■Chap.EX -胸のときめき(ネムノキの花言葉) 語り部:乃木園子
私はその日少し、『勝手』をした。
私の理解だと、バーテックスは1回倒せば、修復するまで時が稼げる。
そして、現在の勇者は十二体すべてを倒したと聞いた。
つまり、暗号でやりとりしている彼女たちが、私が提案したところの『神様に認めさせる』方法を思いついたとしても、実行できるのは『まだ先』ということだ。
簡単に言えば、我慢出来なくなった。
『ともだち』に、どうしようもなく、会いたくなってしまったのだ。
トッキーからの連絡は、凪いでいた私の感情を掻き立ててくれた。
でもそれは、逆に寂しさや羨望といった、『身体が動かせないから』と諦め、押し殺していた感情も甦らせてしまった。
戦いがひと段落したのだから、と何度交渉しても、大赦を通した面会は叶わなかった。
そんな折にやってきた、『生き残り』という好機。
私は、100%わがままで、神樹様に少しだけ干渉したのだった。
ああ、懐かしい、この2年、何度も会いたかった『ともだち』が、そこにいる。
ただ、様子がおかしい。
そう遠くない場所にいる私に、全く気づかない様子で、とても慌てている。
「…夏凜ちゃん!………夏凜ちゃんは⁉︎」
「東郷さん!落ち着いて!ここ、学校の屋上じゃないよ!風先輩と樹ちゃんもいない!」
「え⁉︎…ここは…どこ?大橋?いや、それより…」
混乱極まった二人に声をかける。
「タイミングが…悪かったかな?『わっしー』。」
「「!!!!!!」」
私の呼びかけに反応し、目を見開く二人。
それは、きっと人がいたことと、聞き慣れない呼び方をされたこと、そして…今の
ベッドから動けず、顔もほとんど包帯で隠れた、この姿を。
「ごめんね。このタイミングを逃しちゃうと、次はだいぶ時間が開きそうだったから。」
「どうしても、会いたくなっちゃったんだぁ。」
「ごめんなさい、ちょっと今は「東郷さん!」」
それでも、心ここにあらずで取りつく島もないわっしーの返事に、赤い髪の…確か『結城さん』が、割り込んだ。
「私が風先輩に連絡するから、落ち着いて?今は、とっても大切な機会のはずだよ。」
「お友達に、ちゃんと向き合って!」
強く、わっしーの両肩をつかんで、正面から目を見て、言ってくれた。
「………ありがとう、友奈ちゃん。そうね。」
「ごめんなさい、『乃木』さん。取り乱してしまって。」
「私も、会えてとても嬉しいわ。特に、『真実』を私たちに教えてくれて…助けてくれて、本当にありがとう。」
「ふふ、『わっしー』でわかってくれるんだぁ。きっとトッキーのおかげだね。嬉しいなぁ。」
「そう。店長さんが教えてくれたの。本当は、『そのっち』と呼ぶ方が良いのかもしれないけど…覚えてない私がその呼び方をするのは、なんだか失礼な気がして。」
「気にしないで。忘れちゃったの、わっしーのせいじゃないんだから。」
「ううん。いくら謝っても足りないの…ごめんなさい。」
「それは、何に対して?」
「…あなたたちのことを、忘れちゃって…ごめんなさい。」
「そんな身体になるまで、戦わせてしまって…ごめんなさい。」
「一人だけ戦いから逃げてしまって、ごめんなさい。」
「……あなたのことを知った時、『どうして会いにきてくれないの』なんて、言って、しまって……ごめんな…さい…。」
息を吐く暇もないくらい、一気に気持ちを吐き出した。最後の方は、嗚咽混じりで、こっちも泣きそうになっちゃう。
「わっしーは2年経っても…泣き虫なところは変わらないね。」
頭を撫でてあげたいけど…手が動かないのが恨めしい。
「…結城さん、今なら大丈夫だよ。」
少し離れたところで、様子を伺っていた結城さんに声をかける。
「…すいません。」
「東郷さん!連絡取れたよ。夏凜ちゃん、怪我はしてるけど命に別状はないって!これから病院に行くみたい。」
「…!!……良かった…」
「怪我?『生き残り』がそんな強かったの?それは、本当に悪いことをしちゃったかな…?」
彼女たちが慌てていた原因が分かったが、今一つピンと来ない。
精霊のおかげもあって、総力戦以外、ほぼ無傷で乗り切っていた彼女たちから、負傷者が出るとは思えなかったからだ。
そんな一大事に、勝手なわがままで呼び出してしまったのかと、罪悪感を覚える。
「いえ、今回は私たち、『無茶』をしたんです。」
なぜか誇らしい表情で話す結城さんと、涙を拭いながら、頷くわっしー。
「どうなるかは、まだ分かりませんけど…『もしかしたら』と思うくらいには、うまくいきました。」
彼女たちの表情と話の内容は、不可解だった。
だって、直近のトッキーからの連絡だと、まだ『神様に認めさせる方法』は、何も思いついていなかったはず。
「園子様!」
良い所で、大赦の神官たちが屋上の扉を開けて、駆けつけてきた。
「ちょっと黙ってて!彼女らは私のお客さんだよ。…何かしたら、許さないんだから。」
精一杯の怒りを込めて、牽制する。
「仲間のところに行きたいだろうけど。…何をやったか、聞いても良い?」
向き直って、真剣に話しかける。
「ちょっと、長くなるかもしれませんが、大丈夫ですか。」
結城さんは、私の状態を見て気遣ってくれたらしい。
寒さを感じる季節じゃないけれど、確かに暗くなっては話どころじゃない。
「じゃあ、部屋で聞くよ。…ねえ、お願いできる?」
さっき感情的に怒りをぶつけた、神官たちの手を借りないと部屋に行けないのが恨めしい。
一応、努めて冷静に、声を掛ける。
「かしこまりました。」
今日はわがままで勝手なことをしたし、理不尽な怒りも見せた。
それでも、この大人たちの態度は変わらない。
14の小娘に対して、まるで崇めるような、いつも通りの対応で、答えた。
その後、部屋で聞かされたのは、驚きの内容。
まさか、変身しないでバーテックスを斬ってしまうなんて。
2年前わっしーは、弓を使わず矢を直接敵に突き刺したことがあったけど。
今回のそれは比べ物にならないくらい無茶苦茶だ。
でも、ヒトの手でそんな奇跡を起こしたのなら――
―――今、私が感じている
少なくともこの2年間、感じたことがない感触だと言うことだけは、確かだった。
この話の裏側で、負傷した夏凜を見た樹ちゃんがガチ泣きしてると思います。
風パイセン、救急搬送大変やったやろうな…
次回、結城友奈の章最終話。