〜茜side〜
「待って、お兄ちゃん‼︎」
「……」
お兄ちゃんは私の声に耳を貸さないでスタスタと歩いていく。
何時ものお兄ちゃんなら、私が呼んだら止まって振り向いてくれるのに……。
どうして?キドと何があったの?
そんな事を考えていると、いつの間にか、私達の家に着いていた。
お兄ちゃんはそのまま無言でドアを開けて、中に入っていく。
……鍵を掛けた音が聞こえないということは、私の存在には気付いていたみたい。
私はそのまま家に入り、鍵を掛けてから、お兄ちゃんがいるであろうお兄ちゃんの自室へと向かった。
そして、ドアの前に立って、ノックをしようとした。
……けど、躊躇した。
今は放って置くべきじゃないかと思ったからだ。
「……」
(どうした?『茜』。開けないのか?)
(……『紅』)
……相談、してみよう。『紅』に。
(『紅』、今はお兄ちゃんをそっとして置くべきかな?)
(……)
(お兄ちゃんが私の声に気付いていながら振り向かないほどの事なら、そっとして置くべきなのかな?)
私のその問いに、『紅』は少ししてから答えてくれた。
けど、それは私が求めた答えとは違っていた。
(……それはお前が決める事だ。『茜』)
(……私じゃ決めれないから、『紅』に選んでもらおうと……)
(それは私の『考え』であって、お前のしたい行動じゃないだろ?……『茜』、お前はどうしたい?私はお前だ。お前が最もしたい行動が、私がしたい行動だ)
(……私と『紅』の考えてる事が違うように、したい事だって違うかも……)
(私はお前にもう二度と、後悔してほしくない。……身勝手かもしれないが、お前が決めたなら、お前は後悔しないだろ?だから、お前が決めろ、『茜』)
そこで『紅』の声が聞こえなくなった。
「……」
私は少し考え、扉をノックした。
「……お兄ちゃん、入って良い?」
中に入ってる筈のお兄ちゃんに声を掛けてみたけど、やっぱりと言うべきか返事はない。
「……ごめん、入るよ」
そのまま入ってみると、お兄ちゃんはベットに座って顔を俯かせていた。
「……そんなに後悔するなら、仲直りして来ればいいのに」
「……彼奴らに迷惑を掛けれない」
私はそれを聞いて溜息を吐いた。
そして、そのまま黙って、お兄ちゃんの隣に座った。
「……寧ろ、何の事情も話さずにこうする方がよっぽど迷惑だと私は思うよ?」
「……」
「だから、何があったか、話してくれる?」
私はお兄ちゃんの目を見ながらそう問い掛けると、お兄ちゃんは顔を俯かせたけど、話してくれた。
過去を話した事、キドの好意に気付いていながらそれを無視して、突き放した事。
私はそれを聞いて、少しお兄ちゃんに怒りを覚えた。
「……何で、そんな事をしたの?」
「……言っただろ?迷惑を掛けたくない。これ以上、俺の事情に巻き込みたくない」
「……事情って、菫さんが生きてるかもしれないってこと?」
「……ああ」
お兄ちゃんの過去には続きがある。
確かに菫さんの遺体もあって、お兄ちゃんは正当防衛となった。
……けど、それ以降もお兄ちゃんに好意を持つ女性はいた。
お兄ちゃんは勿論、警戒して相手をしていなかったけど、それでも、その人達はお兄ちゃんに告白した。
……その翌日、その人達は人体が切り刻まれた状態でゴミ捨場で見つかった。
それは刃物で切られた後だと聞いたけど、凶器は見つかっていないし、犯人も検討がつかない。
……お兄ちゃんが考えてる事は分かる。
菫さんが亡くなった日は……私達が一度死んだ筈の日と同じ。
でも、菫さんは遺体が見つかったのだから、死んだ筈なのだ。
「……そんなの、あり得ないよ」
「俺達が持ってる能力も、通常は『あり得ない』に入るんだ。その言葉は俺達にはもう、意味をなさない」
「……」
その言葉に、私は反論が出来なかった。
だって、普通なら異常な言葉だけど、私達の様な『異常』を持った者からしたら、正論だから……。
「……分かっただろ?……俺は彼奴のことが好きだ。だからこそ、死んでほしくないんだ」
「……」
「一、二回なら偶然と言ってもいいかもしれない。だが、もう何回も起きてるんだ。……だから、離れるしか、無かったんだ」
「……」
その言葉を口にしたお兄ちゃんの顔は、酷く悲しそうだった。
〜カノside〜
新しい団員を連れて来た僕は、その後、アジトで起こった事を聞いてから外に出て、何時もあの子と会う路地裏に来て、座り込んでいた。
……どうしても、話したかったから。
「……また来てたのね。物好きなカノ」
「……どうしても、君に意見を求めたくてね」
「……そう」
「?」
この子、今日は何処か疲れてる?
「どうしたの?疲れてるみたいだけど」
「私の馬鹿な知り合いが暴走して、それを友達と一生懸命止めてたの。もう本当に疲れた」
そう言葉にする彼女は、溜息を吐いた。
うわぁ、本当に大変だったみたい。
「……それで?意見を求めるって事は相談でしょ?どうしたの?」
「あ、うん。実はね、うちの団員が一人、アジトから出て行っちゃってね、原因が何なのかも分からないからどうしようかと考えててね」
「……それ、もう答え決まってない?」
彼女の言葉には確信が込められていた。
まあ、当たりだけど。
「うん。明日にでも、その人の家に行く事にしたんだ。僕と、キドと、セトの初めてあった時の三人でね」
「相談した意味は?」
「あまり無いね〜、あはは」
僕はそう言って笑うと、彼女は小さく溜息を吐いた。
……まあ、本当は行かないけどね。
「……つまり、相談は無くて、単純に私と話したかっただけって事?私の自惚れた考えならそう言って欲しいけど」
「うん、自惚れじゃないよ」
「……はぁ」
あ、これ絶対に呆れられた。
「……でも、僕としてはそっとして置くべきじゃないかとも思うんだ」
その言葉で、顔は見えないけど、多分、真剣な顔をしたんだと思う。
だって、空気が変わったから。
「ああいう時には一度、自分で考える時間が必要だと思ってるんだけど、どう思う?」
僕のその言葉に、彼女は顎らしき所に手を当てて考え始めた。
……関係ないけど、手、小さいな〜。身長もだけど。
「……一つ聞くけど、その人は一人っ子?」
「いや?妹が一人いるよ」
「……なら、その妹さんからの連絡が来るまで待ってみれば良いと思うよ、私は」
彼女は僕の相談にそう答えた。
「なんで?」
「これがもし一人っ子だったなら、行った方が良いと言うけど、妹が一人いるなら、その子がある程度、心をケアしてくれると思うよ、私は」
「……」
「それに、ずっと一緒に育ってきた妹なら、どこら辺でもう来ていいとかの線引きは分かると思うよ」
「……そうだね」
サクラちゃんと同じ意見、か。
「うん、ありがとう」
「どう致しまして。さ、帰ったら?心配する人がいるでしょ?」
「それは君もじゃないかな?」
その言葉に、彼女は少し笑った気がした。
「今日は有難う!話せて良かったよ!また話そうね〜!」
「はいはい」
彼女はそう言って、手を振り返してくれた。
「……幸せを実感しててね、カノ。一年後のあの日の悲劇は、回避出来ないのだから……」
その言葉は、すでに離れていた僕には聞こえていなかった。