今度は少年がまた少女の手を引っ張り、走って先ほど少女が『死んだ』場所を駆け抜けて行くところだった。
一度目はトラックに跳ねられ、二度目はパイプ菅に貫かれて死んだ。
もうその死ぬ場面を見たくないからこそなのだろう。
しかし、それに対して黒ローブは溜息を吐き、小さく呟く。
ーーー逃げても無駄、と。
その一言を呟いている間に、少年達は歩道橋の階段を駆け上がる。
しかし、その瞬間、少女は踏み外してしまった。
少年は少女を引き上げようとしたが、少女は既に少年から手を離していた。
そのまま階段の一番下まで落ちていき、笑みを湛えたまま地面に頭をぶつけ、其処から血をドクドクと流し続ける。
少年はそれで悟った。
また、少女は死んだのだと。
少年の絶叫と共に、黒ローブは静かに、ゆっくりと目を閉じる。
ーーーそうして世界は、繰り返す。
シンタローが体力回復目的でコーラを素早く買い、それをまるで完走しきった後のマラソン選手の様な飲みっぷりを周囲に見せ(周囲はまるで変人を見る様な目だった)たあと、遅ればせながらついてきたリュウと共にエレベーターに乗り、電機売り場の階にやって来た。
「ひ、人が多過ぎる……」
「だな……はぁ」
シンタローとリュウは降りて直ぐに溜息を吐いた。
両方共、人付き合いが上手い人間ではないのだ。
すると、その後ろから、微かにチリン、と鈴が鳴る音が聞こえた。
それに気付き、後ろを振り向いてみると、五人の集団がいた。
一人男、残り四人は女性という、誰が見ても羨ましい場面である。
そのうちの一人である、水色の髪をポニーテールにしている女性が高らかに叫ぶ。
「つきやしたー!」
「漸くか……人多過ぎだろ」
「全くだ」
その水色の女性の後ろから、金髪でつり目の女性と、黒髪の高身長の男が息を吐く。
その男のベルト通しの所から、小さいが透明な鈴が見えた。
先ほどの音の正体であると気付くと、シンタローとリュウは先を急ごうとする。
しかし、会話は続いていた。
「ねえ皆んな!此処で買い物が終わったら、最上階にある遊園地に遊びに行かない?」
「お!良いねメリー!その案採用!遊びに行きましょう!」
「お前達二人は私たちよりも上のはずじゃなかったか?」
そんな五人の会話も、五人で移動し始めたために聞こえなくなっていった。
……が、その会話を聞いていたものが一人。
『ご主人!今の会話を聞きましたか!?上に遊園地というものがあるらしいですよ!行きましょう!』
「嫌だ」
エネの頼みをシンタローは至極面倒くさそうに断るも、エネは引かない。
『良いじゃないですか!遊園地ぐらい!ほら!遊びに行きましょうよ!』
「何でだよ!?大体、俺とリュウの男二人でとか、むさ苦しいだけだろ!」
その言葉を聞いたエネの顔が険しくなる。
『ご主人?どうして其処に私が入ってないのですか?』
その質問の答えに、このあとエネは激怒する事になる。
「はあ?だってお前、遊べねえじゃん。外に出て。それなのに遊園地に行って遊んで、何が楽しいんだよ」
『っ!ご主人は本当にサイテーです!デリカシーの欠片もないです!もう知りません!』
エネの突然の大声についイヤホンを外すが、それでも聞こえ、そして携帯の電源が落ちてしまった。
「お、おいエネ!?」
シンタローは慌てた様に携帯の様子を見るが、其処からエネが出てくる様子はなく、真っ暗な画面だけだった。
「彼奴、一体どうしたってんだよ……」
「いや、今のはお前が悪いな、シンタロー」
シンタローが訳が分からないという様に首を傾げるが、リュウはその様子にまた溜息を吐くだけ。
そして、説明を求めようとシンタローは口を開こうとするが、其処で急に人とぶつかった。
「うわっ!?す、すみません!」
シンタローが後ろを振り向くと、綺麗な笑顔の店員さんがいた。
「申し訳ございません!お客様。お怪我はございませんか?」
「ぁ、ぇっ……っっ……!」
「お客様は、どちらの品をお探しなのでしょうか?」
シンタローはそれに何とか笑顔で返した。
「その、あの、大丈夫です……」
「?すみません、もう一度よろしいでしょうか?」
「だ、大、じょうぶです!ありがとう、ございます!」
シンタローはそうお礼を言うと、店員さんから離れ、リュウの元に戻ってくる。
「……シンタロー、大丈夫か?」
「あ、ああ……俺、普通に人と話せた!笑って話せたぞ!」
そのシンタローの嬉しそうな言葉に、リュウは一度目はパチクリと瞼を瞬きすると、一度シンタローから視線を逸らした。
「……ぁあ……その、シンタローが嬉しい方に、撮ってる様でよかった……」
「?どうした?リュウ」
「いや、何も……!?」
と、其処でまた後ろから人にぶつかり、今度はリュわが素早く前を向くと、今度は灰色のパーカーを着た人間が其処にいた。
「っ、す、すまない……」
リュウは咄嗟に謝り、シンタローは土下座でもしそうな勢いで腰を綺麗に曲げ、頭を下げていた。
「すみませんでしたー!」
シンタローのその謝罪を、まるでゴミでも見る様な冷たい目(に見える)で見下ろすと、その人は呟く。
「……いいよ、別に。……こちらこそ、悪かったね」
その謝罪を聞き、改めてぶつかった人物を見ようと頭を上げたが、すでに其処には人がいなかった。
「……いないな」
「……ああ、そうだな」
二人が先程ぶつかった人物を探す様にキョロキョロしていると、ようやく待ちに待った声が聞こえてきた。
『………ご主人、リュウさん、大丈夫ですかー?』
「「エネ!」」
エネは二人の声を聞くと、ジロリとシンタローを睨む。
それにシンタローは不満そうな顔をするが、リュウが隣から肘で突いてくるため、謝る事にした。
「あー、エネ?その、さっきはごめんな。代わりと言っちゃ何だが、後でちゃんと遊園地連れて行ってやるよ」
その言葉のあとにエネを見やれば、エネの顔は輝いていた。
『ほ、本当ですか!?約束ですよ!私、アレ、あれ乗ってみたいです!上に行ったり下にいったりするの!』
シンタローはそれを見て、ようやく理解をする。
エネもまた、外に驚いている事に。
『後で服屋にも行きましょう!』
「何でだよ、行かねーよ」
シンタローはエネの心境にいたり、先程とは違った雰囲気での会話に、リュウは少し笑みを浮かべた。
ーーーしかし、その笑みはすぐに消え去った。
突如として、そのフロアで爆発音が響いた。
「なっ!?」
『ご、ご主人!?リュウさん!?今のは何の音ですか!?』
リュウも、シンタローも、エネもパニックになるなか、シンタローとリュウは見てしまった。
腕を怪我した女性。
そして、その近くにいた、武装集団を。
その集団の真ん中にいた、リーダーらしき男が口を開く。
「さぁて、始めるか」
シンタローはこの時、思った。
『自分にこんなことが起こるのは、今回が最初で最後である』と。
そんな中、呟くものが一人。
ーー女王の元に、今再び、蛇が集うーー
しかしその呟きは、他の誰にも、聞こえる事はなかった。