愚者は惑えど勇者は懼れず   作:佐々木剣蔵

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作者が終盤にして初めてアクションシーンを描写しました。
主人公視点の分を含めても5000字程度なので、一気に行きます。


第十五幕

■Chap.18 -幸運を祈る(ポインセチアの花言葉)

 

夏凜がパタリと来なくなって約1週間。

 

週末に来なかったのは初めてだったが、それほど気にならなかった。

…月曜も来なかった時、週半ばの水曜まで様子を見ようと思った。

……水曜が過ぎた時、週末の土曜日までは、とずるずると先延ばしにしていたのだ。

 

心配はあるが、勇者部のアドレスに個人のメールを送るのは、気が咎めた。

そもそも、何故『特別顧問』になっていながら、誰とも連絡先を交換していないのか。

 

ひとえに女子中学生と中年男性という関係上、世間体が原因である。

 

 

そんな臆病者が経営する、店の電話が鳴ったのは9月2日金曜日の、朝だった。

 

「はい、こちら『喫茶 みきお』です。」

 

「店長さん、おはようございます。勇者部の東郷です。」

 

「ああ、東郷さん。おはよう。どうしたんだ、急に。」

 

「ここ最近、夏凜ちゃんに会いました?」

 

「…いや、ここ最近は来てないんだ。俺も心配はしてたんだが…なんかあったのか?」

 

「体調を崩したとか、そういうのじゃないんです。…ただ…夏凜ちゃん、ここ最近は()()()()()のために、学校も休んでます。」

 

「作戦?」

 

「ええ。うまく相談出来なくて…本当に申し訳ないのですが。私たちは『危ないこと』を、しようとしてます。」

「それが多分、今日なんじゃないかと。……不思議な、夢を見たので。」

 

『危ないこと』と聞いて、以前夏凜から聞かされた話を思い出す。

 

「…おいおい、まさかあの『脳筋プラン』をしようってのか!?冗談じゃないぞ!」

 

「…店長さんは、やっぱり、止めますよね。」

 

「当然だ!………俺は夏凜を探す。」

 

別れの挨拶が出来なかった『三人組』。

特に夏凜が端末を引き継いだと言っていた、彼女のことが頭をよぎる。

 

「そうしてあげてください。でも、私たちは何を言われても…試すつもりです。」

 

「~~ッ!!!東郷さん、ならせめて、君だけは『勇者』で、みんなを守ってくれ!」

 

「夏凜ちゃん以外は、変身して援護するつもりです。……護って、みせます。」

 

東郷さんが、いつもらしからぬ気迫で、宣言した。

 

「頼んだ!」

 

そう言って電話を切り。

俺は、店を飛び出した。

 


 

朝から探しているのに、一向に夏凜が見つからなかった。

闇雲に走り回ってようやく見つけたのは、もう日が傾き、空が茜色に染まってからだった。

 

 

結局、店から程近い有明浜の海岸で、鍛錬に勤しむ影が、舞うように動いているのを見て、安堵のため息をつく。

 

「間に…あったか?」

 

戦いがすでに終わっていても、今のように無事なら、それはそれで構わない。

 

ほっとしたのも束の間、いつも店に持ち込んでいた木剣ではなく、()()()()()()()()()()を片足で振り回していた影が、盛大に足を滑らせた。

 

「「あっ」」

 

まだまだ遠目の俺が、間に合うはずもない。

転んだ拍子に俺に気づいたらしい夏凜は、バツの悪い表情で、こちらを見上げる。

 

「店長…どうしてここに?」

 

「東郷さんが電話をくれたんだ。不思議な夢を見たってな。」

 

そう言って、手を差し出して、引っ張り上げてやる。

 

「朝から探していたのに、一向に見つからなかったから、心配したぞ。」

 

「それは…迷惑かけたわね。見つからなかったのは、精霊の『人避け』のおかげよ。」

「真剣を振り回すんだもの。誰かに見られたら、通報されちゃうわ。」

 

「そりゃごもっとも……この分だと、戦いはまだなのか?」

 

「…ええ、まだ。東郷からチャットが届いてたから、私も今日来ると思ってる。」

 

「前に言ってたアレを…やるつもりなんだな。」

 

「…状況によるわ。無理な相手に、やるつもりはない。でも、可能性があるなら賭けてみたい。」

「勇者部全員の…いえ、『乃木園子』さんも含めた勇者の未来が、かかってるもの。」

 

「その刀が…『可能性』を生み出したものか?」

 

「そうよ。この子を祀ってた神社を教えてくれたでしょ?そこで手に入れた。…店長が導いてくれた力よ。」

 

「心外だ。俺が望んだ結果とは逆の力だよ。」

「この世界じゃ神も怨霊も同じだな。皆願いを…歪めて叶える連中ばかりだ。」

 

「でも、お陰で『希望』がある。1か0かじゃ全然違うわ。これでも感謝してるのよ?」

 

 

すでに覚悟は決まっているようだが、やはり止めずにはいられなかった。

 

「なあ…やっぱり考え直さないか?一応、時間はあるんだ。」

 

「確かに時間はあるわ。だけど、今回が一番のチャンスかもしれない。」

「だから、今日『から』やるの。ダメだったら次『も』やるわ。」

 

「そんな…何度もできる芸当かよ⁉︎」

 

「できる!最悪でも精霊が守ってくれるし、生身で戦うのは私1人。勇者部の連携なら楽勝よ。」

「友奈が言ったの。勇者が手伝いすぎて認められなかったら、次は少しずつ減らして行こうって。」

「――勇者部五箇条一つ、『なるべく諦めない』で、やってみる。」

 

この状況が、怖くないなんてあり得ない。

それでも、信頼する仲間を語る表情は、まるで不安を感じさせない、穏やかなものだった。

 

 

俺ではこの、どこか悟ったような表情をする中学生を、救えない。

特に戦いが始まってしまえば、見ることすら叶わない。

 

「~~っ!!くそっ!」

「いいか、絶対死ぬんじゃないぞ!お前に何かあったら、()()()()()()()()()()()からな!」

 

苦し紛れの捨て台詞を吐いた瞬間、夏凜の端末がけたたましい音をかき鳴らす。

ハッとした時には、夏凜の姿はどこにもなかった。まるで彼女が初めて店に来た時のように。

ただ、その時と違うのは、声だけが残っていたこと。

 

「―行ってきます」

 

 

今、世界は滅びていない。だからどうか、『ただいま』も聞かせてくれ。

結局、「怖い」とも「逃げたい」とも言わなかった彼女らを、いつものように、店で待つ。

 


 

■Chap.19 -戦い(ノコギリソウの花言葉) 語り部:三好夏凜

 

 

「行ってきます」の挨拶をしたのは、いつ振りだろうか。

少なくとも1人暮らしを始めてからは、していなかったように思う。

 

私が学校を休んで砂浜で特訓していたのは、片足で太刀を振る特訓をしたかったというのもあるけど。

一番の理由は、学校には持っていけないから。

 

家に置いたままにしていたら、学校で敵が来た時、樹海に持ち込めない。

 

その甲斐あって、無事持ち込むことは出来た。

一旦変身して、皆が集まっているところに、合流する。

 

「お待たせ」

 

「「「夏凜(ちゃん)」」」

 

挨拶もそこそこに、『生き残り』の状況を確認する。

勇者端末のレーダーによると、敵は1体、双子座型(ジェミニ)

樹が糸で刻んだ片割れ。

 

――飛んでないし、硬くもない。連携する敵もなく1体だけ。

ただし、猛スピードで走ってくるが。

 

 

天恵か。条件としてはこの上ない。

だけど、この一戦に関しては、私は神に感謝するつもりも、祈るつもりもなかった。

覚悟を決めて――――変身を解除する。

 

そして、その代わりに心から信頼する仲間に、お願いする。

 

「アイツを、私のところに!」

 

「「わかった!」」「了解!」「――!」

 

フォーメーションは2トップのY字型。

風と樹が敵の進路の左右に分かれ、少し下がった正面に友奈。

さらに後ろに、変身を解いた私。東郷は、射線を遮らないように、さらに後方の高所に陣取った。

 

手始めに、遠距離から東郷が狙撃する。

アイツが、なるべく横に逸れないよう、わざと外側を掠めるように。

 

弾道を完全に見切っているのか、はたまた一直線に走るのが本能なのか、軌道を変えずに走ってくる敵に対し。

 

立ちはだかる犬吠埼姉妹が、合図もなく――『声』どころか『目線』すら交わさずに。

息のあったコンビネーションで迎え撃つ。

 

樹が右手側から被せるような網を編む。

敵はすぐに反応し、華麗な回転行動(スピン)で軸をずらす。勢いをほとんど殺さず、すぐ左をすり抜ける。

 

ただ、風はその背中をみせた一瞬を見逃さない。

やつが正面を向いたときには、 脛から胸の高さに斬り上げる、巨大化させた横薙ぎの大剣が迫る。

普通ならこの一撃で仕留められるくらい、見事な連携。

網を避けても捕まっても、詰みに誘い込む絶妙なタイミング。

 

それでも、東郷の精密射撃すら躱してみせた、壁の外一番の軽業師は、唯一の活路に身を躍らせた。

 

月面宙返り(ムーンサルト)⁉︎」

 

さらに捻りも加えて、着地方向が正面になるよう調整までするオマケ付き。

 

そしてそれは、後ろに控えた私の上を悠々飛び越す大跳躍。

跳ばすところまでは作戦通りだが、予想以上の跳躍力に、焦りが浮かぶ。

もしも、このまま抜けられてしまったら、『満開でもしないと』追いつけない。

 

東郷がせめてと足を狙うが、体格の割に細いその脚には当たらない。

 

ただ一つ。その影にピタリと重なるように追随した桜色が、紅蓮を纏う。

 

「キック…じゃなくて…勇者ぁ!シューーーート!!!!!*1

 

友奈の二体目の精霊、『火車』の力を宿した蹴りが、敵の背中に叩き込まれた。

 

「行ったよ!夏凜ちゃん!」

 

グルングルンと不規則な回転をしながら、超高速で堕ちて来るバーテックス。

…その大質量を生身で迎え撃つこちらの気持ちになってほしい。

 

まあ、向かってくる分には、片足が動かないこちらにとっても好都合かと思い直す。

 

取った構えは左上段。

この数日間、砂浜で何度も転びながら行き着いた、左足一本で、一番強く剣を振れる構え。

両手で握った柄を額の高さまで掲げ、天に伸びる刃先を意識する。

 

「頼んだわよ、崇徳院!!!!」

 

その瞬間、刀身が黒いオーラに包まれる。

――夏凜は知る由もないが、この黒刀こそ『太平記』に記された「()」の魔剣*2

壇ノ浦の戦いで海に落ちるも、奇しくも四国宇多津*3の地に運ばれたと伝わる一振りに、崇徳院の力で変化したものである。

 

 

そして、裂帛の気合いと共に、振り下ろした。

 

「やぁぁぁぁあああああ!!!!!」

 

黒い斬撃が、敵を通り抜ける。

 

「っ…浅いっ!!」

 

手応えはあった。

力が要らないくらい斬れ味が勝ったから、手首も痛めていない。

ただやはり、捧げて踏み込めなかった『一歩』が恨めしい。

 

一瞬ののち、地面に墜落した敵は、樹海を転がり、土煙を巻き上げて吹き飛んでいく。

 

だがダメージが見られるのは切断した、片腕と腿の一部だけ。

早くも光が集まって、修復が始まっている。

 

 

東郷が、一瞬だけ、こちらを哀しい眼で見て、狙撃銃を構える。

負傷し、転がった今なら、必中で撃ち抜ける――だけどそれは、この好機を『諦める』という、冷酷な判断。

 

誰もが「待って」と言いたかったはずだ。

だが、誰も()()上げられなかった。

 

千歳一遇の好機を逃したのは――自分たちだ。

世界が滅ぶリスクと天秤に掛けてまで、「もう一度チャンスを」とは言えなかった。

 

「――――――!!!!」

 

ただ、声ではない、()()は届いた。

 

それを感じた東郷が、引き金を引くのを躊躇った瞬間、私の足に糸が巻きつく。

 

「え――――??」

 

口から漏れた声を置き去りに、視界が回転する。

樹がまるで『ハンマー投げ』みたいに、遠心力で1周、私を振り回した*4のだとは、後から聞いた。

 

――とにかく、目まぐるしく変わる景色が落ち着いたと思えば、私は空中にいて。

まだ起き上がっていない敵が、とてつもない速度で近づいてくる。

 

私が反応できた…いや、反応させられたのは、隣で聴き慣れた声がしたから。

『ショギョームジョー』

 

普段は、牛鬼に囓られてしまうくらい頼りない相棒。

だが、生前の彼について調べれば、『剣豪将軍』とまで呼ばれる達人。

その最期は林のように突き立てた名刀を使い潰しながら、30人の敵を道連れに果てたという伝説もあるほど。

 

『義輝』がそっと、刀に寄り添った。

 

無理に突き出さなくて良い、と。

自然に構えよ、と。

言葉ではない彼の助言を、最大限に取り入れる。

 

「突っ込めぇぇぇぇえええええ!!!!」*5

 

 

黒い尾を引く流星と化した刃が、バーテックスを貫く。

根元まで突き刺した次の瞬間、衝撃で肩に鈍い痛みが走り、嫌な音がした。

そこに、さらに暴力的な慣性が襲ってくる。

 

刀から手が離れ、跳ね上がったあと放り出されるように、樹海を転がる。

 

「夏凜ちゃん!!!」

 

位置的に一番近かった東郷が、全力でこちらに向かってくる。

 

…幸か不幸か、落下以降のダメージは義輝が守ってくれたようだが、それでも気が遠くなる。

グラグラ揺れる上に、ぼやけた視界のなかで、必死にヤツに焦点を定める。

 

そんな私を見て、東郷は血相を変えているが…今は戦果を確認したい。

 

 

刃が刺さったままの傷口から、ヤツが黒く浸食されていく。

みんなは、封印の儀の準備ではなく――

何が起こってもいいように、臨戦態勢でその状況を見守っているようだ。

 

太刀に宿った怨念は、いわばとんでもなく高純度で、濃密な『穢れ』の塊。

神器に宿る力とは真逆だけど。

そんなものに侵されれば、ヒトだろうが宇宙人だろうが――たとえ神だろうが、ただじゃ済まないはず。

 

そのまま真っ黒に染まり…粉々に砕けて、光となって消えていった。

私が覚えているのは、ここまでだ。

 

*1
SSR【サッカー部の助っ人】高嶋さんの必殺技『全力!勇者シュート!』にあやかり

*2
貪・瞋・癡の「三毒の魔剣」が揃った時、尊氏の世は終わるとされた。(足利)義輝はどういう気持ちでこの魔剣を見ているやら。

*3
大橋のある「坂出」と「丸亀」の間にある

*4
『犬吠埼大車輪』の原型である

*5
UR夏凜必殺ボイス「引っ込めぇぇぇぇ!」の対称




というわけで、本作一番の山場が終了しました。

ヒントというか、ほぼ答えを出していたのでオリジナル精霊『崇徳院』の登場は、皆さん予想できていたかと思います。
怨霊関係よりも『天皇家の御方をこのような扱いにするとは不敬だ!』という感想で炎上しないかを一番心配しています。

私個人としては、十分な尊敬と畏敬を込めて取り扱わせていただいております。

ちなみにですが、かの御方が怨霊になった際、天狗になったという伝説があるようです。
本作でも取り扱ったように、香川最大の霊場「金刀比羅宮」(正確には同じ山中の「白峰神社」)に祀られていることもあり、案外若ちゃんの大天狗と同一設定という可能性もあるのかもしれません。
(もう一体の精霊「義経」に剣術を教えた鞍馬天狗系列という考え方の方が主流と思いますが。)

たとえ(設定的に)同一だったとしても、この作品では夏凜に『ヒト』としての立場から力を貸してくれた、それだけです。

あと、癡の魔剣についてですが、太平記は神話じゃなく創作物なので、神器と同格に語るのは無理があるかも。
まま、精霊とか切り札は神話やないし、ええやろ(適当)


コロナが収束したら、どちらにせよもう一度金刀比羅宮に参拝して御礼というか、謝罪というか…ご挨拶をしたいと思います。
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