ストパン世界に転生したけどモブとしてクルロスを見守ろうと思ってただけなのに…   作:まったりばーん

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すっかり過ぎた旬の匂い

「先生、ちょっといいかい?」

 

上司からお小言を貰い、外出許可に関しては考えるとの言葉を引き出す事に成功したロスマン。

彼女がラルの執務室から退出し、自分の部屋の前まで来ると同僚であるクルピンスキーがその帰りを待ち構えていた。

 

「あら、奇遇ね。わたしも貴女に聞きたい事があるの。」

 

「何かな?先生が先でいいよ。」

 

ロスマンの反応にクルピンスキーは微笑する。

優先するのは自分ではなく先生。

そういった伯爵の雰囲気が見てとれた。

 

「今朝の料理びっくりしちゃった。トマトスープ美味しかったわ。」

 

「先生がそう言ってくれるなんて、ボクも嬉しいな。」

 

「貴女いつの間に料理の腕を上げたのかしら?」

 

「ボク達は魔女でしょ?素敵な魔法で一夜にね。」

 

ロスマンの疑問に対する返答は中々、クルピンスキーらしかった。

褐色の彼女でなければ恥ずかしくて口にできない様なセリフを放ち、片目を閉じてウインクする。

成程、誰彼構わずにこんな事を言ってばかりだから、彼女は変な噂と生傷が絶えないのだ。

…近頃はそうでもないけれど。

だが、そんな言葉で誤魔化される程、先生と呼ばれる彼女も付き合いが浅い訳ではなかった。

 

「ふーん、そういう事にしておいて上げましょうか?」

 

そっけなく、冗談を無視するように言い返す。

語尾に含みを持たせるのがポイントだ。

 

「何で含みのある言い方なのさ?」

 

「いやぁ、貴女が誰に魔法をかけられたのか気になっちゃって…一体どこの誰かしら?どこの誰にその下手な料理を振る舞って味を直してもらったの?」

 

そして、挑発する様に伯爵から発言を促す。

この段でクルピンスキーもロスマンの言いたい事に気づいたらしい。

長身の魔女は警戒する様に顔を強ばらせた。

 

「…何でそんな嫌な言い方するのかな?」

 

「だって貴女が素直に話してくれないんですもの。でもいいわ、話す気がないならもういいです。」

 

クルピンスキーの反応を見て、ロスマンは話を切り上げる。

これ以上同僚をつついても何にもならない。

これだけ誘うように問い掛けても、白状しなかったのだから自分に説明する気はないのだろう。

どうせ、伯爵の口から直接聞かなくても彼女が彼から料理を教わった事は自明の理。

むしろ、彼女の口から直接その事を言われた方が何だか癪に触ってしまうに違いない。

そう思った。

だから、ロスマンは話を切り上げる。

結局、自身の自尊心を保つ為に話題を転換させたのだ。

 

「で、貴女はわたしに何の用?言っとくけど鍵なら返さないわ。」

 

首にかけた鍵を守るように眼を鋭くさせる少女。

小麦肌の戦友がこのタイミングで自分に会いにくる理由。

それはこの鍵位しか思い付かない。

今朝、クルピンスキーから奪取した合鍵は前からそこにあったかの様にロスマンの首に吊りさがり鈍く光を反射させていた。

 

「…先生、それは譲るよ。ボクが話したいのは鍵のことじゃあないんだ。」

 

だが、伯爵の目当てはその鍵ではないらしかった。

 

「それなら授業の事?大丈夫。私が明日から直々に彼に教えに行き…」

 

「授業の事でもないよ、先生。」

 

「…じゃあ一体何かしら?」

 

「ボクが話したいのは彼の事じゃない。先生、キミの事だ。」

 

「わたし?」

 

伯爵の予想外の言葉に小柄な魔女は眉を潜めた。

そんな彼女にかまわず、クルピンスキーは言葉を続ける。

 

「とりあえず部屋に入れて貰ってもいいかな?」

 

「その話、長くなるの?」

 

「先生次第かな。」

 

何の話題だろうか?

鈍色の髪を揺らしながらロスマンは数瞬の間、伯爵を招き入れるかどうかに考えを巡らせる。

眼前の戦友が何を考えているんだか、彼女には解らない。

 

…でも扶桑の青年についてではないのなら、警戒する必要はないかもしれない。

 

「解ったわ…立ち話もなんだし入って。」

 

一拍置いてロスマンは自室の扉を開け放つ。

そして、クルピンスキーを部屋へと迎え入れた。

 

「ありがとう先生。」

 

…直ぐに伯爵を部屋へ入れた事を後悔した。

 

「ヴァルトルート…?」

 

伯爵はロスマンの部屋に入るや否や、小さな魔女の身体に後ろから包み込むように手を回したのだ。

そして半ば無理矢理に、彼女の下腹部の辺りで左右の掌を結んだ。

後ろから密着する様にロスマンに抱き付いたのである。

 

「どういうつもり?」

 

ロスマンは声のトーンを低くする。

 

「うーん、こういうつもりだけどダメかな?」

 

自分よりも頭一つ分、背の低い少女の後頭部に鼻を埋めスンスンと匂いを嗅ぎ始めるクルピンスキー。

 

「…まだ午前中じゃない。」

 

ロスマンは背後に回った魔女の意図が解った。

伯爵は求めているのだ彼女を。

 

「自分でも収まりがつきそうにないんだ。」

 

「やめてよ、一昨日シたでしょ?今は気分じゃあないわ。」

 

「なら、そういう気分にさせてあげる。」

 

そう言って褐色の魔女はロスマンに手を回したまま、強引にベッドの方へと推し進む。

このまま彼女の華奢な体を白いシーツの上に落とし込むつもりなのだろう。

だが、そんな事をこんな真っ昼間からされては困る。

鈍色の少女は丈の小さな体躯を踏ん張って伯爵に抵抗した。

 

「ヴァルトルート、どういうつもりっ…!貴女、強引な所はあるけれど雰囲気は大事にする人でしょうっ!?」

 

曇り空のお陰で薄暗い室内。

ロスマンの声が反響した。

 

「しーっ…静かに先生、誰かがきちゃうよ。」

 

だが、クルピンスキーはそんな抵抗などお構い無し。

騒ぐ少女の小さな唇を、その女性にしては大きい手の平で蓋をする。

ロスマンの声にならない絶叫がくぐもった。

 

「むぅーっ!」

 

「はは、そんなに睨まないでよ。ねっ?」

 

たまらず魔力を展開するロスマン。

頭と臀部からそれぞれキツネの耳と尻尾が顕現。

線の細い少女はウィッチへと変貌する。

そして、魔女の力で上半身を激しくくねらせた。

 

「離してっ!」

 

上がりの近い、病弱な身体。

魔法を使っても、ガッチリとした体格のクルピンスキーの拘束を完全に解く事は叶わなかったが、何とか口の自由を取り戻す。

そして宥める様に声帯を震わせた。

 

「落ち着きなさい!どうしちゃったの!?ヴァルトルート?」

 

改めてクルピンスキーに抗議する。

ベッドはもうすぐそこまでに迫っていた。

魔力を展開しなければ、あと数瞬の内に押し倒されていただろう。

睨み付ける為、ロスマンは振り返る。

 

「えっ…」

 

そして、自分の目を疑った。

何故なら伯爵の頭から、使い魔であるワイマラナーの耳が飛び出していたのだから。

クルピンスキーもまた、ロスマンを完全に組み付す為に魔女の力を解放していたのである。

 

「ひっ…!」

 

ロスマンは思わず悲鳴を上げる。

ワイマラナーは猟犬。

キツネ狩りによく使役される。

銀色のキツネは瞬く間にシーツの海へと沈み込んだ。

 

「自分でも驚いてるんだ。」

 

右手一本で獲物の細い両手首を押さえ付け、猟犬は独白を始めた。

 

「今朝、先生が彼に…彼の頬にあんな事をした時から…彼の首筋にあんな痣がついてるのを確認してから…何だか変な感じなんだ。何だかこう…押さえられなくなっちゃった。正直、ムラムラする。だから先に謝っておくよ。ごめんね先生。」

 

そう言いながら猟犬はキツネの白い肌に小麦色の指を這わせる。

もう、抵抗しても無駄だろう。

指は段々と下半身の方へと進んでいった。

 

「妬いてるの?」

 

「多分、そう。」

 

獲物の問い掛けに猟犬は短く首肯した。

 

「それはどっちに?」

 

「え?」

 

ロスマンの一言にクルピンスキーは指の動きを止める。

 

「どういう事かな?」

 

そして、その言葉の意味をロスマンへと投げ掛けた。

 

「だから、どっちに妬いてるの?"わたしにあんな事された一等兵"に妬いてるの?それとも"一等兵にあんな事をしたわたし"に妬いてるの?」

 

「それは…」

 

伯爵はその選択に逡巡する。

 

…ボクが嫉妬してるのってどっちだろう?

 

まるで、今初めて気がついたかの様に眉をひそめた。

それは今のクルピンスキーにとっては鶏が先か、卵が先か…そんな永久に決着のつかない命題の様に感じ取れたのだ。

 

「どっちって…言われても…」

 

動きを止めた猟犬。

それとは対照的にキツネは止まらなかった。

その小さな舌を懸命に動かし続ける。

 

「…ねぇ、どっち?それに答えてくれたら、このまま続けていいわよ?一昨日こんな事をしたばっかりだけど…貴女には迷惑かけたから、その迷惑料。ただし、それで終わりにして。」

 

その一言か後押しになった。

 

「…どっちもだ。」

 

ペテルブルグ基地の一角。

猟犬と狐の嬌声が木霊した。

 

───

 

曹長にあんな事をされた日の午後。

あれだけでも頭がいっぱいいっぱいだというのに、俺は予想外の人物の訪問に圧倒されている。

 

「構うな茶はいらん。」

 

そう言い放ち、俺の対面に鎮座する人物。

橙色の髪に緑色の眼を持ち、カールスラント軍の士官服を来た魔女。

502統合戦闘団指揮官、グンドュラ・ラルその人だった。

 

───初めましてだなフジキ一等兵。

 

開口一番、こう言われた時は驚いた。

午後になり、さて昼食の準備でもしようかと昨日のスープの残りに火をかけているまさにその時、ノックの音が部屋に響いた。

またロスマン曹長かクルピンスキー中尉がやって来たのかと思い扉を開けると、そこには眼光鋭いラル少佐が立っていたのだから…。

そして、挨拶もそこそこに少佐を部屋へと招き入れ今に至る。

 

「このスープ…成程、朝のはそういう事か…。」

 

通されたダイニングのテーブルへと腰を据えるラル少佐。

机上に俺が食べようと思い、置いてあったスープを見て彼女はカールスラント語でそう呟いた。

何の変哲のないスープに意味深な視線を注いでいる。

 

昼時に来たからお腹でも空いているのだろうか?

 

「良かったらお召し上がりになりますか?」

 

そう思い、声をかけた。

 

「…っいや、大丈夫だ。今朝食べたからな。それよりも、カールスラント語が?」

 

少佐は俺がカールスラント語を聞き取れた事に驚いた様子。

その緑色の瞳を丸くさせた。

 

「ええ、クルピンスキー中尉に色々教えて頂きまして…」

 

そう答える俺。

するとラル少佐は悩ましげに眉間に皺を作り出した。

 

「そうか…、ハァ…言葉といいスープといい、アイツもどうしてそこまでキミに入れ込むのか…。一体、どんな手品を使ったんだ?」

 

「はぁ…?」

 

俺は彼女の言いたい事が解らず腑抜けた声を出してしまう。

そして、それを少佐は見逃さない。

 

「あくまで何もしてないと?」

 

「何もできないからこうなってるんだとは思いますが…。」

 

「自覚は無いんだな…困った物だ。」

 

「なんというか、すみません…?」

 

「いや、いいんだ…いいんだが…悩ましい。だが、この際だ。率直に言おう。」

 

そして、決意を固めた様にラル少佐は俺にこう切り出したのだ。

 

「フジキ一等兵、何故貴官はまだここにいる?」

 

「は?」

 

その言葉の意味を知り、俺は後悔した。

 

───

 

ペテルブルグ基地から列車に揺られ一時間と少し。

それで、現在の人類生活圏の最北端へと到着する。

寒村とペテルブルグを繋ぐ列車。

それは本来、基地と集材地の寒村を繋ぐ単なる貨物列車でしかなかった。

しかし、復路で必ず発生する空きスペースに村へ遊びに行く兵士を数人乗せた事が始まりで、軍都ペテルブルグから兵士達が日常に脱出する為の交通手段として定着してしまったのだ。

軍紀違反にでもなりそうな事である。

だが、今や一大軍事基地として形成されたペテルブルグは大所帯。

これを潰すとなると大バッシングは必至。

なので非公式の客線はやがて公式の特急車となり、今では士官とウィッチ用に上等な客車を増設する迄になったのだ。

 

「この駅に降りるのも久し振りね…。」

 

そんな通称、ペテルブルグ急行からロスマンは下車し、懐かしげにそう呟く。

一昨日、この街に数週間振りに来てはいたが、それは無断でストライカーユニットを使用しての事。

公式のルートでこの街に来たのは彼にエンドウ豆のベーコン添えを振る舞ったあの日以来なのである。

今日は公式な訪問。

ちゃんと、上司であるラルから外出の許可も認められた。

だから、服装もいつもの軍服とは違ってオフの日の私服だ。

今日の格好は、膝まで伸びた長いロングベルトを彼女はチョイスしていた。

ベルトの色は花柄で、見る者に華やかさを感じさせ、同時に柔らかい印象を与える。

実はこれ、昨日、クルピンスキーによって付けられた太股の桜色のキスマークを隠す為の物でもあった。

 

欲張りで、独占欲の強い伯爵は昨日、真っ昼間からベッドの上でしつこい位にロスマンは自分の物であるという印をマーキングし続けたのだ。

 

──次はフジキ君に付けに行くから…。

 

そして、それが終わるとクルピンスキーはこう宣言したのである。

それに何だか不安を覚えた。

 

…でも、正式に彼に会いにいける。

 

そう思うと心が軽い。

まさか、脱柵した昨日の今日で認められるとは思ってもいなかったが、真面目な彼女。

準備に不足はない。

肩にかけたバックには彼に作って上げる料理の材料と、カールスラント語の勉強用に分厚い辞書が入っている。

勿論、ワインも用意した。

彼女はバックが肩に食い込むのも気にしないで真っ直ぐ彼の元へと向かっていった。

 

「ふふっ、ここに来るのは昨日振りね。」

 

歩いて、数分。

目的の部屋の前へと到着するロスマン。

ロスマンは早速、鈍色の鍵穴へ首にかけていた鍵を挿入した。

部屋の主に、断りも言わずに解錠する。

突然来て彼はどんな顔をするのだろう?

 

「一等兵、こんにち…は?」

 

ドアを開ける。

しかし、すぐに違和感を覚えた。

人の気配が全く無いのである。

 

「一等兵いないの?」

 

ロスマンはそのままダイニングへと歩みを進める。

 

(嫌な予感がする。)

 

そして、それが的中する事を、もぬけの殻になった部屋にいる彼女はまだ知らなかった。

 

 

 




ガールズラブの必須タグ付いてるんで
折角なのでガールズラブさせてみました
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