愚者は惑えど勇者は懼れず   作:佐々木剣蔵

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所詮は幕間。
短く締めます。


幕間(1)

■Chap.EX 目覚め(ハナズオウの花言葉) 語り部:乃木園子

 

 

乃木園子』は、暇だった。

身体で動く箇所はほとんどない。

心臓すら、止まってしまっている。

 

なのに、私は生きている。

 

 

数少ない楽しみのひとつに、ネット小説があった。

この体になった当初は、まだ続きが書けると思ってた。

 

何とか、「見る」「聞く」「話す」はできる。

端末の音声認識で、テキストは入力できるから。

 

 

時間も、無限にあるようなものだと考えた。

いくらでも超大作が書けるな、なんて思っていたけど、現実は難しかった。

 

 

音声入力は、もどかしかった。

肺の機能も止まっているせいか、想像以上に、認識してもらえなかった。

 

あと、絶望的に、体力が低下していた。

10分間話すだけで、かすれて声が出なくなった。

 

執筆活動休止のお知らせを書くだけで、丸1日かかった。

 

 

幸い、読むことに支障は少なかった。

 

ほかのみんなの作品を楽しみにしていた。

それくらいしか、できることが無かった。

 

 

『御役目』が再び始まったと聞いたときは、驚かなかった。

 

私は、壁の外の真実を、見たから。

見てしまったから。

 

身体のほとんど全部を使って追い返したけど、2年ももたないんだなあ、と思うと。

悲しかったのかな。

怒りたかったのかもしれない。

自分の気持ちがわからなかった。

 

でも、勇者の中に記憶をなくした『ともだち』がいると聞いたときは。

多分怒ったと思う。

 

同じ目に合わせたくなかった。

もう遅いかもしれないと思うと、胸が張り裂けそうだった。

 

どうにかして真実を伝えたかった。

でも、その願いはかなえてもらえなかった。

 

 

 

ある日、私のアカウントに、ダイレクトメッセージが届いていた。

 

少しだけ、珍しいことだった。

 

執筆休止した直後は、ひっきりなしに届いた。

みんな励ましてくれた。

 

半年くらいすると、悪口が混じるようになった。

「書け」「何サボってるんだ」

何も知らないくせに、と思った。

 

 

1年くらいすると、何も届かなくなった。

たまに、「待ってます」というメッセージが届くくらい。

だから、その類だと思った。

 

差出人:Tokki-

件名:ヘイ、そのっち、ご機嫌いかが?

2年前、君たちが目の前から消えたトリックが分かったんだ。

鷲尾さんや御役目仲間とジェラートを食べながら、君を遊びに誘う方法を考えてるんだけど、

()()()()()()()()()()()

 

 

見た瞬間は、いたずらか人違いだと思った。

だけど、件名には私の名前が、本文に『ともだち』の名前がある。

2年間、ずっと淀んでいた記憶の海をスクリューで慌てて引っ掻き回す。

 

ミノさん行きつけのジェラート店の、老け顔の店長のあだ名と思い出をサルベージした瞬間。

 

凪いでいた感情が、台風のように吹き荒れるのを感じた。

ほとんど何も考えていなかった脳神経に、雷みたいな電流が流れて、フル回転するのが分かった。

 

『2年前のトリックが分かった?』

―あの時教えなかった、御役目の内容を理解したってこと?

 

『鷲尾さんや御役目仲間と?』

―今はもう名前が変わってしまっている『わっしー』を見つけたの?

―それに『今の勇者』とも繋がりがある?

 

『ジェラートを食べながら?』

―おいしそう!私も食べたい!

―あの思い出のカルピン味!

 

『遊びに誘う方法を考えてる?』

―今すぐにだって飛んで行きたい!!

 

『どうすれば会えるかな』

―今は絶対に会えない…けど、私の想いを、『伝えられる』!!!

 

 

まず、御付きの神官さんにお願いする。

この喜びの色を、悟られないように、必死で隠して。

 

「ねえ、一つお願いがあるんだけど、いいかな。咽頭マイクを一つ、急いで用意してほしいんよ。」

 

「は?…園子様、何を」

 

「久しぶりに短編を一本、書きたくなったんだぁ。端末のマイクは反応が良くないから。駄目かな?」

 

「いえ、我々に許された範囲で、園子様のご希望にはお応えいたします。すぐに手配いたします。」

 

「よろしく~。」

 

 

このダイレクトメッセージに、直接返事は書けない。

御付きの人は、私のお世話係だけど、監視役でもある。

下手な伝え方をしたら、みんなが危ない。

 

でも、次にバーテックスがやって来るのが、いつかわからない。

だから、速やかに、バレないように、伝えなきゃ。

 

 

たった今から、『乃木園子』は暇ではなくなった。

 

昨日の私にできることは、「見る」「聞く」「話す」の3つだけ。

だけど、今の私は、2年前にバーテックスと戦っていた時と同じくらい、「考えられる」。

 

この機会は、()()()()()()()




一言一言が短いのは、園子の状態を考えての仕様です。

また、お気づきかとは思いますが、トッキーの事は記憶の海の奥底でした。
多分、時系列が新しい分、お祭りの牛串屋のことの方が覚えてたんじゃないかな。
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