ストパン世界に転生したけどモブとしてクルロスを見守ろうと思ってただけなのに…   作:まったりばーん

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突然ですが命の危機です

「どうして、ボクを飛ばせてくれないんだい?」

 

「この吹雪だぞ?捜索は許可できん。それにじき、夜になる。」

 

ペテルブルグ基地。

極寒の地に鎮座する古の城郭の装いを、そのまま基地に改装した古城。

そんな城の一角で、二人のウィッチが言葉を交えていた。

両者ともカールスラント出身の魔女。

階級章から士官であるという事が理解できる。

一方は502統合戦闘団指揮官のグンドュラ・ラル。

橙色のショートの髪の毛に、緑がかった瞳を持つウィッチだ。

腰に巻かれたコルセットはかつて戦場で負傷した時の名誉の負傷であり、彼女にデスクワークを強いる枷でもある。

ラルは顔を険しくし、机越しに自分へと迫る部下の対処をどうしたものかと考えていた。

 

「だからこそだ。夜になったらさらに気温は低下する。一刻も速く先生を見つけないと。」

 

相対し、そう語気を荒げるのはヴァルトルート・クルピンスキー中尉。

彼女は伯爵を自称し大戦序盤から戦い続けるエース。

小麦色の整った中性的な顔は一見冷静に見えるが、その実、内面は焦りで一杯であるという事が付き合いの長いラルには理解できた。

 

「お前が先生の事で焦るのは解る。だが、落ち着け。この天候、探しに行っても視界不良か何かで未帰還になるのがオチだ。現に回収班の隊員一名が行方不明になってる。これ以上遭難者を増やしたくはない。」

 

ラルは努めて威厳を保ちクルピンスキーの説得を試みた。

クルピンスキーが遭難したロスマンの事で熱くなるのはラルにも理解できる。

クルピンスキーとロスマンは普段こそお互いに距離を取ってはいるが、くっついたり離れたりを繰り返している間柄なのだ。

主にそれは、思わせ振りで浮気性のクルピンスキーのせいなのだが、いつまでも煮え切らない。

そんな関係だ。

案の定、小麦肌の伯爵はラルの言葉に納得できないと食い下がった。

 

「回収班の一人が遭難したっていっても、行方不明になったのは只の人間だろう?ボク達は違う。それとも隊長は先生の事なんでどうでもいいのかい?」

 

喉を震わせるクルピンスキーの眼光が一層鋭くなる。

ラルは思わず眼を逸らした。

 

「…私だって先生の事が気にならない訳じゃない。だが、万が一お前が先生を捜しに行って帰って来なかったらどうする?この基地から優秀なウィッチを二人も欠員させる程の余裕はない。」

 

「…けどっ!」

 

「二度も言わせるな。予報だと明日には吹雪は晴れる。そうしたら下原に遠視で探させる。軍医だってかき集めた。」

 

「…」

 

「安心しろ、パウラは大丈夫だ。ヒスパニアからの古参がこんな雪位で死ぬ訳がない。」

 

不満そうに口をつむぐクルピンスキーにそう言うとラルは一方的に会話を打ち切った。

 

───

 

「寒いわね…」

 

「そうですね」

 

隣で身を寄せ合うロスマン曹長の呟きに相槌を打つ。

使い魔である狐の耳と尻尾を顕現させている曹長でも寒さは感じるのか、吐き出す息は白かった。

 

「ねぇ、貴方さっきからそれだけね?もっと会話しようとか思わないのかしら?」

 

そう言って俺に視線を合わせてくるロスマン曹長。

座高の低い曹長が俺と眼を合わせるので、必然的に上目遣いになる。

どうやら彼女は先程から相槌しかうっていない俺に不満があるらしい。

でもしょうがないだろ?まるで作り物みたいに整った顔の持ち主と落ち着いて会話できる程の器量、そんなの俺は持ち合わせてはいなかった。

 

「ははっ…生憎、会話の引き出しには自信が無く…」

 

適当に笑って誤魔化すと俺は視線を逸らした。

 

「それも止めなさい。」

 

だが、俺が首をひねり彼女から眼を離そうとした途端、ロスマン曹長は何を思ったかその小さく細い十本の指で俺の頭をガシリと掴む。

俺の相貌は曹長の琥珀色の瞳に固定された。

 

「そっ…曹長?」

 

俺とロスマン曹長の顔面の距離は間に頭一つ分だけしか離れていない。

曹長の瞬きの音が聞こえそうな、そんな距離での強制にらめっこ。

彼女の意図が理解できずに俺は声が上擦ってしまう。

 

「さっきから貴方、人としゃべる時にわざと眼を離そうとするでしょう?良い機会ですからこれを期に直しなさい。」

 

「はっはぁ…?」

 

「一度付いた癖は中々治りません。貴方の母国ではどうだか知りませんが、ここ欧州ではそれはマナー違反です。子供じゃないんだから、普段から意識なさい。」

 

まるで学校の先生が生徒に注意をするかの如く、曹長は囁いた。

俺の方が歳上なのに。

どうやら彼女は眼を合わせない俺の態度に思う所があった様だ。

 

「すみません、人見知りな物で…今後は気を付けます。」

 

「よろしい、良いでしょう。じゃあ、お話しましょう?ずっとこんな吹雪の中で無言だったらおかしくなってしまいます。それに暇ですから。」

 

「お話ですか?」

 

「ええ、何でも良いわ。どんな話でもこの状況なら暇潰しになる筈です。…貴方、もしかしてお題を言わないと喋れない人かしら?」

 

「図星です。」

 

視線をまるで子供を見る様な物へと変えたロスマン曹長に俺は即答する。

 

「…じゃあ、貴方の身の上話でも聞かせて頂戴。貴方が喋った後に私も喋ります。」

 

「了解しました。でも、どうしてそんな事を?」

 

俺は銀髪の魔女にそう問いかける。

急なお喋りを提案してくるロスマン曹長の狙いが解らなかったからだ。

こんなモブキャラの話なんか聞いて楽しいのだろうか?

そんな俺の疑問に対する彼女の回答は満足過ぎる物だった。

 

「何故って、夜が長いからよ。今夜はお互い眠れないわ、眠ったら死ぬわよ?」

 

─死

 

俺が一度経験した概念。

 

「そうだ人間って雪の中で寝ると死ぬんだった。」

 

「当たり前です。さぁ話して?」

 

何だか首筋に死神の鎌を当てられた様な気分になりつつ俺は自分の経歴について話始めた。

 

───

 

「…いていますか?聞いていますか!?曹長!?」

 

「…っ!あれ?やだ私ったらごめんなさい…」

 

あれから数時間。

曹長の命令通り身の上話をしていた俺だが、隣の寝るなといった当の本人が眠りかけていた。

 

「少し…少しだけです。大丈夫、話をつづけて…」

 

眼を擦りながら曹長は取り繕う様に会話の続きを促した。

 

(拙いな…)

 

俺はロスマン曹長を見てそう感じた。

というのも彼女の頭と腰からいつの間にか使い魔の耳と尾が消失していたからである。

それは魔法力の喪失を意味していた。

一時的な物だろうが寒さに耐える為、長時間展開していたのがいけなかったのだろう。

つまり、今の彼女は見た目相応の力と体力しかない。

それは寒さも同じで、曹長は現在、この吹雪の冷たさを直に感じている。

今、彼女はこれまで魔法力によって認識さえしてなかった未知の感覚と戦っているに違いない。

しかも曹長は俺より薄着だ。

元々寒さを感じない事を想定しているから当たり前だが、現下の状況では致命的。

特に下半身は純白の下着…おっと…この世界でいう所のズボンしか履いていない。

これでは一晩と経たずに凍傷で焼け爛れる。

俺は自分と曹長の格好を交互に見比べた。

俺というモブキャラとエディータ・ロスマンというキャラクター。

この世界は俺がいなくても回るが、このロスマン先生というキャラクターが消えればどんな影響があるだろう…。

 

「どうしたんですか…?早く話を…?」

 

俺が急に曹長の事を見つめた物だから、彼女は怪訝な顔をする。

まだ吹雪の勢いは衰えを見せない。

よしっ!俺は覚悟を決めた。

 

「曹長、これを身に纏ってください。魔法力もうありませんよね?」

 

俺はいっさいの迷いもなく、毛皮でできた外套と帽子を脱いで曹長に差し出した。

これは扶桑陸軍が氷点下の大陸で活動する事を考えて作られた特別製だ。

男性用に作られた俺の外套は身長の低い曹長なら頭から脚までスッポリと覆う事ができるだろう。

 

「…これでは一等兵が…。」

 

当然というか、心優しい曹長は俺の脱いだ国防色の外套を受け取らない。

 

「自分は平気です。先程の身の上話で話しましたが北国出身です。この程度なら耐えられます。」

 

嘘だけど。

 

「ですが…」

 

「状況を考えて下さい、曹長。もし私が死んでも只の陸兵が死んだで済む事です。しかし、ウィッチである曹長が寒さで死ぬ…死までいかなくとも凍傷で再起不能になれば人類にとって大きな損失です。まだまだ欧州の奪還は遠い…」

 

俺は声に熱を込めて曹長を説得にかかる。

実際そうだ。

前の世界の戦争でも、この世界の戦争でも…残念な事だが命に優先順位が付く。

復帰の見込めない兵士に与える薬は無いし、凡兵よりも技能のある兵士の命が優先される。

俺はそんな現場を沢山見てきた。

失血死が確定している兵士から血を抜き、生存の可能性がある兵士に輸血する現場…、砲弾で手足がもげ、生存の見込みの無い戦友に撃ち込む弾丸…、敵地に不時着したたった一人の戦闘機パイロットを救出する為に浪費される陸軍歩兵…。

どれも思い出したくない場面。

そしてその一つが今なのだ。

俺を見る曹長の黄色がかった瞳が揺れる。

彼女も解っているのだ。この状況が。

 

「受けとれっ!エディータ・ロスマン!」

 

最後に俺は一言そう怒鳴った。

彼女の白に近い銀髪が震えた。

それはきっと寒さからではない。

 

「一等兵の熱意、伝わりました。私は貴方の優しさに甘えます。」

 

俺の絶叫でやっと彼女は防寒具を身に付ける。

頭に大きな帽子を被り、身に自身の身の丈以上の外套を纏う。

なんだかチグハグで可愛らしかった。

モコモコしている。

 

「いいんですよ甘えて、まだ子供じゃないですか?」

 

「ふふっウィッチにそんな事を言うなんて、でも絶対に死なないで下さい、約束です。」

 

そう言って俺との距離を一層詰める曹長。

少しでも俺に熱を供給しようという事だろう。

厚い布越しに曹長の心拍と肺の上下する音が聞こえる。

 

「意外と背中、大きいんですね?」

 

「まぁ、男ですから…。」

 

マジか…只のモブキャラがこんなに近づけるなんて。

寒いというのに何とも言えない感情で俺の体は包まれた。

 

──

───

 

更に数時間。

とっくに太陽は沈み、辺りは真っ暗になっている。

それでも依然として雪風は手加減という物を知らないらしい。

むしろ、激しくなっているという感じすらある。

二人とも最早何も声に出さない。

声を出そうと息を吸い込めば肺が氷ってしまう。

それが解っているからだ。

そもそも喉を震わせる余力も残っていない。

だが、曹長はかろうじて耐えられている。

まずまずだ。

かくいう俺は結構ヤバイ。

あれだけデカイ口を叩いておいて、限界が近づいている。

指の何本かの感触が感じられない。

間違いなく凍傷で、切断コースであろう。

隣で必死に耐えている小娘から身ぐるみを剥いでしまいたい。

そんな衝動に駆られるのを必死に理性で押さえつけていた。

 

(今、何時だろう?)

 

代わり映えのしない景色は時間感覚を狂わせる。

明け方?深夜?それともまだ日を跨いでいない?

駄目だ全く解らない。

そしてそんな思考ですら俺の残り少ない体力を削っていく。

思えば転生して二十年弱…前世も合わせれば五十年と少し…。

内容はどうあれ結構濃い人生ではないだろうか?

しかも、俺は二回経験している。

だからもう良い頃合いかもしれない。

昔の偉い人も人生五十年とか言ってたし。

最後に可愛い女の子に良い所も見せられた。

 

(じゃあ、さようなっ…!)

 

ここで俺は隣で吹雪に耐える、その可愛い女の子が船を漕いでいるのが解った。

こくりこくりと細長い首を揺らし、今、まさに眠りに落ちようとしている。

 

…!そうだ!そうだ!そうだ!何を勝手に死のうとしている!藤井和也一等兵!まだ肝心の!曹長を守る!その使命が残っている!せめて、せめて日が上る迄は生きろ!生きて次に繋げるんだ!

 

思考をクリアにし、俺は自分にそう言い聞かせる。

そして自分の頭を殴り付け、無理矢理、眠気を消し飛ばした。

 

「曹長っ!起きて下さいっ!」

 

喉が凍てつくのも恐れず俺は大声を出す。

肺に刺すような痛みを感じた。

 

「一等兵…すみません、わたし…もう」

 

「眠っては駄目です!そう言ったのは曹長でしょうっ!しっかり!」

 

「ごめんなさい…解ってるんです、でも、でも…」

 

曹長の声はまるで虫の音の様に弱々しい。

まるで少女の様に…いや、そうだ今は魔法力のない只の女の子だ。

戦場では一騎当千の航空兵でもその本質は年相応の少女。

だが、こんなクソみたいな世界はこの少女に戦いを強いる。

だってそういう"設定"だから。

休ませてあげたい。

そう思う…だからこそ俺はエディータ・ロスマンに鞭打った。

 

「うるさいっ!起きろっ!あんた無敵のウィッチだろっ!目を覚ませパウラッ!」

 

「…っ!」

 

この絶叫が効いたのかどうか解らない。

だが結果としてこの後、俺とロスマン曹長はお互いに意識を保ったまま朝を迎えた。

 

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