ヒロインと悪役令嬢がVSするはずだったのに   作:弐式草之助

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第3話

学園初日、マリエールはどの攻略対象とも同じクラスにならなかった。

どうやら同学年の攻略対象者は全員ヒロインの少女と同じクラスになったようだった。

これが思わぬ部分にまで発揮される()()()()という役割の性能だとしたらと考えるとめまいを覚えるようだ。同時に()()()()の運の悪さにも。

同学年での攻略対象は王子、宰相の息子、騎士団長の息子。この王子以外の二人はほぼ王子の護衛のため同じクラスになるのは分かりきっていた。

その為王子と同じクラスになれるかどうかが肝心だったのだが、結果はご覧の有様である。

この程度ならまだ偶然だと言い張れるかもしれない、と内心の焦りを押し殺していると王子のいる教室に着いた。

深呼吸をし、扉を開ける。

 

「失礼いたしますわ」

 

一瞬ざわりと教室内の空気が揺れたが構わず王子の下へ向かう。

 

「ごきげんよう、クリス様。同じ教室で勉学に励むことができないこと、わたくしとても寂しく思いますわ……」

「やあ、()()()。僕も君と離れて寂しく思っているよ」

「それで、楽しみにされていた新しいお友達はできましたの?」

 

マリエールの笑いを含んだ声に王子は大げさに肩を落として見せた。

今ではこうした戯れも不敬だったかと不安にならずに行える。その程度の関係性は築いてきた。

 

「それがご覧の有様だよ……」

「まあ、綺麗なドーナツですこと」

 

前回会った時に心底楽しみにしているようであったが、周りは見事に空間が開いてしまって、遠巻きにされていた。みな挨拶程度に声をかけて去っていってしまったようだ。

 

「あっでも、」

 

王子はきょろきょろと辺りを見回して、誰かに手招きした。

 

「さっき別の場所で友達になったんだ。ロゼ・クオーツさんだよ」

 

名前からして女性、そして入学した王子の初めての友人枠に収まる運の持ち主、瞬時にマリエールの脳内に推測が走る。

そして、進み出てきたのが推定ヒロイン、ロゼ・クオーツその人だった。……いや、なんか手を振って拒否してますわね。

しばらく手も首も横に振って拒否していたが、どうやら王子の笑顔の威圧感に負けたようでがくりと肩を落とす。

 

「うう、衆人環視の中に引っ張り出されてしまった……」

 

気を取り直してこちらに近寄ってきたなんのエフェクトも背負わない彼女はしかし、快活そうな瞳を輝かせた可愛らしい少女なのであった。 

そしてつい小一時間ほど前に桜の下で出会った少女でもあった。

ロゼは王子になにやらお礼を言うとこちらに向き直って言った。

 

「ロゼ・クオーツと申します。さっきちょっと廊下で困っていたところを助けていただいて、そのご縁でクリストファー様とはお友達にならせていただきました」

「ごきげんよう、わたくしはクリス様の婚約者であるマリエール・P・ブーゲンビリアですわ。

……貴女、さっきの」

「さっき桜で……」

 

「もしかして知り合いかい?」

 

王子が首をかしげている。

マリエールとロゼは目だけでうなずきあった。

 

「そうですの、ちょっとした知り合いですの」

「そうなんです、さっき偶然知り合って」

 

王子たちから一歩はなれる。

 

「もう少しお話したいと思っていましたのよ」

「まさかここで会うとは思わず」

 

もう一歩、足を進め、

 

「女の子同士の秘密のお話ですわ!」

「少しだけ失礼しますね!」

 

ざっざっざっと少しはなれたところまで行ってから、小声で話し出した。

 

「クオーツさん貴女、()()ですわよね?」

「言い方……ではやはりブーゲンビリアさん貴女も?あ、ロゼで良いです」

 

お互いをまじまじと見る。

 

「でしたらわたくしもマリエールと」

 

見れば見るほどに可愛らしい少女だった。角度によって赤く見える紅茶色の瞳も、艶やかな黒髪も。黒髪をちょんと彩るその赤いリボンも。

 

「ところで……貴女わたくしのファンかストーカーですの?」

 

むっとロゼの口元がへの字になった。ふっと笑うマリエールの赤いリボンが揺れる。

 

「なっ……貴女こそ!髪型真似して来るのやめてください!その赤いリボンだって!貴女には似合っていませんし!」

「わたくしに似合わない色なんてあると思って?お医者様を紹介いたしますわ」

 

マリエールは目にぐっと力を入れる。ロゼの動きに合わせてハーフアップにされた部分がぴょこぴょこ動いた。

 

「絶対!貴女には負けませんから!」

「わたくしだって、貴女に負ける気はさらさらありませんわ!」

 

器用に小声で言い合って、数秒にらみ合った。擬音をつけるとするならぐぬぬぬぬ、となる。

そして二人同時にふん!と顔をそらしたのだった。

 

 

 

 

 

ここ王立魔道学園の授業は大きく分けて3つ、一般教養、魔法理論、戦闘技術に分けられる。すでにほぼ全ての授業が始まり、現時点で実施されていないのは魔法の中でも特殊な部類である固有魔法だけとなる。

ある程度の得意不得意はあれど誰にでも使える属性魔法に対して、固有魔法は個人の資質によるものである。属性魔法は基本的に火を出し水を操り風を留めるものであるのに対して固有魔法は雨を降らせ雷を落とし重力に作用したりする。例えば属性魔法で水を操ることで雨を降らせることは可能だが、その原理も何も不明である特殊技能が固有魔法なのであった。

 

今立っている場所はそんな魔法を実際に使用して練習できる野外実習場の端。裏の森との境界線辺りである。

近くの小川の音と木の葉の擦れる音が耳に涼しいそこで、マリエールは朝から1人探し物をしていた。休日を明日に控えた放課後のことだった。

 

「ここにきて急に運が悪くなりましたわね。……見つかりませんわ……」

 

ちゃり、とポケットの中から壊れた鎖を取り出すも、やはりそこには鎖しかない。

それを不満そうに見つめ、またポケットに戻す。

本来この先についていたはずのチャームは未だ見つからないままだ。

 

恐らく本日の属性魔法の授業でこの場所を使ったときに劣化していた金具が外れたのだろう。

外れた鎖に気が付いたときにはすでにその先についていたはずの飾りはなく、次の授業まで間もなかった為しぶしぶ放課後まで回した。

青い宝石の付いた少し子供っぽいデザインのそれは子供のころからずっと大切にしていたものだ。それこそ、この10年間よりも前から。

 

ため息を一つこぼし再び探し始めると背後から足音がした。

振り返ると、そこには黒髪の少女。

 

「こんにちは、何かお探しですか?」

「ごきげんよう、ロゼさん。ええ、少し」

「わたし、さっき課題用の本を図書館に返す為にあそこを通ったんですけど、行きに見かけたマリエールさんが帰りにも見えたので、手伝えることがあればと実習場突っ切ってきました。暇だったので!」

「野生児か何かですの?」

 

この場所は教室のある棟から野外実践場を横切って少し森に踏み入った位置になる。ロゼがあそこ、と指した位置からはかなりの距離があった。マリエールにはこちらから見て建物の中を通る人間など、木の間からよくよく目を凝らしたとしても人影が見えるかどうかだ。

とはいえ今はすごく助かる。本来険悪な関係であるはずの自分にわざわざ手伝いを申し出てくれたのは意外だが、マリエールにとっては渡りに船だった。

 

「でも丁度良いですわ、貴女すごく目が良さそうね」

「普通ですよ!」

「この距離が見える普通があってたまりますか。それなら、ちょっとこの辺り見回してキラキラしたものが落ちてないか見ていただけないかしら」

 

このくらいの、と指で示すと胸を張った少女は悪戯っぽく笑った。

 

「お安い御用です。目の悪いマリエールさんに代わってよーく見て差し上げますわ!」

「わたくしの目は普通ですわ!あと真似しないでくださいまし!」

 

 

 

「もういいですわ、ありがとうございます、ロゼさん」

 

あとで1人で探そうと決めつつマリエールは声をあげた。

辺りはすでに夕日が差し込んできていた。なんだかんだロゼはあれからずっと付き合ってくれている。

さらに声をかけようとしたところでロゼは何かに気をとられたように近くの小川の方を見ていた。

 

「あっ!」

 

マリエールがあっけにとられている間にざばざばと躊躇なく川に踏み込んだロゼがずぶ濡れのまま何かを拾ってこちらに手を振った。

 

「マリエールさん!これじゃないですか!?あっち側の川の端に引っかかって夕日が当たってキラキラしてたんですけど!」

「ばっかじゃありませんの!?回り込んだらいいことですのに川に踏み込むだなんて!」

「あっそうですね。でも、見失ったり流されちゃったりするかなって」

「魔法をお使いなさいな!それでも魔道学園の生徒ですの!?」

 

マリエールは川べりまで近寄り、ロゼもさほど広くない川の中こちらに寄ってくる。

 

「……でも、ありがとうございます、ロゼさん。間違いなく探していた物ですわ。」

 

見せられたのは、クローバーの飾りと青い石が付いた少し子供っぽいそれ。このあと1人になっても探し続けると決めていた物。()()()()()との思い出の品。

絶対に見つけ出すと決めてはいたが、心底安堵した。

 

「…………風邪を引きますわよ」

 

す、と手を差し出したマリエールの手にロゼはちょん、とチャームを置いた。

 

「はい、見つかってよかったですね!」

「そうじゃありませんわ!」

 

百点満点の笑みを浮かべるロゼの手をとりマリエールはそのまま川の中から引っ張り上げたのだった。

 

 

 

 

 

ロゼはとても良い人だ。この間もいがみ合っているマリエールの探し物を手伝ってくれた。

もちろん見た目も良い。可愛らしい顔立ちにパッチリとした目、深い紅茶色の瞳、やさしげな色合いのそれは彼女の性格を表したように輝いているし、その艶やかな髪はいつもさらさらで手触りが良さそうだ。こんな子に言い寄られたら好感度も上がるだろう。

 

ところで、その件の少女であるが。今まさにマリエールの眼下、教室の窓から見える位置でイベントを起こしていた。

この学校では学年によって制服の袖口の色が違うのだが、あれは2年生の先輩のようである。おそらく攻略対象自体は共通なので攻略対象で唯一の先輩枠である生徒会長だと思われる。そしてその星のエフェクトはすでに流星群と化していた。

 

あっこれやばいやつですわね。と、マリエールは思った。

 

エフェクトは対象者の好感度が増えるごとにイベント時に出現する数が増える。一番初めの会話で2つか3つ程度なのを考えるとすでにマックス状態の5分の1程度は好感度を稼いでいる可能性がある。

まだ入学から一月も経過していないのにも関わらずこれだ。

 

それに対して現状マリエールは校内の全ての攻略対象の好感度を上げきっているため、その維持以外にあまり打つ手がない。下手に妨害すると悪役令嬢バフが発動して尾ひれと背びれ腹びれが生えた噂が流れに流れ、攻略対象全員の好感度が落ちるに決まっている。

袋小路に追い詰められた絶望感を感じつつもこれからの方策が浮かばない。

 

そうこうしているうちにロゼのほうのイベントは終わったようだ。当たり前のようにパフェコミュ(パーフェクトコミュニケーション)だった。

 

ふと、脳裏に過ぎっていた案がここにきてネオンカラーで主張を始めた。

 

 

これもうロゼさん落とした方が早いのでは?

 

 

 

 




乙女ゲーイベント部分は巻きで
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