ストパン世界に転生したけどモブとしてクルロスを見守ろうと思ってただけなのに…   作:まったりばーん

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誤字修正本当にありがとうございます
やはりスマホで文章を作ると誤字が多発しますね…



突然だからこその奇襲です

時は少し遡る。

これは数日前、扶桑の歩兵が去った後のペテルブルグ基地の日常の一コマ。

遠い東洋の兵士が離脱した所でこの基地の物語は終わらない。

何事もなかったかの様に日常は繰り広げられる。

…いや、実際何事も無かったのだ。

ああいう事故は良くある事だ。

 

「おい、ひかり!ニパ!今日はオレの勝ちだ!約束、覚えてるよな!」

 

そんなある日、ペテルブルグ基地のハンガーで扶桑の魔女、管野直枝は勝ち誇った声でそう宣言した。

ハンガー内に元気そうな彼女の声が木霊する。

 

「管野さん…解りました。」

 

「ぬぅ…解ったよカンノ…」

 

黒髪の少女とは対照的に、直枝を取り囲む二人のウィッチは悲壮感に溢れた顔。

直枝と同郷の雁淵ひかり、そしてスオムスのウィッチ、ニッカ・エドワーディン・カタヤイネンの二名だ。

 

「ほらほら、勿体ぶるな。ささっと出せって」

 

「次はこうはいきませんっ!」

 

「憶えてろよなぁ」

 

直枝からの二度目の催促。

栗毛と金髪の少女はお手本の様な捨てゼリフを吐き、渋々、直枝に銀紙で包まれた物体を差し出した。

 

「へっへん…!儲かった儲かった。」

 

その正体はみんな大好きチョコレート。

数ある軍の補給品の中でも特に魔女達に人気がある嗜好品だ。

502統合戦闘団の面々…特にこの直枝、ひかり、ニパの三人はチョコレートの配給があるとこうやってチョコレートを懸けてある勝負をする。

 

「へへっ、今日はオレが一番、ネウロイ撃墜したんだから文句は無しだぜ!」

 

そう、襲来するネウロイの撃墜数競争である。

たまにクルピンスキーも参加するこのゲーム。

ルールは日によって変わる時はあるが、基本一番多く撃墜した者が配給されたチョコレートを総取りする。

この日はグレゴーリ撃破以来、久々に小型ネウロイ数機による襲撃があり彼女達三人が出撃。

そして、直枝が撃墜数一位だったという訳だ。

 

「うぅ…管野さん、酷いです。もう私、暫くチョコレート食べてない…」

 

ひかりはそう言って、両手で目元を隠しグスグスと泣くジェスチャーをした。

よく見ると指の間から直枝にチラチラと目配せしている。

随分わざとらしいが、本人もふざけているのだろう。

 

「カンノ、大人気ないぞー?手加減しろーっ?」

 

そんなひかりを援護する様に直枝に抗議するニパ。

というのも、このチョコレートの勝負、大抵ひかりの独り負けなのだ。

元々、入隊予定の無かったひかり。

数々の死線をくぐり抜け、ウィッチとして箔が付いて来たとはいえまだまだ未熟。

その実力は直枝やニパに比べれば大人と子供である。

撃墜数という絶対的な物指しは非常なる現実をひかりに突き付け、褐色の甘味を奪っていくのだ。

 

「ったく、ニパだって毎回手加減してないだろ?それにひかりは今日、撃墜数0だ!そんな泣き真似したってチョコはくれてやるもんか…」

 

「ちぇーっ、管野さんのケチ…いいもんっお姉ちゃんに貰うもんっ!」

 

「孝美だって撃墜数0の奴にやるチョコレートなんて持ってねーよっ、成果0の穀潰しは姥捨て山にでも捨てちまうぞ?」

 

「…姥捨て山って何?」

 

ニパは直枝とひかりの会話に出てきた聞きなれない単語に首を傾げた。

 

「あー、扶桑に昔からある…民話?言い伝え?まぁ伝説みたいなもんだな。」

 

「伝説って?」

 

「あぁ…!昔の扶桑の農村でな、年取って働けなくなった老人を穀潰しだからって言って山奥に捨ててくんだ。老人の脚じゃあ絶対に帰ってこれない位の山奥に。」

 

「えぇ…それって殺すって事?」

 

直枝の説明にニパは少し引いた声で問い掛ける。

 

「直接的に殺すって訳じゃないけど、まぁそうだな。因みに地域によっては生きたまま棺桶に入れて埋めるとか、谷に落としてしまうなんて言い伝えもある。それに飢饉の酷かった時代には、老人だけじゃなくて病気や怪我で働けなくなった若者も姥捨て山に棄てていたなんて話もあるぜ。」

 

「管野さんやけに詳しいですね…」

 

破天荒な問題児であると同時に、文学少女でもある直枝にはこういう民話の類にも造詣が深い様だった。

 

「でだ…これはここだけの話なんだがよ?」

 

ここで突然、直枝は声音を変える。

その顔は変なイタズラを考えた子供の様な表情。

 

「世界的な金融恐慌が15年前位にあったろ?」

 

「あのリベリオン発の恐慌の事?」

 

「それだ。…あれで色んな国が不況になった。それは勿論、扶桑も例外じゃない。特に農村は物も無くなって、生の大根齧ってる写真が新聞一面かざったぜ。」

 

「大根…?」

 

「扶桑の野菜です。カブと人参の間の子みたいな。」

 

「うっへぇ…そんなの齧りたくないよ。」

 

再度ニパの聞き慣れない言葉。

今度はひかりが補足する。

 

「しかも扶桑はそのすぐ後に扶桑海事変が発生して領土も若い男も激減だ…当然国は食うに困る…。」

 

「まさか…?」

 

ここでニパは直枝が言いたい事を理解した。

 

「あぁ、今は昔の怪しい伝説がひっそりと復活してるって噂だ。特に経済的打撃の多い北国を中心に、鍬も鋤も鎌も持てない穀潰しをひっそり山に捨てちまうってなっ!」

 

「ひぃぃっ!」

 

ここで、直枝は語尾を強めてワッと声をニパに浴びせた。

直枝の語りと合間って妙な迫力があり、金髪のスオムスっ娘は思わず声を漏らしてしまう。

 

「あははっ、なーんてそんなの都市伝説。ニパ驚き過ぎだって、第一、現代でそんな事できる訳ないだろ?警察来ちまう。」

 

直枝は上手く言ったと言わんばかりにゲラゲラ笑う。

どうやら彼女はニパを驚かせる為に根も葉も無い噂話を吹っ掛けたらしい。

 

「クッソー…カンノ、性格悪いぞ。アウロラねーちゃんに言い付けてやる。」

 

ニパが半分涙目になりながら直枝を睨み付ける。

その時だった。

 

「ちょっと貴女達、いつまで長話やってるの?」

 

三人のいるハンガーに別のウィッチの声が響いた。

 

「「「先生っ!」」」

 

ひかり、直枝、ニパ、三人の声が重なる。

声の主は三人がどうやっても頭の上がらないエディータ・ロスマンその人だ。

 

「いつまでも戦闘報告に上がらないと思ったらまた変な賭け事して…ハァ、急いで下さい。隊長がお待ちよ?」

 

どうやらロスマン先生は帰還したのに中々、戦闘報告に現れない三人に耐え兼ね、自らハンガーに脚を運んだらしい。

その口振りから彼女達がチョコレートの賭けをやっていた事も知っている様だ。

彼女の高い声には苛立ちも見てとれた。

 

「すみません、先生っ!今まさに報告に行こうと思っていた所ですっ!おい、行くぞカンノ!ひかり!」

 

「あっあぁ…!」

 

「はいぃ!ごめんなさい先生!」

 

ニパが取って付けた様に宣言すると、後の二人もそれに従う。

三人は逃げるようにハンガーから退室した。

忽ち、冷たいコンクリート作りのハンガーはロスマン一人だけになる。

 

「全く…。何時まで経っても…」

 

彼女達は子供だ。

ロスマンはそう感じた。

 

「それにしても…」

 

───北国を中心に鍬も鋤も鎌も持てない穀潰しをひっそり山に捨てちまうってなっ!

 

白髪頭のロスマンの脳裏に先程の直枝の話が反芻される。

 

「フジキ一等兵、もう働けないわよね?」

 

彼女を助けて指の半分を失った男性。

彼の顔が連想された。

頭の片隅ではさっきの直枝の話が作り話であるという事は理解できる。

法治国家でそんな事はありえない。

理解できるのだ。

だが、それでも、エディータ・ロスマンは万が一の事を考えてしまう。

 

(まさか…)

 

そう言えば彼は北国出身であった。

それはあの最悪な夜に彼から直接聴いている。

 

ロスマンは己の背筋が冷たくなった気がした。

 

これが数日前、彼女がある決心をした日に起こった事である。

 

 

───

 

辺境の港町の新居で俺は焦りを隠せなかった。

ロスマン曹長は俺が勲章を預かれば帰ってくれると思ったが、どうもそうはいかないらしい。

 

───昼食位、作りますよ?貴方の手では料理できないでしょ?ごめんなさい、そんなつもりで言ったんじゃないの。そんな顔しないで?

 

数分前、曹長はそう宣言すると持参した材料を手にキッチンに行きトントンと包丁を動かし始めた。

 

これは長丁場になりそうだ。

 

できれば、モブであり、幾ばくもなく欧州から去る俺の生活に干渉して欲しくは無い。

だが、曹長も悪気があってやっているのでもないので無下にもできない…。

全く、俺の事など放って置いてクルピンスキー中尉とクルロスしていて欲しい物だ。

というか、そっちの方が俺は嬉しい。

だが、そんな事を内心思っていても人間、食欲には敵わない物で、キッチンから美味しそうな匂いが漂ってくるにつれ、ロスマン曹長の手料理の正体が気になってきた。

 

まぁ、料理を作って貰う位はいいかな?

 

というか、こんな俺がロスマン曹長の手料理を味わえるだなんて役得とはいえ畏れ多い事ではないだろうか?

 

「出来ましたよ。簡単な物で悪いのだけれど。どうぞ」

 

彼女が料理を始めてから十数分。

いつものカールスラントの制服に白いエプロンを前に掛けた曹長が白磁の皿に料理をよそってやって来た。

テーブルに就く俺の前に置かれた湯気の立つそれは、豆料理の様である。

豆料理と言っても故郷で出る五目豆みたいに田舎臭い物ではなく、刻まれた玉葱の薫りが食欲をそそり、中にベーコンも入っている洋食。

一見スープの様にも見えるが…?

 

「これは?」

 

「エンドウ豆のベーコン添えです。カールスラントの軍歌にもなってるの。…教練みたいな戯言の後には、温かいエンドウ豆のベーコン添えがある♪ってね。聞いた事無い?」

 

「へぇ、これが」

 

そう言えば前にカールスラントの兵士が歌っていたのを聞いた事がある。

歌詞中では、確か兵士が死んで天国で食べるのもエンドウ豆のベーコン添えだった。

それほど迄にカールスラント軍では一般的な物なのだろう。

もしかしたらロスマン曹長も軍で作り方を知ったのかもしれない。

 

「もっと手の込んだのでも良かったのだけれど、ペテルブルク基地にエンドウ豆の缶詰が沢山あった物だから。」

 

「いえ、手の込んだ込んでない関係ありませんよ。ありがとうございます。今日は冷えたパンでも齧ろうかと思っていたので助かりました。では早速…」

 

はて?

俺は目の前で美味しそうな湯気を立てる、ロスマン曹長のエンドウ豆のベーコン添えを口に運ぼうとして固まった。

というのも、スプーンもフォークも何も配膳されていなかったのだ。

まさか素手で食う物でもない筈だ。

 

(あぁ…ロスマン曹長が忘れたのか。)

 

俺はそう考えた。

というか、ここは俺の家なのだ。

彼女は食器の置いてある場所も解らなかったのだろう。

ここは家主である俺が持ってくるべきである。

家主になったの一時間位前だけど…。

 

「ほら、口を開けて?冷めない内に食べて?」

 

しかし、ロスマン曹長は俺の考えを知ってから知らずか、俺の隣に座り込むと、スプーンを俺の眼前に突き出した。

銀色に光るスプーンには緑色のえんどう豆が掬われている。

 

なんだスプーンあるじゃん…。

 

…いやいやいやいやいや、そうじゃないだろ?

 

「どうしたの?口を開けて?」

 

「あのぉ?ロスマン曹長?」

 

「何?」

 

「スプーンを渡してはくれませんか?」

 

「食べさせてあげるわよ?私が。」

 

そう言って曹長は再度、手に持つスプーンを突き出した。

というか、隣に座る彼女の距離感はあの吹雪の夜並に近い。

これじゃあまるで介護みたいだ。

 

「ロスマン曹長。お気遣い感謝します。ですが、自分はこの指でスプーンを持つ位はできる様になりました。それに自分自身で食事をとる事は指のリハビリにも繋がります。ですので曹長、スプーンをこちらに。」

 

反論する俺。

だが、曹長も譲らない。

 

「確かに指のリハビリを兼ねて食事をするのも良い事だと思うわ。でも、誰か頼れる他人がいる時は、そんな事気にせず甘えてもいいんじゃないかしら?リハビリは夕飯でしましょう?ねっ?」

 

「…」

 

ロスマン曹長の尤もらしい言い分に俺は黙ってしまう。

 

いいのか?

いや、良くないだろう?

だって俺はエディータ・ロスマンがこういう事をしていい相手ではない。

彼女がこうやって…所謂スプーンを持ってあーんする相手は別にいる筈だ。

そう、それこそヴァルトルート・クルピンスキーとかだ。

 

ネウロイとの戦闘で負傷して、両手を治療中のクルピンスキーにロスマンが今みたいにあーんする。

そして、それを別の502の面々が見てからかう…

 

ほら、ブレイブウィッチーズ本編にもありそうな一コマだ。

だけど今、間近に座るエディータ・ロスマンはあろう事かこの世界のモブであり異物の俺に対してスプーンを握っている。

単純に俺の事を心配しての行動で他意はないのだろうが、それでもむず痒さを感じずにはいられない。

 

「ほら、あーんして?そろそろ私も手が疲れてきました。」

 

彼女から三度目の催促が飛んで来る。

真面目な顔であーんして?と要求する曹長の目。

その目は本当に心配そうで純粋な物。

こんな甲斐甲斐しい少女の気持ちを裏切るなど、俺にはできそうもない。

 

(えーいっ!どうにでもなれ!)

 

俺は眼を半分閉じて口を開けた。

スプーンから口の中にエンドウ豆が放り込まれる。

すかさず、それに歯を立て咀嚼。

豆が臼歯で擂り潰され、ロスマン曹長の手料理が俺の味蕾を刺激した。

 

淡白な豆の食感、そしてそれを引き立てる玉葱の香り…これは。

 

「美味しい」

 

「本当に?」

 

「ええ、とっても美味しいです。今まで食べた豆料理の中で一番美味しい…」

 

「久し振りに作ってどうかとも思ったけど、それは良かった!」

 

俺の言葉を受け顔を綻ばせるエディータ・ロスマン。

彼女は笑いながらもう一度エンドウ豆のベーコン添えを掬う。

 

すぐにまた口の中にエンドウ豆が飛び込んできた。

 


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