「そういうの嫌いやねん」って方は、閲覧注意です。
■Chap.16 -独立(アザミの花言葉) 語り部:三好夏凜
その日は8月上旬の夕方。
1年の中でも日が長い時期で、外は明るいが時間はラストオーダー間近。
私はいつも通り「みきお」で食事を摂っていた。
手に入れた情報と思いつきを、店長に相談すべきか、心が定まらなかった。
「…なんかあったか?」
「…どうしてそう思ったの?」
「やれ温泉旅行は良かったとか、松葉杖にようやく慣れてきたとか、いつもよりかなり口数が多い。」
「三ノ輪さんのことを言い当ててから表情は誤魔化すようになったが、態度までは隠せてないぞ。」
意外に、人をよく見ているんだなと感心した。
店長は「接客業してれば普通に身につく、お前はわかりやすい。」といって、ニヤついている。
まあ、今回も私の負けという事にして、相談することにした。
「………『ヒトの力』ってやつ、本当にできるかどうかはさておき、ひとつ、考えてることがあるの。」
「ほう、どんなのだ?」
「バーテックスを生身でぶった斬る。」
店長の顔が固まった。
どうやら、冗談なのか図りかねているようだ。
「えぇ………どう脳筋を拗らせたらそうなったんだ?」
少し間が空いて、ドン引きされた。
「初代勇者がやったらしいのよ。本当に生身で*1。」
「えぇ………」
もう1回ドン引きされた。
断固抗議するが、本当にやったのは私ではない。『若葉』とやらだ。
「冗談じゃないなら、やめてくれ。三ノ輪さんの犠牲を無駄にするつもりか?」
少し真面目な顔に戻った後、卑怯にも
それを言われると、私も無茶がしづらい。
「いや、まあ私も普通にできるとは思ってないわよ。当時は神器で戦ってたらしいし。」
「私は変身しないと剣も出せないわ。」
だから、『本気じゃない』と言っておく。
戦う方法も、
「初めて勇者の仕様に感謝したよ…良かった。」
「まだ時間はあるんだ。俺も調べてはいるんだが、思ったよりも人間が神様に認められる話ってのが少なくてな…。惚れられて結婚迫られるのとかは多いんだが。」
「風で我慢して貰えないかしら…?自称、女子力高いわよ?」
「心にもないことを言うんじゃないよ。」
今度こそ本気の冗談を言って、笑い飛ばす。
本当に風が娶られそうになったら、私はともかく、樹はどんな反応*2をするんだろう。
「そういえば、私の端末、返してもらったのよ。新しい力が増えたらしいわ。」
そういって、端末をカウンターに置く。
「そういや満開すれば『レベルアップ』するんだっけか。新しい力ってのは、どうだ?」
「…敵がいないから試せてない。勇者部のみんなの分は、まだ返ってきてもいないのよ。」
「それもそうか。一人で壁の外に試しに行ったりするんじゃないぞ?」
「そんな無茶はしないわよ。それより、精霊が一体増えたの。いま隣にいるわ。」
私も知らなかったけど、精霊は増えるらしい。
東郷に3体の精霊がいたのはそういうわけか、と逡巡する。
「人型なんだけど、義輝と違って、なんだか負のオーラが凄いのよね。」
「調べてみたら、こういう来歴の方だったわ。」
そう言って、端末の画面を店長に見せる。
「ほぉ…こりゃ奇遇だな。その子を祀ってる神社がこの四国にあるぞ。」
「へぇ~…それは、ちょっと興味あるわ。」
その子を捕まえて、顔を両手で挟んで無理やり目を合わせてみる。
店長はそんな私を気にせず、うんちくを話していた。
「今でこそ、『神様』はみんな神樹様になっちまったが、その方は歴とした『人』だから、今でも強いつながりがあるかもな。」
「その神社も大赦の分社になってるかもしれんが……どうだ?俺も随分と神話とか神社に詳しくなったもんだろう?」
「さすが特別顧問サマ。感謝してるわ。」
そのままの姿勢で口先だけで店長を褒めた。
「ゲドーメ…」
義輝が一言、ツッコミを入れた。
「781…782………ようやく、着いた…?」
松葉杖でこの石段は無理があったか、と後悔していた。
店長から情報をもらってから、しばらくして。
8月の中旬、お盆*3の間は「みきお」も開いていない。
そんな折なので、その神社に行ってみることにした。
特に理由はない。本当になんとなくだった。
勇者部の誰かを誘わなかったことにも、理由らしいものはなかった。
石段を登りながら「もし転げ落ちても、精霊が守ってくれるわよね」なんて考えていたが…そもそも認識が甘かった。
果てしなく続く石段*4は、何度心を折りかけたことか。
ようやくたどり着いたのは、西暦時代「金刀比羅宮」と呼ばれた、由緒正しい神社。
店長の言うように、現在は大赦の管理下のようだが、お参りはできる。
勇者端末に向かって「せめて、足が動くようにならないと、二度目はないわよ」なんて話しかけながら、お賽銭と二礼二拍手一礼で、ご挨拶。
ただ、これから『ヒトの力』を見せつけたいと思う私が、神に願うのは、違う気がする。
『どうか見ていてください』?
『一泡吹かせて見せるから、首を洗って待ってなさい』?
どれも違う気がする。
そんなモヤモヤとした気持ちを言語化できず、長いこと手を合わせていた。
傍から見れば、敬虔な信者に見えたかもしれない。
所作を終えれば、心なしか精霊が悦んでいるような気がする。
そのまま境内で小休止して、帰りの分の気力を補充する。
気まぐれにおみくじを引いてみたものの、結果は小吉で、負けたような気分になった。
小吉
願望: 自分で勝ち取れ
失物: 探し甲斐あり
………
……
…
気休めで良いから、「叶う」「見つかる」とか書かれてて欲しかった。
まあ、これも神樹様に試されてるのかも、なんて考えが浮かんで、かぶりを振る。
気合を入れ直して、遙か登ってきた石段を、一段、また一段と降りていく。
三百段ほど降りたところで…何かに、強く呼ばれた気がした。
帰り道の石段から、少し逸れた方角にあるそれは、「宝物館」と書かれた建物。
何かの、予感がする。
吸い寄せられるように建物に近づき、中に入る。*5
建物に入ったところで、違和感に気づいた。
『誰もいない』と。
樹海化警報は鳴っていない。
そもそも、時が止まったわけじゃなさそうだ。
でも、音が全くしない…まるで静寂の世界。
客もいない。警備の人や、案内の人もいない。
まるで、私だけ空間の位相がずれてしまったかのような有様だ。
不意に、勇者端末から精霊が飛び出した。
「これ…あんたがやったの…?」
私の質問には何も反応せず、まるで『着いて来い』とでも言うように、先に進んでいく。
常設展示には目もくれず。
『関係者以外立ち入り禁止』の扉も通り抜け。
たどり着いた先は、重要文化財の、保管庫。
本来厳重に警備・施錠されているはずのそれが、私たちを迎え入れるように開く。
そこにあったのは、刀身。
銘は長光*6。西暦時代でも中世にあたる遙か昔。
かの方が生きた―――鎌倉時代のもの。
反りが大きく、華やかな刃紋が乱れる刀身に、しばらく見とれていた。
戦国武将の名刀のように、逸話が残るものではない。
ただ、長光は多くの作品を残したことで知られる、名工の一人。
それは、彼に所縁のあるものではない。
ただ、この一振りが納められたのが先か、彼が祀られたのが先かはわからないが、千年近い時を共にこの地で過ごした――逸品であることは確か。
その悠久とも言える時と積み重ねた信仰こそが、この世界では力になる。
――刀身が輝きを放つ。
光が消え、静寂の世界に戻った時。
思わず手で目を庇った夏凜の前には、黒い柄、黒い鞘で拵えられた一振りの太刀が、異様な存在感を、示していたのだった。
自然に、その太刀を手に取ったところで、ふと気づく。
『どうやって持って帰ればいいのか』と。
重要文化財の窃盗と――さらには銃刀法違反。
確実にお縄である。
とはいえ、一縷の望みが繋がった今、置いて帰るという選択肢はなかった。
先程は答えてくれなかったが、この『人避け』が精霊の仕業であるのは間違い無い。
「お願いだから家までそのままにしてて!」と叫んで、勇者に変身して家まで急ぐのであった。
オリジナル設定をブチ込む以上、少しでも説得力を持たせるために、重要文化財とかめっちゃ調べました。
それでも、ちょっと納得できていません。
そもそもプロットじゃこんな展開じゃありませんでした。
生き残りのジェニミを樹ちゃんがグルグル巻きにして、「返してくれないならコイツ解放するけど、ええんか?」って脅して終わらせる予定でした。
(こんなん絶対盛り上がりませんよ)
ただ、展開の良し悪し以前に神様と人が交渉するってのが、日本神話系列ではほぼ見られず、お蔵入りしました。
自分の無知を恥じるばかりですね。