいるアブソドは、改良が加えられ更に強化されている。

 

 それでも、流石の雷龍というべきか。アブソドに呑み込まれながらも、その巨体を浮かせていき、少しずつではあるがその身を灼いていく。同時に複数属性の魔法を呑み込むことが出来ないという制限があるらしく、雷は呑み込めても重力魔法の方が呑み込めないようだ。

 

 徐々に浮かされていく体に焦ったように六足をばたつかせるアブソドだったが、その巨体が雷龍に攫われる前に、もう一体のアブソドが重力魔法を呑み込み始めた。流石に、二体の強化されたアブソドによる固有魔法〝魔力貯蔵〟の行使には雷龍も耐えられず、雷の体が取り込まれてしまう。

 

 その直後、圧縮されたそれぞれの魔法が、ユエに向けて発射される。

 

「…鬱陶しい」

 

 地上より発射された二条の砲撃が正確な狙いでユエを襲う。灰竜と白竜の極光を防ぐために重力球の守護衛星を全力で使っていたユエは、咄嗟に上空へ〝落ちる〟ことにより、それを軌道を読み切ってかわした。

 

「ふっ、貴様がその奇怪な雷系魔法を使うことは承知している。アブソドがいる限り、お前の魔法は封じたも同然だ」

 

 口元を歪めながら嗤うフリード。しかし、ユエは特に焦ることもなく、ジッとアブソドを観察すると、ほんの僅かな時間、何かを考えるように視線を宙にさまよわせ再び集中状態に入った。

 

「空間を裂く暇は与えんぞ!」

 

 白竜と灰竜がより一層苛烈に極光を放ち、地上からは空を蹴って黒豹型の魔物が迫った。

 

 極光の嵐を重力球で防ぐものの、ユエの意識の大半は別の魔法の構築に割かれており、その動きは精細さを欠いていた。そこへ、地上から黒豹がその姿を霞ませるほどの速度で迫り、無数の触手を射出し始め、極光を防ぐため動き回る重力球を掻い潜って鋭い爪を振るった。

 

 僅かな攻防の間に、夜空にユエの赤い鮮血が飛び散る。しかし、どれも浅い傷ばかりなので全く問題ない。

 

 血飛沫を上げたユエに、半ば勝利を確信して笑みを浮かべたフリードの表情は、目に見えて修復されていくユエの傷を見て驚愕に目を見開いた。

 

 ユエにとって真の防御力とは、〝自動再生〟による再生力である。欠損ですら再生できるこの能力にとって、血飛沫を上げる程度の浅い傷など無傷も同然なのだから。

 

「それも、神代の魔法か? 一体、いくつ修得しているというのだ!」

 

 全くハズレでもないのだが、ならば治癒が間に合わないほどの飽和攻撃をするまでと魔物達に全力の直接攻撃を命じる。そして、フリード自身も神代魔法のスクロールを懐より取り出した。

 

 だが、当然、先に集中状態に入ったユエの方が早く魔法を発動させる。ユエの強い意志の宿った瞳が見開かれ、閃光と咆哮の轟く空間に静かに声が響いた。

 

「〝五天龍〟」

 

 直後、暗雲が立ち込め雷鳴が轟き、渦巻く風が竜巻となって吹き荒れ、集う水流が冷気を帯びて凍りつき、灰色の砂煙が大蛇雲の如く棚引いて形を成し、蒼き殲滅の炎が大気すら焦がしながら圧縮される。

 

 その結果、王都の夜天に出現したのは五体の魔龍。それぞれ、別の属性を持ち、重力魔法と複合された龍である。凄まじい咆哮が五体の龍から発せられ、大気をビリビリと震わせる。

 

 巨体を誇り神々しくすらある魔龍に、灰竜達は本能が己の上位者であるとでも悟り、怯えたように小さく情けない鳴き声を上げた。その胸中にはユエに対する戸惑いと畏怖が刻まれ、主たるフリードに助けを求めるような視線を寄せていた。

 

 フリードもまた、非常識極まりない魔法の行使に白竜の上で眼を見開いて呆けるという醜態を晒していた。当然、その隙を逃すはずもなく、ユエは五天龍を地上へと強襲させる。

 

 雷龍が、最初にアブソドに突撃し再び喰らい尽くしてやろうと大口を開ける。僅かばかり取り込まれる雷龍だったが、先程とは異なり、雷龍の後ろから飛び出した蒼龍が、相対するアブソドを融解させていった。

 

「クァアアアアアアアアン!!」

 

 生きたまま甲羅から溶かされていく苦痛に、堪らず苦痛の声を上げて固有魔法を解いてしまったアブソドを放置して、雷龍は次の標的を狙う。それは、嵐龍を呑み込もうとしている別のアブソドだ。神鳴りを響かせながら雷龍の顎門がアブソドに喰らいつき身の端から灰に変えていく。

 

 また、少し離れたところでは氷龍がアブソドを凍てつかせ、石龍が周囲一帯を根こそぎ巻き込んで石化させていく。雷龍により解放された嵐龍は、身の内に蓄えた風の刃でアブソド以外の黒豹などの魔物共も微塵に斬り刻んでいく。

 

 流石に五天龍の行使はキツかったのか、額に大量の汗を浮かべて肩で息をするユエ。早々に地上のアブソドを片付けると、今度は上空の灰竜達に矛先を変えた。

 

 強力無比な竜の群れを従えるフリードに、同じく龍をもって挑むユエ。なすすべなく五天龍の餌食となっていく灰竜達の姿が、そのままフリードとユエの格の違いをあらわしていた。

 

 フリードは、ここに来てようやく理解する。自分がとんでもない化け物を相手にしてしまったことを。あの不死身の男や義手隻眼の少年だけでなく、眼前の少女もまた決死の覚悟で戦わねばならない相手だったのだと。

 

 故に、取り出したスクロールで放つこの魔法は、文字通り今のフリードの全力だ。

 

「〝震天〟!」

 

 周囲一帯の空間が激しく鳴動する。低く腹の底に響く音は、世界が上げる悲鳴のようだ。

 

 ユエ自身、知識にあるその魔法に警戒心を強め、すぐさま防御態勢を整えた。放たれる魔法は範囲が広すぎて回避は既に不可能なのだ。そして、並みの防御では、この魔法には一瞬も耐えられない。

 

 ユエは、五天龍と重力球を解除すると、即行で空間魔法を構築する。そして、ユエが驚異的な速度で空間魔法を発動したのと、一瞬収縮した空間が大爆発を起こしたのは同時だった。

 

 空間そのものが破裂する。そうとしか言いようのない凄絶な衝撃が、生き残りの灰竜や地上の魔物すら瞬く間に粉微塵に砕いて、大地を抉り飛ばし、天空のまだら雲すら吹き飛ばした。

 

 空間魔法〝震天〟。空間を無理やり圧縮して、それを解放することで凄まじい衝撃を発生させる魔法である。

 

「…んっ、流石…神代魔法」

 

 しかし、その衝撃の中心にいながらユエはしっかり生き残っていた。服が所々破けていたり、内臓を少しやられたのか口の端から血を流していたりしているが、空間そのものが砕け散ったかのような衝撃の中にいたにしては軽すぎるダメージだ。その軽傷も、一拍後には再生する。

 

 本来なら、文字通り跡形もなく消し飛ぶほどの威力があったのだが…

 

 その理由は、ユエが〝震天〟が効果を発揮する直前に、空間を固定する空間魔法〝縛羅〟を発動したためだった。例に漏れず消費コストは白目を剥きたくなるレベルだが、使い方によっては防御にも捕縛にも使える便利な魔法である。

 

 即行での展開だったのでは完全に空間を固定することが出来ず、ダメージを負ってしまったユエだが、〝自動再生〟による肉体の修復の他、再生魔法により衣服も修復したので、見た目、中身共に無傷である。

 

 周囲の全てが破壊された中、その中心で何事もなかったように佇む姿はその強さと相まって神々しくすらあった。

 

 だが、そんなユエの強さを疑わない者が一人、ユエの死角から強襲する。

 

「耐え切るとわかっていたぞ! 少女の姿をした化け物よ!」

 

 ユエの背後に開いたゲートを通り、極光を放ちながら白竜に騎乗したフリードが出現する。

 

 咄嗟に右側に〝落ちる〟ことで極光を回避するユエだったが、交差する瞬く間に襲いかかった白竜の顎門までは回避しきれず、肩まで一気に喰らいつかれてしまった。

 

 傷口から血が噴き出す。白竜はユエの片腕を噛み切らず、その鋭い牙を柔肌に喰い込ませたまま、ゼロ距離から極光を放とうとしているようだ。

 

 大魔法の連発で疲弊しきった様子のフリードが、今度こそ()ったと勝利を確信し歓喜で満ちた眼差しをユエに向ける。しかし、ユエの表情を見た瞬間、フリードの背筋を言い知れぬ怖気が駆け巡り、その眼差しは歓喜から恐怖に変わった。

 

 ユエの薄い桃色の口元が、三日月のようにパックリと裂けて笑みを浮かべていたからだ。その笑みには先ほどの神々しさなど皆無、荘厳さを示すものではなく魔性を表すものへと変わった。

 

 すなわち

 

――私に触れたな?

 

 と。

 

 ユエの口から落ち着いた所作で神代魔法の詠唱が紡がれた。

 

「〝壊刻〟」

 

 直後、一人と一匹の絶叫が夜空に響き渡った。

 

「ぐぅああああっ!!」

 

「クゥルァアアアン!!」

 

 白竜が身悶えした衝撃で、今度こそ腕を噛みちぎられたユエは、しかし、特に気にした様子もなく重力を操って天空へ上がった。そして、何事もなかったかのように再生された腕の様子を確かめながら、全身から血を噴き出して悶えているフリードと白竜を睥睨した。

 

「…どう? 私の仲間達から受けた傷は。痛い?」

 

「ぐぅうう! 貴様ぁ、これは…」

 

 無表情を崩し艶然と嗤うユエに対し、フリードは壮絶な痛みに歯を食いしばって耐えながら、鋭い眼光を返した。

 

 フリードと白竜の状態は酷いものだった。白竜は、胸元に大きく抉れ焼き爛れたような傷を抱え、更に全身から血を流しており、今にも墜落しそうな有様である。フリードに至っては、砕けた左腕をダランと下げ、内臓が傷ついているのか激しく吐血している。その他にも全身に大小様々な傷が付いており、まさに満身創痍といった有様だった。

 

 それらの全ては、かつて【グリューエン大火山】で相対した時に、悠姫達によって付けられた傷である。再生魔法〝壊刻〟――対象が過去に負った傷や損壊を再生する魔法だ。直接・間接を問わないが、半径三メートル以内でどこかに触れていなければならず、再生できる傷は、魔力に比例するという制限がある。

 

 ユエは、出来ることならこの魔法でフリード達を追い詰めたいと思っていた。この戦いは、あくまでユエの個人的な仕返しなのだ。【グリューエン大火山】では逃げられた挙句、あやうく噴火に巻き込まれて海の藻屑ならぬ溶岩の藻屑になるところだったのだ。愛しい恋人も「嘗められた借りを返さねぇと」と言っていたように、絶対ボコると誓っていたのだ。

 

 そして、再生魔法を【メルジーネ海底遺跡】で手に入れた時に、【グリューエン大火山】での一戦を思い出せるように、この〝壊刻〟を使ってやろうと思っていたのである。

 

 しかし、高速で飛べる白竜に乗ったフリードに追いついて、触れて、魔法を発動できるかは微妙だった。なので、適当にダメージを与えて墜としてから使ってやろうと思っていたのだが…わざわざフリード達の方から自分に触れてくれたのだ。ならば使わない手はないだろう。

 

「…今の私では…勝利を得られないということか。…かくなる上はっ」

 

「…させない」

 

 王手をかけられたと察したフリードが歯噛みし、ユエが止めを刺そうと片手を向けたその時、ユエに向けて地上から怒涛の攻撃魔法が放たれた。

 

「フリード様! 一度お引き下さい!」

 

「我らが時間を稼ぎます!」

 

 それは、王都侵攻に出ていた地上部隊の魔人族達だった。フリードの窮地を察して救援に来たらしい。

 

「お前たち! …くっ、すまん!」

 

 救援に来た魔人族達は、満身創痍のフリードと白竜を見て瞳に憤怒を宿し、防御など考えない特攻を敢行した。当然、そんな意気込みだけでユエを殺れるわけがない。しかし、フリードがゲートを開く時間だけはギリギリ稼げたようだ。

 

「…邪魔」

 

 フリードに逃げられてしまったユエは、喚きながら攻撃を繰り返す魔人族達を冷たく見下ろすと、先程フリードが解き放った空間魔法〝震天〟を発動し周囲一帯を纏めて爆砕した。八つ当たり気味に瞬く間に殲滅を完了したが、ユエの表情には少しの苛立ちが見て取れる。鬱憤は晴れなかったらしい。

 

 ユエが、何とか気持ちを落ち着けようと深呼吸をしていると、戦場には似つかわしくない明るい声が響き渡った。

 

「ユエさ~ん! まだ、あの野郎は生きてますかぁ? 生きてたら一発殴らせ…うわぁ~何ですか、ここ? 天変地異でもあったんですか?」

 

 空に浮く円盤を足場に跳躍してきたシアが、呆れたような声音で周囲を見渡しながら尋ねた。

 

「…逃げられた」

 

 不機嫌そうなその一言で大体の事情を察したシアは、フリードの意外なしぶとさに内心驚きつつ、苦笑いしながらユエを宥める。

 

 そして、失った魔力を補充していると、離れた位置の一角で建物の崩壊が相次ぎ、宙を跳ぶ二人分の人影が小さく見えた。

 

「「ハジメ(さん)」」

 

 二人の答えはばっちり同じらしい。

 

「ハジメさんの援護に行きましょう」

 

「…ん」

 

 未だにヴィクトルと交戦しているハジメの援護に向かうべく、ユエとシアは共にハジメの元に向かった。

 




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