それでは本編
目が覚めた、布団が寝汗でびっしょりだ。
嫌な夢を見ていたような感覚が残っているがどんな夢だったのか思い出せない、だがこれだけの寝汗をかくほどの夢なのだ、きっとろくでもない夢だったのだろう。
朝から目覚めが悪い、別に飲み過ぎたり夜遅くまで仕事してた訳じゃないのだがな。
原因は分からないがとにかく今日は体が重く感じる。
私は布団のシーツを剥がし、部屋の隅に置く。シャワーを浴びるため私はシャワー室に向い、まだ起床時間前の静かな廊下を歩く。
運動していないのに全身汗だくで、さながら全力疾走でもしてきたかのような発汗量、さらに少し鼓動も早い。
思い出すことは出来ないが、其れ相応の悪夢というものを私は見たのだろう。
涼しく風通しの良い廊下を歩き汗が引いていくのを感じる。
完全に汗が引ききる頃にはシャワー室に着いていた。まだ起床時間前ということもあって半裸で廊下を歩いても誰とも鉢合わせすることなく無事に到着した。
勿論先客もいるわけでもなく、静まり返ったシャワー室。何処か新鮮さを感じ、それでいて懐かしさを感じてシャワーを浴びる。この鎮守府に来た当初は人も少なく、シャワー室を使用する人が少なかったことを思いだす。
今では大所帯となった我が鎮守府。前線基地として我々は日々奮闘している。
皆、良く戦ってくれている。
日に日に強くなる彼女達を私は羨ましく思う。
私は所詮指揮を取り、管理することしか出来ない。戦場での動きも断片的にしか分からない、結局現場の判断に任せっきりになってしまう事が多い。
私以上に彼女達は優秀だ、私がいなくてもやっていけるぐらいに......。
そんなことを思いながら私はシャワーを浴びる。
お湯ではなく冷たい水を全身に浴びる。冷たい水で汗を流し、備え付けのシャンプーとボディソープで体を洗い、また、冷たい水で体を流す。
火照った体が冷水によって冷やされ、少し肌寒いが今はこれがちょうどいい。早かった鼓動も治まり汗で汚れた体も綺麗になりさっぱりとしたいい気分だ。
私は持ってきていた着替えに身を包み今の時間を確認する。
「0543」
中途半端な時間だがそろそろ皆が起きて点呼を受ける時間になる。私も皆の健康状態などの報告を受けねばならない為執務室に戻らねばならない。
だがその前に私を起こしに、今日上番の秘書艦である大井が私の私室に来るだろう。まずは私室に戻って物の準備や今日やるべきことを確認しなくてはな。
「0550」
私室に戻り書類等の準備を進めてるとノックの音が聞こえた、大井が私を起こしに来たのだろう。
コンコン「大井入ります」
そう言って彼女は入ってきた。
「あら、提督。今日は随分と早起きなのですね。」
「……たまたまだよ…。」
いつもの憎まれ口ではあるが流石に今は本当に驚いている様子だった。
それもそのはず、いつもなら私は起こされて起きるタイプなので、秘書艦が起こしに来る前に私が起きていること自体稀なのである。
「0610には各艦種ごとに今朝までの健康状態の報告が代表者によって行われるのでいつでも電話が取れるように執務室においでくださいね。私は先に執務室で待ってますので。」
「あぁ、そうする。」
「それでは先に失礼します。」
いつものやり取りが終わり大井は部屋を後にする。
私も起床のラッパが鳴ったのを確認し私室を後にする。
執務室に到着しドアを開け入室すると大井がコーヒーを淹れ、書類の整理をしていた。
私が来たのを確認すると「あら、遅かったですね。」とぼやきながらも淹れたコーヒーを出してくれる。
それに私は「ありがとう。」と短くお礼を返し席に着く。
大雑把に今日の予定を頭に入れ、今日の仕事配分を考え、出撃の編成を確認し妖精さん達から届いていた装備の整備状況や程度などが記載された書類に目を通す。
そうこうしているうちに点呼の時間が過ぎ、執務室に電話の音が鳴り響く。
私は皆の健康状態等を掌握し、今朝までに体調不良者がいないことを確認し朝食を食べるため執務室を後にし、大井と共に食堂へ向かう。
食堂へ入るとガヤガヤと混雑しているが各々グループに別れて食事をしている。私が来たのを見ると皆元気に挨拶してくる、なので私も「あぁ、おはよう。」と挨拶を返す。
大井には「もう少し元気に返せないのですか?」と横腹を突かれたが、そんな彼女は私に笑顔を向けていた。
「提督が挨拶を返すなんて、今日は朝から珍しい事ばかり起きますね。」
少しムッと思ったが、昔からの付き合いだから彼女がそう感じたのならきっとそうなのだろう。私が挨拶を返すのはきっと珍しい事……。
「いや、それは流石にないだろう。私だって挨拶されたら返す。」
だが流石にムッとしたので取り敢えず反論してみた。
だが彼女はその答えに目を丸くしながら「提督は挨拶をされても手を上げて返してくるか頷くくらいしかしませんよ。」と意地悪な目つきで返してきた。
この辺はなんだか北上や球磨と少し似ている。
朝食を済ませまた執務室に戻る。
出撃や遠征していく艦娘達の報告を受け、見送り、私の一日が始まる。皆の安全を、無事に帰ってきてくれと願いながら、今日という一日を始めていく。
いつ誰がどこで死ぬかわからない前線に一番近い基地、いつだって死ぬ可能性を持ちながら私達は生きている。どこよりも戦場に近い場所、敵とは目と鼻の先、手を伸ばせば届きそうな、そんな場所に私達の基地はある。
少ない補給物資、ほぼ自給自足のような生活。この現状は私の力不足が生んだ状況だ。
この生活に皆よく我慢し頑張ってくれている。
国のために。
仲間のために。
苦汁を飲み、耐えている。
皆には本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
我が鎮守府に揃うは国唯一の精鋭部隊にして、最強の艦隊。
しかし本部の人間ははこの島のことを『ハズレ』と呼んでいる。
こんな呼ばれ方をしていると皆が知ったらどう思うだろうか、想像もしたくない。
自分達が捨て駒扱いされているも同然の扱いを受けていると知ったら彼女達は……。
それでも私は彼女達の支えになっていかなければならない、私が彼女達の心の支えに。
出撃していった者たちを見送り、その姿が見えなくなったのを確認して私は自分の業務に取り掛かる。
執務室に戻る途中、後方から声が聞こえる。
「あら提督、今のお戻りてますか?昨晩はよく眠れましたか?」
澄んでいて綺麗な声。
「今朝は良い目覚めでしたか?」
すぐにわかった。それもそのはず、毎日聞く声なのだから。
「人生で一番最悪な目覚めだったよ、明石。」
「そうでしたか…、まぁでも実験は成功のようですし。」
実験?一体何の事なのかと、質問を返そうとしたが彼女は続けてこう言った。
「それでは提督にはもう一度死んでもらいましょう。」
彼女の言葉にはっとなる。後ろを振り向き彼女を見ると拳銃を構えこちらに銃口を突きつける姿が見えた。思考が止まり一瞬だが体の動きが止まる、世界が私と共にゆっくりと動いてるようにさえ感じた。
私は力を振り絞り体を前に出し明石に静止を呼びかけるが…。
「やmズガァーン!!!!!
鎮守府に響き渡る銃声、飛び散る血飛沫。提督は綺麗に頭だけ吹き飛び首から下の骸になった、首から吹き出る血によってその足元には血溜まりが形成されていく。
やがて提督だった体はその血溜まりに糸の切れた人形のように崩れ落ち、真っ白な軍服が真っ赤に染まる。
銃声を聞きつけ鎮守府中の艦娘達が続々と集まってくる、しかし彼女達が発した言葉は提督の死を惜しむ言葉や嘆く言葉ではなく、嘲笑や侮蔑の含まれた言葉だった。
「あら、先を越されてしまったわね。」
「いやぁ〜実験が成功したって思ったらいても立ってもいられなくてですねぇ。」
先に口を開いたのは大井だった、心底残念そうに自分が提督を殺せなかったことを嘆く。
「だからってこんなあっさりと殺す必要はなかったんじゃない?私だって狙ってたのに。」
「早いもの勝ちですよ。」
嬉々として答える明石、異様に見えるその光景も今や誰も不思議には思わない。誰もが自分が提督を手にかけれなかったことに悔やんでいた。
「やはり先にコーヒーに毒を盛っておくべきだったわ。今日が秘書艦だったから少し浮かれてた。」
「何事も先手ですよ。」
「さて、この肉片を回収して復元しないと。明日からまた使っていきますからねぇ。」
と、明石は胴体のみとなった提督の体を見つめながらにやけた顔で言う。
「よろしく頼むわよ、それで?次はどうするの。」
「次は今日の記憶を残したまま復元してみたいと思います。今日の提督は昨日の記憶を抹消しましたのであまり良い反応がなかったですからね。」
「細かい反応を見る前に殺ったのは貴女でしょう、でもそうなったら明日からの彼の反応が楽しみね。」
「えぇ、そうですね。」
「さて彼は明日から一体誰に、どのようにして殺されるのでしょうね。」
明石は周囲にいた艦娘達を見て語る、次は貴方達の番だと。
艦娘達の目には明らかな殺意が宿っていた。次は自分が殺ってやると言う気持ちを胸に抱き、その場を後にする。そして明石は提督の体を抱えあげ、工廠に向かうのだった……。
提督の死に方、殺され方、誰に殺されたかなどをTwitterの方で募集していこうと思います。