ストパン世界に転生したけどモブとしてクルロスを見守ろうと思ってただけなのに…   作:まったりばーん

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あけおめです…
すみませんほんと…


突然そんな事言われても困ります

クルピンスキーなる魔女の舌が軟体動物の様に躍動する。

まるで獲物の巣穴を探るタコの脚みたいに彼女の舌は蠢いた。

唾液の音を震わせながら歯列をなぞり、上顎をつつく。

そして、柔らかい舌同士を密着させ俺の舌裏に自身の舌を潜りこませた。

肉と肉とがぶつかる感触が縦横無尽に走り回る。

クルピンスキーはそれを味わうように目を閉じる。

そして、その両腕を俺の首の後ろに回し、俺の身体を抱き寄せた。

腕に力を込め、俺の動きを圧殺する。

抵抗を許すつもりはない様だ。

彼女の熱と心音を肌で感じる。

自然と俺も瞳を閉じていた。

…そんな体勢になり分単位の時間が経過した。

そろそろ、苦しくなる息。

それは魔女も同じだったらしい。

ゆっくりとクルピンスキーは口腔から己の舌を引き抜いた。

 

「…ぬはっ」

 

気の抜ける様な声をだしながら彼女は舌を自分の口へと収納する。

その所作一つとっても、随分と手慣れている様に見える。

 

「顔真っ赤だよ?」

 

そう言ってクルピンスキーは満足そうに目を合わせてきた。

いつの間にか俺達二人に浴びせられる周囲からの視線は怪訝な物から気まずい物に変わっていた。

熱くなるなら他所でやってくれ。

そういった類いの視線である。

彼女に唇を奪われた。

言葉にすればそれだけだが、倫理的にも常識的にもおかしい事だ。

口の端から流れる唾液はどちらの物か?

未だ自身の身に降りかかった出来事に思考が追い付かない。

 

「どういう…つもりなんだ?」

 

垂れる唾液を手の甲で拭いながら、やっとの事で喉からそう振り絞る。

初対面の相手だというのに俺の口調は粗暴な物に変化していた。

 

「今朝、ボクお預け食らっちゃってね。その八つ当たり。どう?美味しかった?」

 

「美味しかったって…」

 

コーヒー混じりの唾液の味。

それを思い出し俺は言葉を臆してしまう。

 

「もしかして初めてだったりしたかな?」

 

口籠る俺にクルピンスキーは追撃する。

 

「さぁ…こっちが聞きたいね。」

 

過去にこういう経験があったかどうかは言い逃れでもなく記憶に無い。

なんたって記憶喪失の身の上だ。

あったかもしれないし、なかったかもしれない。

もしかしたら扶桑に俺の帰りを待つ恋人だっているかもしれない。

そこまで思考がたどり着き、先程の彼女の言葉を思い出した。

 

───キミはボクの物だ。

 

褐色の彼女がその柔らかな舌を挿入してくる直前に言い放ったその言葉。

まさか彼女が?

一瞬、そんな風に思ってしまう。

 

「ふーん…そう」

 

俺の心を知ってか知らずか思わせ振りにクルピンスキーは喉を震わせる。

 

「まさかアンタが…」

 

「ふふっ違うよ?」

 

質問を全部聞かず、彼女は即俺の聞きたかった事を否定した。

 

「ボクはね男の子よりも女の子の方が好きなんだ。」

 

「は?」

 

そして予想外のカミングアウトをする。

初めて会った人間から公の場で一般的ではない性癖を暴露される。

こんな体験、記憶が無くなる以前もおそらく経験した事はないだろう。

 

「…どう反応すれば?」

 

「どうでもいいよ、自分でも少数派っていう自覚はあるから。まぁ、ウィッチの中ではそうでもないけどね。」

 

俺から注がれる奇異の目に臆する事なく言い切った。

 

「今までさっきみたいな事をした人はみんな女の子。男にしたのは今のが初めて。だから、ある意味初体験ってなるのかな?」

 

つらつらと自身の交際関係を語る彼女。

正直、理解がおいつかない。

 

「確認したかったんだ。キミでも先生みたいにボクの心臓が反応するのかなって。」

 

「先生?」

 

意味深な単語が飛び出た。

会話の流れからその単語が本来意味する物を指していない事は何となく理解できる。

 

「そう、先生だ。正直最初はキミの事、先生が気にかけ過ぎる傷病軍人位にしか思ってなかった。」

 

俺の言葉など耳に入っていないかの様に彼女の独白は続く。

 

「…でもいつからかなぁ?キミの隣に…いや、違う。一人じゃなぁんにもできないキミとあの一室で過ごす時間が思った以上に楽しくなっちゃったんだ。何だろう?庇護欲っていうのかな?弱った姿を見て心打たれたのかもしれない。…ちょっと違う気がするけど。妹さんの件もあったしね。やっぱりボク自身、まだこの感情をよくは解らないんだ。…でも、一年振りにキミの顔を見て…さっき唇を合わせて確信した。」

 

そこまで言って魔女は、褐色の指で彼女は湿った唇をなぞる。

 

「フジキ君は女の子じゃないけど。先生と同じ位、興奮する。」

 

にんまりと笑うクルピンスキー。

そのウィスキー色の瞳はひどく穏やかに見えた。

 

「…まだ、重要な事を聞いてない。俺と貴女は結局どんな関係だったんだ?」

 

幸せそうな美人顔。

そんな顔面の持ち主に改めてその関係性を問う。

彼女の独白の圧に負けそうになるが、まだ過去の関係性を聞いていない。

俺は彼女の物。

あの言葉の意味が解らないのだ。

もう、さっきの事もクルピンスキーの語る事もどうでもいい。

只、眼前のこの魔女とどういう関係だったのかが知りたい。

 

「何の関係もないさ。フジキ君とボクは只の知り合い。それ以上でもそれ以下でもなかった。一緒にコーヒーを飲んで、肩を並べて料理とかは作ってたけどね。」

 

只の知り合い。

その言葉に少しの安堵感を覚える自分がいる。

でも何故?

只の知り合いに…あんな…

 

「でもね?あと半年待ってくれないかな?」

 

だが、連なる言葉ですぐにまた心のアラームが鳴り響く。

 

半年?

 

「半年たったら、只の知り合いの俺と貴女がどうなるっていうんだ?」

 

その警報音を押し込む様に語気を強めてそう返した。

 

「半年。正確には7ヵ月。そしたらボクは二十歳になるんだ。誕生日は11月11日。覚えやすいでしょ?」

 

誕生日?

二十歳?

ますます意味が解らなかった。

 

「そしたらカールスラントに行こう。ベルリンも解放されたし。いいよねっ!フジキ君!」

 

ウィンクするクルピンスキー。

直前まで解らなかったその単語の意図を直感的に理解した。

二十歳というのは魔女の寿命だ。

そしてこれがどういった類いの提案かは解らない状況ではない。

見知らぬ麗人からの突然の告白。

安い芝居の導入だとしても無理矢理過ぎる。

 

「さっき教えたボクとキミとの関係性はねその宣言さ。一年前とは違って、もう逃がすつもりはないから。よろしくね?」

 

そして彼女は再びその小麦肌の掌で慈しむ様に俺の腕を包み込んだ。

敵意の全くない柔らかさ。

でも背筋に薄ら寒さを感じずにはいられない。

 

 

だが、そしてそれと同じ位になぜか懐かしさを感じている。

 

…本当にこの魔女は俺の何なんだ?

 

困惑する俺の思考は名状し難い安心感をクルピンスキーに抱いていた。

 

───

 

「はーい、どこ行ってたのヴァルトルート…?」

 

コンコンと鳴り響いた扉を開けたロスマン。

彼女は眼前に現れた予想外の人物にその通る声を淀ませる。

 

「ユーティライネン大尉…?どうしてここに?」

 

扉の前に立つ人物。

それは長身の魔女だがクルピンスキーではなく、伯爵とは対照的な色白の肌を持つかつての戦友、アウロラ・エディス・ユーティライネン大尉だったからだ。

 

「やぁ、ロスマン曹長。」

 

───それはこっちのセリフだ。

 

その言葉を奥底に何とか押し込んでアウロラは無理矢理笑顔を形作った。

 

「いや、たまたまこの辺りを通ったら懐かしい戦友が住んでいると聞いてな。すまない突然来てしまって。」

 

そして尤もらしい言い訳を瞬時に思い付いた。

 

「あら、そうだったの!いいわ入って!いま丁度、ホットワインができた所なの。」

 

困惑するアウロラの内心を知らないロスマンは、純粋な笑顔で大尉に入室を勧める。

二人は特別仲が良かった訳ではなかったが、アウロラは年齢が理由で基地と縁遠くなっていた。

だから、ロスマンもその思いがけない再会に懐かしさを感じているらしい。

 

「ありがとう。私も何か手土産を用意すれば良かったな…。」

 

「いいのよ別に。今、一人で暇していたから。私が少し外に出ている間にニセ伯爵が断りもせずどこかへ行っちゃうんですもの。」

 

「この家にクルピンスキー中尉と?」

 

「えぇ、二人でここを休みの時の仮住まいとして借りてるの。」

 

「そうか…」

 

アウロラは考える。

エイラを家に置いて、電報が送られた番地に汽車を乗り継ぎ来てみたはいいが出迎えたのはフジキではなくロスマン。

誰が出てこようと動じないつもりであったが流石にこれには動揺してしまう。

まさか小さな先生が出迎えるとは考えもしなかった。

 

(偶然か?)

 

だが、偶然という言葉で片付けてしまうには出来すぎている。

なにせ出てきた相手は弟分のフジキと因縁深いあのロスマンなのだ。

他の502メンバーとは訳が違う。

彼が指を失う直接の原因となった魔女なのだ。

 

「ここには曹長と中尉だけで?」

 

「そうよ、わたしとニセ伯爵だけ。」

 

アウロラは言葉を交えながらも小さな先生から情報を引き出そうと舌を動かした。

 

「どうぞ、ホットワイン温まるわ。」

 

「ありがとう。」

 

銀狐から、微かに湯気を立てるホットワインを受けとる銀狼。

ワインの芳醇な香りに混じってシナモンとバニラの甘い臭いが鼻腔をくすぐる。

 

「…甘い」

 

「砂糖を少し入れてるの。カールスラントでは良く飲むのだけど。お口に合わなかったかしら?」

 

「いや、そういう訳じゃない。甘い酒は飲みなれていなくて…スオムスにもホットワインはあるがこういうのは初めて飲んだ。その、温まるな。」

 

「でしょう?これは安ワインだけど、ホットワインにするには最適よ。スオムスの春は寒いから…。」

 

牛乳沸かしから手に持つグラスへ自分のホットワインを注ぐロスマン。

部屋には何本かワインの空瓶が纏まって置いてあり、彼女が日常的にこの温酒を嗜んでいる事が伺えた。

そしてその何本かには埃がうっすらと積もっている。

 

(一日や二日の量じゃないな)

 

ここに二人が滞在し始めたのはそう最近の事でも、数回でもない。

随分前から複数回、ここを利用している。

そういうことを示していた。

 

(やはり、偶然ではなさそうだ。)

 

彼女の研ぎ澄まされた感が本能に警鐘を鳴らす。

 

「なぁ、曹長。この家を見つけて長いのか?」

 

アウロラは甘く香るワインで舌を濡らしながら何気なく探りをいれる。

 

「…そうね一年前位からかしら?」

 

色白の肌を仄かに赤らめながら小さな魔女はそう答えた。

 

「どうしてまたここに?二人ならもっと良い立地に部屋を借りられる筈だ。」

 

「理由ならあるわ。ここは思い出深い場所なの。」

 

「思い出?」

 

「そう、ここの前の住人とのね。」

 

「前の住人?知り合いだったのか?」

 

「えぇ、前の住人。大尉ももしかしたら覚えているんじゃないかしら…指を無くしたかわいそうな人よ。」

 

「なっ…!」

 

「フジキカズヤって名前に心当たりあるでしょう?」

 

ロスマンはアウロラが探し求める人物の名を隠す素振りも見せずに声に出した。

 

 

───

 

「ちぇっ、ねーちゃんに会いに来たのにコレかよ…。」

 

そう言いながら、エイラは道端の石ころを蹴飛ばす。

ベルリン奪還作戦が終了し立役者の一人でもある彼女は上から結構長めの休暇を貰えた。

だからこそ、敬愛する姉に単身スオムスに帰って来たというのに。

…それなのに。

彼女を迎えいれたのは愛する姉からの拳骨一つだったのだ。

 

「たいして痛くはないケドさーっ!」

 

何だか心が痛い。

エイラだってまだ甘えたい盛りなのだ。

何でもできて、数々の修羅場を潜り、大人びてはいるがまだ二十歳に満たぬ思春期。

しかも小さい頃から姉のアウロラは戦場を駆け回り、家を空ける事が多かった。

だから今度ばかりは久し振りに姉と二人きりの時間を過ごそうと考えていたのに。

 

「誰なんだよ、アイツ…」

 

脳裏にちらつくあの扶桑人。

名前はフジキと言うらしい。

そこにいるのが当たり前かの様にこの一年、姉のアウロラと寝食を共にしていたと考えるだけで癪に障る。

しかも、借り家の家賃や働き口の斡旋などの大部分をアウロラが世話したという。

記憶がないだか何だか知らないが、大の男が女の世話になる。

何ともだらしない。

それに姉はなんの違和感も覚えないのだろうか?

 

「ねーちゃんも何だよ…ヒモなんか飼って」

 

世間一般に自立せず生活の糧を女性に依存する生き物をヒモという。

彼の場合はちゃんと収入源があるので厳密には違うのかもしれないが、この際エイラにはそれは些末な事だった。

問題はかわいい妹が里帰りしたにもかかわらずげんこつをみまい、見知らぬ男と同棲していた姉なのだ。

ヒモなんか侍らせてるあの姉なのだ。

ワタシ(エイラ)は悪くない!

 

「あーっもう!これならサーニャと一緒にいれば良かったんだな!」

 

頭をむしゃくしゃに掻きながらエイラは空に向かって吠えた。

何人かの通行人が何事かとエイラを見るが、今の彼女はそんな視線に気づかない。

姉に残っていろと言われたので、やる事もないから町を練り歩いているが…姉が戻る前に愛しのサーニャの元へと帰ってやろうか?

そしたらバカ姉も自身の行いの愚かさに自覚するだろう。

エイラがそこまで考えていた、その時である。

 

「アレ?」

 

通りの先のカフェ。

その窓側の席に座るフジキの姿をエイラの銀色の相貌が捉えたのだ。

 

「何だまだ町にいるじゃん。」

 

アウロラは彼を求め別の町へと向かってしまったが、憎き扶桑人はまだこの町を離れていないらしかった。

 

(アイツ連れて帰ればねーちゃんも少しは丸くなるか?)

 

結局、自分がげんこつを喰らったのも彼を警察署へと放り投げてきたからだ。

ならば彼を連れ戻せばアウロラも少しは怒りを納めるだろう。

悔しいがアイツは姉にとって大事な人らしい。

エイラにとっては不本意極まりないが…。

ついでに紅茶の一杯でも飲んで行こう。

喫茶店へと脚を進めるエイラ。

 

(えっあの人って…!)

 

だが、すぐに彼女の前進は止まった。

そして、エイラの白銀の瞳は扶桑人の隣、正確には相席する人物の顔に釘付けになる。

 

(…クルピンスキー中尉!!)

 

そう、彼と向かい合って座る人物。

女性にしては背の高い姉アウロラよりもさらに高い身長を誇る褐色の魔女。

何度か基地を共にし交遊を深め、ある程度の面識もある。

同僚のエーリカ・ハルトマンとも並ぶカールスラントのエース。

そんな大物がこのスオムスの寒村のカフェ、しかもあの扶桑人と相席しているのだ。

 

「どっどうして502の中尉がここにいるんだ!?」

 

思わず声に出していた。

だが、次の瞬間、エイラはさらに衝撃的な光景を見る事になる。

というか無意識の内に展開していた固有魔法の未来予知で予見していた。

 

「はああああああああっ!?舌まで入れてぇえええええ!?こんの浮気ものおおおおおおおおおおお!!!」

 

憎き扶桑人が姉を誑かす成敗すべき悪へと変わった瞬間だった。

 

 

 

 

 

 




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いつも沢山のコメントありがとうございます
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