碧刃達の視線の先あらゆる場所からにじみ出てくる乳白色の何かの姿。
「スライム?気配遮断タイプにしても気配感知で探知できないなんてどんな隠密性よ!」
と舌打ちをする優花。しかし、そうこうしている間に足元の地面からも乳白色のスライムが滲み出してきた。
ハジメはハンドガンを発砲し、乳白色スライムは焼かれて消滅した。
「おらぁ!引っ付くんじゃねぇ!」
坂上は背後からガバッと体積を広げて覆い被さろうとしてきた乳白色スライムに対しインパクトナックルを叩きつける。
インパクトナックルの打ち出しによる衝撃が伝わり、一瞬波打った乳白色スライムは爆散したように飛び散り障壁の内壁に衝突して唯のシミになった。
「龍太郎!思いっきり掛かったじゃない!」
「すまん!」
「うぇ~、ドロドロしてて気持ち悪いよぉ」
八重樫は坂上の豪快な倒し方に抗議し、鈴は付着したスライムに嫌悪感を露わにする。
「本当にすまん!大丈夫かし―」
「ええ、大丈夫よ、龍太郎。こいつら案外簡単に死ぬわ…ってどうしたの?」
「えっ、いや、何でもないぞ!ああ、何でもない!」
龍太郎が動揺するのも無理はない…最初の雨状のものと、先程坂上が飛び散らせたもの…言い換えれば、白濁したドロリとした液体を八重樫も鈴も浴びてしまっているのだ。
本人達は気付いていないだろうが、その見た目は一言で言えば非常にマズイことになっている…尤もユエ達も同じことが言えるのだが…
ユエは聖絶を展開しながら襲い来る乳白色スライムを縮小版"蒼龍"で焼き滅ぼしているので倒したスライムの飛沫が付着することはなかったが、最初に降ってきた雨の分はしっかり付いている。
シアは坂上と同じように覆い被さろうとしてきた乳白色スライムをインパクトナックルの打ち出しで吹き飛ばしてしまったので、飛び散った飛沫がいくらか付着してしまっている。
そしてティオはシアが吹き飛ばした乳白色スライムの飛沫をモロ浴びた。
別にシアがティオを狙ったというわけではなく、こればかりは運が悪かったとしか言いようがないのだが、まるでバラエティのパイ投げのように正面から顔面に浴びてしまい、今のティオはその艶やかな黒髪と黒を基調とした和服風の衣服を白濁液でドロドロにしている状態である。
優花や綾波、宮古、嵐はハンドガンを発砲し、そのエネルギー弾で焼いてはいるが、最初の雨にやられて多少の液体が付いているのは他のメンバーとさほど変わらない。
そして碧刃とハジメもそれは同じだが、碧刃は見た目だけは美少女なので絵面は女性陣と同じくマズイ事になっといた。
そうこうしている内に障壁内の乳白色スライムはあっけないほどあっさりと掃討することが出来た。
碧刃とハジメはそれを確認して、今や障壁…聖絶の外側をびっしり覆い尽くしている乳白色スライムに視線を向ける。ハジメは内壁に近寄ると障壁の外へキラービークと円月輪を転送する。
外はおびただしい程の乳白色スライムで溢れかえっており、天井の壁からは今尚スライムが豪雨となって降り注ぎ、地上で波打つスライムの群れはまるで乳白色の海のようだった。
「鈴、ユエ、結界は頼む。ハジメ、全部焼き滅ぼして欲しい」
「了解!」
「んっ…任せて」
「わかったよ」
碧刃の指示に3人は応える。
「ああ~、くそ、また地獄の再現かよ!」
「また、あれが来るのね…」
ハジメが何をしようとしているのか察した龍太郎がげんなりとした表情になり、雫は死んだ魚のような目になった。
『優花、ティオ。皆の体についてるスライムを取ってくれないかな?絵面的にマズイ』
ハジメは優花とティオに念話で指示を出し、2人は何故念話で?と首を捻るが、"絵面的にマズイ"というハジメの言葉でその真意を悟ると、改めて白濁液で汚れている女性陣と碧刃を見て「確かにこれはちょっと…」と一気に赤面する。
ハジメがわざわざ念話をしたのは、未だ自分の見た目のマズさに気がついていない雫達に配慮してのことだろう。
それも察した優花とティオは頬を染めたまま了解と感謝の意を伝えて白濁液の処理に乗り出した。
ハジメはキラービークを介して届いた映像を端末で確認する。
(…スライムの雨が一向に弱まる気配を見せない。無尽蔵かな?だとしたら、まず天井をどうにかしないと意味がないかも)
円月輪は勢いを弱めることなくそのまま天井に次々と衝突し、生成魔法により付与されている風爪によって容易く天井の壁を切り裂き、円月輪の刃の部分をしっかりと埋める。
ハジメは、全ての円月輪の中穴が、天井に対して小さなアーチを描くような状態で刃先だけを埋っているのを確認すると、宝物庫から更に円月輪と素粒子コントロール装置で小さくなっているスパイデスを出す。ハジメ専用に調整されたスパイデスは本来のサイズとなると縦横無尽に天井を駆け巡り次々と錬成を発動していく。
壁の僅かな穴や隙間からにじみ出て来ている乳白色スライム達を壁そのものを錬成で固めてしまうことで封殺しようというハジメの目論見は正解だったようでスパイデスが錬成した部分からのスライムの流出が止まり、目に見えて雨足が弱まっていったのだ。
「碧刃、天井は錬成で固めたよ!」
「わかった。後は地上のものだけか…やはり地上を焼くか…ハジメ、任せたぞ」
「了解!」
ハジメはそう応えるとスパイデスを宝物庫に戻し、天井に張り付けたまま突き刺さった円月輪を回転させて天井から飛び立たせると手元の円月輪のゲートを開いて今度は宝物庫から取り出したタールを転送し、更にキラービークのエネルギー弾による爆撃が行われ、撒き散らされた爆炎は周囲のタールに引火して摂氏三千度の獄炎の海を創り出したのだ。
やがて障壁の周りからすっかり乳白色がなくなり、地面のあちこちが溜まったタールの残りを燃料に燃え盛っているだけになった。
「どうやら、大体焼き尽くしたみたいだな」
「もう、結界解いても大丈夫かな?」
「いや、もう少し維持を頼む。まだ残党がいるとも限らない」
鈴の確認の言葉に碧刃はそう答える。
「ハジメ、目的地の巨樹までの通路まで錬成出来るか?」
「うん、だけど少し時間がかかる」
「わかった、頼む」
碧刃の言葉にハジメは了解、と返すと一度神水で回復し、スパイデスを再び出すと通路までの錬成を開始する。
「あのスライムの総量がわからない以上、適時撃破するより少し時間を割いてでも襲撃対策をしておいた方が面倒がなくていいだろう。鈴、ユエ。悪いがその間、念のため結界の維持は頼む」
碧刃の言葉に鈴とユエは頷く。因みに女性陣と碧刃を汚していた白濁液は既に優花とティオによって取り除かれているので皆綺麗な姿である。
ひとまず休息を取る事になったのだが、碧刃とハジメ以外の者達の様子に変化が起きた。
「はぁはぁ…碧刃さん、何か変…です…はぁはぁ、すごく…碧刃さんが欲しい」
「一体どうしたんだ、綾波?」
綾波の吐息は火傷しそうなほど熱く、瞳はうるうると潤んでいる…そう、どう見ても発情していた。
「碧刃…私…アタシ、もうっ…はぁはぁ」
宮古も発情しており、嵐は目を瞑って深呼吸をして発情を押さえ込もうとしているし、鈴は前かがみで自分を抱き締めるように身悶えている。
一方、優花は耐え難い何かに身悶えしながら潤んだ瞳をハジメに向け、両足をもじもじと擦り合わせながら四つん這い状態でハジメへと少しずつ近寄って来ている。
ユエとシアは頬は薔薇色に上気し、瞳は劣情で霞んでいるし、ティオは何だかボーとしている。
正気を失ったような虚ろな瞳の坂上は傍らの雫を見つめており、八重樫は身悶えた後、精神統一か何かをして発情状態を耐えきろうとしているのかグッと唇噛みつつ正座をして目を閉じ、その後は微動だにせず、頬の赤みも取れて静寂を纏っている。
「なるほど、これがあのスライムの能力か。綾波達にも影響を受けている事から察するにアデプトテレイターにも効くようだな」
碧刃は冷静に分析する。
「碧刃はどうして冷静にいられるのさ!?」
「理性で耐えている」
「そうですか」
碧刃の場合、エネルゴンマトリクスの影響もあるのとハジメは先程神水を飲んだから無事だった事も付け加えておこう。
「碧刃殿、ハジメ殿、無事かの?どうやら、あの魔物の粘液が強力な媚薬になっておったようじゃな」
「お前も無事なようだな、ティオ」
「ティオは何で無事なのさ!?」
「お主らと同じく耐えているだけじゃ。それより、あの粘液は強烈な快楽で魔法行使すら阻害しておる。時間が経てば経つほど正気を失って快楽のまま性に溺れることになるじゃろうな。厄介なこと極まりないのぅ。あの物量で襲われては、全く飛沫を浴びないなど不可能じゃろう。戦闘が長引けばそれだけで全滅じゃ。生き残っても仲間がおれば交わらずにはおられんじゃろうから、その後の関係はかなり危うくなりそうじゃしの」
「ああ、そうだな」
「うむ。おそらく、それが狙いじゃろう。快楽に耐えて仲間と共に困難を乗り越えられるか…あるいは快楽に負けても絆を保てるか…いずれにしろ性格の悪いことじゃ。解放者というのは本当に厄介な連中じゃの」
ティオの言葉を受け、碧刃は皆に呼び掛ける。
「お前等がたかがこの程度の魔物にいいようにされるわけがない。まだ正気を保っているはずだ。そうだろう?」
「当然…です!」
「もちろんだよ!」
「だ、大丈夫!」
「はぁはぁ、わかるよ!」
と綾波、宮古、嵐、鈴は答え、優花達も同調するかの様に頷く。
暫くして燃え盛っていた炎は燃料であるタールの消失によって鎮火し、周囲は妙に光沢のあるメタリックな地面と灰燼に帰した草木の残骸が散乱しているだけとなった。
綾波達も快楽に耐えきり、元の感覚を取り戻し、碧刃は綾波達を誉め、ハジメも優花達にも称賛を送った。
「八重樫、坂上…お前達もよく自力で耐えたな」
「あ、ありがとう。まぁ、剣術を習う上で、父から心を静める方法はみっちり叩き込まれているからね。少し危ないところだったけれど」
「俺は危うく快楽に飲まれかけたが、何か強烈な殺気を感じて目が覚めた。すまない、正直に言って助かった、頼尽」
「あぁ、気にするな」
その後、ハジメは錬成で土壁を作り上げ簡易の更衣室を用意し、魔法で作り出した水を使い女性陣が汚れを落として着替えを済ましている間にハジメはちょうど周囲一帯の地面を錬成し終えた。
「これで乳白色スライムが地面から噴き出して奇襲して来る事は多分ないと思うよ。時間は掛かったけど」
「いや、仕方ない。あのスライムの気配はなかなか掴めないからな。ありがとう、ハジメ」
全員の着替えが済むと碧刃達は乳白色スライムに襲われることもなく順調に荒地を進み、遂に巨樹のもとへたどり着いた。
今回も洞が出来上がり、中に入ると転移陣が起動し、やはり洞の中に転移したのだが、今までとは異なり正面に光が見え、外へと通じる出入り口が最初から開いていたのだ。
碧刃は全員がいる事や偽者がいないを確認すると光が差し込む出入り口に向かって歩みを進めた。
「これは…まるでフェアベルゲンみたいね」
光の先を見てそう呟く優花の感想に碧刃達も確かにと頷く。
洞の先の通路は実は洞から続く巨大な枝であり、碧刃の背後には端を捉えきれないほど巨大な木の幹があり、碧刃達がいたのは巨木の枝の根元にある幹に空いた洞だったのだ。
空中回廊となっているのはフェアベルゲンと同じだが、向こうが幾本もの大きな木から生えた枝が絡み合って空中回廊となっているのに対し、こちらは巨木一本から生えた枝だけで広大な空間に空中回廊を作り上げている。
「上には石壁が見える事から地下空間だとわかるし、この世に大樹のような巨木が何本もあるとは思えない」
「じゃあ、僕達が立っている巨大な枝とそれが生えている背後の巨木は…」
「…大樹?」
碧刃とハジメの言葉にユエはそう呟く。
「そういうことになりますよね。ここは大樹の真下の空間ってことですか」
「でもそれだと、地上に見えてた大樹って…」
「ふむ、地下の幹から枝が生えているということは、本当の根はもっとずっと地下深くということじゃ。ならば、地上に見えていた部分は大樹の先端部分という事になりそうじゃの?いやはや、大樹の存在は知っておったが、まさかあれがほんの一部だったとは…」
「本当の大きさはどれくらいになるんだろうね」
皆が皆、改めて大樹の凄まじいまでの巨大さに度肝を抜かれて無意識に頭上を仰いだ時、シアのウサミミが何かの音を捉えたのかピクピクと動き出した。
シアがその正体を確かめるべく枝の淵へと歩いていくのだが、その音はガサガサ、ザワザワと微かに聞こえ、何となく生理的嫌悪感を覚えるものだった。
シアはウサミミ障りなその音に顔をしかめ、いつの間にか鳥肌の立っていた肌をさすりながら、そっと下を覗き込んだ。
「ん~?暗くてよく見えないです。…あの、ハジメさん」
「どうしたの?」
「何だか下から嫌な感じの音が聞こえてくるんです。でも私の目じゃ暗くて正体が…」
「僕に確認して欲しいってことだね」
「はい、お願いします。何か、蠢いてる?そんな感じの音です」
「…嫌な音だってことはよくわかった」
ハジメはシアに呼ばれるまま枝通路の端から下方を覗き込み、暗くとても深い場所を夜目と遠見で見たのだが…見えてしまったのだ。
ハジメは声にならない叫びを上げつつ顔を上げて、目頭をキツく指先で摘みながら青褪めた表情をした。
「ハジメさん、一体、どうしたんですか!一体何を見たんです?」
「ハジメ、大丈夫?」
ハジメがまるで恐怖に戦くように顔を青褪めさせている姿に、一体何事かと雫達も集まって来た。優花が心配そうにハジメの背中をさすっている。シアも、そっと手を握った。
その温かさで少し気を持ち直したハジメは、真剣な表情で全員を見渡すと震える声で呟いた。
「…悪魔がいる。皆もよく知っている黒い奴等だよ……」
ハジメはそれだけ言うと、キラービークを一機だけ出し下方に飛ばした。そして端末の映像を皆が見せる。
それを覗き込む優花達の眼前で、僅かなノイズのあと映し出されたのは
「「「「「「「「っ!?」」」」」」」」
カサカサ這いよっては陰から陰へ高速で移動し、途轍もない生命力でしぶとく生き足掻き、宙を飛べば地球であっても混乱と恐慌の状態異常をもたらす固有魔法まで使える強者、お母さん達と飲食店の仇敵たる1匹いたら30匹いると言われている存在…そう、ゴキブリである。
地下空間の底辺に、数百万、数千万、否、もはや測定不能なほど蠢いておら、ゴキブリの海と言うべき状態になっているのだ。
「な、なんてもの見せるのよ…」
「うぇ、GがGがあんなにいっぱい、いっぱいぃ~」
八重樫と鈴はハジメと同じように顔を青褪めさせて目を背け、腕に鳥肌をこれでもかと立てており、ユエ達も似たりよったりだ
優花は実家が洋食屋を営んでいる事もあるからか否かゴミや憎き敵を見る目となってどう始末しようか考えている程だ。
シアはずっと自分のウサミミに届いている異音の正体を知って必死にウサミミをペタリと垂らして塞いでいる。頭を抱えるように両手で抑えつつ、しゃがみこんで涙目になっていた。
その一方で平然としている者が三名…そう、碧刃と綾波、嵐である。
「どうして碧刃は平然としているのさ!?」
「すまない、何故あんな虫如きに皆が騒ぐのか理解出来ない」
碧刃から放たれた言葉にハジメ達は衝撃を受けるが、直ぐに『そうか、この人は元々人間じゃなくてトランスフォーマーだった』という考えに至って納得した。
「じゃあ、綾波さんと嵐さんは―」
シアの言葉に綾波と嵐はそれぞれこう答えた。
「あんな虫より反アデプトテレイター派の方が憎かった、です。あと、そもそも前々世が恐竜でしたので」
「反アデプトテレイター派やジーオスの方が遥かにウザかったからね。それに比べたら嫌悪感を抱く程ではないかな。駆除はするけど」
「そう言えばあかりは前にジーオスに対ししぶとさと黒い外殻から金属のゴキブリとか言ってたな」
碧刃がそんな事を言った後、一行は太い枝通路の上を道なりに進んでいったのだが、大きな足場に到着した時、ハジメ達が恐れていた大量の羽ばたき音が響いてきたのだった。
To be continue…
マグナコンボイの強化について(1の場合、マグナコンボイ自体の外見はそのまま)
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1:マトリクスソード進化
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2:G2バトルコンボイ型へリフォーマット