ストパン世界に転生したけどモブとしてクルロスを見守ろうと思ってただけなのに… 作:まったりばーん
手に銃を持っていた。
扶桑陸軍の機関銃。
具体的に言うならば九七式車載重機関銃。
戦車の対空機銃や装甲車の主兵装として使われている口径7.7mmの機関銃である。
今、俺が構えるこの機関銃も元々は九七式軽装甲車…通称テケ車に搭載されていた物だ。
でもその肝心のテケ車が先日、ネウロイの空襲で破壊され使い物にならなくなり、仕方なくテケ車の残存乗員と所属小隊が崩壊しあぶれてしまった俺みたいな歩兵とで臨時の機関銃中隊を形成。
ここベルリン郊外に陣取っていた。
土嚢を積み上げ土を盛った簡易陣地がそれぞれの火線を補う様に配置され、理想的な十字砲火を浴びせられる形体だ。
ベルリンを守るほぼ最後の陣地で、すぐ背後には帝都の街並みが広がっている。
扶桑人だからという理由で、死ぬ順番は一番最後にしてくれたらしい。
少しだけカールスラント軍指揮官の心遣いを感じた。
彼等が陣取るのはもっと先。
ベルリンから数キロ前方の塹壕。
まだ、生きているのだろうか?
「雪?」
陣地内で誰かが呟いた。
季節は夏。
いくら寒冷な欧州でもまだ雪の季節ではない。
「違う、灰だよ。前にいる奴等が燃えてるんだ。」
短くそう返答した。
灰が雪の様に辺りに舞い落ちる。
欧州に着て何度となく見た光景。
村や軍隊がネウロイに燃やされて、その灰が風で運ばれてくるのだ。
風向きからしておそらく前方に陣取っていたカールスラント軍だった物。
それを肯定するかの様にさっきまで遠方から聞こえていた砲爆撃音も途絶えていた。
黒の怪異がこの機関銃陣地に殺到するのも時間の問題。
結局、生きて第二の祖国の地を踏む事はできないらしい。
俺の所属する扶桑陸軍第二三師団は文字通り壊滅した。
海を超えはるばる馳せ参じた第二三師団は扶桑の中でも機械化の進んだ虎の子部隊であったが、たかが一個師団程度では戦線の巻き返しなどできる筈もない。
マルセイユに上陸した時はオストマルクを解放すると意気込んでいたものの、敗走に敗走を重ねいまや生き残りは俺を入れて百人とちょっと。
損耗率は驚異の九割超えだ。
自然と機関銃を握る力が強くなる。
…一体、何の為に転生したのだろう?
最近、よくそれを考える。
ウィッチを見る為に軍に入ったは良いけれど、多分この人生はここで終わりだ。
確かに当初の目的通りウィッチをこの目に納める事はできた。
でも、どれもアニメに出ていない名も無き(…本当はあるのだろうが)ウィッチばかり。
何だかなぁと思ってしまう。
しかも死に方だって追い詰められた末の戦死では前世と全く同じではないか?
これだったら…あぁ、日本に
「日本に帰りたい…。」
「え?」
俺は上擦った声を出していた。
日本と…響きの懐かしい本当の故郷に帰りたいと呟いた。
だが、呟いたのは俺ではない。
直前まで全く同じ事を考えていたが、日本に帰りたいと呟いたのは俺じゃあない!
藤木和也ではない!
今、それを呟いたのは機関銃を構える俺の横で、替えのマガジンを持ちいつでも給弾できるように用意してくれていた"島"という兵士!
装甲車中隊所属で今朝、顔を合わせたばかりの青年だ!
「おい、島お前今何て…?何て呟いたっ!」
俺は思わず機関銃から手を離し、島の襟首を掴んで問い詰めていた。
「どうした!藤木っ!?」
「落ち着けっ!何があった!」
俺が急に島の襟を掴んだ物だから、陣地内にいた戦友達が色めき立つ。
だがそんなのにはかまってられない。
俺は気にせず喉を震わせた。
「島っ!どうして日本を知っているっ!」
俺に襟首を掴まれた島は体をぶるぶると震わせて何も答えない。
気弱そうな青年だ。
俺の圧に圧倒されているのかもしれなかった。
でも、目を離さない。
じっと視線を合わせて睨み付ける。
俺達二人は固まった。
「藤木さん、貴方もまさか大日…」
固定されて数分。
やっと島が何か口を開いた。
その時である。
「ネウロイだっ!藤木、いいから銃を構えろっ!」
さっきの俺よりもデカイ怒鳴り声。
陣地内の戦友の声だ。
島から正面に顔を移す。
地平線が真っ黒に染まっている。
ネウロイだ。
「島、話は後だっ!」
俺は再び機関銃を握ると無骨な引き金を引いて発砲した。
曳航弾が流れ星の様に飛び出し、真っ直ぐと地上型ネウロイを捕捉する。
「後があれば是非っ!」
それに応える様、島も背を低くしてネウロイの攻撃に備える。
「約束だっ!島っ!」
俺は引き金を引き続ける。
ここを生き延びて島から真相を聞く為に。
「うおおおおおおおっ!!」
だが、結局約束は果たされなかった。
俺と何人かは奇跡的にカールスラント軍の救援が間に合い、助かったが、島は知らない間に蒸発していた。
比喩表現ではなく、ネウロイの赤い光線を浴びて、本当に蒸発してしまったのだ。
あの時、島は何て言おうとしたのだろう?
この戦闘で島は戦死してまい真相は闇の中。
あの戦いを生き延びて彼に一言、こう言ってやりたかった。
───島、日本に帰ろうっ!
…
……
………朝?
「嫌な夢見たな…」
この段になって俺は一人、目を覚ました。
何だか嫌な夢を見ていた気がする。
でも思いだせない。
よくある経験だが何かひっかかる。
決して忘れてはいけない事を忘れてしまったかの如き心持ち。
寝覚めの時に幾度となく経験した後味の悪さだ。
「エディータ?」
昨晩、一夜を供にした相手が隣にいない事に気付いた。
でも、さっきまでは一緒に居た様でシーツは仄かに彼女の温もりが残っている。
俺の目覚めるちょっと前に起きたのだろう。
昨日は大変だった。
俺は床で寝るというのに、魔法力を展開したロスマン曹長に無理矢理ベッドに引きずりこまれた上、激しいボディタッチを受けたのだから…。
ロスマン曹長は酒に酔うと大変大胆な性格になるらしく、口で言うのが憚られる様な攻防が昨晩ベッドで繰り広げられた。
相手がウィッチでなかったら手を出していたかもしれない。
でも、曹長の一言で俺は何とか理性を保つ事ができたのだ。
──ヴァルトルート…どうしてっ?
ロスマン曹長は泣きながらそう呟いていた。
カールスラント語で、酒で呂律が回っていなかったけれど確かにそう口にしていた。
まだ耳が育っていないから細かい単語は拾えなかった。
だが、少なくともヴァルトルートの部分は完璧に聞き取れた。
多分、あの時の曹長は俺をクルピンスキー中尉と勘違いしていたに違いない。
おそらくお酒の影響で。
酒のせいで相手を取り違えている少女に手を出す程、おれも悪漢じゃあない。
鉄の理性で一夜を耐え抜き、そのまま寝オチし今に至る。
いくつか恋人ではないとしてはいけない様な事をロスマン曹長にされたが…まぁそれは、ねっ?
…少なくともまだ彼女はウィッチなので許して下さい、お願いいたします。
「……したら……くれるのさぁっ!」
突然、鼓膜を刺激する絶叫。
首筋に違和感を感じながら改めて昨晩の壮絶な攻防に思いを馳せている最中、風呂場からカールスラント語の怒鳴り声が響いてきた。
風呂場に誰かいる。
それも険悪な雰囲気である。
ロスマン曹長の物ではない。
中性的なハスキーボイスだ。
「クルピンスキー中尉?」
俺は声の持ち主の名を疑問符と供に発音した。
いつの間に訪ねてきたのだろう?
「…って…さぁ!?」
間を置かずにもう一度、伯爵が大きな声を上げる。
不明瞭だが言い争っているらしい。
相手はロスマン曹長だ。
何を言い合っているんだ?
その後しばらく二人の魔女は何事かを問答した後、急に静かになった。
決着がついたのだろう。
そして、バスルームの扉が閉まる音。
足音から二人がこの寝室に向かってきているのが理解できた。
あと、数秒と経たない内にこの寝室の扉は二人によって開放される。
もうすぐそこまで迫っていた。
──ガチャリ
音をたて、ドアノブが回転する。
「あら、まだ眠っているのね?」
俺は咄嗟に毛布を被って目を瞑り寝たフリをした。
何故そうしたのかは解らない。
でも、何やら不穏な空気の流れを感じていたからだと思う。
「先生、時間もない。早くいこう。」
「彼が起きるまで待っていちゃダメかしら?」
「ボクが隊長に怒られる。先生を早く連れて帰る約束だから。」
ロスマン曹長を宥めるクルピンスキー中尉。
推測するに伯爵は無断外泊の曹長を迎えに来たらしい。
精神が不安定な曹長には最適な人選と言えた。
「ふーん、そう…」
少しだけ小柄な魔女は不服そうに口を曲げる。
「起こすのはかわいそうよね?」
「書き置きでも書いて置けばいいんじゃないかな…」
「貴女のそういう所、改めた方がいいと思うわ。」
「どういう意味かな?」
「そういう所よ、貴女も女性なら覚えあるんじゃないかしら?まぁいいけど。」
「…よく解んないなぁ?」
目を閉じているので二人がどんな位置関係かは判別できない。
でも、床の軋みで俺の横たわるベッドのすぐ近くにいる事は解った。
二人きりで話しているからか、どちらも流暢なカールスラント語である。
でも、半分程度は聞き取れた。
「じゃあ何?報せも置かないで帰るって言うのかい?それこそナンセンスだと思うけど。」
「こういうのはどうかしら?」
ロスマン曹長がそう言った次の瞬間。
狸寝入りをする俺の頬に何か湿った、小さな、柔らかい物が押し当てられた。
弾力があって、温かくて、そして少し湿っている。
それと合わせて、誰かの鼻息が頬の産毛をくすぐった。
あれ、この感触って…。
「なっ!エディータっ!?」
狼狽える伯爵の声。
「別に親愛の証で、他意はありません。」
それに対する曹長はどこか涼し気だ。
俺は内心気が気ではない。
目を閉じているのに心臓がバクバクと音を立てる。
だって今の感触って
…唇だよな?
「まだお酒が回っているのかなぁっ先生?」
「貴女だって寝てる私によくするでしょう?」
「それは…っていうか先生、気付いて…っ!」
「その話はまた今度。じゃあお暇しましょうか?」
鈍髪の魔女と金髪の魔女の足音が遠ざかる。
「ふふっ…フジキ一等兵、良い夢を…。」
寝室の扉が閉まる直前、小柄な少女はそう呟いた。
少しして玄関口の鍵が施錠された音が響く。
この家に一人取り残される。
それを確認してから、俺はゆっくりと目を見開いた。
まだ心臓がバクバクしている。
「ロスマン曹長にキスされた…?」
今起こった事をありのまま声に出す。
生温かく弾力のある感触。
何故か頬を撫でた鼻息。
そして、クルピンスキー中尉の慌てぶり。
この三つを勘案すれば自ずと答えは導き出せる。
あの感触の意味が解らぬ程、俺も鈍感ではない。
親愛の証だと彼女は言っていた。
他意は無いとも。
でも、ロスマン曹長はクルピンスキー中尉と取り違えず、この俺の頬に口づけをしたのだ。
その衝撃は俺を放心状態にするのに充分過ぎる威力。
「えっ…マジか…」
ベッドで硬直する俺の体。
頬はまだエディータの唾液で湿っていた。
───
「おっ先生、朝帰りかぁ~?」
「ちょっとカンノっ!」
ペテルブルグ基地の朝。
朝食の席で直枝は、朝帰りしたロスマンにそう声をかける。
口角は少しつり上がっていて冗談で言っているのは一目瞭然。
そして、そんな彼女をニパが諌めるのもいつもの見馴れた風景だ。
「えぇそうよ、近くに疎開している親戚の家に行っていたの。外泊届けに手違いがあって大事になっちゃったみたい。迷惑かけたわね、ごめんなさい。」
ロスマンは顔色一つ変えず、直枝にそう返答した。
勿論、嘘。
ラルから準備されたカバーストーリー。
基地にクルピンスキーとロスマンが帰還すると丁度、朝食時であったので二人はそのまま食堂へと通された。
その為、502統合戦闘団は誰一人欠ける事なくいつもと変わらない朝を迎える事ができたのである。
この後、ロスマンはラルに呼び出されている事を除けば…。
「ほーん、そうだったのか」
「すみません、先生…カンノも変な事言うなよなー?」
「へいへい…」
「ふふっ、いいのよ別に。」
「ロスマン先生、何だか機嫌いいですね?」
「そうかしら?ひかりさん?わたしはいつも通りよ。」
直枝、ニパ、ひかりの三人組とロスマンが言葉を交える。
すると、サーシャが思い出したかの様に口を開いた。
「そう言えば管野さん、後で完全装備でグラウンドに来て下さい。ラル隊長から徹底的に貴女をしごく様にご命令が出ています。」
「えっ?」
戦闘隊長サーシャの一言で直枝は固まった。
「何でだよぉっ!?」
「知りません。ですがメニューはもう考えました。今日1日よろしくお願いしますね。」
「管野さんっ!私も付き合います!」
「おめぇみたいな体力バカにはご褒美だろうよ…。」
絶望し変な声を上げる直枝に、元気いっぱいに後押しをかけるひかり。
本当にいつもの日常と変わりはない。
「あらっ…そう言えばヴァルトルートは?」
そこまで考えて、ロスマンは伯爵の席が空席だという事に気が付いた。
一緒に食堂へと来た筈なのだが、いつの間にか姿がない。
「それがぁ、クルピンスキー中尉がどうしてもと言うんで今日の朝食の一品を担当して貰ってるんです。それでキッチンに…。」
おそるおそると言った風にジョゼが小さな喉を震わせる。
「はっ?ニセ伯爵が?」
「はい…何でも新しく料理を覚えたから忘れない内に作りたいって。」
「おいおい大丈夫かよ?」
明かされた衝撃の事実に皆は不安気に顔を曇らせた。
クルピンスキー=メシマズ。
この等式は502の全員がその舌を犠牲にして明らかにした北欧の大発見なのだ。
「えっ?何か問題でもあるんですか?」
何も知らない雁淵孝美だけはどうして周囲が絶望の色に染まっているのかが理解出来ていない様子。
すぐに戦友の直枝が補足した。
「あーっ孝美は知らねぇのか、伯爵は料理の腕が絶望的なんだ。アレは人の喰うもんじゃねぇ…。」
「えぇ、そんなに?」
大袈裟では?と言いたげな考美の表情。
しかし、周囲の反応はそれが決して冗談ではない事をまだ新参者である彼女に教えてくれた。
「みんなーおまたせー」
「皆さんお待たせしました。」
そして、丁度タイミング良く、件の伯爵と料理係の下原が配膳車を押してキッチンから現れた。
二人によってテキパキと配膳される朝食の品々。
それを、席に付いた面々は覚悟を決めた表情で見守った。
「これボクが作ったんだ。」
褐色の指から机に置かれる白磁の食器。
その内容物を見てロスマンは眉を潜めた。
「これって…」
それもその筈。
白いスープ皿によそわれた赤いトマトスープは昨晩、彼の家で食べた物と同じだったから…。
「何だ普通じゃないですか?」
「おーっまともじゃんかっ!伯爵!」
「すごいっ!料理の腕上げましたね。」
「これ本当に中尉が作ったの?」
「予想外です…。」
「びっくりしました。」
「…普通だな。」
配膳されたトマトスープの香りに安堵の声を上げる502の隊員達。
「そうよね、あの指じゃあ料理できないわよね。」
その中でロスマンだけが只一人、皆と違う種類の視線をクルピンスキー作のトマトスープへと向けていた。
いつもの朝が今日も始まる。
???「水島!日本に帰ろう!」