第50話『シュネー雪原へ』
―side:Magna Convoy―
ライセン大峡谷によって真っ二つに分けられる大陸南側の東にある一大雪原であるシュネー雪原は年中曇天に覆われているらしく、雪が降らない日が極まれにあるくらいで晴れることはなくずっと雪と氷で覆われた大地が続いているとされており、また東のハルツィナ樹海と南大陸中央に位置する魔人族の国ガーランド魔王国の間に挟まれているのだが、どういうわけかそこに壁でもあるかのようにピタリと雲も氷雪も突然区切れているから樹海にも魔国にも氷雪被害は一切ないらしい。
その雪原の奥地にかなり大きな氷と雪で出来た峡谷があり、その先に最後の大迷宮である【氷雪洞窟】がある。一般的には、たどり着くまでに寒さ等で消耗して倒れるか洞窟にたどり着いても誰一人帰っては来なかった事による生存困難性から、おそらく大迷宮の一つだろうと目されていたそうだ。
まぁ、私達はミレディから場所を聞かされていたので知ってはいたんだがな。
フェアベルゲンで数日間滞在し、準備を終えた私達はガンホーMk-2でシュネー雪原まで飛んでいた。
「見渡す限り、ずっと雲海ですねぇ~」
「…ん、シュネー雪原は常に曇天に覆われてる。外は極寒」
シアの言葉にユエはそう答える。
「どうじゃ、ハジメ殿よ。きちんと羅針盤は機能しておるかの?」
ティオの視線の先には、ハジメが手に持つ掌くらいの大きさの羅針盤があった。
そう、リューティリス・ハルツィナから貰い受けた"望んだ場所を指し示す"という概念魔法が込められた羅針盤だ。これで氷雪洞窟の正確な場所を望んで発動しながら進んでいる。
「うん、大丈夫だよ。にしても、改めて思うが凄いね、これ。単に羅針盤の針が望んだ場所に向くだけじゃなく、何となく目的の場所とか、そこまでの距離とかが感覚でわかるなんてさ」
「そうね。地球の場所も何となくわかったし。まぁ、ホントに説明が難しい感覚だったけど」
優花が言っていたようにフェアベルゲン滞在中に試しに地球の座標を羅針盤で調べてみたのだが、何とも説明し難い感覚で、何となく地球の存在を感じ、概念魔法の規格外さに驚きつつも故郷の存在を感じて歓喜したのは言うまでもない。
勿論、規格外の能力に見合った対価は必要で、探し物との距離に比例して消費魔力も増えていき、地球の座標を調べた時など調べたハジメが一発で魔力枯渇の危機に陥ったほどだ。
あの後、私はあかり達にこの事を報告し、最後の迷宮を攻略して外部への移動手段の確保が出来るようになり次第、応援に来て貰う手筈になっている。
現在、このガンホーMk-2には私達オーダーヴァンガードのメンバーの他に八重樫と坂上も同行している。
私としても戦力が多いに越した事はないからな。因みに永山達のパーティーは王都の復興を行いつつ合間を見て鍛練を行っているそうだ。
「坂上、八重樫。装備の方はどうだ?」
「いや、マジですごいぜ!空中を踏むって感覚は戸惑ったけどよ、慣れればマジ使える。重さを増減できるのも最高だなっ!」
「私も問題ないわ。むしろ、能力が多すぎて実戦での選択に戸惑わないか不安だけど…そこは経験値を稼ぐしかないわね」
「それは良かった。完全に使いこなせれば単純に考えても戦闘力は数倍になる。それなら魔人領に行っても問答無用に潰されることはないだろう」
私がそう答えたその時、ハジメが不意に視線を前方に向けて目を細め、雰囲気もリラックスしたものから真剣なものへと変わり、察した優花が尋ねた。
「着いたの?」
「うん。雲の下に降りるよ」
その言葉と共にハジメに操作されたガンホーMk-2が雲海に突入し、一瞬で窓の外が灰色一色に塗りつぶされて全員が瞳に真剣さを宿して外に視線を向けた。
数秒ほど雲の中を通り、直ぐにボバッと音をさせて曇天を突き抜けた。窓の外では吹雪が猛烈に荒れ狂っており、ガンホーMk-2の表面を一瞬で凍てつかせていく。
「確かに極寒というに相応しい有様じゃな。…妾、寒いのは余り得意ではないんじゃがのぅ」
ティオは眼下の銀世界と視界を閉ざす猛吹雪を見て嫌そうに目元を歪めながら愚痴り、他のメンバーも見るからに寒そうな外界に身震いしていた。
「全員、防寒用アーティファクトは失くすな。それがあれば常に快適な大迷宮の旅が約束されるからな」
と私は皆に呼び掛ける。
「…ん。ハジメのお手製。素敵」
「ですねぇ~、雪の結晶をモチーフにしてる辺りがなかなか憎いです」
ユエやシアが言う通り、防寒用アーティファクトは女性陣の物は雪の結晶をモチーフにしており、私とハジメ、坂上の物はドッグタグ風の物になっている。
やがてガンホーMk-2は大きな大地の割れ目が幾条にも広がっている場所…氷雪洞窟に続く氷雪の峡谷に到着した。迷路のように入り組んだ氷雪の峡谷の奥地に洞窟の入口があるはずをであり、ハジメはガンホーMk-2を峡谷に沿って進ませる。
本来なら深い谷底を探索しながら進んで行かねばならないのだが、ガンホーMk-2のおかげで大幅にショートカットが出来る。
しばらく進むと峡谷の終わりが見えてきたのだが、氷雪洞窟の入口は見えなかった。
「ここで終わりかな?羅針盤はもっと先だと示しているんだけど…」
「ハジメ、これを見ろ」
「どうしたの?」
私はディスプレイに映された外界の様子を指した。
私が見つけたのはルートは峡谷の幅が狭くなっている上に氷雪が降り積もって巨大なドーム状通路になっており、峡谷自体は奥まで続いている事が伺える。
「しょうがない。ここからは地上を行こう。洞窟までは1キロもないようだし、問題ないだろう」
「いよいよお外に出るんですね。私、雪って初めてです。ちょっと楽しみかもです」
シアはちょっとわくわくしているようだ。一面の銀世界に、電車の座席に登って外の景色に齧りつく子供のように目を輝かせていたのは一度も見たことがなかったかららしい。
「こう言う雪に囲まれた世界はシベリア以来だね」
と嵐は呟く。
「シベリアに行った事があるのか?」
「前世では各地を転々としてたからね、その中でシベリアにも行ったさ」
と嵐は坂上にそう答える。
「ロシアはヴェルの出身地というのもあって私もヴェルに連れられてシベリアに行った事があるな」
「ヴェルって碧刃の養母の?」
鈴の言葉に私は頷く。
「あぁ、そうだ。彼女はロシア人の血を引いているからな」
「頼尽君の養母ってどんな人なの?」
八重樫の質問に私はこう返した。
「頼尽あかりと頼尽ヴェールヌイ。同性結婚をしたアデプトマスターで100年前の東京湾に於けるジーオスの大群との戦いでジーオスXを討伐した英雄で"鋼鉄の戦女神"とも呼ばれている。
そして、あかりはスクールアイドル"μ's"のマネージャーをやっていた」
「μ'sってあの伝説のスクールアイドルの!?」
「あぁ、そうだ」
八重樫の言葉に私はそう返す。
「μ'sには幻の10人目とも呼ばれている凄腕のマネージャーがいたという都市伝説を聞いた事があったけれど、まさかその人が頼尽君の養母だったなんて…」
そんな話もありつつもガンホーMk-2は峡谷の底には幅が狭くて降ろせなかった為、峡谷の上に着陸し、私達は下部ハッチを開け外界に出る。
防寒用アーティファクトは一定範囲内の温度を適温に保ってくれるだけで障壁があるわけではないのでハッチを開けた途端に大量の吹雪が顔面に張り付くように襲い来て、私達は念のため着て来たコートのフードを慌てて目深に被り直した。
「わぁ、これが雪ですかぁ。シャクシャクしますぅ!ふわっふわですぅ!」
そんな中、シアは一人テンションだだ上がりであり、フードを被ることないどころか前もきちんと閉めずに全身で吹雪を受け止めると、足を踏み鳴らしたり、手で掬ったりしながら存分に人生初の雪を楽しんでいる。
「おい、シア。行くぞ。あんまりはしゃ―」
「これはもう、ダイブするしかないですよぉ!」
「…聞いてないか」
シアは私の言葉も聞かずに子供のようにはしゃぎながら「とぉ!」と声を上げながら降り積もった汚れ一つない純白の雪にダイブした。
「そして、そのまま奈落の底まで落ちていった…」
シアがダイブした途端に崩れ、そのままポッカリと深い穴を空けたクレバスのような場所にジト目を向けながらナレーション風に呟くハジメ。
シアは「あぁぁぁぁぁぁぁぁ~」と悲鳴を上げながら大地の割れ目に落ちていったのだが、どうも峡谷に沿う形で亀裂があり、その上に雪が降り積もってわからなくなっていたらしい。
「いやいやいや、なに落ち着いているの!?シアさんが死んじゃうわ!」
唖然としていた八重樫が顔を真っ青にしながら軽くパニックに陥り、坂上はまさかの事態に呆然としている。
「八重樫、まずはお前が落ち着け。シアの身体強度はアデプトテレイターに迫るレベルだ。高いところから落ちたくらいでどうこうなるわけない。それより、私達も下に降りるぞ」
かくして私達は崖下に降りたのだが、私達のいる谷底の壁の一角から衝撃音と「うりゃあああ!」という雄叫びが聞こえてきた。
谷底の壁に亀裂が徐々に入っていき、ドゴォオオッ!という轟音を響かせて壁の一部が崩壊し、そこからインパクトナックルを装備したシアが悠々と出てきた。
「いやぁ~、参りました。狡猾な罠でしたね。まさか私の童心を弄び谷底に落とそう―」
「シア、まだ大迷宮じゃないけど、ここが危険地帯な事に変わりはないのよ」
「すみません、優花さん。…ちょっと調子に乗りましたぁ」
誤魔化し笑いするシアは優花に叱られ、シアはしょぼんと肩を落とした。そんな中、私とハジメは羅針盤を確認する。発動した羅針盤は前方で幾つかに枝分かれしている道の一本を指し示していた。
「こっちだな。よし、総員、出発するぞ」
私は皆に号令をかけて出発する。この峡谷は水は流れておらず、周囲の全てを氷と雪に覆われている…おそらく全て凍てついているのだろう。
谷の上ほど吹雪の影響を受けるわけでない分、降りてきた冷気が吹き抜けるので体感温度は更に酷いことになっており、防寒用アーティファクトがなければどれほど厚着していようと容赦なく体温を奪われ体力を削られることだろう。
気温はマイナス三十度、いや、それより更に低いと推測され、普通なら火を起こす手段を失った時点でアウトだろう。
私達は氷塊や地面から生えている氷柱を乗り越えたり迂回したり破壊しながら進んでいくが、まるで暴風の様に進めば進むほど風は冷たく強くなっていく
「これはちと鬱陶しいのぅ」
「あと500メートルくらいだと思うが…雪が舞い上げられて視界が塞がるのは危険でもあるな。ティオ、風を分散させてくれ」
「承知じゃ」
私の言葉にティオは風を左右に逸らそうと魔力を練り上げて魔法を発動しようとしたが、その前に制止の声がかかった。
「待って、それは鈴にやらせて!試してみたい事があるの!」
「良いだろう、鈴。やってみろ」
私の言葉に鈴は頷くと
「よっし、それじゃいくよ!―"聖絶・散"!!」
魔法名を唱え、それと同時に私達の前方に淡い光を放つ半透明の障壁が出現した。
光系防御魔法の聖絶に接触した対象のエネルギーを分散させる性質を付与した魔法らしく、障壁は緩く前方に向かって曲線を描き、中心部から外側へ波打つように光の波紋を発生させている。
強度は聖絶レベルでありながら魔力運用は極めて効率的で中級の下位レベルの消費で済む為、アデプトテレイター化による結界師としての能力が弱体化した鈴に適した魔法と言える。
因みに鈴の両腕にはハジメが作成した腕輪型アーティファクトが装備されているが、これには幾つかの神代魔法と能力、そして鈴の血を利用した詠唱省略機能が付与されており、要部分には魔力を吸収して溜め込む機能もあるので消費魔力も軽減し、更に新たに手に入れた昇華魔法によって首輪に刻んである魔法陣の魔法だけは一段進化したレベルでの行使が可能となっている。
これもアデプトテレイター化によって弱体化した結界師としての能力を補う為に作られた物だ。
前方から吹き付ける暴風は障壁に当たると威力を散らされ、微風となって脇へと流されていく。
「…ん。悪くない」
ユエの感想に鈴の頬が綻び、私達は暴風を逸らし快適になった道を進む。
そうやって進んで行った私達だったが、ある地点で私は立ち止まって前方を注視する。
「…あれのようだな」
私の視線の先には行き止まりの先に二等辺三角形のような綺麗な形の縦割れがある。
羅針盤の針は真っ直ぐその割れ目を示しており、そこが氷雪洞窟だとわかる。
「着いたみたいですね。…でも、碧刃さん」
「ああ。わかってる。何か来るぞ。全員、備えろ!」
私の言葉に皆は臨戦態勢となり
「「「「「ギギギギギィ!」」」」」
白い体毛に全身を覆われたゴリラのような姿をした5体の魔物が奇怪な雄叫びを上げながら洞窟より猛然と飛び出してきた。
「ビッグフット?」
「さ、流石、異世界だね。こんな所で雪山定番のUMAに出会うなんて…」
と優花とハジメは呟く。
「碧刃、此処は鈴が殺ってもいい?」
「頼尽君、私にもやらせて貰えないかしら?」
「頼尽、俺からも頼む」
鈴、八重樫、坂上の言葉に私は
「良いだろう、殺ってこい」
と返した。
サムライマスターソードを装備した八重樫は発動の詠唱を高らかに唱え
「切り裂け、飛爪!!」
飛ぶ風爪を発動し、不可視の斬撃が目標を両断せんと迫ったが、ビッグフット達は動物的な勘が働いたからかその場で忍者のように散開し回避する。
しかし雫にとって最初から想定済みだったからか
「鈴っ!」
「了解!3体は任せて!」
八重樫の言葉に鈴はフリースタイルガンで1体のビッグフットを牽制しつつ2体のビッグフットに向かって魔法を発動させる。
「地を這え、"聖絶・重"!」
詠唱と共にビッグフットの1体を中心に燦然と輝く球状の障壁が出現し、それに閉じ込められたビッグフットが雄叫びを上げながら障壁を殴りつけたりその爪で引き裂こうとするが障壁は一向に破れる気配はない。
そんな中、鈴の頭上に跳躍したビッグフットが飛び掛って来たが
「呑み込め、"聖絶・爆"!」
鈴の頭上に1メートル四方の輝く障壁が現れ、刹那のタイミングで振り下ろされたビッグフットの豪腕と凶爪をせき止めた瞬間に轟音を響かせながら障壁が盛大に爆発した。
衝撃と砕けた障壁の残骸でその身を切り裂かれたビッグフットは血飛沫を撒き散らしながら10メートルほど吹き飛んだ先で何とか起き上がる。血走り怒りに燃える眼差しを鈴に向けるが、鈴は動けないビッグフットに向けてフリースタイルガンを発砲してトドメを刺した。
そして最初に聖絶に囚われたビッグフットはダメージがないにもかかわらず重力魔法が付与された聖絶(内部に囚われたものは注がれる魔力に比例して加重されていく)で動きを封じられている。
残った1体は鈴を始末しようとするが、鈴は先に始末したビッグフットと同じ要領でそのビッグフットを障壁で捕縛するとそれを爆破させた後にフリースタイルガンでトドメを刺したのだった。
―side out―
碧刃達が最後の迷宮攻略に入った頃、第46太陽系の地球では…
「それじゃ、次来れるのは…」
「うん、碧刃達の救援に行った後になるかな」
病室のベッドの上にいる穂乃果にあかりはそう答える。
あかりはそろそろ碧刃達の救援に行く事を穂乃果に伝えたのだ。
それじゃ、またねと言うあかりを穂乃果は呼び止める。
「あかりちゃん」
「何だい?」
「ファイトだよ」
それは穂乃果の口癖とも言うべき励ましの言葉だった。その言葉にあかりは笑みを浮かべてこう返した。
「ありがとう。行って来る。そして帰ってくるよ…碧刃や綾波達を連れて」
あかりはそう言って穂乃果の病室を後にした。
数日前、あかりは穂乃果の担当医から彼女の余命が1か月と聞かされた。穂乃果に残された時間が少ない事を分かっているあかりは絶対に碧刃達を連れて帰り、穂乃果を綾波に会わせると改めて決心するのだった。
To be continue…
アンケートですが補足で2の場合も剣の形状自体は変化します(但し1と違って性能はそのままか若干低下する代わりにマグナコンボイ自身が大幅に強化されます)
マグナコンボイの強化について(1の場合、マグナコンボイ自体の外見はそのまま)
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1:マトリクスソード進化
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2:G2バトルコンボイ型へリフォーマット