青き銃士と戦女神(ヴァルキリー)   作:衛置竜人

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第42話『囚われのハウリア』

 

 

―side:Magna Convoy―

 

 

私達がギルドの中に足を踏み入れると、毎度お馴染みの綾波達に対する不躾で下卑た視線が集中し、私は"威圧"を初っ端から発動しつつカウンターへ向かう。

流石、飲んだくれていても軍事国家の冒険者というべきだろうか、気絶せず一斉に酔いが覚めたように警戒心を露わにする。

 

カウンターの受付嬢は用があるならさっさと言えと言わんばかりに気怠そうでやる気無さそうな表情で私を見返すだけだ。

「情報をもらいたい。ここ最近、帝都内で騒動を起こした亜人がいたりしなかったか?」

受付嬢は相手をするのが面倒になったのか、それともそれが正規のシステムなのかバーカウンターの方を指差す。

「…そういう情報はあっちで聞いて」

受付嬢が指差した方角を向くと、ロマンスグレーの初老の男がグラスを磨いている姿があった。

あかりやヴェル、ハジメはこういった異世界で情報収集は酒場と言っていたが、そのテンプレが守られているようだ。

私はバーカウンターの前に陣取り、マスターらしきロマンスグレーの男に先ほど受付嬢にしたのと同じ質問をするが、相手は無視するようにグラスを磨き続けながらこう言った。

「ここは酒場だ。ガキが遠足に来る場所じゃない。酒も飲まない奴を相手にする気もない。さっさと出て行け」

「もっともだな。マスター、この店で一番キツくて質の悪い酒をボトルで頼む」

「…吐いたら、叩き出すぞ」

「大丈夫だ、問題ない」

私の注文にマスターは一瞬、眉をピクリと動かしたが、特に断るでもなく背後の棚から一升瓶を取り出しカウンターにゴトリと音をさせながら置いた。

私はボトルを手に取るとで栓を幸い外し、封の空いたボトルからは強烈なアルコール臭が漂う。皆は思わず鼻を覆ってむせてしまった。

「ら、頼尽、そ、それを飲む気なのか?絶対、やめた方がいいと思うぞ?」

「そ、そうだよ。絶対、吐いちゃうって。鈴なんか既に吐きそうだよ」

「っていうか碧刃、どうせ飲むならもっといいお酒にしようよ」

「…優花の言う通り。どうしてわざわざ質の悪いのを…」

坂上を筆頭に鈴、優花、ユエは口々に制止の声を掛けてくる。傍らの綾波も酒の匂いに眉をしかめつつ私のコートの裾をクイクイと引っ張る。

「今は味わう時間も惜しいから味わう気がないのに、いい酒をがぶ飲みというのは酒に対する冒涜だ」

私のにマスターの口元が僅かに楽しげな笑みを浮かべた。

それにアルコールもある意味では毒であり、私達アデプトテレイターは毒無効の技能があるから酔い潰れたりとかはしない。

私は一度も止まることなくものの数秒でボトル一本を飲み干すと空になったボトルをカウンターに置いてマスターの方を向く。

「…わかった、わかった。お前は客だ」

マスターは両手を上げて降参の意を示すと苦笑いを浮かべた。因みに私が飲んだ酒はアルコール度数で言うなら95パーセントという品質も最低ランク、まさにただのアルコールといった感じの代物であり、マスターとしてもそれを一瞬で飲み干された挙句、顔色一つ変えない以上、"ガキ"扱いするわけにもいかないのだろう。

「さっきの質問に対する情報はあるのか?もちろん、相応の対価は払う」

「対価ならさっきの酒代で構わん。…お前が聞きたいのは兎人族のことか?」

「…情報があるようだな。詳しく頼む」

マスター曰く、数日前に捕獲しようとした亜人達の中に兎人族でありながら帝国兵を蹴散らし逃亡を図ったとんでもない集団がいたらしいが、流石に十数人だと100人以上の帝国兵に帝都内で完全包囲されてしまっては逃げ切る事が出来ず、全員捕まり城に連行されたらしい。

亜人族の中でも弱者とされる兎人族の常識を覆す実力に結構な話題になっていた、との事だ。

男の兎人族も需要がないわけではないが、カム達のような初老の男まで需要が高いわけではないし、帝国兵に牙を剥くような存在さその場で即座に処刑されていてもおかしくはない。

それなのに捕獲したという事は帝国側としてはカム達に何らかの価値を見出して、生かしておくことにしたということなのだろう。だとすれば、カム達は未だ生きている可能性が非常に高いな。

「マスター、言い値を払うといったら、帝城の情報、どこまで出せる?」

「…冗談でしていい質問じゃないが…その様子を見る限り冗談というわけじゃなさそうだな…警邏隊の第四隊にネディルという男がいる。元牢番だ」

「わかった、訪ねてみよう。世話になったな、マスター」

帝城内部、特に捕虜がいる場所を教えてくれるとは思わなかったし、知らない可能性も考えていたから、知っている人間を教えてもらっただけでも十分だ。

 

私達は冒険者ギルドを出てメインストリートを歩く。そんな中、シアが先程のやりとりについて私に尋ねた。

「あの、碧刃さん。さっき元牢番の人を紹介してもらったのは、もしかして…」

「ああ。今から詳しい場所を聞いて、今晩にでも侵入する。情報を仕入れてくるから、皆は適当な場所で飯でも食ってて欲しい。2時間で戻る」

 

私は直ぐにネディルという男の元を訪ね、欲しい情報を得ることが出来た。

カム達がいる可能性の高い場所の警備は厳重そうだが、カム達を見つけさえすれば、あとは空間転移で逃げればいいから問題ない。

「―さて、潜入するのは私とハジメ、シアだけだ。万一に備えて、気配遮断や転移が使える方がいい。綾波達は帝都の外にいるパル達のところにいてくれ。直接転移する」

と私は皆に指示を出す。

「…それはわかったけど…そもそも、その情報は正しいの?ネディルって人が嘘を言っている可能性は…」

と八重樫が訊ねてきた。

「正直に話すよう"お話"をしたからな。洗いざらい吐かせた後、股間を押さえながら泣いてたな」

「どんな方法なんだ…」

「聞かない方が良いよ、坂上くん」

ハジメと坂上は青ざめた表情を浮かべるのだった。

 

 

―side out―

 

 

ヘルシャー帝国帝城にある地下牢は構成する金属鉱石の質もさる事ながら、至る所に脱獄を企てた者、または地下牢に忍び込んだ者それぞれに致死に至らない程度の、しかし極めて悪質な苦痛を与えるトラップが見えるところだけでなく壁の中にまで仕込まれいる。

トラップを解除する詠唱を正確に唱えない限り、まず勝手な行動は封じられており脱獄できる可能性など微塵もない。

現在、その牢から何故か余裕有りげな声音の話し声が響いていた。

「おい、今日は何本逝った?」

「指全部と、アバラが二本だな…お前は?」

「へへっ、俺の勝ちだな。指全部とアバラ三本だ」

「はっ、その程度か?俺はアバラ七本と頬骨…それにウサミミを片方だ」

「マジかよっ?お前一体何言ったんだ?あいつ等俺達が使えるかもってんでウサミミには手を出さなかったのに」

「何時ものように、背後にいる者は誰だ?なんて、見当違いの質問を延々と繰り返しやがるから言ってやったんだよ。"お前の母親だ。俺は息子の様子を見に来ただけの新しい親父だぞ?"ってな」

「うわぁ~、そりゃあキレるわ…」

「でも、あいつら、ウサミミ落とすなって、たぶん命令受けてるだろ?それに背いたってことは…」

「ああ、確実に処分が下るな。ケケケ、ざまぁ~ねぇぜ」

そう、声の主とは帝国に捕まったハウリア族の者達である。最低限の回復魔法を掛けられているので死にはしないが満身創痍という有様に代わりはない。

 

元々温厚な種族だった彼らが中二病を患ったり口が悪い兵士となったのか…全ては碧刃達がフェアベルゲンに滞在していた頃まで遡る。

「集まったみたいですね」

碧刃はハジメと共に装備開発をやっているが故に手が放せない為、カム達ハウリア族は父方の祖母たる園田海未から武術に関する事などを教え込まれている綾波に自分達を鍛えて欲しいと頼んだのだ。

「さて、大切な人を失わない為にどうすれば良いのか…答えはシンプルです。襲い来るあらゆる敵を打ち破るほどに強くなれば良いです」

「…ですが、私達は兎人族です。虎人族や熊人族のような強靭な肉体も翼人族や土人族のように特殊な技能も持っていません。鍛えて欲しいとは言いましたが、どうすれば…」

カムの言葉に綾波はこう返した。

「貴殿達兎人族は危機察知能力と隠密能力がある。それを上手く使えば立派な武器になるです。

あとは戦うかどうか、戦わなければ生き残れないです」

綾波の言葉にハウリア族の面々は黙り込み顔を見合わせる中でカムは決然とした表情を浮かべながら立ち上がり、更に集まった老若男女問わず全てのハウリア族達が立ち上がったのを確認するとカムが代表して一歩前へ進み出た。

「綾波殿…宜しく頼みます」

「貴殿達の決意、受け止めたです。しかし、あくま強くなるのは貴殿達自身の意志です。私達はそれを手伝うだけです」

綾波の言葉にハウリア族の面々は「はい!」と声を合わせて返事をし、綾波は早速ハウリアの面々に弱い魔物の討伐をやらせた。

彼らは自分達の性質に逆らいながら、言われた通り真面目に訓練に励み、幾つもの傷を負いながらも魔物を何とか倒して"は"いるのだが…

「ああ、どうか罪深い私を許しくれぇ~」

魔物の一体に小刀が突き刺さり、絶命するとその魔物を討伐したハウリア族の男は魔物に縋り付く。

「まるで互いに譲れぬ信念の果て親友を殺した男の様です」

「ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!それでも私はやるしかないのぉ!」

ハウリア族の女は首を裂いた小刀を両手で握り、わなわな震えていた。

「狂愛の果てに愛した人をその手で殺めた者みたいです」

更に瀕死の魔物が、最後の力で己を殺したカムに一矢報いる。カムは体当たりによって吹き飛ばされた後、倒れながら自嘲気味に呟いた。

「ふっ、これが刃を向けた私への罰というわけか…当然の結果だな…」

その言葉に周囲のハウリア族が瞳に涙を浮かべ、悲痛な表情でカムへと叫んだ。

「族長!そんなこと言わないで下さい!罪深いのは皆一緒です!」

「そうです!いつか裁かれるとき来るとしても、それは今じゃない!立って下さい!族長!」

「僕達は、もう戻れぬ道に踏み込んでしまったんだ。族長、行けるところまで一緒に逝きましょうよ」

「お、お前達……そうだな。こんな所で立ち止まっている訳にはいかない。死んでしまった彼のためにも、この死を乗り越えて私達は進もう!」

「「「「「「「「族長!」」」」」」」」

こんな感じにハウリア族は大袈裟なリアクションをしているが、彼らが討伐したのは小さな鼠型の魔物である。

ケインズは大丈夫かと不安な表情を浮かべている。

因みにこの魔物は地球での鼠の様に食糧を食い散らかしたりするので此処で討伐しておくに越した事はないのだが…

そんな中、ハウリア族の少年が突如としてその場を飛び退いた。

「どうしたです?」

少年は、そっと足元のそれに手を這わせながら綾波に答えた。

「あ、うん。このお花さんを踏みそうになって…よかった。気がつかなかったら、潰しちゃうところだったよ。こんなに綺麗なのに、踏んじゃったら可愛そうだもんね」

「お、お花さんですか?」

綾波が面食らったのも無理はない。

「うん!綾波お姉ちゃん!僕、お花さんが大好きなんだ!この辺は、綺麗なお花さんが多いから訓練中も潰さないようにするのが大変なんだ~」

微笑む少年に周囲のハウリア族達も微笑ましそうに少年を見つめている。ハウリア族が妙なタイミングで歩幅を変えたり、移動したりしていた事に綾波は気にはなっていたが、次の動作に繋がっていたのもあっててっきりそれが殺りやすい位置取りなのかと様子を見ていたのだ。

「…時々、貴殿方が妙なタイミングで跳ねたり移動したりするのは…"お花さん"が原因ですか?」

「いえいえ、まさか。そんな事ありませんよ。花だけでなく、虫達にも気を遣いますな。突然出てきたときは焦りますよ。何とか踏まないように避けますがね」

「貴殿方は平和が好きなんですね」

「ええ、争うのも本当は…」

「そうか…その心意気は嫌いじゃないです」

綾波は刀を地面に突き刺して、近くの切り株に座る。

「一つ、昔話をするです」

「昔話…ですか?」

「あぁ、昔ある所に一人の女の子がいたです」

そうして綾波は自身の過去をハウリア達に話した。

「―そんな感じで私は何も出来ず惨めに犯されて殺されたです。

隣を見るです。貴殿方にはまだ家族や恋人、友人がいるです。もしかしたらそんな彼を今後、例えば帝国に理不尽に奪われる事かもしれないです。貴殿方はそんな運命を受け入れられるですか?」

「そんなのはお断りです」

とカムは答え、皆は頷く。

「だったら強くなるしかないです。私は憎しみを抱いては駄目だなんてよくある甘ったれた事は言うつもりはないです。

自分達を迫害した者達や大切な人を奪った憎しみからでもいい、今いる大切な人を守りたいという思いからでもいい。その思いをバネに強くなれば良いです」

「「「「「「「「はい!」」」」」」」」

「訓練中の返事はYes,ma'am!です」

「「「「「「「「Yes,ma'am!!」」」」」」」」

こうしてハウリア族は綾波に鍛えられ、綾波が出発した後もケインズの監督の元で鍛えられたのだが、徐々に今の様な性格へと変化したのだ。

 

そして現在。

満身創痍で地下牢に入れられ、それでも尋問という名の拷問のために牢から出された時、ハウリア族はにこやかな笑みを浮かべ、既に関わる帝国兵のほとんどに恐怖を宿した目で見られていたのだ。

「今頃は、族長も盛大に煽ってんだろうな…」

「そうだな。……なぁ、せっかくだし族長の怪我の具合で勝負しねぇか?」

「いいねぇ。じゃあ、俺はウサミミ全損で」

「いや、お前、大穴すぎるだろ?」

そんな話をハウリア達がしていた時だ。

「思ってたより元気そうみたいだな」

という声が聞こえてきてハウリア達が振り向くと

「じ、銃士様!?」

碧刃とハジメ、シアの姿があったのだ。

「見た目、かなり酷いけど…」

「…心配する気が失せてきました」

シアは呆れた視線を同族に向ける。

「な、なぜ、こんなところに銃士様が…」

「詳しい話は後だ。中々にタフになっているようだな」

「は、はは、そりゃ、女帝(エンプレス)に鍛えられましたから」

「女帝が課した訓練に比べれば、帝国兵の拷問なんてお遊戯ですよ」

「殺気がまるで足りないよな?温すぎて、介護でもされてるのかと思ったぜ」

「まぁ、女帝の殺気は数百通りの死の瞬間を幻視できるレベルだから仕方ないけどな」

ハウリア達は血を吐きながら、なお軽口を叩き、彼らの言葉にシアから何とも言えない眼差しが天に向けられる。

碧刃はスキャナーで地下牢内のトラップを確認し、それをハジメとシアにも伝え、彼らはトラップの解除を始めた。

魔法陣によるトラップは本来なら魔法陣に込められた魔力を詠唱によって操作し散らすというプロセスを経て無力化するのが一般的である。陣を壊すという方法だと大抵は壊れた瞬間に発動するか少なくとも壊れたことを他者に知らせる機能が付いていたりするからである。

しかし魔力の直接操作が出来る者なら、カギがくても魔法陣に作用させることなく解除することが出来る。

ハジメはあっさりと帝国が誇る絶対監獄である帝城地下牢を無力化すると錬成で次々と格子を開けていき、碧刃とシアでハウリア達全員に神水を飲ませて出来るだけ回復させる。

「はぁ、相変わらずとんでもないですね。取り敢えず、銃士様―」

「「「「「「「「助けて頂き有難うございましたぁ!」」」」」」」」

「シアの為にやったのだから気にすんな。それより、カムの姿が見えないな。…どこにいるかわかるか?」

「それなら…」

ハウリアの一人曰く、どうやら今の時間はカムが尋問されているらしく、碧刃達は詳しい尋問部屋の位置も教えられた。

ハウリア達は自分達も同行したいと考えていたが、普通に侵入して来た碧刃達に任せるのが一番だと分かっていたので大人しく引き下がった。

ハジメは宝物庫から掌サイズの光沢のある灰色の金属プレートを取り出した。鍵の様な形をしているそれは手元部分に魔法陣が刻まれていて先端がギザキザしている。

ハジメが鍵型プレートに魔力を注ぎ、おもむろに目の前の空間へと突き出すと、鍵型プレートの先端部分がズブリと空間に突き刺さり、波打つように空間へ波紋を広げていった。その波紋が次第に大きくなって大人の人間サイズになったところで、ハジメは鍵型プレートを文字通り鍵のように捻ると鍵型プレートを中心が広がっていき、目を丸くするハウリア達の眼前で人間大の大きさに広がると、その向こう側にどこかの岩石地帯が広がった。

これこそハジメが碧刃から聞いたグランドブリッジ(惑星内をワープ移動が可能な亜空間跳躍システム)から着想して作り出した"グランドブリッジ・キー"である。

「向こう側は帝都から少し離れた場所にある岩石地帯で、ケインズやパル達が待機してる。此処を通って彼らに合流しろ」

「Yes,Sir!銃士様、族長を頼みます」

ハウリア達はグランドブリッジを通ってケインズ達と合流し、碧刃達はカムの元へ向かうのだった。

 

 

 

 

To be continue…

 

 

 

 

 

マグナコンボイの強化について(1の場合、マグナコンボイ自体の外見はそのまま)

  • 1:マトリクスソード進化
  • 2:G2バトルコンボイ型へリフォーマット
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