愚者は惑えど勇者は懼れず   作:佐々木剣蔵

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今回も大体3000字。
1話で1万字とか書いてる作者様方は本当に凄いと思います。


第九幕

■Chap.11 -真実(ノジギクの花言葉) 語り部:三好夏凜

 

 

幸い、敵は来なかった。

7月5日火曜日、放課後。全員、学校の屋上で変身する。

 

「昨日も言ったけど、大赦には『演習』で話を通してる。街中で飛び回るわけにもいかないから、大橋の方でやる、って。」

 

「大赦からの返事は、どうだったの?」

 

今まで一度も変身しての演習なんて、やったことはない。

下手に勘繰られているようなら、何か考えるべきだと思って聞き返した。

 

「特に何も言われずよ。『了解しました。住民への迷惑にはならないように』とだけ。」

 

そういって、風が見せてくれた端末の画面には、私への定時連絡と似たような、素っ気ない文章が表示されている。

 

「…まあ、思うところはあるけど、変に監視されるよりはマシか。」

 

「そうね。今はその方が都合が良いんだから、前向きに捉えましょう。」

 

 

 

そこから、勇者の身体能力を十全に使って移動する。

 

「樹海じゃない世界を飛び回るのって、新鮮~!」

 

友奈が落ち込みがちな空気の中、少しでも気分を盛り上げようと気を遣ってくれた。

その努力を無駄にしまいと、明るめの世間話が続く。

 

「住宅の屋根を踏み抜いたりするんじゃないわよ!あと、絶対に車通りの多い道路にも着地しちゃだめ!」

 

「もしぶつかっちゃたら…」

 

「……車の方がただじゃ済まなさそうね…」

 

「私たちを避けようとして事故が起きたら、目も当てられないわね…」

 

 

しかし、そんな時間は十数分で終わりを告げる。

遠くからその姿が確認できあたりから、誰ともなく、口数が減っていった。

 

 

日本の20世紀遺産に登録された*1大建築。

だが、本来であれば全長12km、遥か遠くの本州とを結んでいたはずの威光は、ほど近いところで()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

2年前、ここで起こった大事故。

巻き込まれた負傷者・死者は決して少なくなかった。

 

今でこそわかる。

東郷、当時の『鷲尾須美』と『乃木園子』、そして『三ノ輪銀(先輩)』が、必死で敵を食い止めた戦場跡。

勇者因縁の地、壊れた大橋に――――たどり着いた。

 

 

「ここに来ることなんて、無いと思ってたんだけど…」

 

風の不穏な呟きが耳に入ったが、何かを言う前に、樹が風に寄り添った。

…私の知らない、姉妹の事情なんだろう。

 

ここで踏み込むべきじゃない、そう思い直して、大橋の先を見る。

四国を覆う壁のことを。

 

そのまま、30秒ほど、全員が動かなかった。

ただじっと、各々が壁を見て、何かを考えていた。

 

 

 

「…行こう!真実を知りに。」

友奈が口火を切った。

 

「ええ。私が失くした、2年前の戦いの日々、その真実を知りたい。」

東郷が続く。

 

「…もしかしたら、アタシは皆に、謝らなくちゃいけないかもしれない。…だからこそ、部長として、絶対に逃げちゃいけない!確かめに行きましょう!」

風が、自分に言い聞かせるように叫んだ。

 

「お姉ちゃん、私はお姉ちゃんについていくよ。言ったでしょ?『やりたいことができた』って。

だから、その未来を掴むために。」

樹が、唄うように言葉を紡いだ。

 

「私は、『大赦の勇者』としてここに来た。でも、今日の私は『勇者部部員』として、自分の意思でここに来たわ。…暴いてやりましょう!」

私も、力強く精一杯声を張った。

 

全員で顔を見合わせて、一斉に飛び出す。

程なくして辿り着いた壁の上。そこから見えるのは一面の海と、遥か遠くまで空が広がるばかり。

 

正直、拍子抜けだった。

そんな中で、東郷だけが、さらに一歩、前に進んだ。

 

 

「東郷さん…?」

 

「私の『戦友』が、危険を冒して教えてくれた情報なんです。絶対に、これが『真実』じゃない。」

独り言のように呟いた東郷の姿が…()()()()()

 

「…!東郷さん‼︎」

 

「「「東郷(先輩)!!!」」」

 

 

急いで駆け寄る。

途中、生温い膜を通り過ぎるような感覚がして、目の前に東郷が、皆がいた。

 

ほっとして次に感じたのは、肌を焼くような熱気。

呆然と遠くを見つめる東郷の、視線の先に目をやる。

 

そこには灼熱の世界が、広がっていた。

 

誰もが、言葉を失った。

世界が朱く染まり、炎が渦巻いている。

遠くには、見たことがある奴らと、それを覆う小さな粒。

 

中には、私が封印したはずの山羊座型(カプリコーン)もいる。

その中の何体かは、ほぼ完全な形になっている。

 

今にも、四国に攻め寄せそうな雰囲気で、不気味に鎮座していた。

――― ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

そのうち、奴らを覆う小さな粒が、こちらに向かって流れてくる。

 

その正体がわかった時、隣の誰かの短い悲鳴が聞こえた気がした。

動かなきゃと思っているのに、体が動かない。

 

恐怖か、混乱か。

時間が遅く感じられるのに、思考することしかできなくて、焦りだけが増していく。

 

そんなヤツらを撃ち抜く銃声と共に、声が響く。

 

「撤退を!」

 

弾かれるように、全員が我に帰った。

東郷の銃撃は先頭の集団を正確に撃ち抜き、わずかな猶予が生まれる。

 

続けて2丁の騎兵銃(カービン)で敵を牽制する東郷を見て、咄嗟に自分も投擲剣を構える。

 

数は多いが、「倒せる敵」であることは東郷が証明してくれた。

他方面から迫る敵に向かって、投げつける。

 

「大丈夫!後ろに抜けられるよ!」

 

()()()()()()に戻れるか確認した友奈が、再びこちらに顔を覗かせた。

 

「…!皆さん、今のうちに後ろに下がってください!」

 

それを聞いた樹が細かい網の目をドームを作るように編み上げ、敵を阻んだ。

 

こうして、勇者部全員が、結界の中に『逃げ込んだ』。

 


 

「『出張所』…店長のところに、行きましょう?相談に、乗ってくれるわ。」

 

ショックで動かない頭を無理やり動かして、なんとかこの一言を、ひねり出す。

誰からも明確な返事はなかったが、全員が、店の方へと足を向けた。

 

 

勇者部全員が揃って店に到着したのは、18時を回った頃。

私たちの憔悴した顔を見て、店長にも『事態は悪い方に転がった』と、伝わった。

 

 

他の客がいないのをいいことに、さっさと店じまいをしてくれた。

全員に温かい飲み物と、付け合わせに小さなチョコを配って、私たちが落ち着くのを待ってくれている。

 

「店長さん、ごめんなさい。私たちもまだ、整理し切れて無いんです。」

 

今、一番落ち着いているのは東郷らしい。

彼女なりに戦友のメッセージを重く捉え、相当な覚悟をして今日に臨んだのだろう。

それに比べて私は情けないと、思わずにはいられなかった。

 

「じゃあ、ゆっくりでいい。時系列に沿って、話してくれ。そうだな、放課後、集合したあたりから。」

「それと、落ち着いたものが、話を引き継いでくれ。一人で全部話すのは、つらいだろう。」

 

そうして口々に語った内容は、店長の、いや、この世界の常識を、完全に崩壊させるものだっただろう。

私たちはそれぞれの主観で、目にしたものを話し、整理する。

 

壁の外は灼熱の世界だった。

誰の目から見ても、外の世界はまるで滅びた地獄のようだったという。

 

その世界には、敵が蠢いていた。

小さな敵が集まって、大きな敵を形作っている。その中には倒したヤツも居た。

これは、私が確認していたから、間違いない。

 

その敵の中には―――完成したヤツらがいた。

私は数まで数えていなかったが、皆の話を総合すると、まだ戦ったことがない7()()が、不気味に鎮座していたことになる。

 

 

『乃木園子』がくれた情報は貴重で、残酷だった。

敵は十二体で終わりじゃない。

おそらく―――()()()()()()()

 

強い敵には、切り札を使え。

だけど、それは()()()()()()()()()、諸刃の剣。

 

『絶望しないで』

彼女が最後に綴ったメッセージが、ひどく難しいもののように思えた。

*1
現実世界では2017年に登録。神世紀世界では登録前にバーテックスが襲来しているので、されていないと思われる。




書いといて何ですが、東郷さんの2丁ライフル(銃口がグリップの下にある装備)は『カービン』で良いんですかね?

『取り回しが良いように切り詰めた銃』という意味でその表現を使ってます。
「ライフリングがなさそうだから『ライフル』じゃない」とか言われると書けなくなってしまうので、ご容赦を。

あと、本編との微妙な違いとして、決戦前の、これらの騒動のせいで樹ちゃんがオーディションに参加するための録音ができていません。
ただ、彼女が台詞で匂わせているように、「歌手になりたい」という夢は、心に決めています。
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