ストパン世界に転生したけどモブとしてクルロスを見守ろうと思ってただけなのに…   作:まったりばーん

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突然の話だけど代打をお願いします

「丁度良かった先生、今、いいかい?」

 

「…なに?」

 

ペテルブルグ基地の廊下。

中世の城の質感がそのまま残る石造りの空間でエディータ・ロスマンは古い付き合いの魔女、ヴァルトルート・クルピンスキーに声をかけられた。

ロスマンはクルピンスキーの存在を認めると唇を噛んで顔を歪める。

彼女は今、目の前の同僚に問い詰めるべき事があるのだ。

 

「そんな事よりあなた、もしかして…いえ、もしかしなくてもある事ない事、基地の皆に言い振らしたでしょっ!?このニセ伯爵っ!」

 

要件があったのはクルピンスキーの方だと言うのにロスマンは目をつり上げて罵声をあげる。

大きく開いた口から尖った犬歯がチラリと見えた。

まるで使い魔の狐である。

 

「えぇっ!何の事ぉっ…!?またボク何かやっちゃいましたっ!?」

 

一方、大声を浴びせられたクルピンスキーは心当たりがないのか、びっくりした感じで肩を震わせた。

日頃の行いでよくロスマンから小言を言われる彼女だが、今回ばかりは何かやらかした記憶がない。

 

「とぼけても無駄よっ!今日、フジキ一等兵に言われたんだからっ!」

 

「えっ何をっ?っていうか先生、今日も彼の所に…?」

 

「あなたには関係ないでしょ?というか話を逸らさないで!あなた、自分と私が特別な関係って周りに吹聴したわよねっ!」

 

「はぁあっ!?特別な関係って!?」

 

「言わせる気?…普通なら男と女でなる関係って事よ…。」

 

ロスマンは恥ずかしそうに語尾を濁す。

クルピンスキーは口ごもる彼女を見て鳩が豆鉄砲を喰らった様な顔になった。

 

「ないないないないないない!言ってないよっ!そんな事!」

 

半ば条件反射的に否定の言葉を連叫する。

あまりの事に気が動転しているのか、伯爵のウイスキー色の瞳はグルグルと回っていた。

 

「本当に?」

 

ロスマンはクルピンスキーを見上げ、睨む。

20cm以上の身長差のある二人。

鈍色の少女が小麦色の魔女を睨み付けようと視線を合わせると、必然的に先生が伯爵を見上げる形となる。

だがロスマンの烈火のごとき視線には体格差など関係なく、クルピンスキーは萎縮した。

 

「うんうんっ!本当にっ!」

 

ブンブンと首を上下に振り下ろす。

 

「神に誓って?」

 

「誓いますっ!誓いますっ!なんなら異国の神にも誓いますっ!」

 

ニセ伯爵のヘッドバンドは止まらない。

 

「お酒の席でも…?」

 

「言ってないっ…と思います。」

 

クルピンスキーは首の動きを止めると目を泳がせた。

 

「あなたねぇ…!」

 

「ごめんなさい!ごめんなさいっ!だって覚えてないよ!そんな所までぇっ!いくとこまで飲んだら、自分でも何を言うか解らないもんっ!でも少なくとも日常生活では言ってないよ!」

 

「はぁっもう…」

 

眉間に皺を寄せるロスマン。

お酒が入るとどんなに信頼の置ける人物も信用できない。

それは彼女にもよく解る。

そう言えばいつだったか、ロスマンがクルピンスキーと同衾し、一夜を明かした時もお酒が入った後であった。

 

「っていうかあの夜の時は先生の方からお誘いがあったんだからねっ!ほらっ!据え膳食わぬは何とやらって!下原ちゃんも言ってたし!」

 

長年の付き合いで二人の心は以心伝心で通い合う。

クルピンスキーはロスマンが考えている事を察知したのか、予防線を張ってきた。

 

「それは…あの夜の事はぁ、そうだけど…」

 

ロスマン、本日二度目の口籠り。

周囲から誠実と評価され、その自認もある彼女自身でさえアルコールが入ると訳の解らない事をする。

もう、これ以上追及しても無意味だろう。

 

「…じゃあ、もういいです。あなたを信じます。で、要件って?」

 

ロスマンはそう割り切ると話題転換とばかりにクルピンスキーに問い掛けた。

 

「あぁ、そうだ、そうだ、先生が怖い事言うからすっかり頭からとんでた。ラル隊長がお呼びだよ。」

 

「隊長が?」

 

「うんっ!急用って程じゃないらしいけど、時間があるなら来て欲しいって。話がしたいってさ。」

 

「内容は?」

 

「いや聴いてないけど、先生が何かやらか…す訳ないもんね?何だろう?案外昇進の話だったりして?」

 

「私が?それこそありえないわ。」

 

彼女の階級は曹長。

士官学校を卒業していない彼女にとって、現在の階級は登り詰める事のできる最高階級だ。

形式上はもう1つ上の階級まで昇進する事もできるが、それには実力ではなく、長年の勤続実績が必要となる。

いくら優秀な能力を持ち、百体以上のネウロイの撃墜記録を誇るロスマンでも例外は認められない。

これは彼女ばかりでなく他の士官学校を出ていないウィッチ全員に当てはまる事だった。

 

「う~ん、じゃあ何だろう?」

 

首を傾げるクルピンスキー。

問題行動を連発し、よくお呼び出しを食らう彼女だが、ロスマンがラル隊長に呼び出される理由には見当がつかなかった。

 

「いいわ、これから伺うもの。でも、どうして隊長はあなたに伝言を頼んだのかしら?」

 

「そりゃあ、ボクと先生が特別な関係だかr…」

 

「調子に乗らないでっ!」

 

「…スミマセン」

 

陽気な伯爵の小麦肌の頬に真っ赤な紅葉が色づいた。

 

 

───

 

コンコンッ…と石造りの廊下に反響するノック音。

分厚い木製の扉をロスマンが叩くと返事は直ぐに返ってきた。

 

「入れ」

 

「失礼します」

 

ロスマンが木製扉を開き中に入ると、502統合戦闘航空団隊長グンドュラ・ラル少佐が何かしらの書類にペンを走らせている所であった。

その顔は険しく、書類仕事の疲れからか眉間に指を当てながら、ペンをせわしなく動かしている。

 

「すまないな、今日は暇を与えたのに呼び出して。」

 

指を動かしながらラルはロスマンに話かけた。

 

「いえ、軍人ですもの当たり前です。」

 

「ふふっ、どこぞのバルクホルンみたいな事を言うじゃないか?」

 

軍人という硬い表現を使ったロスマンにラルはそう言って微笑する。

ここで彼女のペンは止まった。

 

「随分と懐かしい名前ですね。彼女は今、ベルギカだとか?」

 

「ベルギカか…あそこはここよりずっと暖かいし雪もない。だから物資の搬入も楽。乃ち、書類仕事が少ない。すると休暇も多くなる…羨ましい。」

 

ラルは顔を少し和やかにすると、手に持つペンをポイッと机上に放り投げた。

どうやら今日の書類仕事はおしまいらしい。

まだラルの傍らには高く積まれた書類が、その存在を主張しているのは突っ込まないお約束だ。

 

「お疲れ様です。それで、ご用とは?」

 

自分の肩をポンポンと叩く上司にロスマンは問い掛ける。

ここに来る途中、自分でも呼び出される理由を考えていたが、やっぱり何も思いつかなかったのだ。

 

「その事なんだが先生、今日も彼…えーっと」

 

「回収班のフジキ一等兵です。」

 

「あぁ、そうだフジキ一等兵だ。今日も彼の所に?」

 

「えぇ、様子を見てついでに料理を作って来ました。」

 

「そうか、クルピンスキーに嫉妬されない程度にしておけよ?」

 

「…はぁ、隊長までそんな風に」

 

何だかクラッとした感覚に襲われる白髪の魔女。

まさか隊長にまでこう思われていたとは。

これは一度徹底的にニセ伯爵を追及する必要がありそうだった。

 

「何だ?こう言われるのは嫌だったか?」

 

「…もう何でもいいです。諦めます。それで、フジキ一等兵について何か?」

 

「先生、彼に会うために最近頻繁に外出申請を出しているな?」

 

「はい。それが何か?」

 

「あぁ、私個人としては戦線も安定しているし、これまで通り申請を許可してもいいと思うんだが、その、一部から不満の声が出ていてな。」

 

「不満ですか?」

 

不穏な単語がコルセットを巻いた魔女から飛び出した。

 

「端的に言うと先生の外出が目立ち過ぎたんだ。ペテルブルク基地には外出したくてもできない連中がいる。いくらウィッチの外出申請が他の兵科と比べて緩いといっても、この極寒の大地。自分達よりも大っぴらに外出している人間が気に食わない者も当然出てくる。特にこの基地の輸送関係を担当している奴等とかな。彼等は我々の基地生活を維持する為、昼夜休みなく働いている。

そんな彼等から不満が出ているんだ...」

 

ロスマンは何だか嫌な予感がする。

そう感じた。

 

「そこで、先生には本当に申し訳ないが、暫く外出を控えて貰えないか?」

 

そして、こういう場合はそんな嫌な予感が的中するという事も…。

 

「そ、そうですか、具体的にはどの位でしょうか?」

 

小柄な少女は自身の顔が引きつっているのが理解できた。

でも、それを目の前の上司に悟られぬ様にいつもの澄ました顔で言葉を続ける。

 

「ん?具体的な期間かぁ、特に考えてはいなかったが、そうだな?当面...今月一杯位でどうだろう?」

 

「わっ解りました。今月一杯、外出を控えます。」

 

この時、エディータ・ロスマンはラルに具体的な期間を聞いてしまった事を後悔する。

態々、聞き返さなければいくらでもなぁなぁにできたのに。

 

「すまないな先生、こんな事で時間を取って。もう、大丈夫だ。退出してくれ。」

 

「はい…。」

 

橙色の魔女はとても申し訳なさそうな顔でロスマンに退出を促した。

 

どうした事だ。

彼の面倒をどう見ればよいのだろう…。

 

───

 

「すまない、また一週間後に来てくれ。こないだネウロイの襲撃があって、またしばらく民間航路が閉鎖されたんだ。」

 

一度聞いた事のある会話。

 

「…解った。」

 

それを全く同じ場所で交えた。

 

「その、あんた大丈夫か?」

 

「大丈夫って?」

 

でも、その時と違うのは。

 

「病院でも紹介しようか?」

 

「もう、行ってるよ。」

 

俺のこの汚ならしい外見に違いない。

 

「えっ…?」

 

俺は何か言いたそうなチケット売り場の男性に背を向ける。

彼に病院を薦められた。

まぁ、今の俺の姿を見れば当たり前か。

自分でもよく解る位、具合が悪そうな外観をしている。

この指では髭を剃る事ができないので伸び放題。

まるで中東の人間の様だ。

そんなのがアルコールで目をギラつかせているのだから病院も薦めたくもなるだろう。

ともあれ一週間前と全く変わらない成果。

扶桑にはまだ帰れない。

というか帰った所で何かあるという訳ではないが。

 

…あぁ本当の故郷に帰りたいっ!

 

突如、郷愁の念にかられる心を落ち着ける為に懐からスキットルを取り出し一気に煽る。

中身はヴィーナだ。

ユーティライネン中尉から貰ったヴィーナはとっくのとうに飲み干しており、今週五本目の瓶を買った。

俺を時折襲う幻肢痛から逃れる一番の予防法。

それが飲酒だという結論に至る迄、そんなに時間はいらなかった。

痛くても人間の神経はアルコールに敵わない。

胃袋に高濃度の蒸留酒を流し込めば、直ぐに不快な眠りに俺を誘ってくれた。

側に誰かがいて支えてくれたら、酒に甘えるなどという事はなかったかもしれない。

でも誰も側にはいてくれない。

それがとっても空虚。

こんな情けない事を、考えてはいけないのに。

そしてこういう風に考える度に、あの少女の笑顔を連想してしまう。

 

エディータ・ロスマン曹長。

 

俺が指を失った原因にして、唯一俺に優しくしてくれた魔女。

彼女はあの日から訪ねてこなくなった。

それは本来の、心からの俺の望みだったのだが…。

いざ、来なくなるとこんなにも寂しいだなんて…俺はモブ失格だ。

やはり彼女にあんな事を言うべきではなかった。

誰でも他人に自分の色恋沙汰について、とやかく言われたくはない。

ロスマン曹長…いや、曹長でなくても良い。

誰か、誰か、来てくれないだろうか?

そんな孤独で、自分勝手な思考を洗い流す様にヴィーナを食道に送り続ける。

もう、どうにでもなってしまいたい。

 

…あっヤバイ?

 

我ながらハイペースで流し込み過ぎたらしい。

突如、不快な眠気に襲われる。

まだ部屋に帰れていないのに…。

ここは路上だぞ?

まぁ、どうでもいいかな?

 

冷たい石畳が、崩れ落ちる俺を迎えてくれた。

 

───

 

「…ろっ!」

 

あれ?

 

「…きろっ!」

 

誰かが俺の肩を揺すっている。

 

「起きろっ!こんな所で寝たら風邪引くよ?」

 

まるであの時の雪原みたいに。

誰かが俺を起こそうと肩を揺らしていた。

女性の声だ。

 

「…ロスマン曹長?」

 

俺は目を開けずにその名前を呟いた。

 

「も~う、違うよ?キミってカールスラントのウィッチならみんなロスマン先生に見える訳?」

 

そう言って声の主は俺の肩に腕を回し、ゆっくりと立ち上がらせる。

この体格…ロスマン曹長じゃない?

西洋人とはいえ、女性なのに男の俺と同じ位の身長だ。

 

「全く、先生から教えて貰った部屋に行っても居ないんだから、街中探し回ったよ。でも見つけられて良かった。先生の言った通りだ。」

 

それにこの声。

この中性的なハスキーボイス。

どこかで?

 

「ヴァルトルート・クルピンスキー中尉?」

 

「やーっと喋った。そうだよボクだ。ヴァルトルート・クルピンスキー、初めましてフジキ一等兵…であってるよね?」

 

酒で萎む眼の先に褐色のウィッチの姿があった。

 

 

 

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