第9話『隻腕の戦女神』
―side:Magna Convoy―
嘗ての大戦で活躍した傭兵団が設立した新興の国たるヘルシャー帝国は実力至上主義を掲げる軍事国家であり、戦いを生業とする者が多い。
帝都には大陸最大規模の闘技場などもあって、年に何度も種類の違う催しがなされており大いに盛り上がっているらしい。
聖教教会の威光が強く亜人への差別意識も高い故に亜人を奴隷として傍に置くという考え自体が忌避されがちな風習があるハイリヒ王国とは異なり、ヘルシャー帝国は実力至上主義かつ使える物は何でも使うという意識があるのか、亜人族の奴隷を従えている者も多い。
帝国自体、亜人達が住む樹海に隣接しているというのもあるだろう。
この世界の宗教上、亜人が格下な事に変わりはないが、帝国ではその亜人に対する接し方も人それぞれであり、単なる労働力として接する者も入れば、共に戦う相棒として接して信頼関係を築いている冒険者や配偶者として共に過ごしている者もいる。
そんな帝国のある場所、人目がつかない場所に私達はいた。
目の前には10代半ばの日本人と思わしき黒髪の女がいる。
瞳は濁っているかの様に光がなく、首には首輪を嵌められており、更に右腕は上腕から存在しない…所謂隻腕だ。
「まさか此処でアデプトテレイターに出会えるなんてね…」
とハジメは呟く。
以前、あかりとヴェルはアデプトテレイターは戦女神と呼ばれる事もあると言っていた。二人は鋼鉄の戦女神と呼ばれていたし、綾波はステータスに"鬼神竜の戦女神"と記載されていた。
ならば、目の前のアデプトテレイターは"隻腕の戦女神"とでも呼ぶべきだろう。
旅の準備の為に1週間オルクス大迷宮の最下層のオルクス邸で過ごした。
その中で新たに分かったのが綾波のステータスの天職の欄が戦女神から鬼神竜の戦女神になった事と技能に
私達は1週間の間に装備を整えた。
ネストからの補給と新たに作ったり改修したりで装備は充実したが、神水だけは神結晶が蓄えた魔力を枯渇させたため、試験管型保管容器15本分のみとなってしまった。
ハジメや優花、ユエは神結晶に魔力を魔力を込めてみたのだが、神水は抽出できなかった。
「やはり長い年月をかけて濃縮でもしないといけないのかも」
「優花の言う通り…だ…ね…いや、もしかして…碧刃は前世だと長い間生きてきたんだよね?」
「あぁ、そうだ」
「それにエネルゴンマトリクスって強大なエネルギーを秘めているんだよね」
「その通りだ。大元のマトリクスより力は小さいが、そのエネルギーは尽きる事がないとされている」
「だったらそのエネルギーを神結晶に注いだら神水を作れるんじゃないかな?」
「試してみよう」
私はエネルゴンマトリクスのエネルギーを魔力に変換して注いでみたのだが、ハジメの読み通りに神結晶から神水が吹き出してきた。
流石に幾らかはタンクに入れて更に宝物庫に保管する事になったが…
オスカー・オルクスは神結晶を自力で作ろうとしていたらしく、人工の小さな神結晶も見つかった。それらはハジメの手によってアクセサリー状に加工されて優花やユエに渡された。
特にユエは最上級魔法等を使えるが、強力な代わりに一発で魔力枯渇に追い込まれる程、魔力の消費が激しいから電池のように外部に魔力をストックしておけば最上級魔法でも連発出来る上に魔力枯渇で行動不能になる事も防げるだろう。
因みにハジメと優花は夜になると性行為に及んだのだが、ユエが寂しそうにみていたので優花が
「えっと…ユエも混ざる?」
と提案してハジメと優花とユエの3Pをしたらしい。優花曰くハジメの一番を譲る気はないしユエもそれを理解しているが、死線を潜り抜けた仲間でユエの事を認めているから一緒にハジメと気持ちよくなろう、と考えたらしい。
本人達がそう話している声が聞こえたが、夕べはお楽しみだったなと無粋な事を聞いたりはしない…だが、優花とユエの媚声を聞いた綾波は触発されて私と性行為に及ぼうとした為、私はその相手をした。
そんなこんなで1週間が過ぎ、色々と準備も出来たので出発する事にした。
「さて、いよいよ出発だ」
魔法陣を起動させながら、私は皆に静かに告げる。
「地上では異端である私達の武器や力を聖教教会や各国が黙っているということはないだろう」
「確かにそうだね」
「ん…」
「兵器類やアーティファクトを要求されたり、戦争参加を強制される可能性も極めて大きい…ですね」
「そうね。よく考えたらこれは世界を敵にまわすと言っても良いヤバイ旅よ」
とハジメ、ユエ、綾波、優花はそう言う。
「でも、何を今更って話です。私は碧刃さんに付いていくって決めたんですから」
碧刃はそう言って私の手を握る。
「それもそうだね」
とハジメは笑みを浮かべ、優花とユエも同意するかの様に頷く。
「ならば、旅を始めるとしよう」
オルクス邸にある魔法陣を通って私達は秘密の通路を進んでいく。
幾つか封印が施された扉やトラップがあったが、オルクスの指輪が反応して解除されていった為、何事もなく洞窟内を進めた。
やがて光が見えてきて、それに近付くにつれて光は大きくなり、清涼な風が吹き込んでくる。
そして、私達は光の向こう側へ出た。
「やった…」
「…んっ!」
「えぇ…!」
「久々の外…」
と皆が思い思いに呟いた後
「「「「戻ってきたぁぁぁぁぁ!!」」」」
と口にした。特にユエにとっては300年ぶりの外だ。
今までに見た資料と照らし合わせてみると私達が今いるのは"ライセン大峡谷"と呼ばれる場所であり、この断崖の下はほとんど魔法が使えないにもかかわらず多数の強力にして凶悪な魔物が生息するという地上の人からしたら地獄にして処刑場とも言える場所だ。
そして、地上に出た事に歓喜する私達の前に魔物が現れた。
「前には魔物、後ろの絶壁は登ろうと思えば登れない事もないな。倒しながら先に進むぞ。上に出る道があるかもしれない。」
私達はライセン大峡谷の中を進む。倒した魔物は後で魔石や素材を町で売却する為に出来るだけ回収する。
そうやって私達は峡谷の上に出る事が出来たのだが…
「どうしたの碧刃?」
「いや、かなり遠くから妙な気配を感じてな。方角としてはヘルシャー帝国からだな」
感じ取れた気配は微弱で時々途切れたりする。
これまでに似たような気配を感じた事がある…綾波と出会った時だ。そして、綾波もその気配を感じて取った様だ。
「碧刃さん、この気配ってもしかして…」
「アデプトテレイターだろう。帝国にいるな」
「この気配はあの船に乗っていたアデプトテレイターのものですが、惑星トータスに辿り着いて碧刃さんに出会うまで他にアデプトテレイターの気配を感じた事は…」
「かなり遠方にいると気配を感じ取る事は出来ない。比較的近くにいる事で気配を感じ取れる様になる。綾波の場合は偶々その気配を感じ取る事が出来ない程、そのアデプトテレイターから遠くにいたのだろう。
もしくは私の様に最近になってこの世界に来たか、だろう。ハジメ、優花、ユエ。済まないが先に帝国へ向かうぞ」
「うん、分かった」
ハジメがそう言った後、優花とユエも了承し、私はトランステクターを顕現させ、更に宝物庫の子機からオルクス邸で作ったトレーラーを出してそれを牽引する。
トレーラーのコンテナの中はトレーラーハウスになっており、ハジメ達がトレーラーに乗った後、私はヘルシャー帝国へ向かってトランステクターを走らせた。
この惑星トータスではアーティファクトに該当するであろうトランステクターを見られると色々面倒な事になりそうなので帝国にある程度近付いたらトランステクターを仕舞い、トレーラーを宝物庫に仕舞って徒歩で帝国に向かう。
帝国に入る時、私達はステータスを一部隠蔽するなどして偽装する。
私達は魔物の素材を売ったり(その時に冒険者登録もしておいた。ユエのステータスプレートも発行しないかと提案されたが、此処でステータスプレートを発行しても偽装が出来ず騒ぎになると考えて断った)して資金を稼ぎ、私達はそのアデプトテレイターの反応を辿った。
そうして辿り着いたのが亜人族の奴隷市だ。
様々な亜人奴隷が売られている中、件のアデプトテレイターがいたのは訳ありの奴隷が売られている場所だ。
怪我をして戦えなくなったり性奴隷として使われたが捨てられた亜人族が売られていた。流石にこの光景をハジメ達に見せるのは酷なので私1人で店に入った。
そして漸く件のアデプトテレイターを見つける事が出来た。
首輪を嵌められ、右腕が隻腕の黒髪の10代半ば辺りの日本人。
「店主、この奴隷は?」
と私はこの店の店主に問う。
「あぁ、こいつは数日前に見つけて、見た感じは人間族っぽいんだが身寄りがないらしい上にこの様だから会話も出来ないし片腕がないから許可を獲て奴隷として売っている。まぁ、こんな状態のを買うなんて相当の物好きだ」
「いくらだ?」
「おいおい、嬢ちゃん買う気なのか?」
「私はこんな姿だが男だ。言葉は問題ないし隻腕も何とか出来る。後は治すだけだから問題ない」
「男だったのか…悪いな。そうだな、さっきのお詫びを兼ねて値引きして…この値段で良いか?」
「ふむ、買おう」
「まいどあり」
こうして奴隷として売られていたアデプトテレイターを購入し、今に至る。
「まさか此処でアデプトテレイターに出会えるなんてね…」
「そうだな、ハジメ」
そう返した私は購入したアデプトテレイターを観察する。首輪はおそらく力を封じている物だろう。
身体のあちこちには傷があるが…やはり一番酷いのは欠損した右腕だろう。
「ハジメ、彼女の義手を作ってやって欲しい。綾波、優花、ユエは彼女の身体の手当てをして洗ってやって欲しい。私はネストへの通信を試してみる」
各自役割分担をし、私はネストへの通信回線を繋ぐ。
「応答せよ、此方、マグナコンボイ…頼尽碧刃だ。応答せよ」
『此方、頼尽ヴェールヌイ。あかりから訊いたが無事な様で良かった』
頼尽ヴェールヌイ…私の養母の1人であかりとは同性結婚をしている。私を含め親しい人物はヴェルと呼んでいる。
「あぁ、何とかな。補給物資とトランステクターは受け取った。しかし、新たな問題が出来た」
『新たな問題?』
「また新たにアデプトテレイターを1人保護した」
『ハラショー、まさかの2人目か』
「しかも状態が悪い。左腕が欠損している上に精神的にダメージが大きそうだ。まぁ、私のパーティーには優秀な人材がいるから何とかなると思うが…」
『そうか、ならば彼女の事は任せる。トランステクターも一応手配しておこう。まぁ、送るのは難しいが…』
「それともう1つ報告したい事がある」
私はオルクス邸で知った事をヴェルに報告する。
『これはとんでもない事だな…会話は記録してあるから私の方からつばめさん達に報告しておく』
「ありがとう、ヴェル」
私は通信を切ると皆の元へ戻る。
「碧刃さん、彼女の身体を洗って首輪を破壊しておきました」
「ありがとう。傷の方はどうだ?」
「神水を飲ませて回復はしたけど、腕だけは…」
と優花は報告する。
確かに傷は治っているし小汚かったのが綺麗になってはいるが、欠損している腕だけはそのままだ。
「ハジメに義手製作を頼んでおいて良かった。後は会話だけだが…」
私は屈み込んで彼女に問う。
「私の言葉が分かるか?」
私の言葉に驚いたのか彼女は頭を上げて私を見る。
「もう一度訊くが、私の言葉が分かるか?」
「分かる…けど、どうして…」
「日本から来たからだ」
「日本から…?」
私と彼女の会話だが、ユエだけは彼女が何と言っているかわからないらしい。
「私は頼尽碧刃。この一団のリーダーだ。お前の名前は?」
「
「宮古、か…よろしくな」
あれから宮古からある程度情報を聞き出せた。
彼女も転生者らしく、気がついたらこの世界に転生してきたらしい。
前世において平和に暮らしていた中、海難事故に逢って両親を失った彼女は身寄りもなく孤児となったのだが、親無しとして学校でいじめを受けて精神的に疲弊し、その果てにクラスメートに殺された。しかし気付いたらアデプトテレイターとなって此処にいた、らしい。
話を聞いていた皆の顔は暗かった…特にハジメはクラスメートからいじめを受けていた事もあって特に暗かった。
そんな中、私は宮古にある提案をした。
「…なぁ、宮古。私達と一緒に来るか?」
「一緒に…?」
「私も生まれた経緯故に身寄りがなくてな、そんな時に職場の上司が私を養子として迎い入れてくれた。
彼女達はこう言ってた…『血の繋がりだけが家族じゃない、自分達が家族と思えば家族』だと。
此処にいる綾波もこの世界じゃ身寄りがないから私の元に来る事を選んだ。だから、お前も一緒に来ないか?」
「本当に良いの…?」
「あぁ、歓迎しよう。今までよく頑張ったな」
私は宮古の頭を優しく撫で、宮古はその後漸く泣き続けた。曰く孤児になってから負けるものかとずっと泣くのを我慢していたらしい。
泣きたい時は泣けば良い、私はそう思う。
あれから1ヶ月が経過した。
「おっはよー!ご主人様!綾波!」
「おはよう、です。ミコさん」
「おはよう、宮古。だが、ご主人様はやめろ」
「冗談だよ、碧刃」
私達が宮古の心のケアを行った結果、宮古は初めて会った時とは見違える程に明るく活発な性格になった…というかこれが彼女の本来の性格なのだろう。
綾波は宮古を愛称で呼ぶようになった。ついでに夜になると宮古も私に性行為を求めるようになったし、私と綾波もそれを受け入れた。
「義手の調子はどうだ?」
「うん、今日もバッチリだよ!まるで自分の身体の一部みたい!」
欠損していた右腕にはハジメが製作した義手を装着している。一見はデザイン性を重視した義手だが、この義手は金属細胞なども用いたアーティファクトでもあり、魔力の直接操作で本物の腕と同じように動かせるだけでなく擬似的な神経機構が備わっており、魔力を通すことで触った感触もきちんと脳に伝わる様に出来ている。
勿論、格闘戦にも耐えうる頑丈さも有している安心設計だ。
この1ヶ月の間、宮古の心のケアや義手製作だけでなく魔物退治といった冒険者の仕事をこなしたり闘技大会に参加して賞金を稼いだりした。
そうやって稼いだ金はハジメの発案で亜人族奴隷の購入に使う事になった。
オスカー・オルクスの手記に記されていたが、七大迷宮の1つがハルツィナ樹海にあるらしいが、その樹海は霧に覆われており、その特性上亜人族の案内なしで動くのは無理とされている。
そして亜人族は被差別種族であるが故に奴隷として連れ去られる以外で樹海から出る事はない為、此処で亜人族を雇って案内して貰おうという考えだ。
そうやって購入した亜人の中に興味深い存在がいたのだが、それはまた別の話だ。
To be continue
最後に登場した亜人、何ハウリアなんだ…←バレバレ
マグナコンボイのヒロインはあと1人くらいは増えるかも…
・
種族:人間→アデプトテレイター
年齢(前世での死亡時点):13歳
碧刃や綾波とは異なる世界から転生してきた少女であり、本来は明るく活発で人懐っこい性格だったのだが、海難事故に逢って両親を失い、寄りもなく孤児となった事で状況は一変。
家族を失った事と親無しとして学校でいじめを受け続けた事で精神的に疲弊し、その果てにクラスメートに殺されてしまった。
その後、アデプトテレイターとして転生し、綾波と同じ船に乗せられたのだが、事故によって本作での惑星トータスに流れ着き、精神的に疲弊している状態が続いている中、魔物と遭遇して右手を失いながらも生還、倒れていた所を奴隷を輸送していた業者に発見され、奴隷として売られていた所をその存在を感じ取った碧刃によって買われて今に至る。
名前と声のモチーフは戦翼のシグルドリーヴァの六車・宮古で、名字は同作の駒込・アズズと渡来・園香から1文字ずつ取っている。
谷口鈴の今後について最終投票(1の場合テレイター化で大幅強化&碧刃ハーレム入りで出番増加、2の場合出番は原作と同じ位か減少)
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1.オーダーヴァンガードへ正式加入
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2. 坂上とくっつく(坂上改心・和解)