ストパン世界に転生したけどモブとしてクルロスを見守ろうと思ってただけなのに… 作:まったりばーん
見切り発射です。
突然だがストライクウィッチーズの世界に転生した。
元の世界での死因は突如勃発した第三次世界大戦。
巻き込まれる形で参戦した我が国を守る為、俺は民間人ながらも志願し、動員され戦闘に参加した。
だが、所属していた部隊が孤立し、あと一歩の所まで敵が迫っている状況で仲間達と最後の攻勢に出て…多分死んだのだと思う。
そして、気づくと時代を数十年遡った様な母国に生まれ変わっていたのだ。
最初は言葉も同じだったのでタイムスリップでもしたのかと考え、それなりにこの世界に順応した。
そんなある日俺はこの世界の正体を知る事になる。
───青空を少女が翔んでいたのだ。
夏の暑い最中、ふと雲一つない青空を見上げると、その華奢な脚に武骨な装置を付け、手には大人でも持て余す様な機関銃を持った少女がまるで重力など知らないかの様に翔んでいたのだ。
この時、俺は思い出した。
(この世界ストパンじゃん…!)
そうストパン。正式名称ストライクウィッチーズ。
元の世界では深夜枠で放送されていたオタク向けアニメだ。
ストパンが放送されていた頃はまだ世界も平和で石油の使用制限もなく、チョコレートも道端のコンビニで百円で買える時代だった。
それを認識した途端、懐かしさと共に過去の平和だった元の時代が思い起こされた。
そして決心したのだ。
軍隊にでも入って生のウィッチ達をこの目に焼き付けようと。
この世界に転生したとしても俺は只のモブだろう。
それにもしかしたら、この世界そのものが死の淵に瀕した俺の脳が見せている束の間の幻かもしれない。
だが、それでもそう思わざるえなかったのだ。
だってアニメのキャラ見たいじゃん?
ていうかアニメじゃないじゃん?
本当のことさ…!
…という訳で軍隊に志願した。
幸いにも前の世界で従軍経験があった為、割りと優秀な成績で教官からも気に入られた。
そして、訓練も終わり一人前となった所でアニメ通りのネウロイ大戦が勃発。
俺は欧州派遣軍の一員としてヨーロッパへと派兵された。
一度は敗退し大陸からの撤退を経験するも、これまたアニメ通り501統合戦闘団の活躍によって大陸反抗を開始。
俺は北欧方面の反抗作戦に参加し、今はここペテルブルグに駐留している。
そう、あのペテルブルグ基地である。
スピンオフ作品の「ブレイブウィッチーズ」のメンバーが一同に揃う舞台である。
作品の評価は人によって振れ幅が広いが個人的にはそんなに嫌いではなかった作品。
まぁ、モブである俺はそんな「ブレイブウィッチーズ」の面々とは特段、仲が良いとか親交があるとか言う訳ではないが、それでも一緒の空気を吸えているというだけで心に来る物があった。
それにここは北方方面の前線。
この世界の人類の為に戦うという誇りもある。
…といっても反抗作戦も終わり前線基地を築いた現在、ここペテルブルグの陸兵はやる事がないのだが…。
というのも前日、列車砲まで動員した大規模作戦の末、ネウロイの巣のコアを破壊。
その後は小康状態が続いている。
時系列的にはアニメ、ブレイブウィッチーズの直後だ。
一応ネウロイの攻勢に備え、少なくない数の陸上戦力を配備してはいるがはっきり言ってタダ飯喰らい。
その為、時たま現れるネウロイをペテルブルグ所属の魔女達が撃破し地上部隊には碌な仕事は回って来ない。
主な仕事と言えば警備、偵察、土嚢作り、そして…
「おい、皆仕事だ。」
そこまで考えていた所でその数少ない仕事が詰所に待機していた俺達陸兵に回ってきた。
詰所の簡易テントの幕を開く人物は、アウロラ・E・ユーティライネン中尉。
アニメ、ブレイブウィッチーズでは最終話にちょっと登場した陸戦ウィッチ。
俺というモブキャラが言葉を交える事ができた数少ないキャラクターの一人だ。
目の前の彼女はストライカーユニットを装着し使い魔の耳を顕現させ既に準備万端だった。
「三十分程前、哨戒任務中のウィッチが一人墜落した。敵と遭遇する可能性は低いが一応我々回収班の仕事だ。それに天気が荒れるらしい。速やかに魔女とユニットを確保する。」
淡々と仕事内容を通達する彼女。
そう、我々陸兵に与えられた業務の一つ墜落したウィッチの回収任務が今始まろうとしているのだ。
「中尉、今度は誰です?」
ユーティライネン中尉の言葉を受け、テント内の誰かが声を出した。
このペテルブルグ基地にこの様な回収班が存在する理由。
それはストライカーユニットを頻繁に故障させる魔女達が三人いる事に由来する。
通称ブレイクウィッチーズと呼ばれる彼女達。
回収班が呼ばれる時は大抵この三人の誰か、もしくは全員が墜落した時なのだ。
声を上げたそいつは果たして今日、墜落したのは誰だったのか気になったのだろう。
「ふぅん…そうだな、当ててみろ?当てられたら今日は一杯奢ってやる。」
中尉の言葉に詰所が色めき立つ。
早速一人が手を上げた。
「はいっ!管野中尉ですか?」
まず名前が上がったのはブレイクウィッチーズの一人、扶桑出身の魔女。
彼女はデストロイヤーと言われる程ストライカーユニットの扱いが悪く回収班常連の一人であった。
「違う」
「ではカタヤイネン曹長?」
次に別の仲間が上げたのはスオムス出身のウィッチ。
これまたブレイクウィッチーズの一員でよくエンジントラブルでユニットを破損させている。
「それも違うぞ、さぁそろそろ出発したい。次で最後だ。」
「はい!」
「よし、フジキ当ててみろ。」
この段になって俺、藤木和也は初めて手を上げた。
というのもさっき名前の出た二人でなければもう答えが決まっている様な物だからだ。
回収班のお得意団体ブレイクウィッチーズにはあと一人しか残っていない。
カールスラント出身のヴァルトルート・クルピンスキー中尉である。
小麦粉肌で金髪のボーイッシュな魔女だ。
「クルピンスキー中尉です。違いますか?」
今夜のただ酒は貰った。
そう思うと自然と口角がつり上がる。
「ふふっ…そうかそれでいいのか?」
俺と同じ様にうすら笑いをしながらユーティライネン中尉は問い返した。
「はい!」
自信満々に答える俺。
「ははっ外れだっ!残念だったなぁフジキ!」
しかし、俺の期待を裏切る様に中尉は大声で笑い飛ばした。
「えっ!?」
勝利を確信した後での事で俺は言葉を失う。
ブレイクウィッチーズの三人ではない?
じゃあ誰だというのだ?
「じゃあ正解発表だ。実はな…」
そしてニヤニヤ笑いながら今回墜落した人物の名前を発表するユーティライネン中尉。
…成る程。そりゃわからない訳だ。
発表された予想外の正解を聞いて俺はそう思った。
どうやら彼女は最初から俺達に酒を奢るつもりはなかった様である。
───
「参ったな」
俺は手にした7.7mm九九式小銃を手に吹雪の中で呟いた。
長いだけで取り回しの悪い小銃が鈍く輝いている。
「はぐれた…」
俺は今、回収班でありながらオラーシャの大地で一人孤立してしまったのだ。
意気揚々と基地を出発したのは良かったのだがトラックから降車し墜落地点の捜索を始めた所で天候が悪化。
視界と聴覚が奪われる中、ユーティライネン中尉や他の陸兵とはぐれてしまった。
(そういえば出発前、中尉が天候が荒れるとか言っていたな…)
まぁ、だからこそ回収を急ぐ必要があったのだろうが少しは二次災害を考慮して欲しかった。
この世界のこの時代に二次災害という概念があるのかどうかは微妙だが…。
だが、少なくともミイラ取りがミイラになるという諺は第二の祖国扶桑には存在した。
(クソっどうする?)
焦る頭で現在の状況を整理する。
もしかしなくてもウィッチの捜索は無理だ。
発煙筒を焚けば居場所を知らせる事ができるがこの猛吹雪の中では気づいてくれないに違いない。
防寒具はちゃんとしているので一晩位は耐えられるが果たして1日で止んでくれる吹雪だろうか?
この辺りの吹雪は季節になると三日三晩と大地を覆う。
そもそも俺はウィッチではないから優先度が低い。
もしかしたら目的のウィッチを回収したらまぁいっかのテンションで捜索を放棄される恐れすらある。
(…駄目だ。考えると嫌な事ばかり連想してしまう…!)
思考が大気の温度と同じくらいマイナスに成りかけた頃、俺の二つの目は雪原の中にキラリと光る物を確認した。
「何だっ!?」
俺は思わず声を出し光源に近づく。
「これは…金属?」
そこには半ば雪に埋もれかけた金属部品が点在していた。
まるで何かが散り散りになって墜落した様な…。
「まさかっ!?」
それに気づくと同時に両腕が反射的に雪を掻き分ける。
すぐに指に当たる柔らかい感触。
「嘘だろ…よりによってこんな時に…!」
俺は目的のウィッチを掘り当てていた。
───
「中尉、もう無理だ。引き返しましょう。」
「だが、しかし…」
「ウィッチで魔法力のある貴女ならともかく我々では捜索を続ける事は困難です!」
部下の陸兵の言葉にアウロラは顔を歪める。
吹雪の来襲を前に回収する予定が、予想よりも吹雪の到達が速く捜索どころではなくなってしまったのだ。
しかも一人はぐれるというオマケ付で。
魔法力のあるアウロラならばこんな寒さを無視して捜索を続行できる。
だが、彼女の引き連れている小隊は全員が只の人間。
寒さを自力で凌ぐことは不可能だ。
それにこのまま捜索を強硬すればさらなる遭難者を産み出す可能性が高い。
「仕方ない、総員トラックに戻り待機。吹雪がやみ次第捜索を再開するっ!」
アウロラは簡潔にそう下命した。
「今は只、耐えるしかないな…。」
───
「あれ、わたし…?」
「目が覚めましたか?エディータ・ロスマン曹長。」
俺は意識を取り戻したエディータ・ロスマン曹長に優しく声をかけた。
彼女は502統合戦闘団に所属するウィッチ。
アニメ「ブレイブウィッチーズ」の世界では僚友のクルピンスキー中尉とツンツンしながらも百合百合する所謂「クルロス」で知られている。
「ここは…?」
目覚めた彼女は状況が上手く呑み込めないのか、肩まで伸ばした銀髪を揺らしながら困惑の視線を俺に送る。
「自分も詳しくは解らないのですが、曹長が墜落した現場近くの岩陰です。」
俺は意識のなかったロスマン曹長を背負い、なんとか吹雪の直撃を凌げる岩陰を発見しそこに曹長を寝かせていたのだ。
「…墜落?わたしが?」
「ええ、哨戒任務中に墜落したと伺っております。申し遅れました自分、ストライカーユニット回収班の藤木和也一等兵です。」
「そうフジキ一等兵ね…ありがとう。」
「いえ、残念ながら実はお礼を言って頂ける立場にないのです。」
「どういう事かしら?」
不安げな曹長の声。
回収班でありながら孤立無縁な事を説明した。
「そんな…遭難して助けが呼べないだなんて…。」
現状を認識し頭を抱える曹長。
「申し訳ありません。」
「…いえ、貴方のせいではないわ。それにやっぱりお礼を言わせて。貴方が見つけてくれなかったら今頃私は凍死してたかも…だから、こうやって体を密着させているのは許してあげます。」
そう言って曹長は彼女の柔らかい身体に密着する俺へ視線を送る。
…そうなのだ。
俺は今、モブでありながら畏れ多くもエディータ・ロスマンというキャラクターに自分の体を押し付けている。
ロスマン曹長が最初、俺に対して不安げな声を送った理由がこの密着した体勢。
だってしょうがないじゃないですか、あまりの寒さに死んでしまいそうだったんですもの。
勿論、それは曹長も同じで発見した時は体温が凄く低下していた。
だからこそ密着しお互いの体温で温めあう必要があったのだ。
「本当に申し訳ありません…。」
「謝らないでって言ったばかりでしょう?」
ロスマン曹長の良い臭いのする体臭が鼻をくすぐり、小さく華奢な身体が俺の隣に収まっている。
この二つの事実が俺の心拍数を上昇させた。
それにより心持ち上がった体温は不幸中の幸いだろうか?
「ただし、変な気は起こさないでね。」
そう言ってウインクする曹長。
いや、貴女…勘違いされますよ?
見切り発射だけど続くと思います。