ヒロインと悪役令嬢がVSするはずだったのに   作:弐式草之助

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第4話

朝。平日の朝だ。多くの社会人が仕事へ向かうように、学生であるロゼもまた学校に通わなければならない。そんないつもの朝だった。

 

「ごきげんようロゼさん。今日も良い朝ね」

「おはようございます、マリエールさん。とても良い天気ですね」

「教室までご一緒しませ、んこと……?」

「っ!?よろこんでご一緒します……?」

 

いつもどおりでないことが起こったのは。若干残っていた眠気が一瞬で吹き飛ぶ程度に驚いた。

 

まさか、マリエールから登校のお誘いを受けるとは。

入学から一ヶ月と少し、マリエールとロゼは顔を合わせるたびに軽い応酬程度のやり取りをする関係だった。相手のことを嫌っているわけではないが一応の敵対者として相対する関係だった、はずだ。

 

それがここにきて、何故。しかも若干語尾が怪しい。こっちもつられて疑問系になってしまった。

何か悪戯の類かと思いきや出てくるのは雑談。少々ぎこちなくも提供される話題に相槌を打ちつつ、意外と合う話にうっかり談笑しつつ。

 

そんなこんなでロゼは教室まで始終疑問符を飛ばすことになるのである。

マリエールは公爵令嬢、ロゼはこれでも子爵子女であるので登校時は馬車であり出会うのは校門、一緒に歩くのは校門から教室までの間だけであるのだが。

 

だが、その混乱は一日では終わらず、翌日もその翌々日も続いたのであった。

しまいには別れ際にここに寝癖がついてますわよと微笑まれてあまりの麗しさに目がつぶれるかと思った。

エフェクトも無いのに存在が輝いていた。

目潰しを企んでいたんですか!と叫んで呆れた目で見られた挙句、仕方がないですわねと髪を治された。

そして気が付いたのである。

 

わたし、好感度上げされてる!と。

 

 

 

 

 

ロゼは、まさか幼馴染までキラキラを背負ってるとは思わなかったな……と、騎士学校に通う幼馴染を脳裏に浮かべながら次の授業へ向かっていた。

先日会ったときは星を背負って輝いていたはずの幼馴染だが、ロゼの脳内ではいつでも幼少期に剣術でボコボコにされて泣きべそをかいている姿が映し出されるので若干混乱気味だ。

 

目的地へのショートカットとして中庭を突っ切ることにしたロゼの目の端に花びらが映った。

見れば周りの生徒たちはみな同じ方向に目を奪われているようだ。その中心にマリエールが居た。

 

いやこれやばい奴では?やはり10年の歳月には対抗しきれないのでは?

ロゼは思った。なにせ、花のエフェクトが咲き乱れている。なんならマリエールまで花に巻かれている。麗しの空間と化していた。うっまぶしい。

 

若干エフェクトに目を焼かれながらもロゼは考える。

これ、まともにやってたら勝てませんね。

そりゃああの顔のお嬢様と談笑できたらそれだけで好感度上がりますけど?あの宝石よりも美しい目で見上げられたら、あの白銀に蜂蜜をひとさじ垂らしたような髪に触れてしまったらそれだけでパフェコミュ当たり前ですけど?もう見た目から何からずるくないですか?

ロゼは完全に混乱していた。

 

学園内では家格をあまり名乗らないという暗黙の了解があるけど、それでも王子は少し特別で誰もがお近づきになりたいが気安く近寄りがたく、それゆえにマリエールの存在は特別である。

そして王子との婚約者としての立場もだが、王家との繋がりを持つ公爵家の家格も、その容姿も、何よりそのマリエール自身の才能も全てが特別製だ。

 

ロゼがうっかりずぶ濡れになったときも温風で服と髪を乾かしてくれたのだが、ロゼには絶対にそんなことはできない。風の魔法で水分を吹き飛ばすことはできるが周りのゴミを一切巻き上げないことなどできないし、温度を上げるには火の魔法を出すしかない。それもせいぜい焚き火であぶる程度だ。あんな器用で繊細な魔法の使い方は出来なかった。

 

少し前に属性魔法の定期試験があったのだが、張り出された結果の全ての属性で3位までに名前が載っているとんでもない人だった。

学園に入学してまだ三ヶ月も経過していないのにすでに王立研究所の方からも声がかかっているという噂がある。

 

そしてそんな皆から畏怖と尊敬の目で見られるとんでもないお人に、そういう作戦だろうとはいえ、仲良くなろうとされている。はじめて声をかけられてからほぼ毎日一緒に登校しているこの状態はロゼとしては少し、こう、口元がにまにましてくる衝動を覚えるのであるが。

 

相手はどうせ全員の好感度をマックスまで上げきっている。こっちは初回ボーナス込みでまだ3、4割程度だろう。ハイスペックだということはそれだけで好感度が上がるということだ。そんな人を相手に勝ちに行かないといけない。負けは破滅を意味する。自己犠牲なんて嫌だ。だけど、マリエールを破滅させるのだって嫌だった。

 

相手がすでに策に打って出ている以上、こちらも相応の対応をするしかないのではないだろうか。なんとなく悔しいので相手に落とされるのは却下だけれど。

こうなったら、わたしが先にマリエールさんを落とす!マリエールさんを落として、ハーレムエンドに行く!

 

かくして、ヒロインと悪役令嬢がお互いを攻略対象と定めることとなったのであった。

 

 

 

 

 

そしてロゼが真っ先にしたことは

 

「あのっ!」

「どうかなさいましたの?ロゼさん」

「一緒に……帰り道ご一緒しませんか……!?」

 

マリエールに帰りのお誘いをかけることだった。

 

「っ!?……申し訳ありませんがすでに迎えの馬車が来ておりますの……で……」

 

勢い込んで誘ったは良いが、そういえばそうだった。行きも馬車なら帰りも馬車なのは当然で、突然の誘いはなかなか難しい。ロゼが段々しょんぼりしていくのを見てマリエールが声をかけてくれた。

 

「……貴女さえ良ければうちの馬車で一緒にお茶でもしにいきませんこと?」

「っほんとうですか!?ちょっと連絡してきます!」

 

急いで廊下に飛び出して家に連絡した。お友達と遊びに行くので迎えはいりませんと言ったら、小さいころから世話になっている執事に少し笑われてしまった。なにせマリエールと一緒にお茶をするなんてはじめてのことであるので。声が弾んでいてもそれは仕方のないことなのである。

 

仲良くなると決めてからのマリエールとの会話はとても楽しい。今までの若干の嫌味を交えたやり取りだってロゼとしては楽しかったし、マリエールもそうだったとロゼは思うが、こうしてちゃんと話してみるととても話が合うことが分かる。家格の違いによる価値観の差や得意分野による造詣の深さの違いはあったが、それもまた会話に繋がった。

学園に程近い位置にあるカフェで二人は話し込んだ。マリエールのことがとても好きな歳の離れた妹の話や、ロゼの過保護な兄の話。好きな紅茶の話。王都のおいしいお菓子屋さんの話。学園の授業の話。

 

そうして時間は瞬く間に過ぎ去ってしまった。

別れ際、ロゼはさっき会計時に購入しておいた持ち帰り用のクッキーをマリエールに差し出した。

 

「ココのクッキーすごくおいしいんです。良かったら妹さんと食べてください。あと、お姉さまとのお時間いただいてしまってごめんなさいとお伝えいただけたら……」

「まあ、ありがとうロゼさん。でも妹はまだマナー教室の時間なので気にしなくても大丈夫ですわ」

 

そう言ってマリエールはクスクスと笑い、さっき話を聞いてから妹さんの好感度がとてつもない勢いで下がったのではないかという懸念があったロゼは安堵の息を漏らした。

 

そんなはじめての帰宅イベントであった。

 

 

好感度を上げると言うことは相手に自分を好きになってもらうということだ。そして、自分もまた相手を好きになっていくことだ。

攻略イベントは接待である。だが自分が楽しかったときはきっと相手も楽しかったと、ロゼはそう考えるので。

 

 

グッドコミュニケーション!……の、はず!!

 

 

 

 

 




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