青き銃士と戦女神(ヴァルキリー)   作:衛置竜人

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第51話『氷の魔物』

 

 

八重樫は無拍子からの高速移動でビッグフットの背後に回り込み、鞘走りと技能によって加速された抜刀術を繰り出す。その速度は抜刀刀身を認識させない程で、黒の軌跡だけが残り、ビッグフットは余りの速度に背中をざっくりと斬られる。

致命傷だけは回避したビッグフットは悲鳴を上げながらも距離を取ろうと跳躍し、同時にその極太の腕をと頭上に掲げると周囲の地面から無数の氷柱が飛び出した。

「どうやら、あのビッグフットは氷を操る固有魔法を持っているようだな」

と碧刃は分析する一方で八重樫は咄嗟に跳躍して回避したが、氷柱はミサイルのように地面から飛び出し追撃してきており、それに対して八重樫はサムライマスターソードと鞘をクロスさせて詠唱する。

「集え、"引天"!」

バラバラに飛んできた氷柱は軌道を変え、まるで磁石に引き付けられる砂鉄のようにサムライマスターソードの刀身と鞘にピタリとくっつき、八重樫の体には一発たりとて通ってはいなかった。

八重樫は全ての氷柱が重なるようにサムライマスターソードに引き寄せられたのを確認すると

「飛べ、"離天"!」

そのまま空中からお返しとばかりに氷柱を解き放ち、自分の放った攻撃がそっくりそのまま返されたビッグフットは、背中の傷で動きを鈍らせながらも氷柱を回避し、今度は足元に氷で出来た道を作るとその上を滑り始める。

「…何だか、様になっているわね」

八重樫が呟いた通り、ビッグフットは滑りながらも次々と進路上に氷の道を生み出し続け、前傾姿勢となって大きく両腕を振ると速度を増していった。その姿は、どこかスピードスケートを彷彿とさせる。

坂上と相対していたビッグフットも手傷を受けて鈍った動きを補完するためか氷の道を生み出しながらスケーターのように美しいフォームで縦横無尽に谷底の空間を滑り始め、2体のビッグフットはそのまま少し離れところで合流すると体毛をなびかせながら動きをシンクロさせて縦一列になって突進してきた。

鈴はフリースタイルガンを発砲するが、ビッグフット達はフィギュアスケートでよく見るトリプルアクセルを決めながら回避する。

「うらぁあああっ!!」

直ぐに後ろに迫っていた坂上は片足でスイーと滑るビッグフットの一体に横からインパクトナックルを打ち出した時の衝撃波を飛ばす正拳突きを繰り出したが、ビッグフットはその一撃をやはり生み出した氷の上を滑りながら大きく仰け反るようにして回避するが、それは坂上の読み通りであり

「雫!」

「えぇ!…"閃華"」

八重樫は優れた動体視力で回転中のビッグフット達を捉えるとスっと腰だめに構えて鞘と合体したサムライマスターソードをごく自然な動作で抜刀するかの様に振るい、呟くような詠唱と共に振るわれたサムライマスターソードは宙に一本の線を描いた直後、今の今まで八重樫のいた場所に2体のビッグフットが着地する。

周囲の地面を削り飛ばし、やはり華麗に着地を決めたかと思いきや、実際に着地を決められたのは1体だけだった。

「ギギィ!?」

八重樫が残した剣線にぶつかった1体はしばらく滑った後、そのままズルリと体をずらして崩れ落ちた。空間そのものを斬る能力"閃華"により作られた空間の断裂に突っ込んでしまい両断されてしまったからだ。

「龍太郎!」

「おう!」

そして残った1体の背後に回っていた坂上はインパクトナックルの拳を打ち出し、そのビッグフットはインパクトナックルの拳によって胴体を貫かれて絶命したのだった。

「よし、よくやったな」

と碧刃は三人に拍手を送ると

「さて、それでは最後の大迷宮攻略といこうか」

と皆に呼び掛け、彼の言葉が氷雪の峡谷に木霊するのだった。

 

 

―side:Magna Convoy―

 

 

七大迷宮の一つたる氷雪洞窟は例えるならミラーハウスの様な洞窟だろう。

かなりの広さがある中の通路は横に10人並んでもまだ余裕がありそうなほどだが、全ての壁がクリスタルのように透明度の高い氷で出来ており、そこに反射する人影によって実際の人数より多くの人がいるように錯覚してしまう。

だからこそその広さに反してどうにも手狭に感じてしまうという不思議な内部構造だった。

更に雪が洞窟内を吹き抜ける風に乗って横殴りに吹雪いており、しかも入口から吹き込んで来るではなく洞窟の奥から吹いて来るのだ。

「いっ、あ~、またやっちまった」

「龍太郎、結界の範囲から出るなって言ってでしょ?」

この雪はドライアイスのように極めて低い温度で出来ているようで、触れると即座に凍傷を起こしてしまうのだ。

鈴が障壁を張って散らしてはいるのだが、雪は前方から吹き付ける風に乗って降りかかるので周囲の氷の壁に映る自分達の姿に気を取られて、うっかり防御範囲から出てしまったメンバーが何度か凍傷を起こしては神水で治療するという事態が起こっていた。

「氷で出来た洞窟に、凍傷を起こす雪…氷雪洞窟とは的を射たネーミングね」

「そうだね、このアーティファクトがなかったらと思うとゾッとするよ」

「飲み水もままならないもんね」

優花がポケットから防寒用アーティファクトの小石を取り出しながら呟く傍らで、ハジメと宮古は同意する。

「確かにのぅ。その辺の氷を削って溶かせば水自体は確保できるが、どうもこの空間では炎系の魔法行使が阻害されるようじゃし…」

「飲み水のために一々上級レベルの魔法を消費するのは痛いね」

「…でも、私達には関係ない」

ティオと嵐が苦笑いしながら鈴に答えると、ユエが肩を竦めながら胸元のペンダントと指輪を振う。

 

この氷雪洞窟はティオが言うように炎系魔法の効果を著しく弱めてしまう効果があり、初級魔法でも上級レベルの消費を余儀なくされてしまい、氷雪地帯でよくある雪を溶かして水を確保するという方法も多大な苦労が伴う。

尤も私達は普段から食料にしろ飲料水にしろ宝物庫の中にしまっているからので気温の影響を受けないし、防寒用アーティファクトが体から一定範囲の気温を常に快適温度に保つから取り出した瞬間に飲料水が凍るということもない。

「役に立って何よりだよ」

「そうだな。ああは成りたくないからな」

ハジメと私はユエ達の会話に相槌を打ちながら前方の一点に視線を向けた。

私達の視線の先にはまるで疲れて壁に背を預けながら座り込み、そのまま凍てついてしまったかのようだ眠るよう目を閉じたまま氷の壁の中に埋まっている男の姿があった。

「外傷一つ見当たらない事からして寒さのせいで意識が飛び、そのまま生き絶えたのだろうな」

「…碧刃さん。何だか、あの死体…おかしい気がする、です」

「確かにそういえば、随分綺麗に壁の中に埋まっているな」

綾波の言葉に私はそう返す。

「まるで座り込んでいた場所まで氷の壁がせり出てきたか、座ったままの状態で壁の中に取り込まれたみたいな……」

シアが言っていた様に死体はまるで標本の様に胡座をかいた状態のまま氷壁の中に埋まっていた。

この状態になるにはシアが言っていた様に男が死んだ場所にまで氷壁が出てくるか男の方が壁の中に入らねばならないだろう。

私は念のためにスキャナーで調べてみたが、コールドスリープに入っている訳でもない…反応からして死んでいるのは確かだ。

「生命反応は確認出来ない…死んでいる事に違いはないみたいだ」

死体蹴りなどする事もせず私達は黙々と迷宮を踏破していく。

氷雪洞窟は幾つも枝分かれした迷路の様になってはいるが、私達は羅針盤のおかげで深奥への道に迷うことはなく順調に道程を進んでいく。

道中にはそれなりの数の氷壁に閉じ込められた死体やトラップなどもあったが魔物の襲撃はなかった。

「…またか」

私は通路の先で再び氷壁に埋め込まれたような浅黒い肌に尖った耳の魔人族の男の死体を発見した

それが三人固まって、やはり眠るように目を閉じている。

「これで50人、ほとんど魔人族ですね」

「そうだな、綾波。推測でしかないが、フリードが攻略したことで挑む人数も増えたのだろうな」

死体の衣装が明らかに一昔前とわかるものと、王都襲撃時に見た魔人族の軍服とに分かれている…具体的には個人で挑んだと思われる私服の防寒着を着ている者が10人ほどで他は軍服を着た魔人族だった。

「ふむ。攻略情報があれば行けると踏んだのじゃろうが……やはり、そう簡単にはいかなかったようじゃのう」

「他のルートのことも考えると、どれだけの者が挑んだのやら」

「でも、国を挙げて挑んだのなら、そのフリードっていう人以外にも攻略できた人がいる可能性はあるよね」

「もしそうなら、魔物の軍団が再編されるのも時間の問題かも…」

とティオ、嵐、宮古、優花はそう言う。

「少なくとも直ぐに攻められることはないと思うがな。メルド団長達によれば内通者の可能性は徹底的に潰したそうだし、大結界もハジメ達によって完全に修復されている上に大結界を警備する兵士達も一度内側から破られているせいで高い危機意識を持っている。

それに同盟を結んだフェアベルゲン経由でゾイドの配備も進んでいる。再び襲撃があっても遅れは取らないだろう」

 

その後も進んで行った私達は大きな四辻に出た。どの通路も同じ大きさで高さも横幅も10メートルくらいあるだろう。

ハジメが再び手元の羅針盤で方角を確かめたようと立ち止まった時、不意にシアが反応した。

「…何か来ます」

「魔物か?やっと出て来たな。どこからだ?」

「…四方向、全部からです」

「確かか?」

私の言葉にシアは頷き、彼女の警告に全員が戦闘態勢を取り、大きな四辻の中心で私達は四方向に背中合わせになる。数秒後に通路の暗がりの向こう側から呻き声のようなものが聞こえ始めた末にそれは現れた。

黒を基調とした軍服を纏い特徴的な耳を持つが、肌だけは本来の色を失い青白くなっている上に全身にびっしりと霜を貼り付けたような状態の人影が暗闇からぬるりと染み出るように姿を見せた。

「こいつら…まさか氷壁の死体?」

「そうだろうな、ハジメ」

「…魔人族以外もいる。さっき見た奴」

「生きて…いたわけじゃないわよね」

「まるでゾンビみたいだよ」

「凍っているからフロストゾンビだね」

四辻それぞれから溢れ出すフロストゾンビ(命名は嵐)はの数は既に三桁に達している。

「何にせよ、やることは変わらない。…元人だろうが立ちはだかるなら容赦しない」

私がそう言った直後に緩慢な動きだったフロストゾンビ達は呻き声をあげながら猛然と駆け出した。

「"聖絶・爆"!」

手始めに鈴がバリアバーストを放ち、フロストゾンビ達は通路から出てくる前に、通路全体に展開された障壁へ体当たりするように衝突すると盛大な爆音と共に吹き飛び、細かい破片となって爆散した肉片が転がる。

「体の中まで凍てついているわね」

「うん、まるで液体窒素を浴びた挙句粉砕されたターミネーターのようだよ」

と優花とハジメは肉片を見てそう言う。

私達はそれぞれフロストゾンビ達を攻撃していき、フロストゾンビ達は碌な回避行動も取らずに粉砕し、凍りついた血肉の結晶が盛大な音を立ててカラコロと転がる。

「随分と脆い…です」

綾波が怪訝そうに呟いた直後だった。

「まさか再生してる?」

宮古の言葉通り、撒き散らされた肉体の破片が勝手に動いて集まると、瞬く間に元の姿を取り戻したのだ。

「魔石の反応もない…何か仕掛けがあるんだろう。ハジメ、羅針盤で調べるんだ」

「うん、わかったよ」

ハジメは引き続き銃撃しながら、片手に羅針盤を取り出すと魔石を探し始める。

「あったけど、フロストゾンビ達の体内にはない!現在位置から五百メートル以上離れた場所にある。あるいは、その魔物の固有魔法なのかも。遠隔操作でもしてるのかもしれない」

「その魔石をどうにかしなければ、延々と戦い続けなければならないか」

「なら、行くしかありませんね!」

私達が先陣を倒している間にも、後から後から湧き出てきたフロストゾンビで既に四辻はぎっしり埋まってしまっている。おそらく、目に見えない範囲にも無数にいることだろうから強行突破しなければならない。

「私が先陣を切る」

私はトランステクターを顕現させ、本来の姿(マグナコンボイ)のビークルモードとなる。

「総員、荷台に乗れ。正面の連中は轢いていく。ハジメは道案内を、他の者達は左右と後方を頼む」

皆が荷台に乗ったのを確認すると私は正面から迫るフロストゾンビを轢きながらハジメのナビゲーションで前へ進み、皆は左右後ろのフロストゾンビを攻撃する。

 

そうやって進んでいくとアキバドームと同じくらいの大きさのドーム状になった空間に出た。

「フロストゾンビ達を動かしているはずの魔石の場所はこの部屋だって示してる。正確には、僕達が入ってきた入口と対面にある氷壁からだよ」

「ありがとう、ハジメ」

私は皆を降ろすと

「マグナコンボイ、トランスフォーム!」

ロボットモードへ変形し、ベクターシールドブラスターの銃口を魔石がある方角へ向けようとするが、頭上から翼を広げた大鷲…それも全てが透き通った氷で出来たフロストイーグルが強襲を仕掛けてきた。

フロストイーグルは天井の氷壁から次々と生み出されるように出現し、豪雨となって落下し、私はコンボイガンに装備するとそれをフロストイーグルに向けて発砲する。

エネルギー弾はフロストイーグルの胸元に着弾した瞬間、衝撃を撒き散らして氷のボディを爆砕し、更に私はベクターシールドブラスターの銃口を魔石に向けると発砲したが、氷壁の中の魔石は突如動き出して、ベクターシールドブラスターの射線から外れた。

「どうやら、オアシスにおったバチュラムと同じようじゃな。だとすれば、周囲の氷の全ては相手の攻撃手段と見た方がいいじゃろう。皆、注意するのじゃ」

天井から次々と降ってくるフロストイーグルと通路から広場に溢れ出てきたフロストゾンビに皆が対応している中、ティオは事態を理解すると忠告を発し

「グルァアアアアッ!!」

その忠告を証明するかの様に今度は周囲の氷壁から全身が氷で出来た二足歩行の狼が大量に生み出された。体長は2メートルほどで鋭い爪牙を持ち、その眼だけが赤黒い光を放つ獣らしい唸り声を上げている。

「これはフロストワーウルフといったところだね」

アキバドームと変わらない広さの空間が、直ぐに3種の魔物に埋め尽くされていく。空にはフロストイーグルが軽く3桁を越えて飛び交い、迎撃されて砕け散ったものも直ぐに再生して戦列に加わる。

後方の入口からは300体はいるであろうフロストゾンビが呻き声を上げながらも私達を喰らわんと大口を開けて溢れ出てくる。

周囲の壁からは、既に数えるのも馬鹿らしいほどのフロストワーウルフが出現し、私達への包囲を徐々に狭めてきていた。

挙句の果てには魔石があった氷壁が凄まじい勢いでせり出し、周囲の氷を取り込みながら1秒ごとにその体積を増やしていき

「クワァアアアアアアアアアアアアアアアン!!」

いち早く形作られた顎門を開いて咆哮を上げると共に、凄まじい衝撃波を放ったのだ。

「"絶界"」

ユエは咄嗟に空間魔法による空間断絶型防御障壁を展開し、その直後に不可視の障壁に激震が奔り波打つように空間が揺らめき、障壁の向こう側で、魔石を体内に抱えた魔物が姿を完全に現した。

体長は20メートル以上、全て氷で構成されており背中の甲羅には剣山の如き氷柱が突き立っている亀型の魔物だ

「どうやら、あの魔物…フロストタートルの装甲を破って魔石を破壊するのが先か、魔物の群れに呑まれるのが先か、そういう試練の様だな」

私はそう言いながらフロストタートルとの交戦を開始するのだった。

 

 

 

 

To be continue

 

 

 

 

 

 




碧刃達の地球はラブライブ!9人の女神と鋼鉄の戦女神の舞台となった第46太陽系の地球なので東京ドームではなくてアキバドームです。

マグナコンボイの強化について(1の場合、マグナコンボイ自体の外見はそのまま)

  • 1:マトリクスソード進化
  • 2:G2バトルコンボイ型へリフォーマット
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