ストパン世界に転生したけどモブとしてクルロスを見守ろうと思ってただけなのに…   作:まったりばーん

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そろそろ思い出してくれ

接吻

 

「んぷぅ…」

 

脳がそれを認識するのにたいして時間はいらなかった。

先程まで向かい合っていた白ワンピースの同居人が、いつの間にか俺の身体に腕を回し密着している。

玄関口に立っている人物を認めるとアウロラはすぐに俺を抱きよせ、その唇で蓋をした。

 

 

「んぅう…」

 

彼女の舌が口腔内を探り唾液を交換し合う。

慣れた様に、いつもの様に…。

だけれども、彼女のその両目は…普段こういった時には味わう様に閉じられる薄紫色の瞳は閉じられることなくある一点を凝視している。

俺にではない。

一点を…店内で立ち尽くすエディータ・ロスマンを凝視していた。

 

「ん…ぷはっ…」

 

数分の後、息を継ぐ為に彼女は蓋を外す。

 

「アウロ…んぐぅ…っ!」

 

その一瞬の隙に言葉を発しようと抵抗を試みる。

だが、すぐにまた舌の栓で塞がれた。

 

「ひぃまわぁ…らまっれっろぉ」

 

今は黙ってろ。

 

アウロラは舌を連結させながらそう言った。

視線は依然として小柄な軍人へ差し向けたまま。

もはや、この行為の意味合いは本来の互いの気持ちを確認し合う為の物ではなかった。

 

誇示。

 

誇るように、警告するように、晒し上げる様に。

侵入者にこの行為を見せ付けていた。

白昼堂々。

今一番この姿を見せたくない相手の前で。

口の中をかき乱されながら、自然と俺の二つの瞳はアウロラと同一の方向へと誘導された。

 

「…」

 

小柄な女と目があう。

目の前の光景に口をあんぐりと開けて棒立ちとなっている。

そんな鈍色髪の彼女と目があってしまったのだ。

彼女が動けないのは眼前で男女が二人、絡み合っているからだけではない。

そんな気がする。

 

「っぷ!…はぁっ…はぁ…」

 

息継ぎを三度ほどした後でやっとアウロラは口を解放してくれる。

これまでかかった時間は何分だろうか?

酸素の足りなくなった頭で勘定する。

この間、他に来客がなかった事が唯一の幸運だった。

でも事が終わった今現在。

俺の二つの黒い目とアウロラの紫色の瞳は、未だに小さな来賓と向き合ったままだ。

 

「…こういう事だエディータ・ロスマン曹長。」

 

「…そう。」

 

呼吸が苦しいのか肺を上下させるアウロラ。

口の回りは唾液でベトベトと濡れている。

対するロスマンはどこか冷めた口調だった。

 

「久し振りねユーティライネン大尉。…それとも、もう階級は必要ないかしら?」

 

そして、少し間を置いてそう返す。

 

「知り合い…?二人とも?」

 

「あぁ(えぇ)、ヒスパニアの頃からな(ね)」

 

声をハモらせる二人。

小柄な魔女の高い声とアウロラの女性にしては低い声が店内に反響した。

確かに二人とも軍人だ。

ならば、どこかで接点があってもおかしくはない。

今の今までそんな想像すら俺はしていなかったが。

もし、ロスマンがアウロラと旧知の仲であるのなら…

 

偶然ではなかったんだな。

 

そう思考する俺を余所に二人の魔女は会話を続ける。

 

「まぁ、それももう関係ない。私は軍を辞めたし今私達はこういう間柄。理解できたか?」

 

そう言って俺を抱き締めたまま、白ワンピースの同居人は灰色の軍服を着る軍人を睨み付ける。

今の言葉は俺とロスマン、どちらへ向けた言葉だったのかは解らない。

でも、俺とロスマンの関係は昼に時間を供にするだけの間柄だと言うのに、何かアウロラに対して後ろめたい感情が心内に湧きだし始めているのは確かだった。

 

「別にそんな事はわたしには関係ないわ。貴女とその人がどういう関係だったとしてもね。」

 

相も変わらず涼しげな顔をするロスマン。

先程の俺達二人の行為は思ったほど彼女にとって問題ではないのかもしれない。

 

「では、曹長。関係ないのなら引き取ってはくれないだろうか?察するに曹長はコレと昼食を供にする間柄。それ以上でもそれ以下でもないのだろう?だが、私は今コレと話し合わなければならない事情ができてしまったんだ。」

 

アウロラはそう言って俺の身体に回す腕の力を強くした。

 

ミチリ…

 

肺が少し苦しくなる。

 

「それこそわたしに関係ないと思うのだけれど?わたしもその人に尋ねなければならない事情があるの。」

 

「ただ、昼食の席を一緒にするだけの曹長に?」

 

「えぇ、いけないかしら?それにわたしと彼の間柄はその範疇に収まる物ではないわ。」

 

「その話をするのか?曹長?」

 

───その範疇に収まる物ではない

 

ロスマンのその一言がアウロラの何かに触れたらしい。

 

「…ぐぅっ!?」

 

絡み付く細腕の圧迫が一段と力を強め、俺は思わず空気を吐き出した。

すでに魔女の怪力はない筈。

けれども、普通の女の腕力が俺の肋骨をキリキリと締める。

 

「えぇ、是非したいわ。見るに貴女はあえてその人に過去の事を話してない様子だから。…どうして教えないの?」

 

「曹長っ!貴様がその話をするのかっ!!今、ここでっ!!」

 

「──っ!!?」

 

次の瞬間、身体にかかる圧迫は最大限に達した。

万力の如く挟まれた身体の骨はグラグラと震え始め、頭に血が上る。

思わず顔を歪める俺。

でも、アウロラはひどく興奮していて気づいてはくれない。

 

「ええ今だからこそします。いつまでもこの人を過去の事で縛り付けてはいけない。わたしも貴女も…アノ人も。そうは思わない?それともわたしが席を外すなら貴女から彼に説明してくれるのかしら。」

 

「…」

 

押し黙るアウロラ。

アウロラからしてみればすぐにでもロスマンを追い払いたいこの状況。

喋ってしまえばいいのだろう。

でも、彼女は眼光をますます鋭くするだけ。

口を開く様子はない。

 

そんなに話したくない事なのか?

 

肋骨にかかる圧力に俺もそろそろ限界を迎えかけている。

 

「いたいよアウロラさん。」

 

だからこそ、俺は話を剃らす為。

この張り詰めた空気が嫌になったから。

トントンと彼女の腕を叩いて主張した。

 

「…あれ?」

 

そこで初めてアウロラは自身の腕にかけていた力を理解したらしい。

はっ…と目を丸くし、即座に俺の拘束を解除する。

同時に彼女の射ぬく様な視線の照準はロスマンから俺へと変わった。

 

「違うんだ…そんなつもりではなかった…。」

 

床に膝つく俺。

アウロラはこぼれ落ちる俺へとすがり付く様に再び手を回す。

そこには先程までの力はない。

そしてそのまま、ズルズルと二人そろって床板へへたり込んだ。

 

「わたしはただの女の子。女の子というには少し歳を取りすぎたけれど。謝らせて、私は貴方の重荷になっていたみたいだから…。そして、それは今の貴女だって同じよ。中尉。」

 

そんな情けない体勢となった俺達二人を見下してエディータ・ロスマンは口を開く。

 

「そして貴女は子供じゃない。指と記憶が無いからってその人をおもちゃにしておままごとするのはよしなさい。そのおもちゃ見た目以上に脆いんだから。」

 

「違う…そうじゃない。私達二人の関係はおままごとなんかじゃない。」

 

ギリッと歯を噛む音がした。

 

「いえおままごとよ。少なくとも健全とは言えないでしょ?互いに支えあってる様に見せかけて…貴女がこの人に甘えているだけ。まぁ…それはこの人にも言えるわ。だからこそ、最初はゆっくりと、本当の事を話そうとおもっていたけれど…」

 

ロスマンは静かに瞼を閉じた。

 

「もう、ここで話します。」

 

そして、意を決した様に目を開く。

 

「…頼む!やめてくれ!」

 

ロスマンを睨み上げるアウロラ。

そんな彼女が酷く可哀想に見えた。

 

「いいえ、やめません。"一等兵"…貴方の指がなくなった原因はね…」

 

俺の鼓膜を震わせる小柄な軍人の声。

 

 

 

…懐かしい声音に、俺の失くなった筈の指が痛み始めた。

───

 

「ふぅむ、つまり新型ユニット…ho229の寒冷耐久実験をこのペテルブルグでやりたいと?」

 

「えぇ、安定した天候で飛行は成功しました。でも、それでは兵器としては意味がない。あくまでも私達二人が求める箒は遊覧飛行船ではなく、硬式飛行船なのです。つきましては少佐に練度の高いウィッチを選定して頂きたく存じます。」

 

「飛行船ねぇ…」

 

随分ませた例えをする。

ラルは机越しに立つノイエからの技術士官に目をやった。

確か以前名前を聞いた時はヴァーレリーと言った筈だが、入館許可証にはラーヘルと書いてある。

自分の記憶力も案外宛にならないな。

橙色の髪を揺らしながらなんとなく彼女はそう思った。

 

「それで計画中心人物の貴官が直接来たんだ。少し条件が面倒なんだろう?」

 

白衣に包まれた軍人…というより学者に近い存在の人間。

そんな少女が一人、遠路遥々大西洋を渡って来たのだからその実験の性質が政治も絡む少々特殊な物なのだろう。

指令官として机に座る時間の長いラルはなんとなくそれが察せられた。

 

「はい、まずこの実験。他国の軍人の目にできる限り触れずにやって頂きたいのです。1000×3計画は我が国独自で進めているプロジェクト…その存在は秘匿しておきたい。」

 

「という事は勿論、参加するウィッチは…」

 

「カールスラント籍の者でお願いします。」

 

優秀なウィッチ…ラルの頭に浮かんでいた二つの選択肢の内、オラーシャの選択肢が消えた。

 

「了解した。であるならエディータ・ロスマン曹長が適任だろう。」

 

ラルはウィッチを決定する。

一瞬、自ら試してみようとも考えたが試作機の最高速度が約1000km/hであった事を思いだしその案を引っ込めた。

全盛期の時ならともかく、今の身体の状態ではそれは少々荷が重い。

 

「しかし、疑問だな。そんなに秘密にしておきたいならノイエでひっそりと実験をすればいいのではないか?」

 

ふと、ラルは当たり前に沸き上がる疑問を口にした。

 

「欧州に近い極寒の地が提供できるのならそうしています。ノイエ領にもパタゴニアなどの寒冷な地域はありますが、北欧の様な寒波はありませんし、リベリオンのアラスカ基地など利用するのはもっての他です。ならば他国のウィッチがいたとしてもカールスラント軍の指揮官がいるここの方が適しています。基地司令なら書類のあれこれは簡単でしょう?」

 

「あまり気は進まないがな。」

 

「書類でウィッチを一人501から横領した少佐が仰っても説得力に欠けますよ?」

 

「…承知した。慎重に事を進めよう。」

 

耳の痛い指摘にラルは反射的にそう答えると、目の前に広げられた書類に判子を押した。

 

……

………

 

「夢か?」

 

執務室の椅子上で目を覚ます。

いつの間にか眠っていたらしい。

歯も磨かず居眠りしていたからか口の中が少し酸っぱい。

夢の中と座っていた場所は変わらないが、あの時から大分日付は経過していた。

 

「もう一年以上前の話だというのにな。」

 

そう言ってみるも、先程の記憶を夢見た原因は解りきっている。

扶桑からあの退役ウィッチがやってきたからだ。

脳内であの気の強そうな顔が浮かんでくる。

切れ長の殺気混じりの彼女の視線。

あれは一筋縄ではいかない。

ふと、外を覗くと闇夜で鏡と化したガラスに写される自分と目があった。

 

「本当にあの時に私が履いていればよかったと思うよ。」

 

誰に言うでもなく独り言る。

いや、それは独り言ではなく自分へと投げ掛けた言葉だった。

一年と数ヶ月前。

ノイエからあの技術士官と供にやってきた新型ユニット。

国策から自分と優秀なあの小柄なウィッチとで内密にやらざる得なかったあの寒冷地耐久実験。

思えば、試作機の飛行実験だというのにあまりにも楽観的だった。

そうだあれは未だ実験機の段階の筈だった。

あの技術士官の言葉を借りれば遊覧飛行船の様に脆いユニットだったのだ。

今でも随伴飛行していた技術士官からロスマンが墜落したとの無線越しの報告を鮮明に記憶している。

墜落したあのユニットが機密だったからこそ、上とのやり取りで回収班の手配が遅れた。

あのユニットが機密だったので、詳しい内容を基地の皆に周知できなかった。

あのユニットが機密だったゆえに、吹雪の中の回収を強行してしまった。

だから、あの扶桑の歩兵は指を喪失してしまったのだ…。

その事に罪悪感を覚える。

こじれてしまったロスマンとクルピンスキーとの仲ももどかしい。

でも、それと同じ位、彼女の心の中にはあのユニットの機密と事故の詳細を秘密にしておかなければという義務感が存在する。

もし、あの歩兵が指を失う原因となったこの事故を素直に穴吹に話すとしよう。

芋づる式に新型ユニットの話をしなければならなくなる。

そうすれば、事故調査の為の検分の申し出が扶桑側から出てくるかもしれない。

こちらも兵士の生命を危険に晒した手前、大きな態度を取る事もできない。

ましてや彼はロスマンを救ってくれた恩人だ。

 

「すまない…フジキ一等兵。」

 

小さく、贖罪の言葉を呟いた。

ラルの言葉に偽りはない。

だが、軍事機密は墓まで持っていく。

彼女の古い戦友の言葉を使えば、それがカールスラント軍人なのだ。

ラルは酸っぱい口を洗い流す為に、机上のマウスウォッシュを手に取る。

 

軽い痛みが口腔内に広がった。

 

 

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