ウィルムがこの先生きのこるにはどうしたらいいのだろうか。
あとウィルスではない。
ハーメルンでは特有の文化なのか様々な表記法があるのでいろいろと試していきたいと思う。
勇者ウィルム。
彼はバーチャルな活動をしている個人配信者の一人だ。
ぼさぼさとまとまりのない金髪は、しかしその髪の一本一本が光を乱反射して眩く輝く。
声は非常によく通る(――初めの頃の配信によれば演劇をやっていたらしいが、勇者が演劇などやる暇はないはずなので何かの間違いだろう)。
「道を開けてホラホラ! コインいっこも落とさない雑魚に用はないんですよ!」
そんなウィルムは銃を乱射していた。
勇者なのに銃である。
これで配信中だというから大したものだ。
”勇者(トリガーハッピー)”
”腰の剣を使え”
”なろうのかませ勇者みたい”
”ブレオンにしろ”
等々、ファンからの反応も慣れたものだったが。ウィルムがプレイしているのは【
「ブレオンとか。爆風だけで死にますよ。自分でやってみてから言ってほしい言葉ですねッ!」
画面の中では両肩にライフルを背負った、甲冑のようなロボット『ラクター』が次々と飛行物体を撃ち落としていく。その手に持っている物は杖である。周囲からミサイルが迫ってきたが、この杖を地面に突き立てるとバリア状の光の膜が現れ、攻撃を受け止めた。
”勇気ある者のセリフではない”
”やっぱうまいわ。勇者ではないけど”
”シャボン玉バリア強いな”
「そもそも勇者っぽい機体とは何なのか。叫びながら戦ったらそれっぽくなります? 近所迷惑だからやらないですけど」
”チョイスが古い”
”もはや機体関係ないな”
”そういや勇者都心だっけ”
配信者を続けていると、ある程度の個人情報が流出してしまっている。
「都心ですねぇ! 僕はフリーだけど事務所所属の人ってみんな上京してきてるんじゃないの? 新潟とかにもあるのか?」
”田園風景配信してる人とかもいるし、あるんじゃない?”
”新潟を田舎扱いするのはやめてもらおうか”
”意識しすぎだって”
「よし倒した。そろそろ落としてくれないですかね!」
流れるように敵ボスの頭を吹き飛ばしたウィルム。これで限定イベントのステージはクリアした。必要なアイテムを落とすかどうかは確率の問題なので、ウィルムは配信の中で同じステージを周回していたのだ。必要なパーツはあと一つであった。果たして今度はドロップするのか。
「よっしゃ、黄金の鉄のハーモニクスだ! これでやっと完成させられますです」
”おめー”
”やったやん”
”おい口調ブレてんぞ”
”長かった……もう眠い”
”朝やで”
”いつもの”
「なんかお腹減ってきたかもですね。ちょうどいいので配信終わりにしましょうか。次回はチューンアップするところから……。また歯車と油を集めないといけませんね……」
本日、ウィルムは枠2つ分(6時間×2)をずっと休憩も取らずに走り続けていた。シャレにならんでしょ。
ウィルムが配信が終わったことを確認していると、配信が終わっても続いているゲーム画面の中に見知った姿を見つけた。
全身が|漆(うるし)のように黒く塗装され、身の丈を超えるような巨大な剣と大きく広がったマントが特徴的なロボット。『スターブラッド』だ。そこに表示されるネームアイコンを見た瞬間、ウィルムは駆け出していた。
「すいません、ちょっといいですか!? 『ビヨンド・ブラッド~さすらいの吸血紀~』の
「!?」(へっ? いきなり何!?)
相手は多分ウィルムのことは知らないし、何より配信のように言葉を発してもゲームの中には届いていない。
♰ ♰ ♰
スモモ:なるほど。私のブログを見ていてくれてるんだ。ありがとう。宛名はどうする? HNでいい?
Wyrm:カタカナでウィルムとお願いします。いつも参考にさせていただいております……。
スモモ:りょ
スモモ:ウィルムって勇者ウィルムか! お前が有名人じゃないかい!
ウィルムはチャットを利用してなんとか会話を取り付け、ゲーム内にあるアイテム『絆の色紙』を利用してサインを書いてもらった。スモモはこのゲームでは特別有名というわけではないが、数々のゲームの攻略法を自分のサイトに掲載している。ウィルムはそのサイトで使用されていた機体のカスタマイズを覚えていたのだ。
Wyrm:ただの配信者ですよ。嬉しいなぁ。一生の宝物にします。
スモモ:このゲームあと数年でサ終じゃなかったかな
スモモ:新シリーズ進めてるみたいだし
Wyrm:……。
スモモ:あっ、ごめんね?
Wyrm:アイテム移行できますかね。
スモモ:ダメだったらまた書いてあげるから、ね! VRリンカやってる? そっちでも書くよ
Wyrm:やっていますね。ありがとうございます。
配信と違い文字のやりとりである、ということもあるがウィルムは終始敬語であった。
Wyrm:ところでスモモさんは今日はハーモニクス集めですか?
スモモ:それはもう終わった。豪雨の水没都市の高難易度をソロ攻略するめどが立ったから来ただけ。
Wyrm:エグいですね、あれ中規模以上のギルド用じゃないですか。火力足りますか?
スモモ:人間頑張れば意外と何でもできる。多分。
Wyrm:これからなんですね。頑張ってください。
スモモ:うむ。
ウィルムは本格的におなかが空いてきたので、また今度会う約束をして(というより先に連絡先やら予定やらを聞かれた)別れた。ロボットに乗っていては何も分からないが、スモモは社交的なタイプなのかもしれない。