アカネ達の話し合いからまた数週間後。
レンはその日、仕事が休みなのを利用してアカネと休日を過ごそうとしたのだが、アカネからある場所に来て欲しいと頼み事をされ、それを断ることも出来ずにバイクで一人、高台へとやって来た。
「……何で彼奴、夕方に来いって言ったんだか……」
レンはバイクから降りながら一人呟き、夕陽が見える所まで来て、その理由がようやく分かった。
「……キド」
「レン。話がある」
「告白なら受け取らないぞ」
「理由なら知っている。アカネ……じゃない、紅から聞いた」
そのキドの言葉に思わず舌打ちをすると、レンはキドを睨み付ける。
「それでも諦めないと。お前、死にたがりか?」
「違うな。俺達はお前を一人にさせたくないから行動してる。それと同時に俺の気持ちも聞いてほしいからな」
「……同じ事が続いてる今、アレはもう『偶然』と呼べない。分かってるのか?」
「ああ。分かってる。分かっていても、俺はお前の事が……」
その先を続けようとしたキドだが、不意に視界が変わる。
先程までレンが視界の真ん中にあったにもかかわらず、その視界からレンが消え、サクラへと変わってる。
キドはサクラに押し倒され、地面に伏しているのである。
「‼︎サクラ姉さ……」
「キド!立て‼︎今すぐに‼︎」
サクラの焦った声に一瞬動きが止まると、今度は誰かが強引に二人の腕を引いた。
その誰かを見ると、それはレンだった。
「レン!」
キドはレンを見上げるが、そのレンは何処か暗い。
「……レン?」
キドがレンの様子に心配になるが、その理由は直ぐに明白となる。
「……蓮」
その声がした方に顔を向ければ、黒髪で黒服の長袖ワンピースを来た女性がその場に立っていた。
その顔はとても美人ながら、しかしその瞳に光はなく、その手に持っているのは鉈である。
その女性はレンを視界に入れると、とても嬉しそうに笑う。
「ああ、私の蓮。久し振りに会えた。会いたくて会いたくて本当に仕方なかった。貴方と会えない毎日は私にとって地獄だったわ。貴方がいないと私は死人も同じ。貴方がいるだけで私はもう天国にいるみたいに気分は有頂天よ‼︎ああ!本当に愛しい人。なんて素敵な人。私をこんな気分にさせてくれるのは世界を探しても貴方だけよ‼︎貴方と初めて会った日ほど、
そこで菫の顔は狂気の笑顔から憎悪の顔へと変わる。
「其処にいていいのは私なのに、どうして特別でも何でもないどうでもいい奴がいるの?どうして必要もないゴミがいるの?蓮と一緒の空気を吸ってるの?どうして口を利いてるの?どうして話してるの?どうして笑いあってるの?どうして?どうして?ドウシテ?」
「……菫」
レンが菫の名を呼ぶと、相手はまた狂気の笑みを浮かべる。
「ああ!貴方に呼ばれる私の名前‼︎なんて綺麗なの‼︎なんて美しいの‼︎ああ!貴方から出てくる言葉は何て綺麗なものなのかしら‼︎そこらの雑草とは違う綺麗な声、美しい言葉‼︎貴方から出てくる言葉は全てそう‼︎どんな暴言罵倒も全て美しいものへと変わる‼︎貴方は本当に特別な人‼︎」
「……菫、どうしてお前がここに。お前はあの時、死んだ筈……」
その言葉に更に狂喜乱舞してる菫は容易く口にする。
「私は確かにあの時死んだわ。貴方に殺されて。それで私は嬉しかった‼︎貴方の心にずっと残るから‼︎私が一生、貴方の一番となれるから‼︎でも、その後に更に嬉しいことが起こったのよ。ある女が私の『魂』を捕まえ、この作り物の体に入れてくれたの。『これで私はまた貴方と会える‼︎』……あの時は本当にそう思ってたのに……」
其処からまた表情が180度代わり、憎悪の顔へと変わる。
「なのにその女、私になんて言ったと思う?『貴女は死んだから出て行かせれない』。そう言われたわ‼︎私は即座に彼奴を殺そうとしたわ‼︎貴方と会うための壁なら全て壊す‼︎雑草なら根そのものを残らず抜き取る‼︎だから私は行動したのに、彼奴は私を拘束した後、放置した‼︎ゴミの分際で‼︎ゴミの分際で‼︎」
「……」
レンは菫の終わらない言葉を黙って聞くしかなく、それに口を挟まずに聞いている。
「でも、ゴミも仕事をしてくれた。レンの行動をずっと見せてくれたの‼︎私に‼︎そして、その声も私に聞かせてくれた‼︎レンに告白したゴミを掃除させてくれた‼︎その点の感謝は今までしてたけど……その女の時だけはさせてくれなかった」
菫はそう言って、憎しみの色しかない瞳をキドに向ける。
「私がどれだけその女の掃除をしたいと言っても、あの女は行かせてくれなかった」
そこでまた狂った表情を浮かべる。
「だから……あの空間から強引に抜け出してきたの」
「抜け、出した……?」
「そう。あの空間にいる三人の誰かが外に出た時に私も抜け出す。そうして抜け出して、私は機会を伺ってたの。愛しの蓮を汚されないために」
菫はそう言うと、ゆらりと一歩近寄る。
それを見てレンがキド達の前に立つと、菫はピタリと動きを立ち止まる。
「……蓮、どうしてそんな雑草を守るの?」
「……菫、此奴らの事が大事だから、守るんだ」
「レン……」
それを聞いて、キドは少し嬉しそうな顔をしたのと逆に、菫は憎悪の色を濃くする。
「……なんで?なんで?何で?何で?ナンで?ナンデ?ナンデ、ナンデ、ドウシテ、ナンデ、ドウシテ、ナンデ、ドウシテ、ナンデ、ドウシテ、ナンデ、ドウシテ、ナンデ、ドウシテ、ナンデ、ドウシテ」
そんな風に呟く菫を見て、その場にいる三人は恐怖を抱いた。
そんな三人など知らないとばかりに菫は呟き続けるが、それがピタリと止むと、歪に笑う。
「……そっか。其処の女の所為ね」
「……え」
「菫、違っ」
「その女が、いえ、その女の仲間達が貴方を脅して守らせてるのね。そんな心にもないことまで言わせて……」
「菫、落ち着け」
「ああ、大丈夫よ、蓮。貴方の妹には手を出さないから。貴方の妹もきっと此奴らに脅されたから言う事を聞いただけ。なら悪いのは此奴ら。大丈夫、二人ともちゃんと私がスクッテアゲル」
そう言って菫はまた近き始める。
レンが二人の腕を掴んで逃げる為に後ろを向いた瞬間。
「キャァァァァ!」
菫の叫び声と『ベチャ』と地面に落ちる音。
レンはそれが何なのか、直ぐに分かってしまう。
その経験を、自身でもしてしまったから。
直ぐに後ろを振り向けば、予想通り、菫が切り刻まれた状態で血沼に倒れてる姿が見えた。
「菫!」
そう叫び、近付こうとしたが、それをサクラが止めた。
「レン、近付くと危険だ」
「……」
それに対し、悔しそうながらも納得してしまったレンは、こんな事をした犯人をその目に入れる。
「どうしてこんなことした、『闇倉』」
そんなレンの問いに対し、アカネの人格の一人である『闇倉』は答える。
「簡単だ。アカネを泣かせる可能性がある奴を排除しただけだ。それの何がいけない?」
「やり過ぎだ!」
「やり過ぎ?此奴はもう既に死人だ。死人を地獄に返したのにやり過ぎと言われる理由が分からない」
闇倉はそう言うと、菫の切り刻まれた体に容赦無く蹴りを入れる。
「でもまさか、私と同じ『目で殺す』能力を持つ奴とは……まあ、茜は知らずに作ったし、こっちがコピー、此奴がオリジナルって所か」
そう言いながら闇倉は何度も蹴りを入れ続ける。
そして反応が無いことが面白くないのか鼻を鳴らすとそのままレン達に近付く。
「一つ言っておく。私はお前が傷付こうが何だろうがどうでも良い。死のうが何だろうが関係ない。ただ、お前が傷付けば茜が泣く。それは明白だ。だから、今回は手伝ってやった。まあ、お前達の予定だと彼奴は『殺さず』だったんだろうが、生憎と私は茜の味方であってお前達の味方じゃない。茜を傷付けることが明白の奴に手加減するつもりもない。だから」
『殺した』
その一言にキドとサクラの顔の色が白くなる。
対してレンは怒った表情を向けるが、それに対しても風のように受け流す。
「おいおい、言ったろ?私はあくまで『茜』の味方だ。お前達の考えなんて私にとってはどうでも良い。お前達が生きてるのだって、あくまで茜の『味方』だからだ。『味方』だから助ける、何てこともない。お前達は茜の次いでだ。それぐらい分かっとけ」
闇倉はそれだけを言うと目を瞑り、意識が紅へと変わる。
その紅はというと、どこか居ずらそうな顔をしていた。
「……すまない」
「……紅、もしかして……」
「サクラの考えてる通り、元からこうするつもりだった」
それに対して文句を言おうとしたサクラだが、紅の後ろに黒い空間が出来たのを目にして口を噤んだ。
それに対して不思議そうな顔をしてサクラの視線がある方へと目を向けると、全員が驚いた表情をする。
「なっ……」
「なんだ、アレ……」
「分からない……」
「……」
全員が呆然としていると、その暗闇から出て来たのは一人の黒ローブ。
そのフードからは黒髪の長髪が少し見える。
キドと同じぐらいの身長をしているその黒ローブは、死んだ菫の元まで近寄り、その姿をジッと見下ろしていた。
そして少ししてから口を開く。
「……哀れな奴。折角生かしてあげたのに……」
その女性のような声と口調から四人は女性と判断した。
そして、その女性が死んだ菫の体に触ると、その体は『消え去った』。
それに驚く四人だが、そんな四人を無視して黒い空間に顔を向ける。
そして、その中から出て来たのは、どこか機械の様な顔をした真っ黒の男。
「……『クロナ』、殺したのか?」
その男は悲しそうに顔を歪めるが、その女性は首を振る。
「いえ、どうやら其処の『創る』蛇が作った人格の一人が殺したみたい。哀れな女よね。同じ能力を持った人格に殺されたんだから」
「あの女の蛇は……」
「触って回収したわ。間違っても消してないから安心して」
「なら良いが」
そう言って男は漸く四人の方に顔を向けると、『クロナ』と呼ばれた女性に顔を向ける。
「……あの四人はどうするんだ?」
その言葉に四人は警戒するが、クロナは首を振る。
「私がなんとかするから、『クロハ』は戻って。自分の居場所に」
「……分かった」
『クロハ』と呼ばれた男はそう言って戻っていく。
対してクロナは四人の方に顔を向けると、そのフードを取って、四人にその赤い目を向ける。
「……貴方達の『記憶』、消させてもらいます」
その言葉を耳にしながら、四人は意識を失うのだった。
前書きにも書いた通り、この小説内のクロハさんはゲスじゃないです。むしろ優しいです
『ゲスじゃないと嫌!』という方
私も同じだけどクロハさんが優しい設定を書きたかったんです‼︎だから許して!
それでは!さようなら〜!