試験結果が思わしくなく、少しやけっぱちな、たまには雨にでも濡れたい気分で居たらロゼに解釈違いを叫ばれてからしばらく。
そのロゼが嘆くのをマリエールはじっとりとした目で見ていた。
「もうやだ……やっぱり
「四の五の言わずにステップを踏みなさい。はい、ワンツー」
「無慈悲……」
「仮にも貴族であるのにダンスが踊れないあなたにダンスを教えて差し上げているわたくしは慈悲の塊ですわね」
クリスマスといえばパーティー、貴族といえば、パーティーといえばダンス。貴族としてのほぼ必須技能であるそれを苦手だと言うロゼの横でステップを見るため手拍子を叩いていた手を止めた。
ため息を吐く。そしてロゼの手を掴み、腰を引き寄せた。
「ちょっと実際に踊ってみなさい」
「無慈悲!」
「ほら、いきますわよ」
無音の中、目を合わせ、足を引き、くるりとまわる。
一通りリードして踊ってみたあと、マリエールは温かい手のひらをそっと離した。
「踊れるじゃありませんの」
特に危なげなく踊れていたように思う。それでもロゼはいつになく自信が無い様子だった。
「そりゃ、一通りは……でも苦手なんですよ……」
「相手の足さえ踏まなければ十分ですわ。背筋を伸ばしておけばそれなりに見えますわよ」
眉をへにょりと下げたロゼが言う。
「でも、なんというか……恥ずかしく思ってしまって……。マリエールさんと踊るならマリエールさんだけを見ているので良いんですけど」
「……変な部分で恥ずかしがるのね」
その発言を相手に面と向かって出来て、複数組の中の一つとして踊ることを恥ずかしがるロゼをマリエールは理解できなかった。
言われたほうはこんなに、しゃがみこんで顔を覆ってしまいたいような気分だというのに。
人が集まるダンスホールから出ると途端に静寂が訪れる。
文化祭は生徒が主催していたのに対して、クリスマスパーティーは教師主催、学校開催のパーティーで、生徒は気軽に参加できる。
出入りも自由な、王家主催のパーティーとは比べられないほどに気楽なパーティーなので、王子の意向もあり、学生の間関係者は全員こちらのパーティーに出席している。
マリエールは婚約者として王子と踊ったあと、ホールを抜け出すロゼを見かけて追いかけてきた。
その顔が憂いを浮かべていたような気がして。
「何を落ち込んでいますの?」
外は流石にひんやりとした肌寒さだった。
ロゼはぼんやりした顔でクリスマスツリーのように飾られた街路樹を見ていた。
「……実は、王子の足を……」
「嘘ですわね」
マリエールに言い切られたロゼは、まさか心が読める!?などとしばらくおどけていたが、あはは、と力なく笑った。
「……王子と踊るマリエールさんが本当に綺麗で、まるで物語の中のようで。届かない物のように感じてしまって……」
ロゼの目からポロリと涙がこぼれた。
イルミネーションの光で流れ星のようになったそれが、どこかへ消え落ちる。
「えっ……なんで、こんな、泣くつもりじゃ」
ぐしぐしと涙を拭おうとした手を、捕まえた。
「勝手に遠くにやるんじゃありませんわ」
この、涙にすら触れられる距離を何だと思っているのだろうか。
指先で目じりの涙をそっと拭うと、今度は次から次へと落ちてくる。
「それに、これからも隣に居るのにこんなことくらいで泣いていたら瞳が溶けてしまいますわよ」
マリエールが美しいのは当たり前であるので。そうあれるように努力した結果であるので。
その都度泣いていたらロゼのとろりとした瞳は本当にこぼれてしまいそうだった。
「さすが、マリエールさんです。ほんと、かなわないな……」
「当たり前ですわ」
眩しい物でも見るかのようなロゼにマリエールは言った。
「わたくしは、マリエール・
「胸を張りなさい。ロゼ・クオーツ。貴女はわたくしが唯一認めた人」
それからためらうように、
「……しっかりしなさい、貴女らしくないですわよ」
と顔をそらしたのだった。
王子……王子どこ……?ここ……?