ストパン世界に転生したけどモブとしてクルロスを見守ろうと思ってただけなのに…   作:まったりばーん

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すみません


突然です新生活は

ペテルブルクから少し離れた港街…言わば現在の人類生活圏の最北端。

そんな文字通り辺境と化した地の病院に移送され、2週間が経過した。

せめてもの情かリハビリが終わるまでは軍で勤務していた扱いにしてくれるとの事で、この病院で過ごす幾日かは上司に有給消費を命令された会社員の様な心持ちであった。

リハビリと言っても指を除いた体の大部分は薄着ながら被服を着ていたし、ルマール少尉の治癒魔法のお陰もあってか特段辛い物ではなかった。

あれなら軍隊の訓練の方がキツイだろう。

という訳で…五体満足、という訳ではないが比較的健康体で今日、退院日を迎える事ができた。

まぁ、指以外にも耳のさきっぽが無くなって、軽い麻痺症状というオマケ付きではあるが…。

 

「短い間ですが、お世話になりました。」

 

病室の出入口で今日まで面倒を見てくれていた看護婦に礼を述べる。

退院日という事で見送りに来てくれたのだ。

 

「いえ、お礼なんていりません。まだこの街に滞在するとの事ですよね?何かご相談があればいつでもいらして下さいね?」

 

そう微笑む看護婦さんはやっぱり下はズボンだけ…。

しかも白色レース生地。

目のやり場に困る。

この世界はもう二十年以上になるがどうにも慣れない。

パンツじゃないから恥ずかしくないと言っても寒くはないのだろうか?

 

「では、ありがとうございました。」

 

「えぇ、また。」

 

おそらく彼女は特に意識しないでまたと言ったのだろう。

だけど暫く病室はご遠慮したい。

 

───

 

「ここかな?」

 

俺は左手の人差し指と親指で挟んだメモ用紙に書かれた番地を前にそう呟いた。

眼前には北欧風…ではなく本場北欧の綺麗な木製扉がある。

俺は預かっていた鍵をポケットから右手の人差し指と中指でつまみ出し木目の扉の鍵穴に突っ込んだ。

そのまま、クルリと回転させる。

我ながら指の少ない生活にも馴れてきた。

これ位ならお手の物。

 

…まだ出来ない事の方が多いけどな。

 

鍵は解錠されたので、どうやらここで間違いないらしい。

こじゃれた扉を体全体を使い、押し開ける。

ドアが開くと同時にうっすらカビと埃の匂いが鼻をついた。

 

「これはまた…何というか…お邪魔します。」

 

室内に誰かがいたという訳でもなにのに俺は思わず、そう声に出していた。

家の中は急いで荷物を纏めて出て行ったという様子が解る位に生活感に溢れていたのだ。

四年前、ここに元いた住人が着の身着のままネウロイから逃げた時の状態が切り取られ、保存されている。

開けっ放しの食器棚、針が止まった掛け時計、年頃の女の子がいたのだろうか?女学生の制服がアイロン台に置いてある…。

この街は北欧からの反抗作戦で比較的早期に解放されたが、未だに帰ってくる住民は少ない。

むしろ今いる住民ですら出て行こうとするのだ。

皆、ネウロイのいる大陸には好き好んで住みたくはない。

だから、この地域にはこうやって放置された物件が大量にあった。

そこで我が第二の故郷扶桑へと帰る段取りをつける間、この物件を所有していた地主に頼んで貸してもらったという訳だ。

といっても不動産屋がある訳でもないので、簡単な署名しかない口約束だが…。

ともあれ、病院で紹介された人物なので身元はしっかりしている。

まぁ、心配は無いだろう。

地主曰く、この家の本来の住人とは連絡がとれないとの事で家の中に残っている家財はそのまま使っても良いとの事。

賃料も破格の値段だった。

少し申し訳ない気もするが、そんなに長く滞在するとも思えないので許して欲しい。

 

「ふぅ…まぁこんなもんでいいかな?」

 

少し部屋の中を整理し、自分なりに納得する。

体がこれなので家具を動かすとか、床に散らばっている小物を片付けるとかは出来ないが生活できる迄には落ち着いた。

今日はこれから行かなければならない所が別にある。

新生活にはいろいろと準備が必要だ。

俺はポケットに鍵と裸のルーブル紙幣を何枚か突っ込むと、時の止まった部屋を後にした。

 

───

 

「ブリタニア行きのチケットねぇ…一週間後また来てくれ。」

 

「そうですか解りました。」

 

「すまんね予約が一杯で、今でも大陸からおさらばしようって考えの奴が多いんだ。」

 

この街の旅券売り場。

フロントの男性は申し訳なさそうにそう付け加えた。

うむぅ…薄々解っていた事ではあるが残念。

これでまた扶桑への道が遠のいた訳だ。

本来ならば負傷し除隊すれば軍が故郷までの面倒を見てくれる。

少なくとも内地のどこかしらの港町までは話を付けてくれるだろう。

だが、俺の場合は少し事情が違った。

というのも、現在の軍籍は臨時でスオムス軍の指揮下に入っているのだ。

軍隊手帳にもスオムス語でそう書いてある。

…四年前、扶桑陸軍欧州派遣団は文字通り壊滅した。

そして部隊単位、下手したら個人単位で散り散りになった者達は、そのまま他国の軍隊の指揮下に臨時的に置かれた。

所謂、義勇兵的な扱いに近い。

この処置はそれほどまでに当時の欧州が絶望的な状況下にあり、一人でも多くの兵士を必要とした事による。

扶桑側も一部統帥権を犯しているという主張はあるものの、基本的に黙認していた。

俺の場合は北方方面の反抗作戦時にスオムス軍の部隊に編入され、それがそのまま回収班に移動した。

だから上官がスオムスのユーティライネン中尉であったし、給与もスオムスから貰っている。

そこで先程の帰り道の話になるが、義勇兵が辞めたとしてもスオムスは扶桑までの帰路を保証してはくれないのだ。

だって、一応「義勇」だからそこんとこは覚悟して来てるよな?って事らしい。

この辺、正式に国家間で取り決めが成された統合戦闘団とは違う所。

まぁ、スオムスも鬼ではないので帰宅にかかる費用は出してくれるのだが、手配は自力でする必要がある。

だがそうと言っても戦時中。

ブリタニア~大陸間の民間空路は閉鎖され、海路は大陸から脱出しようとする人間で未だにパンパン。

要は予約がとれないのだ。

だからこんな辺鄙な寒村に暫く滞在する必要がある。

 

「はぁ…」

 

俺はそんなため息をつくとチケット売り場を後にし、欧州特有の石畳を踏みつけて新たな住み処へと引き返す。

部屋の前まで戻って来ると、そこには思いがけない人物が立っていた。

詳述すると白髪の、小柄な、カールスラントの少女。

 

エディータ・ロスマン曹長だった。

 

───

 

「お久しぶりですロスマン曹長。」

 

「…!フジキ一等兵、お久し振りです。」

 

家の前で立ち尽くすロスマン曹長に指の少なくなった右手を上げて声をかける。

曹長は俺に気づくと一瞬、眼を驚いた様に見開くがすぐにいつもの凛々しい顔になった。

しかし、その眼は申し訳なさそうに宙を描いている。

…振り上げた俺の右手から逸らす様に。

右手を上げたのが行けなかったのだろうか?

義指をはめて上から手袋をしているので、そんなに醜い物でもないとは思ったのだが…気を使わせてしまったのかもしれない。

 

「今日はどうしてまた?」

 

「いえ、ラル隊長に非番を貰ったので貴方がどうしているかと思い…」

 

「自分なんかに気を使って頂かなくても、恐縮です。」

 

「そんな事言わないで。私の気が収まりません。」

 

「ですが、こんなに頻繁に…業務に支障はでないんですか?」

 

「大丈夫です。今は小康状態ですから。」

 

俺の移送後、ロスマン曹長が俺を訪ねてきたのはこれが初めてではない。

入院中、三回もお見舞いに来てくれている。

 

「それに、お礼ができていません。助けてもらったお礼が」

 

「いえいえいえっ!もう、充分過ぎる程お礼はして頂きましたよっ!この義指のお金まで出して貰ってっ!」

 

そう言って俺は顔の前でブンブンと手を横に振った。

この手を横に振る度、カチャカチャと音を立てる義指。

入院中、ロスマン曹長がこの義指の代金を払ってくれた。

初日に採寸と型取りを行ったのだが、完成前に俺の知らない所で支払いを済ませてくれており、俺は一銭も払っていない。

その性質上特注でしか作れない義指。

それが五本も。

決して安い物ではない。

そのお金を払ってくれるだけでも、お礼としては十二分が過ぎた。

 

「そんなの、殆ど只の飾りじゃないですか、一等兵が失った物に比べたら…微々たるお金です。」

 

義指の話をした所、ロスマン曹長は更に声を弱らせた。

俺は曹長にもう充分だと言うつもりで言ったのだが、却って彼女を萎縮させてしまった様だ。

 

「まぁ、立ち話しも何ですし、中でお話しませんか?お茶は淹れられませんけど。というかよく場所解りましたね?」

 

「えぇ、病院の人に教えて貰ったの。」

 

とりあえず寒空の下、女の子を立たせておくのも忍びない。

俺は扉の鍵を開けた。

 

「随分と散らかってるわね?」

 

「つい数十分前に家主になったばかりの物ですから。前の住人の生活がそのまま残ってます。居抜きって奴ですね。どうぞ、座って下さい。」

 

ロスマン曹長を招き入れ、リビングまで誘導する。

彼女は部屋の惨状を見て顔をしかめたが説明を聞くと、成る程という顔になった。

 

「ねぇ、フジキ一等兵、見て欲しい物があるの。」

 

俺がロスマン曹長の対面に腰かけると曹長はおずおずと懐から何かを取り出した。

それは勲章を入れておくケースの様で、カールスラント軍の物だと言うのが一目で理解できる。

 

「これは…?」

 

「カールスラント帝国剣付きヒスパニア十字金賞です。私がヒスパニア動乱で武功を建てた時に授与されました。私を含めて千人程度にしか授与されていません。…自分で言うのも何ですが非常に価値があるものです。」

 

どうやら彼女がこの大戦前に従軍したヒスパニア動乱でカールスラントから授与された勲章らしい。

金色の十字の中心にカールスラント皇帝の刻印が刻まれ、それを囲む形で四方に剣のレリーフが配置されている。

装飾や色合いも、これぞ武勲といった趣。

時期的に言って、彼女の魔女人生、最初のページを飾る記念品であろう。

 

「流石曹長、古参なだけはありますね。どうしてこれを?」

 

彼女は俺にこれを見せて何が言いたいんだろう?

自慢話?

だとしたら可愛い。

 

「フジキ一等兵、これを受け取ってくれませんか?」

 

「は?」

 

俺は予想していなかった言葉に素っ頓狂な声を上げた。

 

「これを売り払えば結構な値段になる筈です。ですから受け取って下さい。」

 

「いやっ!受け取れませんよこんな物!」

 

「でも貴方はキャッシュを渡しても受けとる様な人ではないじゃない、もう私にはこれ位しか…」

 

彼女は俺が指を失い除隊する事に負い目を感じている。

だからこんな事を言うのだろう。

でも、それは筋違いという物。

俺は覚悟してあの時行動を起こしたし、優先すべきは歩兵のモブよりも魔女の主要キャラクターである。

 

「ですから、お礼ならもう充分して頂きました。それこそこっちが恐縮する程には…ですからもう気になさる必要はありません。」

 

俺は努めて丁寧な態度でロスマン曹長の提案を固辞した。

 

「でも…」

 

しかし、ロスマン曹長は不服そうに視線を送る。

主に俺の指へと向けて。

 

(えぇ…受けとれねぇよ…。)

 

…どうした物か?

ここ2週間、彼女はずっとこの調子である。

この前、お見舞いに来てくれた時などはこれでもかという謝罪の言葉と一緒に、自分の名前の書いた小切手なんかを持ってきた。勿論、それは断ったがそれが駄目ならより価値の高い物をと考えたに違いない。

心優しい白髪の少女は俺が負傷してしまった事に、相当自責の念を感じている様だ。

今日追い返してもまた来るだろう。

正直ちょっとしつこかった。

俺の事など早く忘れてくれないものか?

 

あー今すぐネウロイがペテルブルクに攻めにきてくれないかなぁ…そしたら曹長もここに来なくなるだろう

 

…と俺が脳内で考えている不謹慎な内容を知る術もない彼女は依然、険しい顔付きで俺の手袋に包まれた指先を見つめる。

 

「受け取って貰えないの?」

 

その声は懇願に近い。

ここで一旦受け取れば曹長もスッキリしてくれるだろうか?

俺はある折中案を思い付いた。

 

「では、こうしましょう。自分がそれを曹長から預かります。」

 

「預かる?」

 

「はい、自分は確かにこの街に暫く滞在しますが、それほど長くは厄介になりません。勲章は帰国する際、お返しします。でもその前に生活に困るようならこの勲章を換金させて頂きます。それでどうですか?」

 

「…解りました。」

 

ロスマン曹長は俺の申し出になんとか納得してくれた様だ。

まぁ、旅券売り場の店員も一週間後に来いといっていたから一週間後にはブリタニア行きのチケットも工面できるのだろう。

それまでこの貴重な勲章は金庫にでもしまい込んでおけば良い。

 

これで曹長も俺の所には出発の日まで来なくな…

 

「でも、一等兵、その間様子を見に来てもいいかしら?」

 

来るんですね…。

 

 

 

 

 

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