6000字(当社比2話分)もあるぞ!
■Chap.20 -運命を開く(プリムラの花言葉)
抜け殻みたいに店番をする日が続く。
『延長戦』があった日の晩遅く、部長さんからの代表メールで「夏凜が負傷したが命に別状はない」「うまくいったが、結果はわからない」という報告を貰っている。
ただ、夏凜の入院は随分長引いているらしい。
それについては、「穢れの塊みたいなものを使った後遺症がないか検査と経過診断*1のため」だと、連絡をもらっている。
他の部員は入院していないのに、誰も店に来ない理由を尋ねたところ、「一番に『みきお』に行くのは夏凜に譲ってるから」と良くわからない返事が来た。
心配はない。
当分敵は来ないし、皆無事。
わかってるのに、どうも心が休まらない。
だから、閉店間際のドアベルに、少しだけ不機嫌な声で対応してしまったのは、仕方ないことだと思う。
「…今日はラストオーダー、終わってます。」
「あら、常連客に対して随分なご挨拶ね。」
「ただいま。」
「……夏凜?」
「無事、帰ってきたわよ。」
9月も終わりに差し掛かり、秋が深まった黄昏時。
「誰そ彼」とも書く夕暮れの陰影が彼女を黒く、塗りつぶしていた。
その影の、
「無事って、お前!その腕…!」
「…?」
「右肩を脱臼しただけよ。癖になるらしいから、念のためにまだ吊ってるの。もう治ってるし、普通に動くわ。」
そう答えて、上着の内側から『吊った右腕』が出てくる。
俺が『勘違いした』なんて、全く気づかない様子でひょいひょいと腕を動かして、こちらに訝しげな視線を向けてくる。
「はぁ………それよりも、完成型勇者の『偉業』にまだ気づかないなんて、特別顧問、失格なんじゃない?」
「偉業?」
そう言われて気付く。
右腕を吊った夏凜が
「…ゴホン。…失礼しました、完成型勇者様。今晩のご注文は?今日は全部、当店の奢りです。」
「ふふっ。ありがたいけど、今日は普通に支払うわ。『食い逃げ』に間違われちゃ、たまらないもの。」
「でもね、今週末に勇者みんなで『祝勝会』をしたいの。だから、それに協力してくれないかしら?」
「これは、『私だけ』じゃなく、『私たち』が勝ち取ったものだから。…まぁ、MVPは、間違いなくこの私だけど!」
「ああ、喜んで!」
「えー、それでは、勇者部の勝利と、一同の快復を祝しまして、乾パーーーーーイ!!!!」
部長さんの掛け声を皮切りに、グラスがぶつかる、小気味良い音が鳴る。
思えば、俺が勇者に関わるきっかけとなったのも『三人組』の祝勝会がきっかけだった。
この会の最中には誰も消えてくれるなよ、と言ったところ、「縁起でもない」と非難轟々であった。
今日は『みきお』を貸し切り、俺も自腹を切ってドリンクや菓子類を用意している。
勇者部でも、部長さんと東郷さんは、腕を奮った品を持ち込んでくれ、テーブルの上には豪勢な料理が並んでいる。
結城さんは特に、失っていた味覚が復活したことで、今までよりも一層、味を噛み締めているようだ。
「店長さん。ありがとうございました。」
東郷さんが普通に歩いているのを見るのは、初めてだ。
『鷲尾さん』の面影が一層強く感じられた。
まだふらつく時があるそうだが、順調に回復しているようだ。
「俺は別に、何もしていないよ。例え俺が居なくても、皆なら、この結果に行きつけたと思うよ。」
「いいえ。店長さんが私――『鷲尾須美』に気づいてくれたから、この結果になったんです。」
「そうじゃなければ、満開のリスクなんて、考えもしませんでした。何回も繰り返して…また記憶を失っていたかもしれません。」
「それを言うなら、君たちが俺が勤めていたジェラート店に来たのが、全ての始まりだったのさ。」
「そう…ですね。あそこは銀のお気に入りのお店でしたから。そういう意味では、この出会いと結果は、銀が引き合わせてくれたのかもしれませんね…」
東郷さんは、当然記憶も取り戻している。
自然に、もう会うことができない『三ノ輪さん』の話題になった。
「東郷さんは、夏凜の端末は三ノ輪さんが使っていたものを引き継いでるって、知ってるか?」
「俺が夏凜が勇者だって気づいたのは、あいつ
「案外、三ノ輪さんが引き合わせてくれたってのは、本当かもしれないな。」
「銀………」
「ちょっと店長!風をなんとかして!!この間から妙に絡んできて鬱陶しいったら!」
「アンタに樹の姉の座は渡さないわ!!!」
センチメンタルな雰囲気を壊す叫び声が聞こえる。
「…一体、何の話なんだ?」
「ふふっ、樹ちゃんの声が出るようになった日なんですけど。」
「樹ちゃん、朝から声が出るようになっていたのに、風先輩には一言も喋らずに、着替えるなり夏凜ちゃんのお見舞いに行ってしまったんです。」
「快復した第一声は、夏凜ちゃんに聞かせたかったんですって。」
「ああ………それで。」
「樹ちゃん、うまく隠していましたが、実は『声』を捧げた事、とても辛かったみたいです。」
「でも、その声を取り戻してくれた事と、作戦中、結果的に怪我をさせてしまった事で、感極まったんでしょうね。」
「病室に着くなり、夏凜ちゃんに抱きついて、『夏凜さんが取り戻してくれたこの声で、歌手になります!』って「東郷先輩!」」
おっと、噂をすれば本人の声が遮った。
「東郷先輩!何で広めちゃうんですか!?」
「うぅ~~~、恥ずかしいよぉ…」
「その微笑ましい光景を、追いかけて来た風先輩と、足の検査で病院にいた私はバッチリ目撃しました!」
「その…なんだ。歌手を目指す、とてもいい夢だと思うぞ。」
「…ありがとうございます。…まだちょっと、大っぴらに言うのは恥ずかしいですけど。真剣に、目指して頑張りたいって、思ってます。」
「だから、声を取り戻すきっかけをくれた、店長さんにも、とても感謝してます。改めて、ありがとうございました。」
「そう言ってもらえると、俺も嬉しい。」
「だけど、声を取り戻したのは皆の力あってこそだったはずだろう?部長さんにもお礼を言ってあげたら、
「もう何度も言いました…お姉ちゃん、やっぱり第一声じゃないと嫌だったのかなあ。」
「それなら、あれは部長さんなりの感謝の気持ちと愛情表現だ。ほっといていいぞ。」
「店長!私を見捨てるの⁉︎」
「夏凜!逃げるなぁ!勝負しなさい!」
「もう何度もしてるでしょう⁉︎」
「あ、店長さん、そろそろリクエストしてたジェラートの準備、いいですか?」
騒がしい二人と対照的に、結城さんがいつになくマイペースだ。
「わかった。ちょっと待っててくれ。」
「はーーい。」
冷やしてあるジェラートを取りに、厨房に入った時、店のドアベルが鳴った。
「すいませーん、今日は貸切なんですー。」
「知ってまーす!」
聞いたことがある声だった。厨房から顔を出すと、車椅子が見えた。
…東郷さんじゃない。彼女はもう車椅子は使ってない。
じゃあ、誰だ?
金色の髪が、俺の声を聞いて、こっちに振り向いた。
「ヘイ!トッキーーーー!!エンジョイ!してるぅ!」
「な、お前!そのっちか⁉︎」
「そーだよ!トッキーが助けてくれるまで、囚われのお姫様だった、乃木さん家の園子でーーす!」
「あ、園ちゃん、こっちこっち!今ね、そろそろだと思って、店長さんにジェラートを出してもらうようにお願いしたんだよ!」
「おぉ~!ゆーゆ、気が利くねえ!タイミングバッチシだよ〜!」
「でしょでしょ!」
「??????」
百歩譲って、東郷さんとそのっちがこのやり取りをしたのなら分かるが、そうじゃない。
どう言う状況だ、これ?
「あ、店長さん。こちら、乃木園子さんです。快復次第、讃州中学に転入して、勇者部に入ってくれるそうです。」
結城さんが天然な説明をしてくれる。
「あぁ…そのっちのことはもちろん知ってるが…いつの間に仲良くなったんだ?」
「?えっと、夏凜ちゃんが怪我した日に、園ちゃんが神樹様に干渉して会って、その時に連絡先を交換して…身体が回復し始めてからは、病院とかで結構会ってます。ね?」
「そうそう、仲良し!いぇーい。」
「いぇーい!」
とてつもなくふんわりとした空気が生成された。
「神樹様に干渉?ええい、よく分からんが、すでに面識があって仲良しなんだな!それでわかった事にしておく!」
「ジェラート出してくるから、今日は楽しんで行ってくれ。」
「「はーーい」」
「おぉ、これがトッキー印のジェラート…2年前より美味しく感じますなあ。」
「いや、あくまでミキサーのレシピだから、確実に店のやつの方が美味しいはずだぞ。」
「じゃあ、助けてくれた王子様の手作りだからですかな?」
「オイオイ、さっきも言ってたが、助けた王子様って言うなら、俺じゃない。実際の役割的にも、外見的にも夏凜の方が適任だぞ。」
「トッキーはホントに乙女心が分からないんだねぇ。この2年、手も足も心臓も動かない私が、どんな気分で過ごしてたと思う?」
「そりゃあ暇で暇で、1日20時間くらい寝てたのさ。」
「そこに、私たちの事を覚えてて、偶然わっしーたちと再会した男性が、すご~く苦労をして私を見つけてくれたんだよ?」
「しかも身体を取り戻してくれるオマケ付き!」
「そりゃあ、小説もビックリの主人公!ヒロインの私も胸キュン♡だよ!」
「いやいやいやいや、待て待て待て待て。」
「今お前手も足も心臓もって言ったか⁉︎手が動かないのは暗号で察してたが、一体どんな無茶やらかしたんだ!」
「敵を追い返すのに20回くらい満開したんだぁ。」
「……………よく、頑張ったな。」
「……うん。私を見つけてくれてありがとう*2、トッキー。」
「店長、そういうところやで」
夏凜、いつの間に⁉そしてなぜ急に関西弁に⁉︎
「それにね。にぼっしーの話を聞けば、怨霊の力でバーテックスをズバァン!とやっつけたんでしょ?」
「んー、
そのっちは変わらず感覚派なようだ。
「あー、それわかるぅ。あの時の夏凜ちゃんは、『勇者』じゃないから、逆に『魔王』って感じだったよね!格好良かったぁ。」
また結城さんが天然同士のシンパシーを発揮する。
「あー、そんな感じだったわねぇ。夏凜!文化祭の劇、裏方じゃなくてアンタ魔王役やりなさいよ!」
そして部長さんが悪ノリをかました。
「何で!?あと『にぼっしー』って言うなぁ!」
今日の夏凜はずっとたじろいでいるなあ。
劇の話題で向こうが盛り上がり出したので、不意にそのっちと二人になった。
「しかし、こうなってみると、やはり三ノ輪さんがいないのが、寂しいな。」
「ううん。ミノさんもね、一緒だよ。」
「…それは、夏凜の端末のことか?」
「ううん。あのね、私がわっしーを呼び出した日。丁度、にぼっしーが怪我をした直後に、引き離しちゃったんだぁ。」
「その時のわっしーね、見たこともないくらい取り乱して、私のことも、後回しにしようとしたんだよ?」
「それはね。ミノさんを喪った時のことが、記憶じゃないどこか、たとえば『たましい』とかに残ってたんじゃないかなって、思うんだぁ。」
「だからね、きっとミノさんは、私やわっしーの中で、今も一緒にいるんだよ。」
「もちろん、ミノさんの名前が入った、このお店と、トッキーの中にもね。」
この店名の由来は、東郷さんから聞いているらしい。
うーん、本人に伝わると小っ恥ずかしいな。
「…そうだな。きっとそうだろう。」
「俺もな、さっき東郷さんと話してたんだ。俺が勇者のことを知ったのは、三ノ輪さんのお気に入りの店で働いていたから。」
「こっちで勇者に再び出会ったのも、三ノ輪さんの端末を持ってた夏凜が、目の前で消えたから。」
「きっと、三ノ輪さんが引き合わせてくれたんだろうってな。」
「…うん。きっとそうだよ。」
そろそろお開きか、というところで、そのっちがみんなに声をかけた。
「ちょっと、聞いて欲しいんよ。」
「私にね、正式に大赦から、勇者システムの変更について、案内があったのさ。」
「皆も気になってるだろうから、今伝えていい?」
一同を見渡してから、続けた。
確かに、皆の捧げたものが戻って来ているのは良いが、仕様自体が変わらなければ、いつかきっと同じことになってしまう。
「一番の違いは、『ゲージ』が初めから満タンあるってこと。代わりに、戦いの最中には溜まらなくなるよ。」
「『ゲージ』を消費するのは、精霊のバリアと満開、他にも、武器に力を込めたり、特別なことをしても、減っちゃうんだって。」
「満開には『ゲージ』が全部必要だから、バリアを使っちゃうと満開はできない。その分、何も捧げなくて、よくなったんだって。」
「それって、逆に満開した後は、バリアが使えなくなっちゃうってこと?」
結城さんが素朴な疑問をそのまま口にして。
「なるほど、その辺は、示してみせた『ヒトの力』で助け合え、ってことね。」
夏凜が自信たっぷりに、自分の認識を答える。
「その通り。満開を使う場合は初手で短期決戦に。それでも倒しきれなかったら、バリアが使える人の近くで戦おうね。」
そのっち……お前、話まとめるの上手いなあ。
「ねえ、2体目以降の精霊については…どうなるか聞いてる?」
控えめに、夏凜がそのっちに尋ねる。
「残念だけど、精霊は1体目だけになっちゃうんだぁ。私も20体で大名行列したかったのに。」
「そう…」
「夏凜、きっとあの方なら、『あの神社』で会えるさ。歴とした『ヒト』だからな。」
「……そうね、約束通り『足も治ったし』、また、会いに行くわ。」
「じゃあ、最後に!トッキー、『もしよかったら、今日の記念撮影をお願いできませんか?』」
そのっちがイタズラな目線で、こちらにお願いして来た。
「『ええ、いいですよ』」
俺も笑って、当時の様を思い出しながら、答える。
「おっと夏凜、端末を貸してくれ。」
当時と同じ失敗をしないよう、今度は初めからお願いする。
「ううん。今更よ、店長。勇者アプリはそっちに入れられないけど…別のアプリで、皆と連絡先を交換しましょ。」
「だから、店長のスマホで撮って。その写真が、また何かに繋がるかもしれないから。」
勇者一同が、無邪気に笑った一枚。
その写真は、永く『喫茶 みきお』の写真立てに飾られることになる。
一体の星屑の侵入がもたらした、小さな違い。
それが、この世界では、壁の崩壊を免れるという大きな違いとなった。
それが良いことなのかは、わからない。
もしかしたら、この世界ではそれがきっかけで、人類が滅びてしまうかもしれない。
ただ、この世界では「奉火祭」は必要ない。「国造り」計画も、当初の予定通り進むだろう。
誰も知る余地がないが、神樹様の寿命尽きかけているという一大事は、この世界でも同じように迫っているだろう。
彼女たちの戦いは、これからも続く―――
ここまで拙作にお付き合いいただき、ありがとうございました。
まずは一旦、区切りです。
私は本編よりも「ゆゆゆい」の方にハマった人間で、あの素晴らしい世界から帰ってきた直後に、2期の通り、奉火祭で身代わりになる東郷さんを見たくありませんでした。
そういう思いを拗らせて、こういう話を創るに至ってしまったわけです。
もしかすると、私がやりたかったことは、3期ときらめきの章で吹き飛ばしてくれるかもしれません。
それでは、皆で大満開の章を楽しみに待ちましょう!
そして貴方のアカウントにガチャの幸運が訪れますように。