―side:Magna Convoy―
私達はガンホーMk-2のブリッジにてケインズ達から話を聞いていた。
「なるほど…やはり魔人族は帝国と樹海にも手を出していたか」
「はい、帝国の詳細は分かりませんが、樹海の方は強力な魔物の群れにやられました。あらかじめ作っておいたトラップ地帯に誘導できた事とゾイドがなかったら我々は負けていたかもしれません」
ケインズによると樹海にも魔人族が魔物を引き連れてやって来たらしい。
樹海は大迷宮の一つとして名が通っており、魔人族軍が神代魔法の獲得を狙っている以上、当たり前と言えば当たり前だろう。
フェアベルゲンの戦士達は当然ながら樹海に侵入した魔人族達を許すはずもなく、最大戦力をもって駆逐しに向かったのだが、魔人族軍が引き連れた魔物達は樹海の中でも十全の戦闘力を発揮し、亜人族と樹海の魔物以外は感覚を狂わされ、視界を閉ざされる濃霧の中でなら楽に勝てると思われた当初の予想は、あっさり裏切られることになった。
そう、ゾイドだ。ゾイドと地の利によって互角に張り合っていたのだが、魔物の中にいた白い金属の外殻を持つ魔物…おそらくジーオスと思われる魔物に苦戦を強いられた。
「その魔物はカム殿のギルラプターで討伐されましたが、ギルラプターも損傷が酷く、今は修理中です」
「そして他の機体も修理中の中で帝国か…」
フェアベルゲンは若干の被害を出しつつも魔人族の首を落とし、魔物の殲滅に成功したのだが、事態はそれだけでは終わらなかった。
地の利とゾイドの存在もあって勝利はしたが、その被害は甚大だった。ゾイドも大半は修理中、ラプトールとクワガノスの中から損傷が軽い物を早急に修理して警備に就かせたが、それでも樹海の警備に人を回せるような余裕はなく、復興と死者の弔い、負傷者の看病で手一杯だった。
そして、その隙を突くように、今度は帝国兵が人攫いを目的に樹海へと侵入してきたのである。
各自が戦後処理に追われる中、気が付くのが遅れてしまい、多数の亜人族が抵抗をする余裕もなく攫われてしまった。カム達がそれに気がつき、帝国兵の一人を攫って尋問した結果、どうやら帝国でも魔物の襲撃があったらしく、復興のための労働力確保と消費した亜人族の補充の必要性から樹海に踏み込んだのだそうだ。
女子供も拐われた事から慰め目的もあるのだろう。
ケインズ達は仲間を樹海の警備のためにおいて、カム率いる少数部隊が帝都へ向かう輸送馬車を追ったのだが、帝都に着いたあたりでカム達からの連絡が途絶えてしまい、時間になっても伝令役と待ち合わせている場所に姿を見せなかった。
何かあったのではと考えたケインズは樹海に残った者達の中から何人か選抜して帝国へ斥候に出したのだが、どうやらカム達は帝都に侵入したまま出て来ないようだとわかったのだ。
その後、帝都に侵入してカム達の現状を知るべくパル達が警備体制などの情報収集をしていたところ、大量の亜人族を乗せた輸送馬車が他の町に向けて出発したという情報を掴み、ケインズは修理が完了したラプトールやクワガノスと共にパル達の班に合流し、情報収集も兼ねて奪還を試みたというわけである。
「しかし銃士様、"も"ということは、もしや魔人族は他の場所でも?」
「ああ、あちこちで暗躍している。先日もハイリヒ王国で大規模な襲撃があったばかりだ。まぁ、大体の事情はわかったが、これからどうするつもりだ?」
「パル達は引き続き帝都でカム達の情報を集める事になっており、自分は一度フェアベルゲンに戻って現状報告を行う事になっています」
「わかった。どうせ道中だから捕まってた者達を連れて樹海まで一緒に戻るか」
「有難うございます、銃士様」
私達はガンホーMk-2を帝都から少し離れた場所に移動させるとパル達とリリアーナ達を降ろし、フェアベルゲンに向かって飛ばした。
短い時間だったが、メルド団長とケインズは話をしたらしく、意気投合したようだ。
こうして到着したハルツィナ樹海は以前となんら変わらず一寸先を閉ざすような濃霧に覆われており、私達がそれぞれ見失って離れ離れにならないよう以前と同じく亜人達が周囲を囲むようにして先導してくれている。
一時間ほど歩いているとハジメの傍らを憂い顔で歩くシアのウサミミがピコピコと反応し、ハッと顔を上げたシアは霧の向こうを見通すように見つめ始めた。
「武装した集団が正面から来ますよ」
周囲の亜人族は驚いたようにシアの方を向いた。その中には攫われていた兎人族も含まれており、どうやら自分達ではまるで察知できない気配をしっかり捉えているシアに驚いているようだ。
そのシアの言葉の正しさを証明するように、霧をかき分けて見覚えのある武装した虎耳の集団が現れた。全員が険しい視線で武器に手をかけているが、彼等も亜人族が多数いる気配を掴んでいたようで、いきなり襲いかかるということはなさそうだ。
リーダーらしき虎人族の視線はケインズに向けられた。
「ケインズ、無事で良かった」
「ありがとうございます、ギル隊長殿」
その虎人族の隊長もといギルは私達に視線を向けて驚いていた。
「お前達は、あの時の…今度は一体…って、アルテナ様!?ご無事だったのですか!?」
「あ、はい。彼等に助けて頂きました」
アルテナの助けてもらったという言葉にギルは安堵したのか深い溜息をついた。
「それはよかったです。アルフレリック様も大変お辛そうでした。早く、元気なお姿を見せて差しあげて下さい。銃士殿、感謝する」
「気にするな。直接助け出したのはケインズ達だ」
嵐、ティオ、鈴、八重樫、坂上は疑問顔になり、シアがこっそり何があったのかを簡潔に説明すると、納得顔を見せ、ギルは部下達に武器を収めさせて先導を務め始めた。
辿り着いたフェアベルゲンは、大きく様変わりしていた。まず、威容を示していた巨大な門が崩壊しており、残骸が未だ処理されずに放置されたままで、幻想的で自然の美しさに満ちた木と水の都は、あちこち破壊された跡が残っており、木の幹で出来た空中回廊や水路もボロボロに途切れてしまって用をなしていなかった。
「酷い…」
宮古の呟きに私も全く同感だった。フェアベルゲンそのものも、どこか暗く冷たい風が吹いているようで、どんよりした雰囲気を漂わせていた中、通りがかったフェアベルゲンの人々がアルテナ達を見つけると信じられないといった表情で硬直した後、喜びを爆発させるように駆け寄ってきた。
傍に
次第に私達を囲む輪は大きくなり、気が付けば周囲はフェアベルゲンの人々で完全に埋め尽くされていた。しばらくその状態が続いたあと、不意に人垣が割れ始め、アルフレリックが姿を現した。
「お祖父様!」
「おぉ、おお、アルテナ!よくぞ、無事で…」
アルテナは目の端に涙を溜めながら一目散に駆け出し祖父であるアルフレリックの胸に勢いよく飛び込み、周囲の人々も涙ぐんで抱きしめ合う二人を眺めている。
アルフレリックは孫娘と抱き合った後に離し優しげに頭を撫でると、私に視線を向けて苦笑いが浮かべた。
「…とんだ再会になったな、頼尽碧刃。まさか、孫娘を救われるとは思いもしなかった。縁というのはわからないものだ。…ありがとう、心から感謝する」
「私は送り届けただけだ。直接助け出したのはケインズ達た」
「その彼らを救ったのは貴殿達だ。貴殿のなした事が巡り巡って孫娘のみならず我等をも救った。それが事実だ。この莫大な恩、どう返すべきか迷うところでな、せめて礼くらいは受け取ってくれ」
その後、私もハイリヒ王国で魔人族の大規模な襲撃があった事やアンカジでの一見をアルフレリックに伝え、更にアルフレリック達は魔人族が使役していたという金属の外殻の魔物の頭を見せてくれた―やはり件の白いジーオスだった。
「ケインズ、今すぐ動けるのは何人くらいだ?」
「現在、待機中かつ実戦可能なのは総勢122名になります」
「それくらいなら全員一度に運べるな。ケインズ、帝都に行く者達を選抜しておけ。私が全員まとめて送り届けてやろう」
「はっ!?り、了解しました、直ちに!」
ケインズは一瞬何を言われているのか分からなかったようで間抜け顔で聞き返したが、直ぐに私達が帝都に同行してくれるという意味だと察して、仲間を引き連れて動ける者達を呼びに急いで出て行った。
ハジメの傍らにいるシアは驚いているのかその大きな瞳をまん丸に見開き、ウサミミをピンと立てて私を凝視している。
「あ、碧刃さん…大迷宮に行くんじゃ…」
「カム達のこと気になってんだろ?」
「っ…それは…その…でも…」
シアは私に図星を突かれたのか口籠る。
カム達は連れ去られたというわけではなく、自分達から向かったのだ。何かあっても自己責任であり、シア自身も私達に付いて行くと決めたのだから、カム達はカム達の道を、シアはシアの道を進むべきだろう。
しかし、それでも家族の行方が分からないと知れば、心配する気持ちは自然と湧き上がるもので、そう簡単に割り切れるものではないのも理解している。
それが憂いとなって顔に出ていたからシアの心情は筒抜けだった。
宮古は余計な手間を取らせていると恐縮して口籠るシアの傍に寄り、そっとその頬を両手で挟み込んだ。
「ふぇ?」
宮古の突然な行動にシアがポカンと口を開けて間抜け顔を晒す。そんなシアに宮古は可笑しそうに笑みを浮かべながら、真っ直ぐ目を合わせて言い聞かせるように言葉を紡いだ。
「シアに憂い顔は似合わないよ。
「で、でも…」
「でもじゃない。何を今更、遠慮なんてしてるのよ?いつもみたいに、思ったことを思った通りに言えばいいのよ」
「初めて会った時の図々しさはどこにいったんだい?僕達が通りかかった時に『買ってください、御願いします』ってアピールしてたのに」
「…貴女が笑ってないと、私達の調子が狂う」
「宮古さん、優花さん、ハジメさん、ユエさん…私、父様達が心配ですぅ。…一目でいいから、無事な姿を見たいですぅ…」
「全く、最初からそう言えばいい、です」
「今更、遠慮なんてするから何事かと思ったよ」
「わ、私、そこまで無遠慮じゃないですよぉ!もうっ、ほんとにもうっですよぉ!」
という訳で私達も帝国に向けて出発する準備を進める。そんな中で八重樫と坂上は意外そうといった表情で私達を見ている。
「ん、どうしたんだ?」
「いえ、頼尽君の事だから勝手にしろって言うと思ったわ」
「あぁ、自分達の問題は自分達で解決しろってな」
「その事か…別に私は方針を変えた訳じゃないし変える気はない。戦争などこの世界の人々の問題はこの世界の者達で解決しないと意味がない、私達が介入しても本当の意味での解決とはならないからな。
しかし、送り届けたり無事を確認したりするくらいなら問題はないからするさ」
と私は二人にそう答えるのだった。
こうして私達は再びヘルシャー帝国へ足を踏み入れた。
帝都は徹底的に実用性を突き詰めたような飾り気のない建物が並んでいる一方で、後から継ぎ足し続けたような奇怪な建物の並ぶ場所もある。ストリートは、区画整理なと知らぬと言わんばかりに大小入り乱れ、あちこちに裏路地へと続く入口がある。
雰囲気もどこか張り詰めたような緊張感があり、露店を出している店主達ですらその接客っぷりはお客様第一という考えからは程遠いが、決して暗く淀んでいるわけでも荒んでいる訳でもなく、皆それぞれ自己責任でやりたい事をやりたいようにやるという自由さが溢れているような賑やかさがあった。
「話には聞いてたけど、あんまり肌に合わないかな…ある意味、召喚された場所が王都でよかったよ」
「まぁ、軍事国家じゃからなぁ。軍備が充実しているどころか、住民の多くが戦闘者なんじゃ。この程度の粗野な雰囲気は当たり前と言えば当たり前じゃろ。妾も住みたいとは全く思わんがの」
と鈴とティオは帝都がお気に召さなかったようである。無言ではあるが、ユエも同意するように頷いており、やはり女性には余り好かれない国なのかもしれない。
特に、シアにとっては、目に入るものが亜人族の奴隷達いちいち心を抉るのだから尚更だ。
「シア、余り見るな。…今はカム達の方が最優先だ」
「…はい、そうですね」
使えるものは何でも使う主義の帝国は奴隷売買が非常に盛んであり、今もシアが視線を向けている先には値札付きの檻に入れられた亜人族の子供達がおり、シアの表情を曇らせている。
今回の一件が片付いたら彼らを購入してフェアベルゲンまで送るのだが、シアとしては早く助けたいのだろう。
「そう言えば、シズシズって皇帝陛下に求婚されたよね?」
「…そう言えば、そんな事もあったわね」
八重樫は思い出したくなかった事を思い出したのか顔をしかめ、他の女性陣は「ほぉ~」と、どこかニヤついた表情で八重樫を見て、八重樫はその視線に更に顔をしかめた。
「そんな事より、頼尽君。具体的に何処に向かっているの?」
「取り敢えず冒険者ギルドだ。"金"を利用すれば大抵の情報は聞き出せる」
「彼等が捕まっていると考えているの?」
「わからないな。捕まって奴隷に堕とされている可能性もあるし、何処かに潜伏している可能性もある。帝都の警備は以前訪れた時より厳戒態勢とまではいかないが異常なレベルだ。入ったのはいいが出られなくなったってこともあるだろう」
魔物の襲撃があったことが原因で、未だ厳戒態勢とまではいかないまでも高レベルの警戒態勢を敷いているのか帝都の警備は以前訪れた時と比べて過剰と言っても過言ではないレベルであり、入場門では一人一人身体検査までされた上、外壁の上には帝国兵が巡回ではなく常駐して常に目を光らせ、都内でも帝国兵は最低3人1組となって大通りだけでなく裏路地までしっかり目を通しているように巡回している。
これではパル達も未だ隙を窺って侵入出来ずに苦労しているのも無理はない。
私達が運んできた者達は現在のところ目立たないように帝都から離れた岩石地帯に潜伏しているのだが、寧ろカム達がどうやって侵入したのか不思議なほどだ。
気配操作に関しては亜人族随一だった兎人族を綾波は以前フェアベルゲンに滞在していた際にシアへの鍛練を時々脱け出してはカムを筆頭とする志願者達に絞ってではあるが鍛え上げ、カム達はおそらくその後もそれを磨き続けてきたのだろう。
ならば人の出入りは厳しくとも、何らかの方法で外に伝言を送るくらいは出来るだろうが、それすら出来なかったという事は、捕まっていて身動きがとれないと考えるべきだ。
冒険者ギルドにカム達の情報がそのままあるとは思っていないが、それに関わるような事件や噂があるのかもしれない。
そう考えながら冒険者ギルドに向かってメインストリートを歩いていると、前方の街の建物が所々崩壊していたり、その瓦礫が散乱していたりしていた。
話を聞くにコロシアムで決闘用に管理されていた魔物が突然変異し見たこともない強力かつ巨大な魔物となって暴れだし、帝国は都市の中心部に突如出現した巨大な白い金属の外殻の魔物―おそらくジーオスと思われる存在に対して後手に回り、いい様に蹂躙されたらしい。
更に魔人族はその機に乗じて一気に皇帝に迫ったらしいが、その皇帝は自らの出陣し、何とか魔物も魔人族も退けたらしい。尤も街の様子を見る限り代償は大きかったようであり、瓦礫などの撤去に裸足の亜人奴隷達が大勢駆り出されていた。
冒険者ギルドは、その崩壊が激しい場所の更に向こう側にあるので否応なく通らなければならず、自然、彼等の姿を視界に入れることになる。武装した帝国兵の厳しい監視と罵倒の中、暗く沈みきった表情で瓦礫を運ぶ様は悲惨の一言で、これほど酷使していればいくら肉体的ポテンシャルの高い亜人族と言えど倒れる者は続出するだろう。
樹海へ襲撃したのも倒れた彼等を回復させるよりも新調したほうがいいという、まさに亜人を人と認めないか単に"弱者"を認めない実力至上主義の価値観からだろう。
「光輝を連れて行かなくて正解ね。絶対に亜人達を助けだそうとして帝国兵に突っ込んでいこうとしたでしょうね」
「あぁ、そうだな。あいつならやりかねない」
「確かに酷い扱いではあろうが、奴隷制度はこの世界では当たり前のことで、此処で奴隷にされている亜人族を助ける事は他人の"所有物"を盗むのと変わらないから一般的には"悪い"ことだ。
今、購入された奴隷達を力尽くで助けたとしても、後に帝国からの報復や亜人族捕獲活動が激化し、更なる地獄になるだろう。
"それでも"と思うなら、二度と亜人族を奴隷にさせない方法を確立させ、帝国そのものを敵に回して戦う覚悟が必要だ」
と私は八重樫と坂上に自身の考えを告げ、帝都の冒険者ギルドに到着するなり足を踏み入れるのだった。
To be continue
マグナコンボイの強化について(1の場合、マグナコンボイ自体の外見はそのまま)
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1:マトリクスソード進化
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2:G2バトルコンボイ型へリフォーマット