ストパン世界に転生したけどモブとしてクルロスを見守ろうと思ってただけなのに…   作:まったりばーん

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突然それはやってくる

「少し多めに作ってあるので、夕飯にでも食べてください。…それでは。」

 

「本当にありがとうございます。お陰で食事の心配を考えないですみました。」

 

エディータ・ロスマン曹長との別れ際。

まるで鳥の給餌の様な昼食が終わって、ペテルブルグへと帰る曹長を見送る為、俺は玄関先までやって来ていた。

彼女はもう家の外に居て、半分開けた扉を境に俺と向かいあっている。

なんとあの後、彼女は散らかっていた部屋の掃除までやってくれた。

曹長の手を患わせたくはなかったが、結局、彼女の優しさに甘えてしまった形になる。

まぁ、掃除をご遠慮しようと口を開いても、有無を言わさぬ態度で黙殺されてしまったのだが…。

 

「食べ飽きてしまうかもしれないけど我慢して?また来ます。次はもっと美味しい物でも…」

 

「その事なんですが、ロスマン曹長。」

 

また次回…そんな事を言いかけた曹長を遮る様に口を挟む。

 

「これだけして頂いて、大変自分勝手だとは承知しています。ですが、もう自分なんかの為に脚を運んで下さらなくても大丈夫です。俺はやっていけます。」

 

俺は努めて丁寧な言葉遣いでそう断った。

…ロスマン曹長には申し訳ないが、この関係もこれきりにすべきだろう。

曹長が俺の為にとこの小さな港街に来るのは今日で4回目。

2週間で4回。

つまり、3~4日に一回来ているペースになる。

その都度、ラル少佐に許可を貰って来ていると話してはいるがペテルブルグ基地に曹長を不在にできる余裕は無い筈だ。

小康状態とは言っても前線である。

無理を言って来ているに違いなかった。

これ以上、彼女の優しさに甘えていてはいけないのだ。

そう思い俺は真剣な顔になった。

 

「…どういう意味かしら?」

 

俺の言葉に曹長は眼を細めた。

白髪のウィッチが纏う雰囲気がちょっと不機嫌そうに変わる。

 

「そのままの意味です。こんなに貴女の優しさに甘えてしまって、今更だとは思いますが、曹長にはもっと別にやる事がある筈です。それに、あの雪の日の事を負い目に感じる必要もありません。あれは自分が覚悟して、曹長を守る為にやった事です。曹長を早く発見できなかったという反省はあれど、後悔はありません。哀れむのは辞めて下さい。そしてどうか、その貴女の価値ある時間をもっと有意義な事に…」

 

「これ以上有意義な事はあるかしら?」

 

「はい?」

 

「だから、これ以上有意義な事がありますか?私だってある種の覚悟を持って貴方の面倒を見ようって決めたの。私のこの行動は、決して一等兵を哀れんでの行動ではないわ。だから、そんな事を言わないで…お願いだから、どうかもう二度とやめて頂戴。」

 

そう言って彼女は頭を下げた。

 

「やっやめて下さい、頭を下げるなんてっ!」

 

ロスマン曹長の行動に俺は不意を突かれる。

俺は大慌てで彼女の頭を上げさせようとした。

だってそうだろう?

年下とはいえ階級が上の人間に頭を下げられたら誰でもテンパる。

それは軍隊にいる人間として当たり前だ。

 

「じゃあ、またここに来てもいいかしら?」

 

どうやら小さな少女の行動はそれを織り込んでの物だったらしい。

曹長は顔を上げると、目に笑みをたたえてそう嘯く。

 

…卑怯だ。

 

そりゃ、俺だって彼女の覚悟は認めたい。

でも何度も言うように俺は只のモブキャラだし、今の曹長の俺に対する態度は少し過剰だ。

はっきり言って鬱陶しいと感じる部分もあった。

それに、もう一つ…とっても重要な、根本的懸念点がある。

 

「まだ何かあるの?」

 

俺の何か言いたそうな視線をカールスラントの魔女は見逃さない。

彼女は即座に反応した。

俺は裏技とも言える懸念を噴出させた。

 

「…こんなに貴女の時間を拘束しては、クルピンスキー中尉が良く思わないのではないですか?」

 

クルピンスキー中尉の名前を出す。

あの小麦肌の伯爵だって、曹長ともっと一緒にいたい筈だ。

 

「どうしてそこであの人の名前が?」

 

俺がクルピンスキー中尉の名を声にすると、曹長は不思議そうに目を丸くした。

いや、どうしても何も…。

 

「クルピンスキー中尉は曹長の大切な人でしょう?これ以上、貴女から時間を貰ったらあの人に申し訳がありませんよ。」

 

「…あの人が私の大切な人?そんなのどこで聞いたの?」

 

「どこでも何も、有名な話じゃあないですか?」

 

「え?」

 

俺がそう付け加えるが、曹長は意味が解らないと言った感じで眉を潜めた。

何故だ?

だが、彼女のその怪訝な表情と視線から心の内に不可思議以外の感情…恐らくは動揺の類いを隠しているという事を察した。

恐らく曹長は自分と中尉との関係を俺に指摘され、"心当たり"があるが、どうして俺がその事について"理解"しているのかを怪しく思っている…そんな目だ。

 

………待てよ?

 

俺は大慌てでこの世界に来る前…正確には俺がストライクウィッチーズの関連作品を読み漁っていた時の事を思い出した。

少なくともロスマン先生とニセ伯爵のカップリング、「クルロス」は存在した。

それは間違いない。

ファンの間でもそこそこ人気のカップリングだった。

だって見ていて楽しいし、カップリングに説得力がある。

こう言うと荒れるかもしれないが、ストパン世界にはカップリングに無理矢理感のある組み合わせも多い。

 

誰とは言わんが…。

 

それに比べれば「クルロス」はすんなりと受け入れる事のできるカップルだった。

でも"現実世界"ではない、アニメやその他媒体"劇中世界"でのクルロスの扱いはどうであったか…?

「ブレイブウィッチーズ」ではツンツンしながら百合百合していた。

それはラノベ版でも同じ。

しかしそれは視聴者、読者が第三者の神の視点で見ていたから理解できる事だ。

それに比べて、キャラクターの画像を撮影された写真に見立て過去の出来事ぽっく解説している「公式ファンブック」ではどうであったか…?

確か、二冊目ではクルピンスキーのイラスト解説のコーナーで二人が描いてあるイラストは収録されていたが、明確な「クルロス」についての言及はしていなかった。

仲の良い二人という解説止まり。

 

匂わせる描写はあったけど…。

 

(あれ…?)

 

ここで俺はこの世界に転生し、ペテルブルグ基地に配備されてからの日常を思い返す。

クルピンスキー中尉は酒と女が好きな享楽家。

この話は回収班にも知れ渡っている。

ペテルブルグ基地の人間なら誰でも知ってる事実である。

 

…だが、クルピンスキー中尉とロスマン曹長が百合百合している間柄。

 

こんな噂、聞いた事があっただろうか?

 

「へ、変な事は言わないでっ!確かにヴァルトルートとは昔からの付き合いだけど…そんな、そんな大切な人って間柄じゃあっ…」

 

そして、目の前のロスマン曹長のこの態度。

まるで女子中学生が友達に「おいっ!○○、あいつの事が好きなんだろ~?」とからかわれた時にするみたいな真っ赤な顔。

 

「もうっ!知りませんっ!とにかくっ、また来ますっ!それでは…!」

 

顔を若干赤らめたロスマン曹長は、逃げる様に玄関の扉を閉めた。

そして、石畳を走り去る彼女の足音。

 

そうか…ロスマン曹長、貴女

 

………クルピンスキー中尉との関係隠してますね?

 

おそらく、この世界での「クルロス」は彼女達二人と親しい人間の一部が知っているシークレット情報。

俺はこの世界に来て初めてその事実を理解した。

藪蛇ったな俺。

 

───

 

夢を見ていた。

自分がこれを夢だと理解できる夢。

所謂、明晰夢。

こういう明晰夢というのはだいたい悪夢とそうばが決まっている。

しかもこれ、前の世界の夢じゃないか…?

舞台は俺の最後の時。

かつて市役所だった場所に俺達は立て籠り、窓から外の様子を伺っている。

 

あぁ…駄目だ!思い出したくないこの後の事は…!

 

そんな風に思っても夢は止まらない。

嘲笑うかの様に映像が再生される。

夢の中、外の景色を睨む俺。

その網膜に飛び込んでくるのは敵の軍勢だ。

数はこの施設に立て籠る我々よりもはるかに数が多い。

歩兵に追従する装甲車輌が不気味にその砲塔をこちらに向けていた。

まさか孤立無援の少部隊にこれだけの兵力を出してくるとは。

敵である彼等は捕虜を取らない事で有名だ。

投降しても無駄だろう。

俺は回りを見渡す。

この部隊は俺を含めて殆どが元々民間人。

第三次世界大戦が始まり、仕方なく軍隊に参加した連中だ。

その目からはとっくのとうに闘志が消えており、武器弾薬も底を尽きた。

もうまともな武器は手に持つ銃剣位な物。

 

突撃しよう

 

誰かが言った。

 

どうせ投降したって殺される。ならいっそ突っ込んで言った方が…。

 

その意見に誰か反対する者も、賛成する者もいなかった。

だが何かしら行動を起こそうとするのが人間だ。

話はすぐにまとまった。

各々がそれぞれ手に得物を持って、かつて役場だった建物の出入り口に集まった。

 

じゃあ行くぞ?

 

建物の扉を開け放ち、絶叫と共に突き進む。

敵は待っていましたと言わんばかりに発砲する。

小銃、機関銃、迫撃砲…ありとあらゆる火器が着弾し周囲は砂塵に包まれる。

だが、それでも脚を止めない。

力ある限り突き進み、声の出る限り喉を震わせる。

 

…せめて一矢報いたいかった。

 

しかし、奇跡は起こせない…1メートルもしない内に俺の体はぶっ飛んだ。

 

「ヴああああああああああああっ!」

 

悲鳴を上げて目を覚ました。

ここは北欧の港街。

大丈夫だ。

あの戦場じゃない。

寝汗が酷い…シーツが汗でグッショリ濡れているのが解る。

ロスマン曹長が作り置きしてくれたエンドウ豆のベーコン添えを食べた後、シャワーも浴びずに寝床に就いたのは覚えている。

今、時刻は深夜代だろうか?

窓から見える景色は真っ黒で、日光の代わりに月明かりが注ぎ込んでいる。

勿論そこには敵はいない。

 

一体何だったんださっきの夢は?

 

こっちの世界に来て20年弱。

やっと忘れられたと思ったのに…。

まるで本当に撃たれたみたいに体が痛い。

…痛い?

 

ここで俺は自分の体に起きている違和感に気がついた。

指が酷く痛むのだ。

それも、ある筈のない、失われた五本の指が。

幻肢痛…事故や病気で切断された体の一部が痛んでいると錯覚する神経症だ。

あの日から度々、苛まれていたが…成る程この痛みが俺にさっき夢を見せたのだろう。

俺は顔を歪めながら何とかベッドから立ち上がり、震える手つきで病院で処方された鎮痛剤を口の中に放り込んだ。

そのまま映画みたい噛み砕いて喉に送り込む。

錠剤の苦い味が舌にじんわりと広がった。

 

不味い。

 

舌の上は痛みに負けない位の不快感に支配された。

そして苦い味を我慢した所で、確か幻肢痛には鎮痛剤が効かないという医者からの説明を思い出す。

じゃあ、なんで処方したんだよ?

ともあれ、何か口直しできるだけ物はないかと室内を彷徨った。

脚を動かしていないと痛みと苦さでどうにかなってしまいそうだ。

薄暗い室内をやみくもに歩き回っていると何かが脚に引っ掛かり倒れた。

結構な重量があり、下を見ると転がっているのは酒瓶。

中身は無色透明だ。

ユーティライネン中尉から選別で貰ったヴィーナ。

もう、この苦味を洗い流せるなら酒でも何でも良い。

俺はそう考えるとヴィーナの栓を開ける為、少なくなった指を動かし始める。

でも、痛みに震える五本の指では中々栓が開けられない。

ツルツル滑るガラスの表面は俺の指から逃げる様で、全く掴み所がない。

何度も何度もヴィーナの入った酒瓶を床の上に転がしてしまうのだ。

 

(ああくそくそくそくそ…!こんな時、こんな時に誰かが側に居てくれたら…!)

 

焦る思考と、疼く体。

俺はもう耐えきれなくなり、ヴィーナの瓶を壁に叩き付けた。

ガラスの割れる音が部屋に反響した。

この時ばかりは隣人が居ない事に安堵する。

透明な酒瓶は丁度、中央から半分で割れ、その大部分が溢れ出た。

だが、それでも底の方にはまだ少なくない量の液体が残っている。

俺はその暗闇中、不気味に月明かりを反射する透明な液体に口をつけた。

もはや飲むのに指はいらない。

まるで犬の様に四肢を床に這わせて舌でヴィーナを食道に送る。

このスオムス製ウォッカの濃度は40度。

焼酎を更に強烈にした様な匂いで肺がむせかえる。

でも、それがとっても心地よかった。

舌先がアルコールでヒリヒリと痛む。

いつの間にか噛み砕いた錠剤の苦味は消えている。

目的を達しても、それでもヴィーナを飲み続けた。

まるで砂漠で見つけたオアシス。

存在しない指の痛みから逃げる様に一心不乱に舌を動かす。

どれだけ強いお酒でも、指の痛みを誤魔化せないのは解っているのに。

馬鹿みたい。

そこからはあんまり覚えていない。

 

でも、次の日、床の上で目が覚めたからそのまま眠りに就いたことだけは確かだった。

 




~おまけエンドウ豆のベーコン添え作り方~

材料冷凍グリンピース又は缶詰グリンピース
ベーコン
玉ねぎ一玉
塩 適量
コショウ 適量
水 少し

1みじん切りにした玉ねぎと一口台に切ったベーコンをフライパンで小麦色になるまで炒めます

2小麦色になるまで炒めたらグリンピース(缶詰の場合は水切りする)をいれて、水を材料が焦げつかない位いれます
缶詰の場合は缶詰の水をいれるといいでしょう

3蓋をして15~20分弱火にかけて、塩コショウで味を整えれば完成です

※グリンピースの代わりにレンズ豆の缶詰を使っても美味しい
というかそっちの方が美味しい

皆も東部戦線で泥まみれるドイツ軍になったつもりで自炊しよう!

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