正式名称を魔法研究発表会といって、学校中が魔法を使った色んな研究結果の発表の場となる行事である。昔は歴史研究文化研究の発表ばかりだったため文化祭などと呼ばれている、らしい。
クラスやクラブ活動ごとに、全作業のうち8割を魔法で賄う事を前提として、料理の出店を出したりすることが出来る。展示はもちろん劇や喫茶店や屋台、お化け屋敷なども過去にはあり、生徒にとっては完全にお祭り騒ぎの場である。
魔法の出来が成績にプラス評価としてつくので生徒たちはそれはもう張り切っていた。
ロゼもまた、文化祭を楽しみにしている。ただ一つだけ不満があって心から準備期間を楽しめないでいた。
マリエールが常に忙しそうにしていて、朝しか会えない。そのことが実に不満であった。
大体、マリエールは忙しすぎるのだ。
文化祭の実行委員になったと思えば、クラスの出し物にも手を抜かずに助力しているようだし、休憩時間は実行委員の会議だとか準備だとかで捕まらない。放課後はなんだか家のほうがごたついているとかで急いで帰ってゆくし、授業中はクラスが違うためなかなか会えない!文化祭の準備期間のため授業数もそんなに多くないので合同授業も無い!
それにせっかく一緒に登校できる朝のちょびっとの時間だっていつもより早足だし、なんだか疲れて見えるし。
文化祭直後にあるテストの勉強も、誘うほどの時間もない……。
マリエールに対しての不満なんて一つもないが、マリエールに会えないことにはとてつもなく不満があった。
でも邪魔がしたいわけじゃない。忙しい中でそれなりに寂しく思ってくれているのも知っている。疲れたら休んで欲しいけど、今はそれが難しいことだって分かっている。それでも、ロゼも、寂しい。
ロゼだってクラスの出展の準備もある。初めての文化祭だって楽しみだ。でもなんとなく物足りない気がした。
それが何故かは、まだ分からなかった。
大体一ヶ月程度の準備期間を終えて、今日が文化祭のその日である。
開催自体は一日だけのお祭り騒ぎに一ヶ月も準備期間を設けるのには理由があった。この日は父兄や外部の人間も自由に見学が出来る。
国に関係する機関や部署からの視察も入り、これをきっかけにスカウトされることもある。
そんな学生の将来にも関係のあるような重要なお祭り騒ぎに、ロゼはといえば。
クラスの出し物である喫茶店の呼び込み兼マスコット兼イルミネーション係りとして廊下に立っていた。クマのきぐるみ姿で。
右手には風船、左手には喫茶店を示す看板を持ったクマ、それがロゼであった。
「いらっしゃいませー!喫茶店やってますよー!」
「ごきげんよう。ずいぶん可愛らしい格好をしていますのね」
声を張り上げつつ片手間に教室の飾り付けを光魔法によって変えていると、昨日振りに聞く声がした。
「マリエールさん!こんにちは!実行委員お疲れ様です。見回りですか?風船いります?」
「そうですわ。ところで、わたくしこれから一時間休憩があるのですが、ロゼさんはいつから休憩時間かしら。少しでも被るようなら一緒に露天でお昼でもいかが?」
あと風船はいりませんわという声はもうロゼには聞こえていなかった。朝は実行委員で早いとかで時間が合わなくて会えなかったもやもやが全て吹き飛んだ。
「今です!今からが休憩です!すぐに戻ってくるので絶対に待っててくださいね!」
慌てて教室に飛び込んで風船を全部手放して怒られたし、マリエールには笑われたが休憩はもぎ取れたので良しとする。
二人は色々な露天をめぐり、今は休憩スペースとして開放されている場所で昼食として買ったものを食べ終えて、食後のお茶をしつつまったりとしていた。
お茶請けとしてすぐそこの露天で買ってきたクッキーを取り出す。
さくりと一つ食べてみるとそれは学生の手作りとは思えないようなおいしさだったので、ロゼは何の気なくこのおいしさを分けてあげなければと、クッキーをマリエールの口元に差し出した。
「これ、すごくおいしいですよ!マリエールさんもどうぞ!」
傍から見たその図がどういうことかは気がつかず。
そしてマリエールは何故か一つ小さなため息をこぼしたあとに、その唇を開き、ロゼの持つクッキーをさくりと食んだ。ロゼの手から直接。
あれ、これは、と気がつき、赤くなるよりも早く。マリエールから口元にクッキーを押し付けられ、ロゼは無事沸騰したのだった。
文化祭は無事に終わり、週末を明けたら何があるか。テストである。
文化祭直後に試験があるとかうちの学校無慈悲……と思いつつロゼが試験の順位発表を見に行くと、そこは阿鼻叫喚の地獄絵図だった。
生徒の間でひそやかにささやかれる噂の中に、文化祭直後のテストは採点が甘いというものがあったが完全に嘘だ。
ロゼもまたがっくりと肩を落としつつ前回よりも大分落ちた順位と点数を恨めしげに見る。どうやら、マリエールもいくらか順位を落としてしまっているようだ。無理も無い。準備設営やらで忙しく走り回っていた上に勉強の時間をどれだけ取れたことか。
またマリエールを誘って勉強会をすることを心に決めつつ、ロゼはその場を去った。
マリエールには出会わなかった。
雨の中たたずむ見慣れた背中に、ロゼは傘を差し出した。
「冷えますよ」
「……そうね」
普段は魔法操作で雨程度に濡れるわけも無いマリエールの髪から雫が滴っているのが見えた。
何があって落ち込んでいるのかはロゼには分からない。だがその姿はなんとなく普段よりも落ち込んでいるような、自棄になってしまっているような、そんな風な気がしたので声をかけた。
「……帰りませんの?」
「マリエールさんの気が済むまで、わたしはここで勝手に屋根に徹してますので」
「たまには雨に濡れたい気分のときもありますわ」
「それは申し訳ないんですけど、わたしがマリエールさんが体調を崩すの見たくないので、聞けない話です」
そう、とマリエールは向こうを向き直った。雨を見ているのか、また別の何かなのか。
ロゼは黙ってその後ろ姿を見ていた。
「……わたくし、思い上がっていたのかも知れませんわ。何でもできると、思っていたわけではありませんが、この程度のことができないとは思っていませんでしたの。ちょっと忙しい程度で、成績を落とすような人間に、この先が迎えられるのかしら……」
そう言って黙り込むと、マリエールは俯いた。俯いたのだ。
「しっかりしてください!貴女らしくないです!」
俯くマリエールにロゼは声を張り上げた。自分をも鼓舞するように。
そうでないと膝が砕けてしまいそうだった。
だってあのマリエールが俯いているのだ。理由は分からない。だけどそれはロゼにとんでもない衝撃をもたらした。
「もっと前を向いててください」
「自分だけで全部しないといけないわけじゃないです」
「もっと、もっと巻き込んで利用してください」
「わたしは貴女のことをまだまだ知らない」
「だから、どう助けたらいいのかわからない」
「でも、マリエールさんが俯いてるのは、いやです」
自分が何を言っているのか良く分からなかった。とにかく元気付けたくて、ロゼは言い募った。
「待って、待ちなさい」
「どうしたら元気になりますか!前だけ向いてて欲しいときはどうしたらいいんですか!」
「落ち着きなさい!」
いつの間にかこちらを向いていたマリエールに頬を潰される形で物理的に黙らされた。
こちらを見るマリエールはすでにいつもどおりの顔をしていて、ロゼは一気に力が抜けてしまった。
「あなた、そんな感じだったかしら」
「だってえぇぇ……」
マリエールを雨に濡らせたくない。自分が支えていきたい。ずっと傍で。ロゼは明確にそう思ったのであった。
自分が破滅回避するってことは相手を破滅させるってことでって悩み出すヒロインちゃんと、貴族として自分の利益のために相手を破滅させることへの覚悟がある悪役令嬢ちゃん
の予定だったんですけど、とっくにロゼがマリエールさんも破滅するのやだから全員落としてハーレムルート行く!とか言い出してるんですよ